遺願

波と海を見たな

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唾の行方⑤

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『今日もいい天気ー』
『ホントだね』
『今日は何する?』
『え?天子のしたいことしようよ』
『うーん…奈央はどうしたい?』
『うん、天子に任せるよ』
『…何で?』
『何でって、天子がやりたいことをしてくれたら私は嬉しいし』
『いや、私は奈央に聞いてるんだけど。たまには奈央の意見が聞きたいの』
『どしたの、いつも天子が決めるのに。私は天子のものなんだから、私の意見なんてなくていいじゃん』
『…それ、本気で言ってる?』
『え、うん』
『…はあ』
『え』
『奈央って結局あいつらと同じだよ。私がたまたま助けたからのこのこくっついてきて、ロボットみたいにここにいるだけ』
『え、ご、ごめん。私何か悪いことした…?』
『それだよそれっ。イライラするわぁ。そんなんだからいじめられんだよ。ちょっとは自分で考えろ!』
『まって、行かないで!』

 私と天子が喧嘩したのは後にも先にもその時一度切りだ。
 天子の言うとおり、私は天子の痣を聖痕と捉え、妄信的に付き従っていただけだった。虎の威を借る間抜けな狐。まさにロボット。それも飛びきり間抜けなやつ。結局私はクラスのイジメを見て見ぬふりしていたあの頃と何も変わっていなかった訳だ。
 思い返せば私は天子のことをよく知らない。
 血液型は?好きな食べ物は?そもそもどこに住んでいたの?
 天子が意図的にそういった話題を避けていたのかもしれないけど、友達のはずなのに私はそんなことすら知らないでいたのだ。
 天子に言われたことをして、聞かれたことだけ答えていたのに、勝手に天子から求められてると勘違いして、いつまでも変わらない関係が続くと思ってしまった。
 天子がどんな気持ちで屋上にいて、毎日をどうやって生きていたのか。私は一度でも考えたことがあっただろうか。

 眼下の湿った土を眺める度に、天子が死んだ日のことを鮮明に思い出す。
 屋上での喧嘩別れの後、天子は次の日から学校に来なくなった。
 最初は警戒していた麗愛も天子が現れないのをいいことにまた私をイジメてくるようになったけれど、天子という虎が居なくなったのだからそれも当然のことだ。
 私はまた空を見上げるのが憂鬱になった。教室内での嫌がらせに加え、校舎裏にも毎日呼び出される日々。もちろん私なんかが言い返せるはずもなく、じっと耐えることしかできなかったのは言うまでもない。その選択があんな結果を招くとも知らずに。
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