12 / 61
03 大魔女さんと霜の巨人
魔女の豆と根菜のスープ
しおりを挟む
あの夜から吹雪は長く続いて、僕たちはしばらくあらたな冒険への出発を見送ることになっていた。
その間、僕はいつもの通り料理書の研究をするほかに、もうひとつ新しいことに挑戦することにした。
トッティに杖を使った護身術を習うことにしたのだ。
「と言っても、私のは正統とは言い難いんだけどね」
「石人形をぶちのめしてたし、充分すごいと思うよ」
「ほめても何も出ないわよ。本当は付け焼き刃でやるのもかえって危ないかもって思うけど、鍋で頑張られるよりはいいと思うから……」
苦笑を返すしかない、それはおっしゃる通り。
しかしトッティの言い分はどうも謙遜が大きかったらしく、指導はとてもわかりやすい。
僕みたいな体育の成績がいまいちの、才能がないと思われるタイプでも、グングン腕前が上がっていく気がする。いや、まあ慢心は禁物なんだけど。
「そういえばさ、魔法ってどうやって使うの?」
ふと初歩的な疑問にたどり着いて、尋ねてみた。
異世界だし、魔法、ひょっとして僕にも使えたりとか……。
「使えないわよ」
「えっ」
「魔法って明確な祝福なの。使える人と使えない人が決まっていて、だから魔女とか魔法使いとか呼ばれる者が重宝されているのね」
「なるほどう……」
「だからカイはこの先も使えることはないと思うわ。がっかりしちゃったかしら?」
「いや、なんかむしろ安心したよ」
「そのこころは?」
「人にないすごい力を持ったらちょっと変になっちゃいそうだし。トッティみたいに強く正しくいられる感じがしないんだ。善き魔女……て言われる存在になれるとも思えないしね」
素直な所感を答えると、なんでか小突かれた。
彼女を見るとちょっと恥ずかしそうな顔をしている。
「あなたに善き魔女、とか言われるとちょっとその」
「いや事実なんだしさ。誇りに思ってるし、頼りにしてるよ」
「……もう!」
なんでかそっぽを向かれてしまった。
最近なぜか照れているトッティを見ることが多くて、そうなると僕もなぜか照れてしまう。
なんでだろう、不思議だ……。
さて、訓練したらおなかが減る。
おなかが減ったら、今日のごはんを作る時間だ。
とはいえ外は猛吹雪で外出もままならないので、今日はありあわせのもので作る(といってもトッティの家はかなり食材が豊富なのだ)。
今日も寒いのであたたかいスープを煮込むことにしよう。
暖炉にかけておいた大きな鍋に、皮をむいて刻んだ根菜を入れる。
だんだん見なれてきたこれらの野菜の見た目は、元の世界のものに結構近いのもあれば違うのもある。ただ風味はどれもそう変わらず、割と親しみやすい。
にんじん、いも、ゴボウ、玉ねぎ、マンドラゴラ。
今回のもうひとつの主役は、豆だ。
魔女の豆と呼ばれるまあるい豆で、非常にカラフルな色をしている。まるでおもちゃみたいだ。
水に入れて戻しておいたその干し豆も、ざらざらと鍋に投入。
そしてじっくりことこと、よく煮込む。
煮込んでいる間に、黒パンを炙る。今日はバターとプラムのジャムも用意しておく。
飲み物はやっぱりあたたかいお茶と、あつあつのスープがメインだから湯冷ましの水も。
最後にスープの味を整えて。
盛り付けてテーブルの上に並べればできあがりだ。
「さてこんな天気だけど、おなかはしっかり空いてるわね。訓練の賜物だわ」
「じゃ早速」
『いただきます!』
スープの根菜は少しの歯ざわりを残しつつ、しっかり火が通って柔らかい。土と近い野菜ならではの滋味というのだろうか、風味がまたたまらないのだ。
そして魔女の豆。
初めて食べる食材なのだけれど、この味がまた……! なんというのだろう。色によって味が結構違う。甘めの味、辛めの味、ホクホクしていたりプチッとしていたりする食感の違いも楽しくて、いくらでも食べられるような気持ちになる。
「魔女の豆のスープってこの地方ではものすごく人気があるのよ」
「確かにこれはうけあいの味だなあ。全然飽きることがないよ」
「保存性も高いし。今度の旅にも持っていきましょう」
スープにパンを浸しながらトッティが笑う。
そうだ。次は雪原に旅をするんだった。それなら何を作ろうかな……? どんな食材が待っているんだろう。
いつの間にか料理することが楽しみになっている自分がいる。そのこと自体がもうひとつの“祝福”なのかもしれない。
「しろがね雪原には『霜の巨人』がいるはず。そこに行けばまた、更なる手がかりがあるかも」
「『霜の巨人』……なんかいかにも強そうだな。大丈夫かな」
「ええ。話はしっかり通じるはずよ。雪原の冒険はちょっと危険だけどね。あなたも付け焼き刃でも鍋よりはマシな技をみにつけたし、まあなんとかなるんじゃないの?」
「ははは……」
鍋の話、一生言われそうな気がする。
むちゃはしました、自業自得か。
吹雪の夜は更けていく。
次に目指すはしろがね雪原、『霜の巨人』。また不思議な出会いが待っているんだろう。
これから待っているできごとに胸の奥が熱くなる気がしていた。
その間、僕はいつもの通り料理書の研究をするほかに、もうひとつ新しいことに挑戦することにした。
トッティに杖を使った護身術を習うことにしたのだ。
「と言っても、私のは正統とは言い難いんだけどね」
「石人形をぶちのめしてたし、充分すごいと思うよ」
「ほめても何も出ないわよ。本当は付け焼き刃でやるのもかえって危ないかもって思うけど、鍋で頑張られるよりはいいと思うから……」
苦笑を返すしかない、それはおっしゃる通り。
しかしトッティの言い分はどうも謙遜が大きかったらしく、指導はとてもわかりやすい。
僕みたいな体育の成績がいまいちの、才能がないと思われるタイプでも、グングン腕前が上がっていく気がする。いや、まあ慢心は禁物なんだけど。
「そういえばさ、魔法ってどうやって使うの?」
ふと初歩的な疑問にたどり着いて、尋ねてみた。
異世界だし、魔法、ひょっとして僕にも使えたりとか……。
「使えないわよ」
「えっ」
「魔法って明確な祝福なの。使える人と使えない人が決まっていて、だから魔女とか魔法使いとか呼ばれる者が重宝されているのね」
「なるほどう……」
「だからカイはこの先も使えることはないと思うわ。がっかりしちゃったかしら?」
「いや、なんかむしろ安心したよ」
「そのこころは?」
「人にないすごい力を持ったらちょっと変になっちゃいそうだし。トッティみたいに強く正しくいられる感じがしないんだ。善き魔女……て言われる存在になれるとも思えないしね」
素直な所感を答えると、なんでか小突かれた。
彼女を見るとちょっと恥ずかしそうな顔をしている。
「あなたに善き魔女、とか言われるとちょっとその」
「いや事実なんだしさ。誇りに思ってるし、頼りにしてるよ」
「……もう!」
なんでかそっぽを向かれてしまった。
最近なぜか照れているトッティを見ることが多くて、そうなると僕もなぜか照れてしまう。
なんでだろう、不思議だ……。
さて、訓練したらおなかが減る。
おなかが減ったら、今日のごはんを作る時間だ。
とはいえ外は猛吹雪で外出もままならないので、今日はありあわせのもので作る(といってもトッティの家はかなり食材が豊富なのだ)。
今日も寒いのであたたかいスープを煮込むことにしよう。
暖炉にかけておいた大きな鍋に、皮をむいて刻んだ根菜を入れる。
だんだん見なれてきたこれらの野菜の見た目は、元の世界のものに結構近いのもあれば違うのもある。ただ風味はどれもそう変わらず、割と親しみやすい。
にんじん、いも、ゴボウ、玉ねぎ、マンドラゴラ。
今回のもうひとつの主役は、豆だ。
魔女の豆と呼ばれるまあるい豆で、非常にカラフルな色をしている。まるでおもちゃみたいだ。
水に入れて戻しておいたその干し豆も、ざらざらと鍋に投入。
そしてじっくりことこと、よく煮込む。
煮込んでいる間に、黒パンを炙る。今日はバターとプラムのジャムも用意しておく。
飲み物はやっぱりあたたかいお茶と、あつあつのスープがメインだから湯冷ましの水も。
最後にスープの味を整えて。
盛り付けてテーブルの上に並べればできあがりだ。
「さてこんな天気だけど、おなかはしっかり空いてるわね。訓練の賜物だわ」
「じゃ早速」
『いただきます!』
スープの根菜は少しの歯ざわりを残しつつ、しっかり火が通って柔らかい。土と近い野菜ならではの滋味というのだろうか、風味がまたたまらないのだ。
そして魔女の豆。
初めて食べる食材なのだけれど、この味がまた……! なんというのだろう。色によって味が結構違う。甘めの味、辛めの味、ホクホクしていたりプチッとしていたりする食感の違いも楽しくて、いくらでも食べられるような気持ちになる。
「魔女の豆のスープってこの地方ではものすごく人気があるのよ」
「確かにこれはうけあいの味だなあ。全然飽きることがないよ」
「保存性も高いし。今度の旅にも持っていきましょう」
スープにパンを浸しながらトッティが笑う。
そうだ。次は雪原に旅をするんだった。それなら何を作ろうかな……? どんな食材が待っているんだろう。
いつの間にか料理することが楽しみになっている自分がいる。そのこと自体がもうひとつの“祝福”なのかもしれない。
「しろがね雪原には『霜の巨人』がいるはず。そこに行けばまた、更なる手がかりがあるかも」
「『霜の巨人』……なんかいかにも強そうだな。大丈夫かな」
「ええ。話はしっかり通じるはずよ。雪原の冒険はちょっと危険だけどね。あなたも付け焼き刃でも鍋よりはマシな技をみにつけたし、まあなんとかなるんじゃないの?」
「ははは……」
鍋の話、一生言われそうな気がする。
むちゃはしました、自業自得か。
吹雪の夜は更けていく。
次に目指すはしろがね雪原、『霜の巨人』。また不思議な出会いが待っているんだろう。
これから待っているできごとに胸の奥が熱くなる気がしていた。
14
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした
高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!?
これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。
日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる