大魔女さんちのお料理番

夕雪えい

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03 大魔女さんと霜の巨人

流れ星の砂糖漬け

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 雪原を行く旅は、今日で何度目かの夜を迎える。
 今夜は小さなかまくらを作って、夜を明かすことにした。
 夕食の準備をしていたその時、夜空にすっと流れる一筋の光が見える。

「あ、流れ星。しかも結構流れるな。流星群?」
しょくの後だから、空が不安定なんだと思う。でも星が降るということは、星が収穫できるかもしれないわよ」
「星が……収穫?」

 そういえば料理書にあった。
 この世界の流れ星は隕鉄いんてつの塊、というモノではなくて、なんだかもっとずっとファンタジーな存在だということ。魔法力マナが多量に含まれている外側の部分と、内側のコア部分があり、外側は料理に、内側は武器などの作成に利用されることが多いのだそうだ。

「明日の朝が楽しみね。その辺に落ちているかもしれないし」
「そんなノリなんだ? 木の実か何かみたいだなあ。拾えたら何を作ろうかなあ……」
「甘いものが良いですぅ! かわいい妖精フェアリーさんは甘いものが大好きなのですぅ!」

 そして翌朝。
 僕たちがかまくらから出ると、はたしてその周りの雪の大地には、ポツポツと青白く微かに発光する小さなカケラが落ちていた。五百円玉くらいの大きさだ。
 これが流れ星か。思った以上にファンタジックだ。

「よし、じゃあ手分けして集めてくれ」
「任せろですぅ!」

 星のカケラは見る見るうちに集まっていく。海岸で貝殻集めをするのに似ていて、なんだか童心をくすぐられる。
 布袋の中に十分な量の星のカケラが手に入ったので、時間をもらって雪華スノウフラワーと砂糖とともに鍋に入れて煮詰める。少し水にさらして、その後にまた同じように煮込む。最後に砂糖をまぶしてやる。
 流れ星の砂糖漬けのできあがりだ。

 味見にと一粒口に運んでみた。
 まだ時々ほのかにまたたく流れ星のカケラ。
 ザクッとした砂糖の歯ざわりがまず楽しい。そして噛むと砂糖漬けの中からとろりと甘い味わいの蜜が出る。そして最後に花の爽やかな香りがはかないけど確かに感じられる。
 うん、上出来だと思う。

「ちょっとつまんでみる?」
「食べますぅ!」
「早速いただこうかしら。行動食にも良いから、重宝しそうだわ。ありがとう、カイ」
「うーん! 美味しいですぅ!」
「ん、美味しい」

 二人の笑顔の前には、流れ星の明るさも……いや太陽の明るさすらもかなわないかもしれない。
 作った側としては何よりの褒め言葉をもらえた気分だった。


 その後、氷晶樹の森の行軍を再開した。
 出発してからどのくらい経っただろうか。
 先頭を行くトッティが、不意に足を止めた。
 その視界は宙をにらんでいる。

「トッティ?」
簡略式エイム、盾よッ!」

 間髪入れない詠唱と呪文。それが緊急性を表している。
 そして結果は一瞬も置かないうちにわかった。僕たちを盾の魔法が包んだ直後に、轟音が響く。
 バリバリバリ――! と空間が引き裂かれるような音。
 魔法杖ロッドを高く掲げたトッティが、続けざまに唱える。高速の詠唱だ。

「簡略式、雷よ、穿うがてッ!」

 空間に雷の帯が走ったかと思うと、それは氷晶樹の上にいたを撃つ。
 と、その何かが寸手すんでのところで雷を避けるのを僕は見た。
 しかしトッティの魔法はそこでは終わらない。魔法杖をそのままスライドさせると、激しい光の帯が標的を追いかける。

重魔アド――巻け、風よ!」

 光の帯は巻き起こったつむじ風によって、範囲を変える。そして閃光はそのままその何かを飲み込んだ。

「……」
「トッティ、今のは……」
「あれはなんかの使い魔ファミリアですかぁ、トッティ様……?」

 険しい顔をして光の余韻よいんを見つめるトッティに、エリーチカがおそるおそるといった風に声をかける。
 トッティは静かに、重々しくうなずいた。
 使い魔ってなんだろう……?

「ええ。使い魔っていうのは誰かの操る従者みたいなものよ。アレは私たちを見ていた。そして今、攻撃を仕掛けてきた」
「いったい、誰が?」
「……わからないわ、まだ」

 トッティはゆっくりと使い魔が落ちた場所へと歩み寄っていく。
 光がやんだ後のそこには、燃え焦げた木と、割れた石のようなものがあるばかりだった。
 石を拾った彼女は眉間にしわを寄せている。見たことのない表情だった。

「この石を触媒しょくばいにして使い魔が作られていたの。術者の魔力のある限り、こうした使い魔は再生成できる」
「でも、使い魔が作れるのは並大抵のモノじゃないですぅ! もしかして、魔族……」
「……」

 トッティがとがめるようにエリーチカを見る。
 やっぱり、見たことのない表情だ。しばらくそのまま現場を調べている彼女へ、僕は声をかけあぐねて立ち尽くしていた。
 彼女の知らない一面を見ている気がして。

 今までにない不穏な空気。
 いったい、誰が何の目的で僕たちを見ているというのだろうか。
 そして、エリーチカの言う魔族というのはどんな存在なのだろうか。
 空はいつの間にか曇り、雪が降り始めていた。
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