52 / 82
第五章
優しい腕の中で
しおりを挟む
「嘉月先生!」
「せ、かい・・・・?」
「・・・・っ」
隆文から電話が来て、青木が慌てて向かえば、嘉月は広いベッドの上で身体を小さく丸めていた。半年近く見ない間に更に細くなってしまった身体で、荒い呼吸をしている姿は痛々しかった。それでも、青木が近づくと、ゆっくりと仰向けになって自分の方へと手を伸ばしてくる。
「すこし、つかれてる・・・・?」
「だって、あなたが倒れたって!」
「しごと、は?」
「そんなのどうでもいい!あなたが優先です!」
自分の方が大変なくせに、青木の心配をする彼に少しだけ大きな声を出してしまった。それでも熱に浮かされて、ぼんやりとしている彼は、そのまま青木の頭を抱え込んで小さく抱きついてきた。
「・・・・あのね」
「はい」
「・・・・ぎゅって、して」
「はい」
ヒートのせいか、少し口調が幼くなった彼に、触れてもいい許可がもらえた。力を加えれば、すぐに折れてしまいそうな彼の身体を優しく抱きしめると、嘉月は青木の腕の中で小さく息を吐く。
「うれしい、ヒート、いつも、ひとりだったから」
「・・・・」
恐ろしいほど熱い身体で悲しいことを言う彼に、抱きしめる力が自然と強くなってしまう。
「たかふみも、だめだったのに、なんで、せかいは、へいきなんだろう?」
さりげなく下の名前で呼ばれて、胸が異常に高まってしまう。
「それは、俺にも分からないです。」
「・・・・わから、ないの?」
「ええ。でも、俺は嬉しいですよ。」
「・・・・うれしいの?」
「ええ。あなたに、受け入れてもらえた気がして。」
青木の肩口に、顔をこてんと乗せた彼の髪を優しく撫でれば、腕の中で小さな身体が身動ぎ、ぱっと顔を上げた。
「うん・・・・けいね、せかいのこと、すき・・・・」
「・・・・!!」
自身のことを京と呼び、あどけない口調で投下された告白は、凄まじい破壊力を持って見事に青木の心にクリーンヒットした。
「せかいは・・・・?けいのこと、すき・・・・?」
ぐりぐりと再び肩口に顔を埋めた彼は、今にも消えそうな声音で聞いてくる。なんだこの可愛い生き物は?これまでの彼はどこに行った?
「好きに決まってるじゃないですか!」
「うれしい・・・・だれにも、いわれたこと、なかった、から」
けれども、やっぱり彼は悲しことを言った。
青木は嘉月の両頬を手のひらで包んで、その小さな顔を上げさせる。そして、彼の色素の薄い綺麗な瞳を見つめて告げた。
「嘉月先生。俺は、あなたのことを愛しています。
今も、これから先も。」
途端に彼の瞳から、ほろりと雫が落ちた。
「うれしい、ゆめ、かなぁ・・・・?」
「現実です。勝手に夢にしないでください。」
「ほっぺ、つねって」
「信じられないんですか?」
今日はずっと可愛いことを言う彼に、思わず笑ってしまう。笑った青木に、嘉月はつねろうとしていた頬をぷっくりと膨らませて、怒ったような仕草をする。
「だって、こんなに、しあわせなの、はじめて」
声音も怒ったようにしていたが、可愛いことに変わりはない。だからか少しだけ意地悪をしたくなって、ヒートで感じやすくなっているであろう耳元でわざと青木は囁いた。
「これからは、ずっと幸せですよ。」
「ずっと?」
予想通り、身体を震わせた彼の瞳は潤んでいたが、確かに青木を映していた。
「はい。俺が、あなたを不幸になんてさせません。」
「ほんと?」
「本当です。一生の、約束です。」
◇◇◇
「ハァ・・・・からだ、あつい」
絶え間なく襲ってくるヒートの熱に、弱音を吐いてしまう。しかしそれも、そんな自分を受け止めてくれる相手が、すぐ傍にいるからだ。
「しんどいですか?」
「ちょっと、だけ・・・・」
それに、さっきよりかは思考が戻って来た気がする。その証拠に、優しい成界の声がクリアに聞こえた。
「触れても、いいですか?」
「ん、いいよ」
ひんやりとした彼の手が、気持ち良い。
「キスは?しても?」
あ、キスもしたい。でも、それはちょっと不安かも。
「いい、けど、したら、もっとしたくなっちゃう」
腹を括って正直に言えば、成界が自分を抱きしめる力を強くした。そしてまた、低い声で優しく囁かれる。
「もっと、してもいいですか?」
「だめ、だって、ここ、たかふみのじっか・・・・」
「俺の家なら、してもいいってことですか?」
「・・・・それなら、いいよ」
うん、それなら遠慮とかしなくていいよね。声とか。色々。
「嘉月先生。よく見て。」
「・・・・へっ?・・・・あれ?」
成界に促されて見上げた天井は、隆文の実家とは違った。少しだけ、狭い気がした。もちろん、住む分には充分なのだけれども。
「ここ、俺の家です。」
「あ・・・・いつのまに?」
「やっと、目を覚ましたから。」
「いっぱい、ねてた・・・・?」
「ううん。少しだけです。でも、俺の家に連れてくるのには充分でした。」
「そっかぁ・・・・」
(うわ、かなり恥ずかしいかも。寝てる間に抱っこされて、ここまで来ちゃったんだ。)
「嘉月先生、続きをしても?」
「うん、いいよ、おれも、したい・・・・」
「・・・・っ」
おずおずと応えれば、成界の息をのむような音が聞こえた。次の瞬間には、嘉月は成界の匂いいっぱいに包まれていた。
「せ、かい・・・・?」
「・・・・っ」
隆文から電話が来て、青木が慌てて向かえば、嘉月は広いベッドの上で身体を小さく丸めていた。半年近く見ない間に更に細くなってしまった身体で、荒い呼吸をしている姿は痛々しかった。それでも、青木が近づくと、ゆっくりと仰向けになって自分の方へと手を伸ばしてくる。
「すこし、つかれてる・・・・?」
「だって、あなたが倒れたって!」
「しごと、は?」
「そんなのどうでもいい!あなたが優先です!」
自分の方が大変なくせに、青木の心配をする彼に少しだけ大きな声を出してしまった。それでも熱に浮かされて、ぼんやりとしている彼は、そのまま青木の頭を抱え込んで小さく抱きついてきた。
「・・・・あのね」
「はい」
「・・・・ぎゅって、して」
「はい」
ヒートのせいか、少し口調が幼くなった彼に、触れてもいい許可がもらえた。力を加えれば、すぐに折れてしまいそうな彼の身体を優しく抱きしめると、嘉月は青木の腕の中で小さく息を吐く。
「うれしい、ヒート、いつも、ひとりだったから」
「・・・・」
恐ろしいほど熱い身体で悲しいことを言う彼に、抱きしめる力が自然と強くなってしまう。
「たかふみも、だめだったのに、なんで、せかいは、へいきなんだろう?」
さりげなく下の名前で呼ばれて、胸が異常に高まってしまう。
「それは、俺にも分からないです。」
「・・・・わから、ないの?」
「ええ。でも、俺は嬉しいですよ。」
「・・・・うれしいの?」
「ええ。あなたに、受け入れてもらえた気がして。」
青木の肩口に、顔をこてんと乗せた彼の髪を優しく撫でれば、腕の中で小さな身体が身動ぎ、ぱっと顔を上げた。
「うん・・・・けいね、せかいのこと、すき・・・・」
「・・・・!!」
自身のことを京と呼び、あどけない口調で投下された告白は、凄まじい破壊力を持って見事に青木の心にクリーンヒットした。
「せかいは・・・・?けいのこと、すき・・・・?」
ぐりぐりと再び肩口に顔を埋めた彼は、今にも消えそうな声音で聞いてくる。なんだこの可愛い生き物は?これまでの彼はどこに行った?
「好きに決まってるじゃないですか!」
「うれしい・・・・だれにも、いわれたこと、なかった、から」
けれども、やっぱり彼は悲しことを言った。
青木は嘉月の両頬を手のひらで包んで、その小さな顔を上げさせる。そして、彼の色素の薄い綺麗な瞳を見つめて告げた。
「嘉月先生。俺は、あなたのことを愛しています。
今も、これから先も。」
途端に彼の瞳から、ほろりと雫が落ちた。
「うれしい、ゆめ、かなぁ・・・・?」
「現実です。勝手に夢にしないでください。」
「ほっぺ、つねって」
「信じられないんですか?」
今日はずっと可愛いことを言う彼に、思わず笑ってしまう。笑った青木に、嘉月はつねろうとしていた頬をぷっくりと膨らませて、怒ったような仕草をする。
「だって、こんなに、しあわせなの、はじめて」
声音も怒ったようにしていたが、可愛いことに変わりはない。だからか少しだけ意地悪をしたくなって、ヒートで感じやすくなっているであろう耳元でわざと青木は囁いた。
「これからは、ずっと幸せですよ。」
「ずっと?」
予想通り、身体を震わせた彼の瞳は潤んでいたが、確かに青木を映していた。
「はい。俺が、あなたを不幸になんてさせません。」
「ほんと?」
「本当です。一生の、約束です。」
◇◇◇
「ハァ・・・・からだ、あつい」
絶え間なく襲ってくるヒートの熱に、弱音を吐いてしまう。しかしそれも、そんな自分を受け止めてくれる相手が、すぐ傍にいるからだ。
「しんどいですか?」
「ちょっと、だけ・・・・」
それに、さっきよりかは思考が戻って来た気がする。その証拠に、優しい成界の声がクリアに聞こえた。
「触れても、いいですか?」
「ん、いいよ」
ひんやりとした彼の手が、気持ち良い。
「キスは?しても?」
あ、キスもしたい。でも、それはちょっと不安かも。
「いい、けど、したら、もっとしたくなっちゃう」
腹を括って正直に言えば、成界が自分を抱きしめる力を強くした。そしてまた、低い声で優しく囁かれる。
「もっと、してもいいですか?」
「だめ、だって、ここ、たかふみのじっか・・・・」
「俺の家なら、してもいいってことですか?」
「・・・・それなら、いいよ」
うん、それなら遠慮とかしなくていいよね。声とか。色々。
「嘉月先生。よく見て。」
「・・・・へっ?・・・・あれ?」
成界に促されて見上げた天井は、隆文の実家とは違った。少しだけ、狭い気がした。もちろん、住む分には充分なのだけれども。
「ここ、俺の家です。」
「あ・・・・いつのまに?」
「やっと、目を覚ましたから。」
「いっぱい、ねてた・・・・?」
「ううん。少しだけです。でも、俺の家に連れてくるのには充分でした。」
「そっかぁ・・・・」
(うわ、かなり恥ずかしいかも。寝てる間に抱っこされて、ここまで来ちゃったんだ。)
「嘉月先生、続きをしても?」
「うん、いいよ、おれも、したい・・・・」
「・・・・っ」
おずおずと応えれば、成界の息をのむような音が聞こえた。次の瞬間には、嘉月は成界の匂いいっぱいに包まれていた。
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
さよならの向こう側
よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。


捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる