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筌ノ口温泉行
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河原に降りると、ボクは大きな平たい石を探した。同時に薪になりそうなモロモロも集めた。ちょっと厚めだがイイ感じの石を見つけると、それを中心に焚き火を始めた。着火には100円ライターを使う。
今は午前10時、昼過ぎには石も焼けるだろう。持ってきた振り分け式のサドルバックから、オートミール、小さな容器に入れた調味料、小さなフライパン、釣り道具を出した。もっとも釣竿はないのだけれど。
ボクは立派なキャンプ道具も、釣り竿も持ってない。1泊するときもポンチョで済ますぐらいだ。色々、取り揃えている人がほんとんだけど、全く興味がないのだ。まあ貧乏なせいもあるけどね。
河原で適当な竹を見つけると、ボクはそれを竿にして釣りを始めた。両側がコンクリートの用水路、人家の脇の小川、そんなところでも、意外にうまい魚はいるもんだ。特にここは、以前釣り堀がすぐ近くにあったので、まあ確率は高いかな。
時々薪を追加しながら2時間ほど釣っていると、ニジマスとエノハが釣れた。これで十分だ。石もいい感じに焼けている。鱗を入念に取る。エノハは2枚にニジマスは3枚に下ろした。皮目を下にして、石の上に何とか魚を並べると、縁に沿って味噌を盛る。少し焦げるまで焼いて、裏返してまた焼く、皮と身が石にこびりつく。淡水魚だから、皮目は特によく火を通す。
こびり付いたところを、こそげ落として食べるのもまたいい。
フライパンには、オートミールと塩昆布と水。グラグラ煮立てて完成。後は39円で買って来たペットボトルのお茶を常温で。
フォークとスプーンはコンビニの。魚は石から直にとる。なんちゃってリゾットもフライパンからそのまま。
「んー美味い。」最高のランチだ。欲を言えば、魚と一緒に何かしらの野菜も焼きたいところ。が、買うとなるとそれは贅沢というもんだ。季節によっては山菜なんかも見つかるけど、迂闊に採っちゃうと怒られたりするもんね。
今朝は3時頃家を出た。外はまだ真っ暗だった。250の古い古い単気筒の単車でトコトコノロノロ、筌ノ口温泉までやって来た。
日帰りツーリングなのである。温泉入って、昼飯作って、食べる。ただそれだけ。
こいつは恐ろしく燃費が良い。ちゃんと計算したことはないが35㎞は行くんじゃないかな、と。
くねくね道ではその本領をいかんなく発揮する。壁湯辺りから、ここまで上がってくるのは実に面白い。こいつのヒラヒラ感はすばらしい。後輪の滑り出しが非常に体感しやすい上に立て直しも簡単。ショートツーリングには最適なのだ。
到着して直ぐボクは共同浴場に入った。広い湯船に紅い湯、鉄分を多く含むんだそうだ。かけ流しの湯は、湯船からどんどん溢れ出る。背中はちょっと痛いけど、溢れ出る湯の中、洗い場でゴロゴロするのがお気に入り。
すばらしい雰囲気の温泉である。もうもうと湯気の上がる高い天井、石造りの床、歴史しか感じない古い浴槽。湯口もなにがなんだか解らない造形になってしまっている。
かの川端康成先生もここの温泉が好きだったとか。温泉宿に風呂があるのかボクは知らないので、どこで入浴されたかは分からないけど。
「オートミールはあわないかな。」と思っていたが、意外にいいもんだった。魚は頭から骨まで食べつくしたが内臓はさすがにちょっと。縁に盛った味噌が溶け出し身と混じりあう。残った焦げた味噌も香ばしい。次回は泊まりキャンプで米飯といきたい。
今日は日帰りなので、焚火の始末をして撤収です。「最後にもう一風呂浴びて帰りましょうか。」
昼も過ぎると初夏の日差しは結構強い。受付には今度は、ばあちゃんが座っている。料金を手渡した。「ゆっくりしていってね。」「どうも。」本日最初のコミュニケーションだ。ここは朝早くとか、深夜とかは無人なのよね。
じんわり汗をかいた体に熱い湯は心地よい。天窓からの日差しが湯気にあたり、赤い風呂場が霞んでいる。2回目はサッと上がるつもりなので、ものの10分で脱衣所へ向かう。
「ブチャブチャブチャ」ありゃーハーレーさんのサウンドが聞こえてきた。建屋の中まで聞こえる重低音。ソロの様だ。「ちょこっと挨拶して帰ろうかね。」そそくさと着替えて外へ出た。だって中で会ってワガママボディ見られたくありませんから。
「うっわーツナギだ!それもブラック!しかも女性!近頃は女性の大型乗りも増えましたが、カッコイイナー!XL1200S、確かボクの単車の2倍は重いはず。取り回し大変そうだナ。」
経験上、こういう単車乗りの方は、何処へ行ってもチヤホヤされますので、こんなオヤジが馴れ馴れしくしてはいけません。
「こんにちはー。」ボクは愛車の元へ行き、サドルバックを取り付ける。チラと彼女の方を見ると、つま先つんつんで方向転換。うーん。見なかったことにして、S80被って、グローブ着けて、キックペダルを踏み下ろした。
ミラーでコソッと観察。あれーまだつんつんしてますな。一応コンクリート打ちの駐車場なんだけど。砂利が浮いててズルッといくのね。こういう所は結構危ない。
軽い車体を活かしてクルッとアクセルターンを決めて、ノコノコ近づく。「だいじょーぶ?」できるだけフレンドリーに。
スモークシールドを下ろしたままなので、視線が読めない。返事はあったような無いような。
ボクはサイドスタンドを出して愛車の傍らに立った。案の定「ダビ子さん」はズルッといった。
ボクも紳士の端くれですから手伝いましたよ。
・・・小さな声で「ありがとうございます。」若い娘の声だった。ちょっと意外な感じがした。
「やはり華奢な女の子にハーレーを起こすのは大変なんだろうな。」XLは軽いほうだとは思うのだが。
ボクの黒ツナギの女性のイメージは、「ふーじこちゃん」なので、勝手に違和感ありマス。
「上から下まで、お金掛かってますな。」色々話してみたい気がしたけど、ボクとは違う世界のヒトなので、ここらで退散します。
「良い旅を!」愛車に跨ると、かっこつけて、右手をちょっと上げてボクは帰路に就いた。なんか片岡先生の小説みたい。
さて、本家山賊焼きでも買って帰りましょうか。
おわり
今は午前10時、昼過ぎには石も焼けるだろう。持ってきた振り分け式のサドルバックから、オートミール、小さな容器に入れた調味料、小さなフライパン、釣り道具を出した。もっとも釣竿はないのだけれど。
ボクは立派なキャンプ道具も、釣り竿も持ってない。1泊するときもポンチョで済ますぐらいだ。色々、取り揃えている人がほんとんだけど、全く興味がないのだ。まあ貧乏なせいもあるけどね。
河原で適当な竹を見つけると、ボクはそれを竿にして釣りを始めた。両側がコンクリートの用水路、人家の脇の小川、そんなところでも、意外にうまい魚はいるもんだ。特にここは、以前釣り堀がすぐ近くにあったので、まあ確率は高いかな。
時々薪を追加しながら2時間ほど釣っていると、ニジマスとエノハが釣れた。これで十分だ。石もいい感じに焼けている。鱗を入念に取る。エノハは2枚にニジマスは3枚に下ろした。皮目を下にして、石の上に何とか魚を並べると、縁に沿って味噌を盛る。少し焦げるまで焼いて、裏返してまた焼く、皮と身が石にこびりつく。淡水魚だから、皮目は特によく火を通す。
こびり付いたところを、こそげ落として食べるのもまたいい。
フライパンには、オートミールと塩昆布と水。グラグラ煮立てて完成。後は39円で買って来たペットボトルのお茶を常温で。
フォークとスプーンはコンビニの。魚は石から直にとる。なんちゃってリゾットもフライパンからそのまま。
「んー美味い。」最高のランチだ。欲を言えば、魚と一緒に何かしらの野菜も焼きたいところ。が、買うとなるとそれは贅沢というもんだ。季節によっては山菜なんかも見つかるけど、迂闊に採っちゃうと怒られたりするもんね。
今朝は3時頃家を出た。外はまだ真っ暗だった。250の古い古い単気筒の単車でトコトコノロノロ、筌ノ口温泉までやって来た。
日帰りツーリングなのである。温泉入って、昼飯作って、食べる。ただそれだけ。
こいつは恐ろしく燃費が良い。ちゃんと計算したことはないが35㎞は行くんじゃないかな、と。
くねくね道ではその本領をいかんなく発揮する。壁湯辺りから、ここまで上がってくるのは実に面白い。こいつのヒラヒラ感はすばらしい。後輪の滑り出しが非常に体感しやすい上に立て直しも簡単。ショートツーリングには最適なのだ。
到着して直ぐボクは共同浴場に入った。広い湯船に紅い湯、鉄分を多く含むんだそうだ。かけ流しの湯は、湯船からどんどん溢れ出る。背中はちょっと痛いけど、溢れ出る湯の中、洗い場でゴロゴロするのがお気に入り。
すばらしい雰囲気の温泉である。もうもうと湯気の上がる高い天井、石造りの床、歴史しか感じない古い浴槽。湯口もなにがなんだか解らない造形になってしまっている。
かの川端康成先生もここの温泉が好きだったとか。温泉宿に風呂があるのかボクは知らないので、どこで入浴されたかは分からないけど。
「オートミールはあわないかな。」と思っていたが、意外にいいもんだった。魚は頭から骨まで食べつくしたが内臓はさすがにちょっと。縁に盛った味噌が溶け出し身と混じりあう。残った焦げた味噌も香ばしい。次回は泊まりキャンプで米飯といきたい。
今日は日帰りなので、焚火の始末をして撤収です。「最後にもう一風呂浴びて帰りましょうか。」
昼も過ぎると初夏の日差しは結構強い。受付には今度は、ばあちゃんが座っている。料金を手渡した。「ゆっくりしていってね。」「どうも。」本日最初のコミュニケーションだ。ここは朝早くとか、深夜とかは無人なのよね。
じんわり汗をかいた体に熱い湯は心地よい。天窓からの日差しが湯気にあたり、赤い風呂場が霞んでいる。2回目はサッと上がるつもりなので、ものの10分で脱衣所へ向かう。
「ブチャブチャブチャ」ありゃーハーレーさんのサウンドが聞こえてきた。建屋の中まで聞こえる重低音。ソロの様だ。「ちょこっと挨拶して帰ろうかね。」そそくさと着替えて外へ出た。だって中で会ってワガママボディ見られたくありませんから。
「うっわーツナギだ!それもブラック!しかも女性!近頃は女性の大型乗りも増えましたが、カッコイイナー!XL1200S、確かボクの単車の2倍は重いはず。取り回し大変そうだナ。」
経験上、こういう単車乗りの方は、何処へ行ってもチヤホヤされますので、こんなオヤジが馴れ馴れしくしてはいけません。
「こんにちはー。」ボクは愛車の元へ行き、サドルバックを取り付ける。チラと彼女の方を見ると、つま先つんつんで方向転換。うーん。見なかったことにして、S80被って、グローブ着けて、キックペダルを踏み下ろした。
ミラーでコソッと観察。あれーまだつんつんしてますな。一応コンクリート打ちの駐車場なんだけど。砂利が浮いててズルッといくのね。こういう所は結構危ない。
軽い車体を活かしてクルッとアクセルターンを決めて、ノコノコ近づく。「だいじょーぶ?」できるだけフレンドリーに。
スモークシールドを下ろしたままなので、視線が読めない。返事はあったような無いような。
ボクはサイドスタンドを出して愛車の傍らに立った。案の定「ダビ子さん」はズルッといった。
ボクも紳士の端くれですから手伝いましたよ。
・・・小さな声で「ありがとうございます。」若い娘の声だった。ちょっと意外な感じがした。
「やはり華奢な女の子にハーレーを起こすのは大変なんだろうな。」XLは軽いほうだとは思うのだが。
ボクの黒ツナギの女性のイメージは、「ふーじこちゃん」なので、勝手に違和感ありマス。
「上から下まで、お金掛かってますな。」色々話してみたい気がしたけど、ボクとは違う世界のヒトなので、ここらで退散します。
「良い旅を!」愛車に跨ると、かっこつけて、右手をちょっと上げてボクは帰路に就いた。なんか片岡先生の小説みたい。
さて、本家山賊焼きでも買って帰りましょうか。
おわり
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