71 / 96
ひとりの時間のクラブハウスサンド
しおりを挟む
朝と言うには遅いけど、お昼にはちょっと早いかな? と言う時間。
今日が休日なのに安心して、春眠暁を覚えずをしていたベッドから這い出し、身支度をすませる。
お天気はというと、薄曇り。
でも春らしく花の香りがどこからが漂ってきていて、芽吹き始めたばかりの緑たちが鮮やかで、フレッシュな気持ちをもたらしてくれる。
お散歩の日和としては悪くない。曇りには曇りの、晴れには晴れの、雨には雨の良さがあると思う。
今日みたいな曇りの日のお昼前は、なんとなく静かに過ごしたいような気持ちになった。
静かに……と考えて、いつもの面々が浮かんだ。
カフェでは、気分じゃないのにすごく話しかけてくるスタッフさんがたまにいたり、出会ったりする。
けれど手嶌さんや星原さんは空気を読むのがうまい。木森さんは……もともと無口だ。
この時間まだモーニングをやっているカフェも何軒か思いつくけど、やっぱりまれぼし菓子店に足が向くのだった。
「クラブハウスサンド」
「〝贅沢なひととき〟クラブハウスサンドですね。かしこまりました」
「あと、コーヒーをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいますか」
銘打たれた言葉の意味合いを考えながら、今日は静かに過ごす、ことをする。
落ち着いた音楽と、小鳥のさえずり。うん、やっぱり今日はそんな気分だ。
先に手嶌さんが運んでくれたコーヒーを飲んで深呼吸する。
そうするとこのところ忙しなかった気分が、やっとすごく落ち着いた気がする。
やがてクラブハウスサンドが運ばれてくる。
予想通りというか予想以上に、なかなかのボリュームだ。
手嶌さんは今日はあまり話をせずに、微笑んで給仕してくれている。
「ピックで止めてありますので、外してから召し上がってください。では、どうぞごゆっくり」
「ありがとうございます! じゃあ……いただきますっ!」
トーストした三枚のパンに、具材がはさまれている。
たまご。チキン。レタス。トマト。きゅうり。それにベーコンまで。
豪華すぎるラインナップだ。ブランチにぴったりかも、と自分の選択を褒め称える。
そしてギュッと両手でパンをつかむと、あーんと口を開けてかぶりつく。
ちょっと恥ずかしいかもしれないほど、まあるく口を開けたかもしれない。
でも、今はひとりの時間だから。たまにはこんな思い切った感じでいいのだ。
カリカリに焼き上げられたトーストの歯ざわりが嬉しい。レタスときゅうりの食感は、トーストとはまた違った存在感を醸し出している。
しっとりしたチキン。口の中でほぐれていく。
ベーコンはこれまたカリッと焼かれていて、染み出す油のコクと旨味。
ジューシーなトマト。トマトって、食材としてしっかり存在しながらも、調味料的な役割も果たしてくれるからすごいと思う。
パンにはバターと、マスタードと、マヨネーズ。鶏肉との間にはケチャップが塗られていて、これまた仕事をしている。刺激的で飽きさせない味だ。
具だくさん盛りだくさんのサンドイッチを、一気に食べる喜び!
時々ナプキンで口をぬぐいつつ、黙々と食べ進める。
平らげる頃には、おなかも気持ちも満たされていた。
コーヒーを飲みながら、一息ついて、店内を見渡す。他のお客さんたちが思い思いにくつろいでいるのが見える。わたしも、そのうちのひとりだ。
ふと手嶌さんと目が合う。
彼は何も言わなかったけれど、少し微笑んでくれた。わたしもまた、同じようにする。
学生の頃は、ひとりの時間を過ごすのはそんなに得意ではなかった。
大体グループがあって、皆で一緒に行動していたのだ。ごはんの時や、出かける時なんかもそうだった。ひとりということがひとりぼっちということと同じような気がして、なんだか居心地が悪かったのだ。
でも今ではひとりの時間を愛おしく思っているわたしがいる。
こうして他に色んな人がいる中でも、〝ひとり〟を楽しむことが出来るようになったのだ。
かけがえのない時間、だと思う。
何も言わずにコーヒーの残りを飲む。
言葉にしないと伝わらないこともあるけど、言葉にしなくても伝わることもある。
手嶌さんと笑顔を交わして、またコーヒーを飲んで。
そういう日があっても良い。
ある春の休日、お昼前。曇りの日。
贅沢なひとときを過ごしながら、わたしはうーんと背伸びした。
来週もきっと、頑張れるだろう。
今日が休日なのに安心して、春眠暁を覚えずをしていたベッドから這い出し、身支度をすませる。
お天気はというと、薄曇り。
でも春らしく花の香りがどこからが漂ってきていて、芽吹き始めたばかりの緑たちが鮮やかで、フレッシュな気持ちをもたらしてくれる。
お散歩の日和としては悪くない。曇りには曇りの、晴れには晴れの、雨には雨の良さがあると思う。
今日みたいな曇りの日のお昼前は、なんとなく静かに過ごしたいような気持ちになった。
静かに……と考えて、いつもの面々が浮かんだ。
カフェでは、気分じゃないのにすごく話しかけてくるスタッフさんがたまにいたり、出会ったりする。
けれど手嶌さんや星原さんは空気を読むのがうまい。木森さんは……もともと無口だ。
この時間まだモーニングをやっているカフェも何軒か思いつくけど、やっぱりまれぼし菓子店に足が向くのだった。
「クラブハウスサンド」
「〝贅沢なひととき〟クラブハウスサンドですね。かしこまりました」
「あと、コーヒーをお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいますか」
銘打たれた言葉の意味合いを考えながら、今日は静かに過ごす、ことをする。
落ち着いた音楽と、小鳥のさえずり。うん、やっぱり今日はそんな気分だ。
先に手嶌さんが運んでくれたコーヒーを飲んで深呼吸する。
そうするとこのところ忙しなかった気分が、やっとすごく落ち着いた気がする。
やがてクラブハウスサンドが運ばれてくる。
予想通りというか予想以上に、なかなかのボリュームだ。
手嶌さんは今日はあまり話をせずに、微笑んで給仕してくれている。
「ピックで止めてありますので、外してから召し上がってください。では、どうぞごゆっくり」
「ありがとうございます! じゃあ……いただきますっ!」
トーストした三枚のパンに、具材がはさまれている。
たまご。チキン。レタス。トマト。きゅうり。それにベーコンまで。
豪華すぎるラインナップだ。ブランチにぴったりかも、と自分の選択を褒め称える。
そしてギュッと両手でパンをつかむと、あーんと口を開けてかぶりつく。
ちょっと恥ずかしいかもしれないほど、まあるく口を開けたかもしれない。
でも、今はひとりの時間だから。たまにはこんな思い切った感じでいいのだ。
カリカリに焼き上げられたトーストの歯ざわりが嬉しい。レタスときゅうりの食感は、トーストとはまた違った存在感を醸し出している。
しっとりしたチキン。口の中でほぐれていく。
ベーコンはこれまたカリッと焼かれていて、染み出す油のコクと旨味。
ジューシーなトマト。トマトって、食材としてしっかり存在しながらも、調味料的な役割も果たしてくれるからすごいと思う。
パンにはバターと、マスタードと、マヨネーズ。鶏肉との間にはケチャップが塗られていて、これまた仕事をしている。刺激的で飽きさせない味だ。
具だくさん盛りだくさんのサンドイッチを、一気に食べる喜び!
時々ナプキンで口をぬぐいつつ、黙々と食べ進める。
平らげる頃には、おなかも気持ちも満たされていた。
コーヒーを飲みながら、一息ついて、店内を見渡す。他のお客さんたちが思い思いにくつろいでいるのが見える。わたしも、そのうちのひとりだ。
ふと手嶌さんと目が合う。
彼は何も言わなかったけれど、少し微笑んでくれた。わたしもまた、同じようにする。
学生の頃は、ひとりの時間を過ごすのはそんなに得意ではなかった。
大体グループがあって、皆で一緒に行動していたのだ。ごはんの時や、出かける時なんかもそうだった。ひとりということがひとりぼっちということと同じような気がして、なんだか居心地が悪かったのだ。
でも今ではひとりの時間を愛おしく思っているわたしがいる。
こうして他に色んな人がいる中でも、〝ひとり〟を楽しむことが出来るようになったのだ。
かけがえのない時間、だと思う。
何も言わずにコーヒーの残りを飲む。
言葉にしないと伝わらないこともあるけど、言葉にしなくても伝わることもある。
手嶌さんと笑顔を交わして、またコーヒーを飲んで。
そういう日があっても良い。
ある春の休日、お昼前。曇りの日。
贅沢なひとときを過ごしながら、わたしはうーんと背伸びした。
来週もきっと、頑張れるだろう。
30
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる