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スフレチーズケーキと仕事
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休日に会社の人と出かけるという概念について、あまり考えたことがなかった。
休みの日まで会社のことなどまったくもって考えたくないし、幸いなことにうちの会社には休日の行事などは(休日出勤はあっても)ないのも手伝って、そんな感じで今日まで来た。
ところが……。
その今までは突然覆されることになった。
今日のわたしは桜庭先輩と一緒に出かけている。
しかもなんと先輩の方からお誘いがあったのだ。そのお誘いが「嫌じゃない」ではなく「好ましい」ものになっていたわたしは、喜んでお誘いを受け今に至る。
わたしたちは一緒に映画を見に行って、
「試写会のチケットが当たったの。恋愛ものだけど……だから良かったら一緒にと思ってね」
「いいですね!ちょうど気になってたんです、その映画」
ちょっとオシャレなランチをし、
「先輩、今日はテラス席もいい感じですね!さっきの映画なんですけど面白かったですよね。あのシーンがまた泣けて……」
「そうなのよ……ちょっとうるっと来ちゃった。私原作もファンなの。ところでこのパスタなかなかいけるわね」
映画はなかなかの良作で、ランチの後も感想戦が終わることはなく。
じゃあそれなら、と言いつつも、二人とも初めから行くつもりでいたまれぼし菓子店に立ち寄ったのだ。
「いらっしゃいませ」
今日は手嶌さんが迎えてくれたまれぼし菓子店の、おすすめケーキメニューにはスフレチーズケーキの文字があった。
そう言えば前に先輩と一緒に来た時は、ベイクドチーズケーキを食べたのだった。残業がきつい時だったのですごく癒されたのを覚えている。
そのことを思い出した時にちょうど、
「おふたりの時にまた、チーズケーキですね」
と手嶌さんも微笑んで言った。
先輩とわたしは顔を見合わせる。
「それじゃあ今日も……」
「チーズケーキふたつで」
「かしこまりました、少々お待ち下さいますか」
なんだか奇遇な気持ちになって、すっかりチーズケーキの口になってしまったのだった。
スフレチーズケーキのスフレはフランス語なのだそうだ。だからフランスからやってきたお菓子なのかと思ったら、このスフレチーズケーキは日本が発祥なのだというから、ちょっと不思議だ。
「本物のスフレみたいにすぐに萎んだりはしないの。湯煎で蒸しあげるのよ」
と、先輩が教えてくれた。桜庭先輩は趣味でお菓子作りもするそうで、お菓子の話にもかなり詳しいというのは最近知ったことだ。
スフレチーズケーキに対する私たちのよもやま話が終わる頃に、ちょうど手嶌さんがチーズケーキと紅茶を運んできて供してくれた。
「“儚い夢の島”スフレチーズケーキです」
「いただきます!」
「いただきますね」
「どうぞ、召し上がれ」
わたしたちは待ちかねたとばかりに手に取ったフォークをチーズケーキに差し入れた。
ふんわり柔らかい。ほんのわずかの弾力だけ指先に感じる。
それを口に運ぶと、しゅわりと溶けてしまいそうな儚い食感。生地にはメレンゲが含まれているそうで、聞いてみると確かになるほど、となる。
とても優しいチーズの風味と甘みが混在していて、表面に少しまぶされた粉砂糖とあいまったそれは、ひたすら優しい味わいを醸し出している。
思わずため息が出た。
「やっぱりこの美味しさはちょっと家では真似出来ないわ」
と桜庭先輩が苦笑している。
ふわふわだけど、しっとりして、舌の上でちゃんと主張していくスフレチーズケーキ。
儚い夢のような美味しい小島。少しずつ切り崩していく。
夢から覚めるのは案外早い。夢中でぺろりと平らげたわたしと先輩は顔を見合わせて二人で笑った。
「紅茶のおかわりはいかがですか?」
手嶌さんが紅茶を注いでくれ、わたしたちはまた映画の話に戻る。映画の話だけに留まらず、仕事の話や趣味の話まで色んな話をした。
話は尽きることなく、ずいぶん長い時間をまれぼし菓子店の喫茶で過ごした。
おしゃべりがひと段落する頃には、日もすっかり落ちて夜がやってきていた。
有意義な休日を先輩と一緒に満喫して、明日はもう出勤、だ。
短いような長いような、不思議な一日だった。
「また明日」
「はい、また明日もよろしくお願いします」
桜庭先輩と別れる帰り道。
先輩の背中を見送ってから、わたしも家路に着く。
明日の仕事のことを思うとやっぱり気は浮かなくなるのだけど、いつもとはどこか違う。
それは今日一日を最後まで先輩と楽しく過ごせたからなのだろうか。
ほどよく涼しくなった夜風が、とりとめのないことを考えながら歩くわたしの傍らを吹き抜けていく。
そんな夜の空は雲ひとつなく、月はとても綺麗だった。
休みの日まで会社のことなどまったくもって考えたくないし、幸いなことにうちの会社には休日の行事などは(休日出勤はあっても)ないのも手伝って、そんな感じで今日まで来た。
ところが……。
その今までは突然覆されることになった。
今日のわたしは桜庭先輩と一緒に出かけている。
しかもなんと先輩の方からお誘いがあったのだ。そのお誘いが「嫌じゃない」ではなく「好ましい」ものになっていたわたしは、喜んでお誘いを受け今に至る。
わたしたちは一緒に映画を見に行って、
「試写会のチケットが当たったの。恋愛ものだけど……だから良かったら一緒にと思ってね」
「いいですね!ちょうど気になってたんです、その映画」
ちょっとオシャレなランチをし、
「先輩、今日はテラス席もいい感じですね!さっきの映画なんですけど面白かったですよね。あのシーンがまた泣けて……」
「そうなのよ……ちょっとうるっと来ちゃった。私原作もファンなの。ところでこのパスタなかなかいけるわね」
映画はなかなかの良作で、ランチの後も感想戦が終わることはなく。
じゃあそれなら、と言いつつも、二人とも初めから行くつもりでいたまれぼし菓子店に立ち寄ったのだ。
「いらっしゃいませ」
今日は手嶌さんが迎えてくれたまれぼし菓子店の、おすすめケーキメニューにはスフレチーズケーキの文字があった。
そう言えば前に先輩と一緒に来た時は、ベイクドチーズケーキを食べたのだった。残業がきつい時だったのですごく癒されたのを覚えている。
そのことを思い出した時にちょうど、
「おふたりの時にまた、チーズケーキですね」
と手嶌さんも微笑んで言った。
先輩とわたしは顔を見合わせる。
「それじゃあ今日も……」
「チーズケーキふたつで」
「かしこまりました、少々お待ち下さいますか」
なんだか奇遇な気持ちになって、すっかりチーズケーキの口になってしまったのだった。
スフレチーズケーキのスフレはフランス語なのだそうだ。だからフランスからやってきたお菓子なのかと思ったら、このスフレチーズケーキは日本が発祥なのだというから、ちょっと不思議だ。
「本物のスフレみたいにすぐに萎んだりはしないの。湯煎で蒸しあげるのよ」
と、先輩が教えてくれた。桜庭先輩は趣味でお菓子作りもするそうで、お菓子の話にもかなり詳しいというのは最近知ったことだ。
スフレチーズケーキに対する私たちのよもやま話が終わる頃に、ちょうど手嶌さんがチーズケーキと紅茶を運んできて供してくれた。
「“儚い夢の島”スフレチーズケーキです」
「いただきます!」
「いただきますね」
「どうぞ、召し上がれ」
わたしたちは待ちかねたとばかりに手に取ったフォークをチーズケーキに差し入れた。
ふんわり柔らかい。ほんのわずかの弾力だけ指先に感じる。
それを口に運ぶと、しゅわりと溶けてしまいそうな儚い食感。生地にはメレンゲが含まれているそうで、聞いてみると確かになるほど、となる。
とても優しいチーズの風味と甘みが混在していて、表面に少しまぶされた粉砂糖とあいまったそれは、ひたすら優しい味わいを醸し出している。
思わずため息が出た。
「やっぱりこの美味しさはちょっと家では真似出来ないわ」
と桜庭先輩が苦笑している。
ふわふわだけど、しっとりして、舌の上でちゃんと主張していくスフレチーズケーキ。
儚い夢のような美味しい小島。少しずつ切り崩していく。
夢から覚めるのは案外早い。夢中でぺろりと平らげたわたしと先輩は顔を見合わせて二人で笑った。
「紅茶のおかわりはいかがですか?」
手嶌さんが紅茶を注いでくれ、わたしたちはまた映画の話に戻る。映画の話だけに留まらず、仕事の話や趣味の話まで色んな話をした。
話は尽きることなく、ずいぶん長い時間をまれぼし菓子店の喫茶で過ごした。
おしゃべりがひと段落する頃には、日もすっかり落ちて夜がやってきていた。
有意義な休日を先輩と一緒に満喫して、明日はもう出勤、だ。
短いような長いような、不思議な一日だった。
「また明日」
「はい、また明日もよろしくお願いします」
桜庭先輩と別れる帰り道。
先輩の背中を見送ってから、わたしも家路に着く。
明日の仕事のことを思うとやっぱり気は浮かなくなるのだけど、いつもとはどこか違う。
それは今日一日を最後まで先輩と楽しく過ごせたからなのだろうか。
ほどよく涼しくなった夜風が、とりとめのないことを考えながら歩くわたしの傍らを吹き抜けていく。
そんな夜の空は雲ひとつなく、月はとても綺麗だった。
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