まれぼし菓子店

夕雪えい

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店休日のクッキーアソート

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 まれぼし菓子店は不定休だ。
 前に、わたしもその不定休にたまたま当たったことがある。
 お店のおやすみのことに関して聞いてみると、大体平日真ん中などのことが多いそうなのだが、今回は珍しく週末に休みが来ていた。

 今度は以前のように、店休日の貼り紙を見逃しはしなかったわたし。
 しかしやっぱり週末には楽しみが必要だと思う。
 そこでちゃんと日にちを確認のうえで、まれぼし菓子店がおやすみの今週末用に、秘密兵器を用意した!

「じゃーん!」

 一人暮らしの一人の部屋に私の発したささやかな効果音が響く。
 この瞬間を演出するために、ちょっと部屋を掃除してテーブルも拭きました。
 そんなテーブルの上には、綺麗な装飾の小ぶりの缶がひとつ。
 これこそはまれぼし菓子店の「〝小さく大きな宝物〟クッキーアソート」だ。

 箱の外側だけでも、心弾むような可愛い模様が刻まれている。素朴な感じに彫り込まれた、森の風景だ。そこにまれぼし菓子店、とお店のロゴが入っている。
 指でなぞるとその凹凸が快い。
 本当は缶が大きいサイズと小さいサイズの二種類があったのだけれど、今回は控えめに、小さな方にしておくことにした。何事も欲張りすぎは良くない。

 カフェでのお茶というのは気分転換に最高だと思う。いつもいらっしゃいませと出迎えてくれる手嶌さんの笑顔が過ぎった。
 でもこういう、飛び切りのお気に入りのスイーツとともに家でお茶をするのも、特別な気分に浸れる。簡単に言えば、テンションが上がるものだ。

 星原さんの腕前にはほど遠いけど、わたしは自分でコーヒーをいれた。といっても市販のドリップパックだ。それでもちょっと良いやつだから良しとして。
 部屋の中も、秋相応に寒くなってきているので、コーヒーの湯気がほかほかと大きい。トレイにマグカップとミルクとスプーンを乗せて、テーブルの上におく。

 そして……。
 お待ちかねのクッキーアソートだ。
 小さい頃は、本当にこの箱は宝箱のように見えていたっけ。色んな種類のクッキーが、箱いっぱいにたくさん詰まっているんだもの。
 開ける度にわくわくするとともに、ちょっとずつ減っていく中身を寂しく思ったりしたっけ。

 祖母の家に行った時に缶を見つけて開けてみたら、中身は色鉛筆とか文具だった·····なんて言うのもいい思い出である。
 確かに、こんな素敵な缶を即座に捨ててしまうのはもったいない真似だ。わたしも洗って乾かして、小物入れかお菓子入れか·····とにかく何かに使いたい気がしている。

 さあ肝心のクッキーアソートだ!
 ぱかりと思い切って、しかし慎重に蓋を取ると、中には薄紙が敷いてある。上機嫌にそれも取り除くと、クッキーたちが姿を現すのだ。
 ここのクッキーアソート缶を買うのは初めてだった。あけてみると、中に仕切りのないタイプで、本当にクッキーたちがぎゅうぎゅうに、でも秩序を持って収まっている。

 まずは一枚。オーソドックスそうな白く四角いクッキーを取る。バターの味がしっかりしていておいしい。
 今度は近くの、同じような形だけど、側面に砂糖がまぶされている物を摘む。こちらは、ザクザクとした歯ごたえがなんとも楽しいものだ。
 次の一枚には、紅茶の茶葉が含まれている。香り高くておいしい。
 その次は、色からも察することが出来るチョコレートの味。これはスタンダードでオーソドックスだけど、それだけに良い。
 小さなつぶつぶがまぶされているのもある、これはケシの実だろうか? 食感が良い。
 いちごのジャムが中央に配されたクッキーも、ジャムのねっとりとした甘みと生地のバランスが良くて。
 そして隙間には、雲のようにぽわぽわとメレンゲが配されている。口に入れるとすっと溶けてなくなってしまう儚い甘みが、とてもたまらない。

 ひと通り食べ終わるのは一瞬のことだった。宝探しする子供のように夢中だった。
 大人を思い出した私は、ミルクなしでブラックのコーヒーをすする。
 散々甘さを楽しんだ後だから、これでちょうど良かった。

「それにしてもさすがだなあ」
 これを作っているであろう、木森さんの顔が思い浮かんだ。
 クッキーアソート缶は限定品で数が決まっているのだという。
 これは確かに作るのにも詰めるのにも苦労するだろうなあと感じた。

 さて·····とコーヒーの残りが半分になった所でミルクをいれつつ小休止する。
 どこまで食べようか。
 これって、とても悩ましいところだ。
 何しろ缶の中には、まだまだ美味しいお菓子がたくさん詰まっているんだから。
 でもいくら食欲の秋とはいえ·····。
 そんなことを考えて、ミルクの入ったコーヒーを飲みつつ、わたし一人のティータイムは過ぎていく。

 アパートの小さな窓から見えるナナカマドの葉や実が、綺麗に色づいていた。
 木枯らしも吹いたという。もうじき、冬がやってくるだろう。
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