燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

文字の大きさ
上 下
75 / 82
第二章

背中の燦爛 2

しおりを挟む
 痛くて、熱くて、苦しくて・・・・
けれども、すごく安心できる香りに包まれて。透はずっと「先生」って譫言みたいに呼んでいた。そしたらきゅっと手を握って「透」と甘い声で返してくれる。それが、泣いてしまうほど嬉しかった。

 頭の先から爪先まで、沢山のキスを降り注いでくれる。一色の唇に触れられた所から身体がじわじわと熱を持っていくようだった。自分の心臓は破裂してしまうんじゃないかな。呼吸の仕方さえ忘れてしまった。

「せんせ、せんせい・・・・」

「透、大丈夫。ここにいる。」

 必死に一色にしがみつこうとする自分を、寂しいのだと思った彼がしっかりと抱きしめてくれた。本当はただくっついていたかっただけなんだけれども、やっぱり透の心は満たされてしまうのだ。

「せんせい、ぼくを、つがいにしてくれる・・・・?」

 その瞬間、一色は少し複雑そうな顔をした。


 どうして?僕のこと好きじゃないの?


そんな考えが頭を過った刹那、自分が顔も知らない男に身体を暴かれた光景が目の前に鮮明に広がる。


 ああっ!・・・・そうだ、僕は、僕は・・・・!!!


「ごめんなさい、ごめんなさい!ごめん・・・・許して・・・・」

 高潔な彼の前で、自分の身体を見せることが急に恥ずかしくなった。


 消えたい


「みないで、おねがい、みないで、みないで・・・・」

透は頭を抱えて丸まった。そうすれば視覚も聴覚も全て遮断できると思ったからだ。大好きな彼の声もこれで聞こえない。その事がとても悲しくて、また、泣いた。

 そっと暖かな体温が自分の背中を柔らかく撫でた。その気持ちよさから、ほぉっと息を吐く。そして、甘く香る芍薬、これは一色の匂い。彼の香りに包まれてゆくと優しい毛布でくるまれている心地になる。

「透。ごめん、おまえを不安にさせた。」

耳元で一色が小さな声で言った。透は後ろから一色に抱き込まれている形だから、彼がどんな表情を浮かべているのか分からなかった。でも、なんだかとっても悲しそうな声だった。

「・・・・ううん。せんせいは、悪く、ないよ。僕の身体、ううん、ぼくね、きたないの・・・・もうっ!、もう、きれいじゃないっ・・・・!」

 一色が謝るのも、自分の所為で、自分が汚くなったのも、全部に腹が立って、なのに悲しくて、透は泣き叫んだ。わんわん声をあげて泣いた。自分自身の全てが許せなかった。

「透、透、おまえは綺麗だよ。」

「う、うそだ!!嫌な顔した、でしょ!」

「違うんだ、それは「いやだ!聞きたくない!」

透は怖くなって一色の言葉を遮った。

 すると、どんと視界がまわって透は仰向けにさせられた。一色が上から覆い被さる。怖いと思ったのも束の間、きつくきつく一色に抱きしめられていた。

「聞いてくれ。おまえを番にしたい、と俺から言いたかったんだ。なのに、酷い目にあって、その上ヒートでつらそうなおまえに、番のことまで言わせてしまった。・・・・俺は不甲斐ない男だよ。」

「そんなこと・・・・」

一色は困ったように微笑んだ。

「なあ、透。話を聞いてくれるか?」

「・・・・うん」

肯けば、「いい子だ」と言って一色は透の頭を撫でてくれた。それから、透の目をじっと見つめて微笑んでくれた。その笑顔に自分の心の冷たく固まってしまった部分が僅かに溶けていく。

「透、俺をおまえの番にして欲しい。運命なんて関係ない。俺はおまえが欲しいよ。例え、運命じゃなかったとしても、俺はおまえと必ず出会って、おまえと番になりたいと思った。」


「先生、これまでの僕を、許して・・・・」

 自分は彼の愛を受け入れるために、過去の自分を許して欲しかった。すんなりと出てきた言葉だった。

「許すもなにも・・・・」

彼は優しいから、そんな風に言ってくれるけれども、透は首を横に振った。


 僕は、許してもらいたい。


「先生・・・・」

彼の左頬をするりと撫でる。一色はその手を取って握りしめてくれた。それは、きっと全部分かってくれた証。

「ああ、許すよ。だから、透もこれまでの自分を許してあげて。」

ぱたぱたと涙が溢れて止まらなくなった。透は何度も肯いた。

◇◇◇

「・・・・んっ、あ、あぁ、あ、せん、せ、んぅ・・・・」

 どろどろにヒートの熱に溶かされながら、透は一色の大きなペニスを根元まで迎え入れることができた。透の身体に負担がかからない緩やかな抱き方をしてくれる一色は、本当はつらいはずだ。

「いい、んだよ、もっと、はげしくして、も・・・・」

「俺はおまえを甘やかしたいんだよ。」

「そっ、なの・・・・?ふふっ、うれし、っあ、あん!」

前立腺を掠めただけの刺激で透は達してしまった。

「かわいいよ、透。」

「ふっ、う、あぁ、あっ、きもちい、せんせ、もっと、もっとして・・・・あうっ!!!」

ズンと奥に響く今までと異なった衝撃。思わず一色の背中に爪を立ててしまった。

「ごめん、透が煽るから・・・・」

一色は透にとってよく分からない謝罪を述べると、律動をやめて奥の奥にペニスの先端を押し付けるように腰をゆっくりとまわした。徐々に一色のペニスの根元が膨らんでいき、透の中にみっちり収まった。透は一色に向かい合わせで抱かれているから、結合が深くなるたびに一色にきつく抱きついた。

「ああ、あっ、も、イく、イっちゃう・・・・ぁは、ああっ・・・・!!!」

 液体になった精液を出すと身体は弛緩してゆく。一色はそんな状態の透を支えて僅かに顔を横に背けさせる。そして、あらわになった頸に舌を這わす。その生暖かい感触にぞくぞくしてしまう。

「噛むぞ」

「うん、うん、噛んで!」

必死になって応えれば、刺さるような痛みと大きすぎる快感が一斉に押し寄せてきた。自分の身体を見失いそうになる程の快楽の波と、経験したことのない程の充足感に満たされて、透の意識は途絶えた。


 それでも、最後まで香った芍薬の花、先生の香り。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

処理中です...