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生前葬⑥
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最初は身構えていた俺も、会が終わる頃には自然と昔のような距離感に戻っていた。
「そういや、何で今回は来てくれたんだ?」
時生が不思議そうに俺に訊ねる。
「そうそう、私たちも半ば諦めというか、今年も来ないだろうなーって思ってたから」
「こう見えてみんな嬉しいのよ」
「嬉しい?俺のことなんてとっくに忘れられてると思ってたよ。…たまたまだよ、たまたま」
何となく郵便物が気になって、偶然仕事場所も近くて、不思議と行こうという気になった。ただそれだけだ。
「ううん、やっぱり今回は特別ね」
「だなぁ」
そう言って3人は満足げに頷いている。俺なんかにそこまで言ってくれるなんて、なんだか背中がむず痒い。
でも案外悪くないな。
「でもさ、変わらないだろ?この村も」
「変わらなさすぎて怖いよ。記憶の中の景色と全く一緒なんだからさ。これもききゅうさまのお陰なのか?」
「あー、まあね。ききゅうさまは願いを叶えるだけじゃないのよ」
「どう言うこと?」
「記録してくれるの。一番美しい状態を」
「そんで再現してくれるんよなぁ」
「そんな事…」
あるはずがない。小さいが無尽蔵に願いを叶えて、その上時間まで止められるなんてどれだけ万能な土地神なんだ。
だが、村も、学校も、みんなも…年数を感じさせないほど綺麗だった。
かたっ。かたかたかたかたっ。ガタンッ!ドドドドドォォッ!
小さな揺れを感じたかと思うと、遅れて何かが薙ぎ倒されるような轟音が響き、校舎が縦に大きく揺れた。
「うおおおっこれは大きいぞ」
「だ、大丈夫なのかこれ?」
流石に大人になって少しの揺れでは動じなくなっていたが、これだけ大きいと不安になる。村は山に囲まれているだけに、土砂崩れが心配だった。
「はぁ…。せっかくの日なのにサイアク」
「ちょっと外に出てみましょう」
校舎から出ると村の鉄塔が山から崩れてきた土砂により大きく傾いていて、木々の支えで辛うじて浮いている状態だった。鉄塔の周りでは引きちぎれた電線が風に棚引いている。
「あちゃぁ、こりゃ電波もダメだな」
時生がブンブンと意味もなく携帯電話を振り回している。自分の携帯電話を確認すると、はっきりと圏外になっていた。
「嘘でしょ、これいつ復旧するの?しばらく電波なしとか不便すぎ」
ごごごごと地鳴りがして、再び緩い揺れが校舎を襲う。
「おっ…とと。こりゃぁまた来るかもな」
「建物内は危ないね。ききゅうさまの所まで歩きましょう」
3人は地震を物ともせずにスタスタと歩いて校舎を出て行ってしまったので、俺は仕方なく後を追うのだった。
ききゅうさまは村の中心に位置している。
実はそこに何かある訳ではないのだ。お地蔵さまとか祠とか、そういった類で祀られているならまだわかる。
でも、何もない。強いて言うなら、そこは村の中心ということだけ。
「ほぉれ、ここさ、ここに立ちんさい。空を見上げて手を合わせぇ」
祖母は毎日欠かさず俺をお祈りに連れ出したが、残念ながら俺に信心が身につく事は終ぞなかった。
信じていれば自分の人生ももう少し変わっていたのか、今となってはもうわからない。
「そういや、何で今回は来てくれたんだ?」
時生が不思議そうに俺に訊ねる。
「そうそう、私たちも半ば諦めというか、今年も来ないだろうなーって思ってたから」
「こう見えてみんな嬉しいのよ」
「嬉しい?俺のことなんてとっくに忘れられてると思ってたよ。…たまたまだよ、たまたま」
何となく郵便物が気になって、偶然仕事場所も近くて、不思議と行こうという気になった。ただそれだけだ。
「ううん、やっぱり今回は特別ね」
「だなぁ」
そう言って3人は満足げに頷いている。俺なんかにそこまで言ってくれるなんて、なんだか背中がむず痒い。
でも案外悪くないな。
「でもさ、変わらないだろ?この村も」
「変わらなさすぎて怖いよ。記憶の中の景色と全く一緒なんだからさ。これもききゅうさまのお陰なのか?」
「あー、まあね。ききゅうさまは願いを叶えるだけじゃないのよ」
「どう言うこと?」
「記録してくれるの。一番美しい状態を」
「そんで再現してくれるんよなぁ」
「そんな事…」
あるはずがない。小さいが無尽蔵に願いを叶えて、その上時間まで止められるなんてどれだけ万能な土地神なんだ。
だが、村も、学校も、みんなも…年数を感じさせないほど綺麗だった。
かたっ。かたかたかたかたっ。ガタンッ!ドドドドドォォッ!
小さな揺れを感じたかと思うと、遅れて何かが薙ぎ倒されるような轟音が響き、校舎が縦に大きく揺れた。
「うおおおっこれは大きいぞ」
「だ、大丈夫なのかこれ?」
流石に大人になって少しの揺れでは動じなくなっていたが、これだけ大きいと不安になる。村は山に囲まれているだけに、土砂崩れが心配だった。
「はぁ…。せっかくの日なのにサイアク」
「ちょっと外に出てみましょう」
校舎から出ると村の鉄塔が山から崩れてきた土砂により大きく傾いていて、木々の支えで辛うじて浮いている状態だった。鉄塔の周りでは引きちぎれた電線が風に棚引いている。
「あちゃぁ、こりゃ電波もダメだな」
時生がブンブンと意味もなく携帯電話を振り回している。自分の携帯電話を確認すると、はっきりと圏外になっていた。
「嘘でしょ、これいつ復旧するの?しばらく電波なしとか不便すぎ」
ごごごごと地鳴りがして、再び緩い揺れが校舎を襲う。
「おっ…とと。こりゃぁまた来るかもな」
「建物内は危ないね。ききゅうさまの所まで歩きましょう」
3人は地震を物ともせずにスタスタと歩いて校舎を出て行ってしまったので、俺は仕方なく後を追うのだった。
ききゅうさまは村の中心に位置している。
実はそこに何かある訳ではないのだ。お地蔵さまとか祠とか、そういった類で祀られているならまだわかる。
でも、何もない。強いて言うなら、そこは村の中心ということだけ。
「ほぉれ、ここさ、ここに立ちんさい。空を見上げて手を合わせぇ」
祖母は毎日欠かさず俺をお祈りに連れ出したが、残念ながら俺に信心が身につく事は終ぞなかった。
信じていれば自分の人生ももう少し変わっていたのか、今となってはもうわからない。
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