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第一章 最強のお兄ちゃんが誕生するまで

良い子すぎる(side.ユナカ)

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「ねえ、あなた。」

私は息子のカイヤを抱きながら、隣にいる夫へと話しかけた。

「なんだ?」

「コハクくんって、神童よね?」

「・・・・確かに、帝都の子どもと比べても賢いだろうな。」

「あら?何か心配でもあるの?」

珍しく歯切れの悪い夫は「別に賢い分には良いんだがなあ・・・・」と僅かに顔をしかめて言った。

「良い子すぎねえか?」

「そうねえ、確かに良い子すぎるわね・・・・」

「俺がまだ帝都にいた頃に、同じように神童扱いされていた子どもがいたが、生意気だったぞ。」

「セレスタイン様のこと?」

私は現皇帝のセレスタイン・モルダバイト様を真っ先に思い浮かべた。あの頃は、夫も私も帝都で仕事をしていたから、セレスタイン様の幼少期はよく知っている。

「昔は頭でっかちで生意気なクソガキ程度にしか思っていなかったが、神童なんて言われてもただの子どもだったんだな、と親になった今なら分かる。特にコハクを見てると尚更な。」

「帝都だったら、今頃あなた不敬罪よ。」

そうね、確かにコハクくんは夫の言う通り、少し良い子すぎるかもしれない。ヒスイちゃんを抱いたコハクくんは、食堂にある鉱物を指差しては「ヒスイはね、この鉱物と同じ色の瞳をしているんだよ。紫翡翠は魔除けの力があるんだって。だからヒスイは病気や怪我もきっとしないね。だってさ、タツノキミに乗せてもらった時も、僕は少し怪我しちゃったけど、ヒスイはどこも怪我をしなかったでしょう?それからね、ヒスイの髪の色は黒曜石の色と同じだね。黒曜石は天然のガラスなんだよ。天然のガラスって言うのはね・・・・」と健気に説明をしている姿を、私は微笑ましく思いながら二階へと上がったばかりだった。

「あなたがコハクくんと同じ頃はどんな少年だったの?」

「村の悪ガキ連中と一緒にイタズラしては親父に怒られてたな。」

「コハクくん、なかなか外には出てくれないわよね。」

「ヒスイのことが心配なんだろうが、あそこまでいくとコハクの方が心配なんだよなあ・・・・」

夫は既に何度かコハクくんを村の人たちに紹介しようと外へと一緒に行こうとしたが、どれも直前になって断られてしまったらしい。「お店が再開した時でも良いかなあ?」と不安に揺れる瞳を見たら、とんでもじゃないが連れて行くことはできなかったと言っていた。そう言えば・・・・

「コハクくんとヒスイちゃんに仕立てた衣類がそろそろ出来上がる頃ね。・・・・それに、冬も明けて完全に春が来る頃ね・・・・」

「ユナカ!その手があったな!」

夫はでかしたとばかりに手を打った。そう、この村では、春が来ると盛大な春祭りが催される。

「コハクくんは良い子だから、きっと自分たちの衣類ができたと聞けば、自分で取りに行こうとするわよね?」

「取りに行く頃を春祭りと合わせれば、少しは気晴らしになるかもしれないな!」

「そのついでに、あなたが村のことも教えてあげたら良いんじゃないかしら?こうやって、この家の中で知識を蓄えるのも必要だけれど、それでは本当の世間も知れないでしょう?」

「コハクのいた北方の村人とは気質も大きく異なるだろうし、良い機会になるかもしれないな!」

夫はそうと決まればと春祭りの屋台に目星をつけ始めていた。

「カイヤ、あなたも一年後には父さんと母さんとコハク兄さんとヒスイちゃんと、皆んなで一緒にお祭りに行けますからね。」

私は、最近益々髪の色や目鼻立ちが夫と似てきた息子に話しかけた。息子はくわっと欠伸をして、再びぐっすりと眠ってしまった。今頃、食堂にいるヒスイちゃんも、コハクくんの腕に抱かれて眠っているのかしら?

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