燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第五章

優しい腕の中で

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「嘉月先生!」

「せ、かい・・・・?」

「・・・・っ」

 隆文から電話が来て、青木が慌てて向かえば、嘉月は広いベッドの上で身体を小さく丸めていた。半年近く見ない間に更に細くなってしまった身体で、荒い呼吸をしている姿は痛々しかった。それでも、青木が近づくと、ゆっくりと仰向けになって自分の方へと手を伸ばしてくる。

「すこし、つかれてる・・・・?」

「だって、あなたが倒れたって!」

「しごと、は?」

「そんなのどうでもいい!あなたが優先です!」

 自分の方が大変なくせに、青木の心配をする彼に少しだけ大きな声を出してしまった。それでも熱に浮かされて、ぼんやりとしている彼は、そのまま青木の頭を抱え込んで小さく抱きついてきた。

「・・・・あのね」

「はい」

「・・・・ぎゅって、して」

「はい」

 ヒートのせいか、少し口調が幼くなった彼に、触れてもいい許可がもらえた。力を加えれば、すぐに折れてしまいそうな彼の身体を優しく抱きしめると、嘉月は青木の腕の中で小さく息を吐く。

「うれしい、ヒート、いつも、ひとりだったから」

「・・・・」

 恐ろしいほど熱い身体で悲しいことを言う彼に、抱きしめる力が自然と強くなってしまう。

「たかふみも、だめだったのに、なんで、せかいは、へいきなんだろう?」

 さりげなく下の名前で呼ばれて、胸が異常に高まってしまう。

「それは、俺にも分からないです。」

「・・・・わから、ないの?」

「ええ。でも、俺は嬉しいですよ。」

「・・・・うれしいの?」

「ええ。あなたに、受け入れてもらえた気がして。」

 青木の肩口に、顔をこてんと乗せた彼の髪を優しく撫でれば、腕の中で小さな身体が身動ぎ、ぱっと顔を上げた。

「うん・・・・けいね、せかいのこと、すき・・・・」

「・・・・!!」

 自身のことを京と呼び、あどけない口調で投下された告白は、凄まじい破壊力を持って見事に青木の心にクリーンヒットした。

「せかいは・・・・?けいのこと、すき・・・・?」

 ぐりぐりと再び肩口に顔を埋めた彼は、今にも消えそうな声音で聞いてくる。なんだこの可愛い生き物は?これまでの彼はどこに行った?

「好きに決まってるじゃないですか!」

「うれしい・・・・だれにも、いわれたこと、なかった、から」

 けれども、やっぱり彼は悲しことを言った。
青木は嘉月の両頬を手のひらで包んで、その小さな顔を上げさせる。そして、彼の色素の薄い綺麗な瞳を見つめて告げた。

「嘉月先生。俺は、あなたのことを愛しています。
今も、これから先も。」

 途端に彼の瞳から、ほろりと雫が落ちた。

「うれしい、ゆめ、かなぁ・・・・?」

「現実です。勝手に夢にしないでください。」

「ほっぺ、つねって」

「信じられないんですか?」

 今日はずっと可愛いことを言う彼に、思わず笑ってしまう。笑った青木に、嘉月はつねろうとしていた頬をぷっくりと膨らませて、怒ったような仕草をする。

「だって、こんなに、しあわせなの、はじめて」

 声音も怒ったようにしていたが、可愛いことに変わりはない。だからか少しだけ意地悪をしたくなって、ヒートで感じやすくなっているであろう耳元でわざと青木は囁いた。

「これからは、ずっと幸せですよ。」

「ずっと?」

 予想通り、身体を震わせた彼の瞳は潤んでいたが、確かに青木を映していた。

「はい。俺が、あなたを不幸になんてさせません。」

「ほんと?」

「本当です。一生の、約束です。」

◇◇◇

「ハァ・・・・からだ、あつい」

 絶え間なく襲ってくるヒートの熱に、弱音を吐いてしまう。しかしそれも、そんな自分を受け止めてくれる相手が、すぐ傍にいるからだ。

「しんどいですか?」

「ちょっと、だけ・・・・」

 それに、さっきよりかは思考が戻って来た気がする。その証拠に、優しい成界の声がクリアに聞こえた。

「触れても、いいですか?」

「ん、いいよ」

 ひんやりとした彼の手が、気持ち良い。

「キスは?しても?」

あ、キスもしたい。でも、それはちょっと不安かも。

「いい、けど、したら、もっとしたくなっちゃう」

 腹を括って正直に言えば、成界が自分を抱きしめる力を強くした。そしてまた、低い声で優しく囁かれる。

「もっと、してもいいですか?」

「だめ、だって、ここ、たかふみのじっか・・・・」

「俺の家なら、してもいいってことですか?」

「・・・・それなら、いいよ」

うん、それなら遠慮とかしなくていいよね。声とか。色々。

「嘉月先生。よく見て。」

「・・・・へっ?・・・・あれ?」

 成界に促されて見上げた天井は、隆文の実家とは違った。少しだけ、狭い気がした。もちろん、住む分には充分なのだけれども。

「ここ、俺の家です。」

「あ・・・・いつのまに?」

「やっと、目を覚ましたから。」

「いっぱい、ねてた・・・・?」

「ううん。少しだけです。でも、俺の家に連れてくるのには充分でした。」

「そっかぁ・・・・」

(うわ、かなり恥ずかしいかも。寝てる間に抱っこされて、ここまで来ちゃったんだ。)

「嘉月先生、続きをしても?」

「うん、いいよ、おれも、したい・・・・」

「・・・・っ」

 おずおずと応えれば、成界の息をのむような音が聞こえた。次の瞬間には、嘉月は成界の匂いいっぱいに包まれていた。

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