大魔女さんちのお料理番

夕雪えい

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04 大魔女さんと雪の都

焼きおにぎりのスープ茶漬け 前編

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 霜の巨人が宿っていた雪だるまが崩れ、雪原へと還っていく。
 また何か用事があれば呼び出しに応じてくれるようだけど、ひとまず彼との話はこれでおしまいみたいだ。

 対話を終えた僕たちは、次なる方針を話し合うことにした。
 と言っても大まかなところは、さっき霜の巨人とも話したとおりでもう決まっている。
 つまり『魔王への対抗手段を見つける』ということだ。

「でもトッティ。対抗手段とは言うけど、そんなに簡単にどうにかなるものなの? 仮にも魔王って、王を名乗るだけのすごさや強さがあるんじゃないかと思うんだけど……」
「そうね、まあ簡単ではないわよ。でも私たちの方針自体はとってもシンプルなのよ」
「つまり?」

 僕とエリーチカの視線がトッティに集中する。
 彼女は魔法杖ロッドでトンと地面を叩いたあとに、堂々たる態度で高らかに言い放った。

「つまり、今よりずっと強くなれば良いのよ」
「……そんなことだろうと思ったけど」
「それができれば苦労しませんですうう!」

 僕たちからのツッコミもなんのそので受け流し、トッティはすました顔で続ける。

「あら、ちゃんと強くなるための方法も考えてあるわよ。何しろ、私たち自身を鍛えれば能力はまだまだ伸びるけど、どのくらい鍛えれば十分かはわからないし。時間だってかかりすぎる」
「じゃあどうするのさ?」
「周りから固めていくのよ。手っ取り早く必要なのは、強い装備と強い仲間よ」

 強い装備と強い仲間。
 確かにもっともな話だった。
 ゲームの中だって、勇者が魔王を倒しに行く時には、レベル上げをする他に、伝説の剣や鎧なんかを身につけるなんてのがよくある設定だ。そして大体の場合は一人では挑まず、仲間を募っていくのが王道だ。
 僕たちもその王道をなぞって行くというわけだ。

 そうは言うものの当てはあるんだろうかと言う目線をトッティに向けると、待ってましたとばかりにうなずく。

「まずは雪原を抜けて街へ向かうわ」
「街って言うと……、最初のニーガの街に戻るの?」
「いいえ、ニーガよりももっと大きい街へ行くわ。この森を抜けてさらに進んだ先には雪の都ザオラドがあるのよ」

 雪の都。
 ニーガだって小さいながらも豊かな街だったと思うけれど、都とまで言うのならずいぶん規模が大きそうだ。

「そういえば仲間の当てもあるの? シェレスティアやチーチに頼むとか?」
「シェレスティアは基本的にあの場所から動かないでしょうね。あの氷湖は魔法的に重要な場所だから、実は彼女があそこにいることで守護しているという側面もあるの。チーチは子どもが生まれたばかりだし、魔王との戦いに付き合ってもらうのはちょっとね」
「じゃあ仲間も新しく探すことになるんだね」

 それは結構大変じゃないだろうか、と首を傾げていると、エリーチカの明るい声が割り込んでくる。

「ザオラドには腕利きの冒険者もいっぱい集まってるって聞きましたよう! 魔王退治のお仲間探しにももってこいですねっ!」
「そう。実はもう当てがあるのよ。だからあとは、行ってみてのお楽しみというところかしら」

 強い冒険者もたくさんいる、大きな雪の都ザオラド。トッティには万事もう目星がついているというのなら、これほど頼もしいことはない。
 魔王をどうにかするという目標は、正直かなり無謀で遠い道のりのように思えるけど、実際にやるべきことが決まっていて動けるのはありがたい気持ちだった。千里の道も一歩からと言うし、進む方向さえ決まっていれば地道に歩んでもいつかはゴールにたどり着くという希望があるからだ。

「さて、それじゃあ出発しましょうか。荷物もずいぶん軽くなってきたことだし、みんなでソリに乗って行きましょ」

 トッティの提案通り、僕たちはソリへと乗り込んだ。
 彼女が魔法杖ロッドを振りあげると、犬型の石人形ゴーレムたちが引くソリが雪原を滑るように走り出す。

「森を抜けてしばらくすれば、ザオラドへ続く街道筋に出るわ。そこに出てしまいさえすれば、この速度ならもうすぐに街よ」
「雪の都かあ。どんなところなのか楽しみだよ」

 徐々にスピードを上げていくソリ。周りの景色がどんどん後ろへ流れていく。
 この世界で二つ目の街。どんな景色とどんな人々が待っているのか、正直とても興味があった。

「ザオラドは大きいわよ。建物も背が高くて大きいし、ニーガにはないものもたくさんある。カイもエリーチカもきっとびっくりするんじゃないかしら」
「美味しいものも食べられますかねえ?」
「カイの料理以上の美味しさとなると、なかなかないかもしれないわね!」

 トッティがあんまりにもはっきりと言い切ってくれるので、僕は無性に照れくさくなってしまいあいまいな笑顔を返すのがやっとだった。
 氷晶樹の森を抜ければ、雪の壁をくり抜くように走る街道が続いている。

 次の目的地に着いた時、一体何が待っているのだろう。
 不安よりも期待が大きい。
 それは僕自身がこの世界に馴染んできた証拠なのかもしれなかった。
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