大魔女さんちのお料理番

夕雪えい

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04 大魔女さんと雪の都

一角兎のポットパイ 中編

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「魔法使いと妖精フェアリーと料理人。へー! だいぶ変わったパーティ構成っすね。ていうか……えっ? じゃあトッティさんのパーティって、もしかしなくても前衛いないんっすか? 戦士とかそういうのが……」

 一枚板の大きなテーブルの上でほかほかと湯気の立つティーカップを前に、ルジェが驚きの声を上げる。
 ここは案内してもらった屋敷の応接室だ。
 僕たちはソファに並んで座り、向かいにルジェ。ここで今までの経緯やこのパーティのことを話し終えたところだった。

「そうなのよ。そもそも料理人って戦闘要員じゃないし」
「非戦闘員がいるだけじゃなくて、魔法使いをかばう盾役がいないじゃないっすか! このパーティ構成で魔王に挑むのはさすがにちょっとやばすぎないっすか?」

 大真面目な顔になったルジェに指摘されてしまって、僕はやっぱりそうなのかと納得してしまった。
 トッティは自分で攻撃も捌いていたから、ありなのかなと思いかけていたけど、そんなわけがなかった。当然ながら戦力不足ということなのだろう。

「ええ。それであいつの力を借りようと思ってきたんだけど……」

 話の流れからすると、トッティの仲間はどうやら前衛を務めることのできる剣士とか戦士とか、そういう人らしい。
 しかしトッティの視線を受けたルジェは、なぜか怒られた犬みたいに背中を丸めてしまった。

「トッティさん、そのう……その肝心のお師匠のことなんっすけど」
「……あ、わかったわ。いつものアレね?」
「すみません! そうなんっす! 『旅に出る』ってフラッと出たまま、もう二ヶ月音沙汰なくてー! いつ帰ってくるかは全くわからないっす……」

 ということは……。
 放浪癖のあるらしいトッティのかつての仲間は現在行方不明。連絡もつかないということだ。
 トッティとルジェの口ぶりからすればいつものことのようで、無事ではあるんだろうけど……。
 とにかく、僕たちの当ては見事に外れてしまったことになる。僕は思わずトッティの顔を見つめて尋ねてしまう。

「ええっと……困ったな。それじゃあどうしよう? 冒険者を当たってみる?」
「ううん、それより確実な手がちゃんとあるわ」
「というと?」

 首を傾げた僕に、トッティは鮮やかな笑顔でこう返した。

「今あなたの目の前に、最高に良い仲間候補がいるじゃない。ルジェよ」
「ええっ!?」

 トッティの断言には驚いてしまった。
 ルジェは正直なところ可愛くて小柄な美少女にしか見えないのだ。
 でも待てよ、と思い直す。よく考えたらルジェは二階から軽々飛び降りられるくらいには身体能力が高いし、トッティの紹介では『魔法戦士』って言ってなかっただろうか。
 もし力になってくれるならありがたい。けど、魔王相手を安請け合いしてくれる人がそうそういるとは……。

「自分っすか? 構わないっすよ!」

 いた。ルジェはめちゃくちゃ良い笑顔で、即座に安請け合いしてくれた。

「えっ……あの、ありがたいんだけど魔王が相手だよ? 本当に良いの、ルジェさん?」
「良いっすよ! 自分はもともと腕を磨きたくてお師匠の弟子になったんで。お留守番も、街のそばでの戦いも悪くないんすけど、強い相手とやるのがやっぱりいちばん強くなるっす」

 あっさりとした口調で言い切られるので、僕はちょっと圧倒されてしまった。
 可愛らしい見た目に反して、まるで武者修行に明け暮れる豪傑ごうけつのような思考だ。

「やったですう! ルジェが一緒なら楽しくなりそうなのですう!」
「よろしくお願いするっす。それでトッティさん、パーティに入れてもらうのは大丈夫なんすけど、代わりに一つお願いしても良いっすか?」

 あ、とルジェが何かを思い出したような顔で尋ねてきた。

「良いわよ、何かしら?」
一角兎アルミラージ狩りに付き合ってくれないっすか? 自分が家を空けるとなると、屋敷の管理をする屋敷妖精ブラウニー石人形ゴーレムを増やさないといけなくなるんで、触媒になる一角兎の角がほしくて」
「そんなことであなたが力を貸してくれるならお易い御用よ。妖精の召喚と石人形作りも私がやるわ」
「さすがトッティさんっす! それと、一角兎狩りなんっすけど、良かったらみなさんは自分の後ろで見ててくださいっす」

 どういうことだろう?
 手伝わなくていいの? と僕が尋ねると、なんとも頼もしい答えが返ってきた。

「はい! 自分一人で十分っす。この狩りで自分の力をみなさんに見定めてもらうっす!」

 白い歯を見せてにっかりと笑う少女を見て、トッティは満足そうに頷いている。
 ルジェは僕たちのパーティ問題点への指摘もちゃんと的を射て冷静だったし、自分の実力を過信するようなタイプではないだろう。
 うーん、これは……。
 どうやら、新たになかなかすごい仲間ができてしまったのかもしれなかった。


「狩り、すぐにでも大丈夫っすか? 近場なんで」
「構わないわよ、まだ日も高いし」

 お茶を飲み終わった僕たちは、すぐにまた出かける準備を始めた。
 長旅だったし少し疲れてはいたけど、いつまた魔王の魔の手が伸びてくるかわからない今、仲間ができるのは早いに越したことはない。

「そうだ、一角兎のお肉! あれでカイに今日の夕飯を作ってもらいましょうか」
「へっ? 一角兎か……つまり角の生えたうさぎなんだよね。トッティは食べたことある? どんな感じなの?」
「そうねえ。毛皮は良い防具に加工できて、角は優れた魔法触媒、肉は普通のうさぎ肉って感じかしらね」
「そっか、わかった。じゃあ夕飯はこの屋敷の厨房キッチンを借りて、少し手の込んだものを作ってみようかな」
「楽しみにしてるわ!」
「何ができるっかなー! ですう!」

 そんな会話をする僕たちを見てルジェが微笑むので、彼女に目線を向けてみた。

「どうしたの?」
「いや、トッティさん、ちょっと雰囲気変わったなと思ったんっす。前はもっと孤高の魔女って感じあったんで。もしかして、カイさんの影響なんすかね?」
「そうなんだ……?」

 孤高の魔女。
 明るくて強くて、そして食い意地の張っているお茶目な彼女の姿を見ている身としては、少し不思議に感じるフレーズだ。
 首を傾げていると、ルジェは太陽のように明るい笑顔で言ってくれた。

「カイさん。自分もこれからがすごく楽しみになってきたっす」


 再び雪原へ向かうため、僕たちは街の門を出る。
 冒険の準備に行ったルジェが引っさげてきた得物は、なんと身の丈ほどもある長い槍だった。
 向かう先は、街からほど近い林の辺りだ。

 一角兎は普段群れを作らない魔物だけど、今はしょくの影響を受けて多数の群れができているらしい。それで冒険者には増えすぎたうさぎを狩る依頼が出されているのだそうだ。

「いましたねえ! 一角兎がうーじゃうじゃですよう」
「良さそうな狩場っす。それじゃ、みなさんはこの辺で見てて下さいっす」

 ルジェは決して軽そうには見えない槍を、手足の延長であるかのようにひょいと構える。
 そして僕たちににっこりと笑いかけると、一角兎がこちらに勘づく前に疾風はやてのように走り出した。

 空の高い位置にある太陽の日差しを槍の穂先が弾く。
 僕は固唾を呑んで、始まった戦いを見守っていた。
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