53 / 96
おまもりのこんぺいとう
しおりを挟む
紺色の袋をあけて、まろびでてくるのはこんぺいとう。
てのひらの上の小さなそれらをよく見つめた後に、いくつか摘んで口に含む。
甘い。優しい甘み、懐かしい甘み。
奥歯で軽く噛んでみると、音を立てて砕ける。シャリ。シャリシャリと少しずつ小さくなっていく。そして甘みの余韻を残して消えていくのだ。
その食感と甘さを楽しみたくなって、子供のように繰り返してしまう。
こんぺいとうの味には、楽しみが詰まっていると思う。
こんぺいとうの見た目にも、楽しみが詰まっていると思う。
濃紺の袋と併せて見ると、まるで夜空と空を彩る星みたいに見えるのだ。
まだいくらか残っているこんぺいとうの袋を、大事にしまった。
このこんぺいとうはまれぼし菓子店で手嶌さんにもらったものだ。
ちょうど、あの緊急の店休日の後のこと。お茶をして家に帰る前に、渡してくれたのだ。
「このこんぺいとうをお持ちください」
「おみやげですか?懐かしいですね。一番最初にこの店に来た時のことを思い出しました」
最初にまれぼし菓子店に来たのが、遠い昔のことのように思える。
それだけこの店にも通い慣れたし、この店のみんなと、ちょっと不思議な出来事にも馴染んできた気もする。
思い返しながら言うと、
「今回は、おまもりのこんぺいとうです」
とごく真面目な口調で手嶌さんが言った。
おもわずまばたきを何回も繰り返してしまう。
おまもり?
ごくごく真面目な表情で言った手嶌さんだったが、ふとその固い表情を崩して微笑みを浮かべる。
「……なんて。まあおまもりがわりに持っていてください。そうですね、一週間ほど」
「わ、わかりました」
「一週間、すぎたら召し上がってしまってください」
「はい!」
最後に手嶌さんは少し茶化したけど……。
何だかとても大切なものを預かったような気がして、緊張してしまう。両手に大事におしいただいて、わたしは服のポケットにこんぺいとうをしまった。
何しろ、とても不思議なことに出くわした後。おまもりなんて言われたら。しかも手嶌さんに。
その日は店休日だからか、どうなのか、手嶌さんはずいぶん長くわたしを見送ってくれた気がした。
それから一週間のあいだは、どうもずいぶん奇妙なことに見舞われていた気がする。
誰もいないはずのオフィスでふと誰かに話しかけられた気がしたり、夜道で妙に大きな足音が聞こえたり、部屋の窓を叩く音が聞こえたり(わたしの部屋は一階ではない)。その他にも色々あった。
ただどれもおまもりに触れたら、すぐに止まった。
とにかく、おまもりのこんぺいとうは本当におまもりだったのかもしれない。
わたしが一体どんな危機に襲われかけていたのかはわからないけど。
そして一週間が経った今、わたしはこんぺいとうを摘んで食べ。まれぼし菓子店にやって来た。
お店の前、いつものランタンが今日も綺麗に輝いている。ステンドグラスのついた扉も変わらず、太陽の光を透かしている。
営業中の店内には、既にお客さんの姿が見えて、賑やか。
すっかりいつもどおりの様子だ。
わたしの日常にして非日常。
まれぼし菓子店。
お店の中を何となしに眺めていると、手嶌さんと目が合った。
「いらっしゃいませ」
彼がそう言って目礼してくれるのがわかり、わたしはいつも通りに扉を開いて、お店へはいる。
その瞬間、そよ風が何かお花の匂いを運んでくる。
また春が、やってきた。
てのひらの上の小さなそれらをよく見つめた後に、いくつか摘んで口に含む。
甘い。優しい甘み、懐かしい甘み。
奥歯で軽く噛んでみると、音を立てて砕ける。シャリ。シャリシャリと少しずつ小さくなっていく。そして甘みの余韻を残して消えていくのだ。
その食感と甘さを楽しみたくなって、子供のように繰り返してしまう。
こんぺいとうの味には、楽しみが詰まっていると思う。
こんぺいとうの見た目にも、楽しみが詰まっていると思う。
濃紺の袋と併せて見ると、まるで夜空と空を彩る星みたいに見えるのだ。
まだいくらか残っているこんぺいとうの袋を、大事にしまった。
このこんぺいとうはまれぼし菓子店で手嶌さんにもらったものだ。
ちょうど、あの緊急の店休日の後のこと。お茶をして家に帰る前に、渡してくれたのだ。
「このこんぺいとうをお持ちください」
「おみやげですか?懐かしいですね。一番最初にこの店に来た時のことを思い出しました」
最初にまれぼし菓子店に来たのが、遠い昔のことのように思える。
それだけこの店にも通い慣れたし、この店のみんなと、ちょっと不思議な出来事にも馴染んできた気もする。
思い返しながら言うと、
「今回は、おまもりのこんぺいとうです」
とごく真面目な口調で手嶌さんが言った。
おもわずまばたきを何回も繰り返してしまう。
おまもり?
ごくごく真面目な表情で言った手嶌さんだったが、ふとその固い表情を崩して微笑みを浮かべる。
「……なんて。まあおまもりがわりに持っていてください。そうですね、一週間ほど」
「わ、わかりました」
「一週間、すぎたら召し上がってしまってください」
「はい!」
最後に手嶌さんは少し茶化したけど……。
何だかとても大切なものを預かったような気がして、緊張してしまう。両手に大事におしいただいて、わたしは服のポケットにこんぺいとうをしまった。
何しろ、とても不思議なことに出くわした後。おまもりなんて言われたら。しかも手嶌さんに。
その日は店休日だからか、どうなのか、手嶌さんはずいぶん長くわたしを見送ってくれた気がした。
それから一週間のあいだは、どうもずいぶん奇妙なことに見舞われていた気がする。
誰もいないはずのオフィスでふと誰かに話しかけられた気がしたり、夜道で妙に大きな足音が聞こえたり、部屋の窓を叩く音が聞こえたり(わたしの部屋は一階ではない)。その他にも色々あった。
ただどれもおまもりに触れたら、すぐに止まった。
とにかく、おまもりのこんぺいとうは本当におまもりだったのかもしれない。
わたしが一体どんな危機に襲われかけていたのかはわからないけど。
そして一週間が経った今、わたしはこんぺいとうを摘んで食べ。まれぼし菓子店にやって来た。
お店の前、いつものランタンが今日も綺麗に輝いている。ステンドグラスのついた扉も変わらず、太陽の光を透かしている。
営業中の店内には、既にお客さんの姿が見えて、賑やか。
すっかりいつもどおりの様子だ。
わたしの日常にして非日常。
まれぼし菓子店。
お店の中を何となしに眺めていると、手嶌さんと目が合った。
「いらっしゃいませ」
彼がそう言って目礼してくれるのがわかり、わたしはいつも通りに扉を開いて、お店へはいる。
その瞬間、そよ風が何かお花の匂いを運んでくる。
また春が、やってきた。
31
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる