燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第三章

アザミは嘲った 3

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「すまない。ボヌスルーナ社が手を打ったと聞いていたから、完全に油断していた。」

 電話口で焦燥の色を隠すことができないでいる従兄弟の声が響く。青木も、まさか嘉月の父親が、そんな暴挙に出るとは夢にも思っていなかったので唖然としていた。

(何故、そこまでの仕打ちを・・・・?)

「こんなの、ただのレイシストのすることじゃないですか・・・・!」

 一色財閥がバックにいるからと胡座をかいていたわけではないが、完全に甘く見ていた。今まで平々凡々に生きてきたベータの自分には、到底理解が及ばないカーストがまざまざと存在していたのだった。

「そうだな。常々、自分がアルファであることを呪いたくなるよ。」

自嘲気味に隆文が呟いた。

「あっ・・・・」

 思えば、自身の担当作家である佐伯も似たようなことをよく嘆いていた。けれども佐伯は、オメガであるアオが傍に居るようになってから、アルファとしての彼自身を受け入れ始めているように青木には見えた。そしてアオもまた、佐伯が傍に居ることによって、徐々に傷ついた心を修復しようと前へと踏み出しているのだった。

 アルファとオメガは、絶対的な性差があるにも関わらず、彼らはどちらかが欠けると途端に生きてゆけなくなる、脆い存在なのだった。

 けれども、多くのアルファがそれに気づくことなく、オメガを一方的に虐げる。そうなったら、オメガは、どうやって自分自身を救済するのだろうか?

青木は、足元から真っ暗闇に突き落とされた感覚がした。

「俺に、嘉月先生は守れるのでしょうか・・・・?アルファとオメガの強固な関係に、ベータの俺が干渉して、本当に嘉月先生を救えるのでしょうか・・・・?」

 青木は、縋るようにアルファである隆文に訊ねていた。暫しの沈黙の後に、隆文は重く口を開いた。

「嘉月には、頼れるアルファがいない。君が知っている雅史がアオくんと番のように、俺は透の番だ。嘉月の番は、あいつを傷つけるアルファだ。そして、嘉月の父親も同じだ。」

「それは・・・・」

「嘉月には、心を依せられるアルファがいないんだ。・・・・そもそもあいつには、アルファとオメガの強固な関係なんて、ないんだよ。」

「・・・・」

「けれども君は、ベータだ。そのしがらみに囚われることがない、自由な存在だ。成界、君だから嘉月を救えるんじゃないのか?」

 隆文の声音は、弱々しく覇気こそなかったが、それでも青木を後押しする言葉となった。

「すまない。何も力になれなくて。俺は結局あいつを救えなかった。それどころか君に今、随分と身勝手なことを言っている。」

それでも、何度も謝罪を繰り返すアルファの従兄弟を、青木は気の毒に感じた。

(この人は、佐伯先生と同じで、とても情に厚く、優しすぎるアルファだ。)

「隆文さん。あなたは、透くんをしっかりと救ったではないですか。俺は、隆文さんと透くん、佐伯先生とアオくんの絆を、自分には手に入らない羨ましいものだと、ずっと感じていました。・・・・でも、次は、嘉月先生と俺で、その絆を築きます。」

◇◇◇

 青木には、嘉月の香りは分からない。
けれども、これまでに繋いできた太いパイプはある。御神の思考は読めないが、あらゆる方面の情報から行動範囲を特定することは可能だった。

 青木はダメ元で、二度目に嘉月と会った悲しい現場へと車を走らせたが、やはりそこはもぬけの殻だった。


「もしもし、河西か?お前さ、御神の原稿を預かりに行く時、何箇所か場所があったんじゃないか?」

 かつて御神の担当であった河西に聞けば、すぐに複数の住所を教えてくれた。

「青木、また何か首突っ込んでるのか?」

「ああ。あまり時間がなくて、今は詳しいことは言えないけど。」

「分かってる。俺さ、今言ったマンションのコンシェルジュとはかなり仲が良いんだ。先生、また締め切り守ってくれない!って嘆けば、鍵開けてくれっからさ。河西の代打とか、適当言っていいから、何が何でも乗り込めよ!」

やっぱりこいつも、なかなかの遣り手じゃないか。

「全て片付けたら、何か奢る。ありがとな。」

「おう。期待してる。」

 青木は、心強い同期の助言を元に、アクセルを踏み込んだ。


 嘉月先生。どうか、無事でいてください。

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