大魔女さんちのお料理番

夕雪えい

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03 大魔女さんと霜の巨人

雪国牛のとろふわチーズフォンデュ 前編

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 おしゃべりなエリーチカさえも黙ってしまって、なんとも言えない沈黙が僕たちを支配していた。
 それでも足は進めないといけない。
 歩き始めようとしたその時。
 僕の持っている空色の宝石が浮かび上がり、キラキラと輝きを発した。

「わっ! すんごい 魔法力マナの石ですぅ!?」
「ん、シェレスティアからなにか連絡が来たのかしら」

 そう、これは氷の魔女シェレスティアから貰った宝石なのだ。
 やがて宝石の上に麗しい白い魔女が像を結ぶ。ちょうどエリーチカと同じくらいの大きさくらいだ。ホログラムの仮の姿ということだろう。

「お久しぶりですわ、カイ。トッティもそこにいるかしら」
「シェレスティア。今、氷晶樹の森で……」
「わかっています。そして今異変が起こった……そうではなくて?」
「氷の魔女。その通りよ。あなたに聞きたいことがあるわ、わかっていると思うけど」
「ええ。占いには“魔族”の暗示が出ているわね。奴らはしつこいですわよ」

 ふう、とトッティは深いため息をついた。
 魔族というのは、そんなにも手強い相手なのだろうか。戸惑いっぱなしの僕に、シェレスティアが説明役を買ってでてくれた。

「魔族というのはね、カイ。この世界において頂点の種族のひとつなのです。生まれつき強い魔法力を持ち、激しい闘争心でほかの種族を圧倒し、支配していく。ヒトのような姿をしているものもいれば、魔物のような異形もいる。……特にヒトに類する種族にとっては天敵といっていいでしょう」
「天敵。そんなやばそうな奴らに、俺たちが狙われてるかもってことですか……?」
「カイ、大丈夫よ。私たちならそれでもなんとかできるから。それより」

 鋭い瞳をした彼女が再びシェレスティアのホログラムに向き直る。

「もう少し詳細は占えそうかしら」
「『月が かげる時、地上に降り立ちし者へと魔の指先が触れる。 しもの王は眠りのただなか。目覚めが新たな大地への鍵となるだろう。闇の影を光で払え。あなたの目的の鍵となるだろう。魔は』、……あらあら、また水晶玉が割れましたわ。これ以上は難しそうですわね」
「向こうは私たちのこと見ているのかもね。本当に厄介な奴らだわ。ありがとう」
「どういたしまして。ではカイ、気をつけていきなさい。あなたは気負わずあなたにできることをするように」

 小さなシェレスティアのホログラムは解けて消えた。
 道々の助言をすることを見越して、あの時こうして宝石を持たせてくれたのだろうか。ありがたさが身に染みる。
 もっとも、予言? の内容の意味は僕にはちょっとわからなかったが……。

 と、トッティの方を見ると、なんでか自分で自分の頬を叩いていた。

「トッティ? どうしたの」
「ちょっと気合いを入れてたわ。心配かけちゃってたでしょう、ごめんなさい」
「ううん。なんか手強い敵が出てきていたのはわかってたから……。心配じゃないと言えば嘘だけど、大丈夫だよ」
「ありがとうね。さっきは色々考えていたけど……結局大事なのはできることを全力でやるってことだと思ってね。だからあなたも全力でやって」
「……! もちろん!」

 なんだかいっそう頼りにしてもらったみたいだ。
 ぐっと嬉しさが込み上げてくる。

「あっ! なんかエリーチカだけ仲間はずれですぅ!? エリーチカも、エリーチカも!」
「あなたは命かけるほどの長い付き合いじゃないでしょ」
「ヴーヴー」
 空中でだだっこしながら振動しているのだから、なかなか器用なものだ。

「ともあれ、方針が決まったわ。やっぱり予定通りこの樹林地帯の中にいる『霜の巨人』に会いに行く」
「ピッ! 霜の王様んとこにいくんですかぁ! あの方なら確かに雪原のことで知らないことはないですぅ」
「元々会ってみるつもりだったんだけどね。 しょくのことで話を聞けたらなと思って。でも予言によると眠らされてるみたいだし、魔族の関与が疑われるから。気をつけていかなくてはね」
「本当に魔族は恐れ知らぬけしからんヤツらが多いですねっ! プンプーン!」

 トッティとエリーチカによると霜の巨人というのは雪原を べる王様のような存在らしい。となると、確かに頼りになる味方になってくれるのかもしれない。
 ともあれ一難去ってまた一難。まだこの先も数難待っていそうではあったが……。
 僕たちは戦いの場をひとまず後にするのだった。


 歩いているうちにいつの間にか、雲の隙間からうっすら青空も見えるようになっている。
 道中できらりと陽光に映える白い花…… 雪華スノウフラワーを見つけたので、いくらか摘んで行く。
 食料品の残り、野菜類がさすがに減ってきたのだ。新鮮な野菜類の現地調査と調達はすごく大事だ。残りは根菜が多くて、あとはベーコンと雪茸か。今日の食事は何にしようか……。
 在庫のことを考えている時ふと閃く。
 雪国牛の良いチーズの残りがあと少しだ、食べきってしまいたい。

 今日はチーズフォンデュだ!

「あら、なんだかご機嫌ね?」
「霜の巨人に会う前に、しっかり体を整えておこうと思って。今日は結構なご馳走にします」
「えっ、本当! なにかしら、楽しみだわ!」
「やったー!! わーーーい!!」

 手を叩いて喜ぶふたり。また笑顔が戻って来ているのだ、そのことにほっとする。
 僕もやっとひと心地ついた気がした。
 今夜の野営が楽しみだ。
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