遺願

波と海を見たな

文字の大きさ
上 下
3 / 20

生前葬①

しおりを挟む
 ある日、一通の葉書が家に届いた。俺宛に郵便が届くのも珍しかったが、なんと同窓会の案内状だ。
「嘘だろ、何で俺の居場所がわかったんだ?」
 懐かしいとか、あの頃に戻りたいとか、誰が来るとか来ないとか。同窓会と聞いて大抵の人間が抱くであろう感情を、俺は全く持ち合わせていなかった。
 中学を卒業後、生まれ育った村を出た俺は高校も行かずに日雇いのアルバイトで食いつなぎ、出稼ぎで全国を転々としてきた。
 付き合いのある友人はおらず、今も健康保険に入ってないし、住民票だって随分昔に変えたきりほったらかしだ。住所不定だろうとその気になれば住む場所も仕事も案外見つけられるものだ。
 世間的に俺は死んだ人間と変わらない。
 なのに。
 相変わらず気味が悪い村だ。
 不可能にみえることでも平然とやってのける。
 改めて葉書を見ると、日時と場所のほかは参加・不参加に丸を付けるだけの簡素なもので、文章も定型文で全て印字されたものだった。
 差出人は幹事の御所礼香ごしょあやかとなっている。顔はもう朧気にしか思いだせなかったが、確か学級委員長で、当時からお堅い性格だったのを何となく覚えている。
「さて、どうするか…」
 正直なところあまり気乗りはしなかった。確かに家庭の事情で村に数年間は住んでいたが、それだけだ。村に特段仲の良かった友人がいたわけでもなく、むしろ馴染めなかったと言った方がいいかもしれない。別に生まれ故郷という訳でもないから、村を出てからこれまで一度も立ち寄っていなかった。
 開催日は2日後になっていた。
 随分急だなと思ったが、葉書に押された消印は擦れて潰れていて、いつ届いたものか判然としない。俺が気付かなかっただけで、ずっとポストに入っていたのかもしれない。
 偶然にも、明日から仕事で本州に行く事になっていた。
 深夜から朝にかけての仕事だ。
 どういう訳か開催時間が午後2時なのもあって、調べると社員寮からバスを乗り継げば何とか往復出来そうなスケジュールだった。 
 これは本当に偶然なのか、それとも…。
 しばらく机の上に置かれた葉書と睨めっこを続けていたが、俺は覚悟を決めて重い腰を上げた。
「行ってみるか」
 こんな機会はきっともう二度と訪れない。あれだけ年月が経ったのだ。あの村も、住人達も、それなりに変わっているに違いない。
 もう今から返送しても間に合わないな。
 会社から支給された携帯電話は持っていたが、葉書には連絡先までは載っていなかった。
 駄目で元々だ。
 当日参加が無理だったとしても、仕事のついでに寄ったと言ってすぐ帰ればいい。
 俺は参加の文字を鉛筆で粗く囲むと、使い古したリュックサックの横ポケットに突っ込んで明日に備えて早めの眠りについたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

ショートホラーストーリー「帰宅途中に」

『むらさき』
ホラー
短い短編です。帰宅途中などに読んでもらうと幸いです。

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

【短編集】エア・ポケット・ゾーン!

ジャン・幸田
ホラー
 いままで小生が投稿した作品のうち、短編を連作にしたものです。  長編で書きたい構想による備忘録的なものです。  ホラーテイストの作品が多いですが、どちらかといえば小生の嗜好が反映されています。  どちらかといえば読者を選ぶかもしれません。

【完結】本当にあった怖い話 コマラセラレタ

駒良瀬 洋
ホラー
ガチなやつ。私の体験した「本当にあった怖い話」を短編集形式にしたものです。幽霊や呪いの類ではなく、トラブル集みたいなものです。ヌルい目で見守ってください。人が死んだり怖い目にあったり、時には害虫も出てきますので、苦手な方は各話のタイトルでご判断をば。 ---書籍化のため本編の公開を終了いたしました---

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

闇に蠢く

野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
 関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。  響紀は女の手にかかり、命を落とす。  さらに奈央も狙われて…… イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様 ※無断転載等不可

処理中です...