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24.同じ苦労をした仲
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「今日は、3人でスコーンを作りたいの!」
「よろしくお願いします」
「……ニックがいるならぼく、やだよ」
リアンが私のスカートを掴んで、ニックの視線から体を隠している。
私が最近苦労しているスコーン作りを一緒にすれば、ふたりの仲が深まるんじゃないか。そう提案したところ、リサに「キャサリン様と一緒に作る、の方がより仲が深まると思いますよ」と言われ、この形になった。子どもふたりだけで作るより、私と一緒にやった方が苦労するとは、どういうことか。とは思うが、リアン達とお菓子作りをするのは楽しそうなので、良しとする。
「でも私、リアンと一緒にお菓子作るの、楽しみにしてたのよ」
「おねえさまがそう言うなら、がんばるけど……」
リアンが渋るのを見越して、私は昨日から「リアンとお菓子作りをするのが楽しみ」としつこいほどに言い続けていた。そのときは「ぼくも楽しみ」などと言ってしがみ付いて来ていたくせに、ニックがいることを知ると、こうである。リアンの子どもに対する不慣れさは、相当なものだ。
「これがレシピね。見ながら作れば、美味しいスコーンができるはずだわ」
いつも使っているロディのレシピに、子どもでもわかるように言葉を付け加えたものを見せる。ニックが受け取ってそれを眺めていると、リアンも気になるようで、私の陰から顔を出した。
「こなをふるう、ってなに?」
「見せてあげるわ、リアン。ほら、こうして……」
「えっ……粉がボウルに入ってませんけど、いいんですか?」
「あら? ほんとね、ニック。あんまり良くないわ。でも、適当でもおいしくできるのよ」
「僕、やってみたいです」
「どうぞ」
ニックにふるいを手渡すと、見よう見まねで粉をふるう。バターを粉に混ぜ込むときは、リアンが「ぼくがやる」と言って作業に入ってきた。
「で、こうやって生地をこねるんだけど……」
「そうじゃないと思うんだけど! もういい、ぼくとニックでやるから!」
最終的にはリアンとニックがキッチンに並び、私は追い出されてしまった。台に乗ったふたりの、小さな背中が並んでいる姿は、可愛らしい。
初めてスコーンを作る彼らは、レシピに忠実に作ろうとする。まじめだ。私は毎日作っていて、適当にやってもけっこう美味しいってわかったんだけどね。
「焼いたものは、紅茶と一緒に食べるのよ」
「ニックはくる?」
「うーん、来られないわ」
「ぼく、ニックといっしょに食べたいよ」
リアンは成形したスコーンを指し、そう主張した。焼くのはいつもロディの仕事で、午後の紅茶の時間に出てくるのだ。
「おお、美味しそうにできましたね」
「でしょ? ぼくとニックで作ったんだ。だから、一緒に食べたいの」
「それなら、昼食後には焼いてお渡ししますから、今日はお好きなタイミングでお食べください」
様子を見にきたロディが、リアンの言葉を聞いてそう言う。私達のお茶の時間にニックが参加することはありえないし、逆に私達にニックと一緒に作業場などで食べるよう勧めるのも問題がある。判断を私達に委ねる、ロディの機転だ。
「ほんと? おいしく焼けるかなあ、楽しみ」
「楽しみですね」
リアンはニックと顔を見合わせ、にこにこ笑う。リアンのいつもの人懐こい笑顔。同じ苦労を一緒にすれば、仲が深まるのではないか、という想像は、あながち間違いではなさそうだ。
仲の良さそうなふたりを見ていると、こちらまで嬉しくなる。
残念なのは、ふたりが同じ学園に通うことはない、ということだ。リアンに学園に通う友達ができたら、入学後の安心感がある。
「リアンと同年代の子ども? 学園に入学したあとの子なら、誕生日会があったから、わかるわね」
「一緒に入学する子って、わからないのかな」
「小さい子のことって、あまり大っぴらにはしないから……私の親しい友人なら、何人か知っているわ」
母に尋ねるも、入学前の子どもがどの家にいるかは、やはりよくわからないという話であった。私だって、弟の話は親しい人との話の流れですることはあるものの、そうでなければお互いに知らない。
「紹介してあげてもいいけど、どうして?」
「夏の避暑のとき、皆で行きたいと思うの。別荘はどこも、自然が美しいでしょう。皆に見せたいし、リアンと同い年くらいの子どもがいれば、仲良くなれていいかなって」
「夏に皆で避暑へ行くってこと? それ、素敵だわ」
「ミルブローズ伯爵領にある、別荘に行きたいんだけど」
「それは、お父様にも聞いてみましょうね」
避暑自体はよく行われていることだ。豊かな自然の中にある別荘に行き、夏の暑い時期を快適に過ごすのが、貴族のステータスでもある。
我が家の別荘は各地にあるが、セシリーのミルブローズ伯爵領にも、ひとつある。あそこは昔から軍備の要で、何かあったときに滞在できるよう、かつての当主が建てたそうだ。
今は隣国との関係は良好であり、戦の危険性が高いわけではないが、別荘はそのまま残っている。
そこに、リアンと同じくらいの歳の子どものいる家族をお招きして、皆で過ごしたらよいのではないか。その中でリアンの友達を作ればいいし、セシリーにも会える。良いことばかりなのではないか、と思いついたのである。
「よろしくお願いします」
「……ニックがいるならぼく、やだよ」
リアンが私のスカートを掴んで、ニックの視線から体を隠している。
私が最近苦労しているスコーン作りを一緒にすれば、ふたりの仲が深まるんじゃないか。そう提案したところ、リサに「キャサリン様と一緒に作る、の方がより仲が深まると思いますよ」と言われ、この形になった。子どもふたりだけで作るより、私と一緒にやった方が苦労するとは、どういうことか。とは思うが、リアン達とお菓子作りをするのは楽しそうなので、良しとする。
「でも私、リアンと一緒にお菓子作るの、楽しみにしてたのよ」
「おねえさまがそう言うなら、がんばるけど……」
リアンが渋るのを見越して、私は昨日から「リアンとお菓子作りをするのが楽しみ」としつこいほどに言い続けていた。そのときは「ぼくも楽しみ」などと言ってしがみ付いて来ていたくせに、ニックがいることを知ると、こうである。リアンの子どもに対する不慣れさは、相当なものだ。
「これがレシピね。見ながら作れば、美味しいスコーンができるはずだわ」
いつも使っているロディのレシピに、子どもでもわかるように言葉を付け加えたものを見せる。ニックが受け取ってそれを眺めていると、リアンも気になるようで、私の陰から顔を出した。
「こなをふるう、ってなに?」
「見せてあげるわ、リアン。ほら、こうして……」
「えっ……粉がボウルに入ってませんけど、いいんですか?」
「あら? ほんとね、ニック。あんまり良くないわ。でも、適当でもおいしくできるのよ」
「僕、やってみたいです」
「どうぞ」
ニックにふるいを手渡すと、見よう見まねで粉をふるう。バターを粉に混ぜ込むときは、リアンが「ぼくがやる」と言って作業に入ってきた。
「で、こうやって生地をこねるんだけど……」
「そうじゃないと思うんだけど! もういい、ぼくとニックでやるから!」
最終的にはリアンとニックがキッチンに並び、私は追い出されてしまった。台に乗ったふたりの、小さな背中が並んでいる姿は、可愛らしい。
初めてスコーンを作る彼らは、レシピに忠実に作ろうとする。まじめだ。私は毎日作っていて、適当にやってもけっこう美味しいってわかったんだけどね。
「焼いたものは、紅茶と一緒に食べるのよ」
「ニックはくる?」
「うーん、来られないわ」
「ぼく、ニックといっしょに食べたいよ」
リアンは成形したスコーンを指し、そう主張した。焼くのはいつもロディの仕事で、午後の紅茶の時間に出てくるのだ。
「おお、美味しそうにできましたね」
「でしょ? ぼくとニックで作ったんだ。だから、一緒に食べたいの」
「それなら、昼食後には焼いてお渡ししますから、今日はお好きなタイミングでお食べください」
様子を見にきたロディが、リアンの言葉を聞いてそう言う。私達のお茶の時間にニックが参加することはありえないし、逆に私達にニックと一緒に作業場などで食べるよう勧めるのも問題がある。判断を私達に委ねる、ロディの機転だ。
「ほんと? おいしく焼けるかなあ、楽しみ」
「楽しみですね」
リアンはニックと顔を見合わせ、にこにこ笑う。リアンのいつもの人懐こい笑顔。同じ苦労を一緒にすれば、仲が深まるのではないか、という想像は、あながち間違いではなさそうだ。
仲の良さそうなふたりを見ていると、こちらまで嬉しくなる。
残念なのは、ふたりが同じ学園に通うことはない、ということだ。リアンに学園に通う友達ができたら、入学後の安心感がある。
「リアンと同年代の子ども? 学園に入学したあとの子なら、誕生日会があったから、わかるわね」
「一緒に入学する子って、わからないのかな」
「小さい子のことって、あまり大っぴらにはしないから……私の親しい友人なら、何人か知っているわ」
母に尋ねるも、入学前の子どもがどの家にいるかは、やはりよくわからないという話であった。私だって、弟の話は親しい人との話の流れですることはあるものの、そうでなければお互いに知らない。
「紹介してあげてもいいけど、どうして?」
「夏の避暑のとき、皆で行きたいと思うの。別荘はどこも、自然が美しいでしょう。皆に見せたいし、リアンと同い年くらいの子どもがいれば、仲良くなれていいかなって」
「夏に皆で避暑へ行くってこと? それ、素敵だわ」
「ミルブローズ伯爵領にある、別荘に行きたいんだけど」
「それは、お父様にも聞いてみましょうね」
避暑自体はよく行われていることだ。豊かな自然の中にある別荘に行き、夏の暑い時期を快適に過ごすのが、貴族のステータスでもある。
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今は隣国との関係は良好であり、戦の危険性が高いわけではないが、別荘はそのまま残っている。
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