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第一章
夏と初めて
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ジワジワと蝉が鳴く。
音楽室はしっかりとクーラーが効いているが、重い扉を開いた先にある廊下は地獄だ。
「あっついなぁ・・・・」
学校は夏休み真っ盛りである。おまけにお盆で殆ど人がいなかった。そんな季節、紫音は学生ピアノコンクールの予選を全て通過したばかりであった。もちろん、本選に向けて日々レッスンであることには変わらない。しかし紫音は、このコンクールに出場するのは今年で最後だと決めていた。来年からは年齢制限を設けられていたため参加することが叶わなかった、日本で最も歴史と権威のあるピアノコンクールに出る予定だからだ。だからこそ、紫音の本選への想いは強かった。
それでも、どうしても家のピアノの前にいると気分が滅入ってしまう時がある。そういう時は、学校の音楽室のピアノで練習をしていた。今日もそんな気分だった。
一度止めて、昼食を食べようとラウンジへ向かうが、廊下の温度が高くだらだらと汗が流れ落ちる。
(こんなに設備投資しておいて廊下が暑くなることって予想できなかったのかね。)
紫音は心の中だけで悪態をついた。
◇◇◇
ラウンジの扉を開けようとした時だった。
何処からか小さな悲鳴が聞こえたような気がした。
(面倒だな・・・・)
そう思ったものの、どうにも胸騒ぎが収まらない。声が何処から聞こえてくるのか耳を澄ます。
「・・・・め・・・・い・・だっ・・・・たす・・・・・・」
くらりと酩酊したように紫音の頭がまわる。この声、この香りを彼は充分すぎるほど知っていた。
「ラウンジの中だな。」
紫音はそう確信して扉を勢いよく開けた。
そこにはアオがいた。しかし、明らかに様子がおかしい。上履きは遠くの方に見えた。制服のブレザーと靴下はぼろ雑巾のように無造作に転がっていて、ワイシャツはボタンが引きちぎられていた。
そして、そんなアオの目の前に立つ用務員らしき男。紫音はその男を睨みつけた。
「てめえ、アオに何をした?」
「天才ピアニストの高槻くんじゃないか!ダメだよ、そんな言葉遣い。きみのキャリアに相応しくない。」
男は紫音の質問には答えなかった。
紫音はアオを見遣った。
アオは前が開いたワイシャツを必死に引き寄せたまま、ラウンジの壁に背を預けて座り込んでいた。指先はかたかたと震え定まっていない。そして、荒い息を吐いては膝を僅かに擦り寄せていた。
その足元に落ちている一本の注射器。
「っ・・・・!まさか!」
紫音はアオの元へと駆け寄り、注射器を手に取る。
「発情促進剤・・・・?何だよこれ!」
「あはははは。いつも図書室にいるアオくんが、夏休みは開室してないからってラウンジで勉強していることを知ってね。いつも番犬みたいにアオくんの傍にいるきみも居なかったし、お盆で先生も少ないからね。ヤるなら今しかないって思ったわけさ。」
男が嗤う。アオは可哀想なくらい震えていた。
「てめえ・・・・」
「でも、失敗。きみ今すごい威嚇のフェロモン出てるよ。流石に俺も勝てそうにない。」
その割に男は飄々としている。
「もう、ここには二度と来ないよ。アオくんにも手は出さない。というか、きみがいる限りは手を出せないかな。」
紫音は熱くなったアオの身体を抱きしめて、男を睨みあげる。
「こんなの、レイプじゃないか!」
「怖い怖い。まだ、未遂だよ。」
男はケラケラと笑ってラウンジから出ていった。
「くそっ、殺してやるっ・・・・!」
紫音が叫ぶと腕の中にいるアオがぎゅっと背中に手をまわしてきた。
「し、しおん、しおん、し、おん」
「アオ!しっかりしろ!」
アオは力無く紫音の名前を呼び続けるだけだった。
◇◇◇
紫音は意識を失くしてぐったりとしたアオを病院へと連れて行くことにした。こういう時に限って学校の保健医が会議で不在だったからだ。初めて学校からタクシーを呼ぶ。それも発情を起こしたオメガ専用のタクシーだ。
紫音は始めこそアオのフェロモンにくらりとしたが、促進剤によって擬似的に作り出されたフェロモンの香りを嗅ぎ分けた途端、身体は驚くほど反応しなくなった。そのことに、心底ほっとしている自分がいた。
結局、病院ではヒートは病気ではないと一蹴された。促進剤で強制的に陥った状態だと説明しても、ベータの医者は取り合うことなく二人を追い出したのだった。
途方に暮れたまま病院を出ると、学校から病院まで送ってくれたタクシーの運転手が待ってくれていた。オメガ専用タクシーの運転手はベータが殆どであるが、彼は数少ないオメガの運転手だった。彼は二人の様子から全てを察していたようだった。
「タクシーもだけど、オメガ科の医者が患者と同じオメガじゃないっていうのは問題だよな。」
彼はそう言うと、閉じられたアオの瞳から流れ落ちる涙をタオルでそっと拭ってくれた。それから、「気休め程度だけど」と言って紫音にオメガ用の抑制剤を渡してくれた。
家へと向かうタクシーの中で、紫音はその抑制剤をアオの口へと押し込んだ。
オメガへの差別をこんな風に目の当たりにする日が来るとは想像もしなかった。そして、これがアオの生きている日常だと思った途端、紫音は呼吸が止まりそうになった。
◇◇◇
紫音は自室のベッドへとアオを寝かせた。幸い、息子に対して過干渉気味で口煩い両親は海外でのコンサートの為、昨日から一ヶ月間は帰ってこない。
紫音は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し自室へと戻る。そして、アオをゆっくりと抱き起こした。
「アオ、水飲めそうか?」
抑制剤を飲ませてもアオの容態は変わらず、荒い呼吸を繰り返していた。
「・・・・ん、しおん、ぼく、しせつに、は、かえりたく、ない・・・・」
アオは紫音にしがみつくと嫌だ嫌だと首を振って酷く泣き始めた。
「アオ。大丈夫だ。施設には帰さない。おまえが落ち着くまでここにいろ。」
紫音はアオが落ち着くまで、繰り返しそう言い聞かせた。
アオがゆっくりと水を嚥下していく。紫音はその姿に少しだけ安心した。それから、アオのスラックスに手を伸ばす。そこはアオの先走りと愛液でぐっしょり濡れていた。
「んっ・・・・あっ・・・・」
アオは小さく喘ぎ、ペットボトルから口を離した。
「これ、気持ち悪いよな。俺の貸すから脱ぐぞ。」
紫音はそう言うと、ベルトを外し下着ごとスラックスを脱がせた。
下半身が露わになり、先走りをだらだらと溢す小さなペニスをアオは紫音に見せないように慌てて手で隠した。
「あ、んぁっ・・・・」
しかし、それだけの刺激でアオは射精してしまった。真っ赤になって縮こまるアオの額にキスを落とす。
「いいよ、気にしなくて。おまえは悪くない。生理現象だ。」
「うぅ・・・・で、でも」
「そんなことより、その状態じゃまともに抜けないだろ。手伝ってやる。」
紫音は素早くアオの後孔に中指を入れた。
「ひっ・・・・き、きたないから、だめぇ」
アオはバタバタと暴れたが、その力は弱く、容易く押さえ込むことができた。
「汚くない。おまえのは汚くないよ。」
アオの耳元で囁く。そのままグチュグチュと指を抜き差しする。紫音の指先がアオのザラザラとした所を撫でた。
「あっ・・・・あ、ん、あっ」
アオの鳴き声が変わった。
「ここ、気持ちいのか?」
紫音はその場所をぐりぐりと押した。
恐らく前立腺だ。
「あぁっ、いやぁ、あ、あ、やだぁ、そこ、やだ」
アオの目から涙がぼろぼろと溢れる。
「いいから。全部出してしまえ。」
後ろは指で前立腺を強く押したまま、もう片方の手はアオのペニスを扱く。
「ひぃあぁぁああっ、ん、んぅ、あっ、ん」
アオはびくびくと痙攣して白濁を吐き出した。
そして、死んだように深い眠りに落ちていった。
次の日、アオはヒートになった。
音楽室はしっかりとクーラーが効いているが、重い扉を開いた先にある廊下は地獄だ。
「あっついなぁ・・・・」
学校は夏休み真っ盛りである。おまけにお盆で殆ど人がいなかった。そんな季節、紫音は学生ピアノコンクールの予選を全て通過したばかりであった。もちろん、本選に向けて日々レッスンであることには変わらない。しかし紫音は、このコンクールに出場するのは今年で最後だと決めていた。来年からは年齢制限を設けられていたため参加することが叶わなかった、日本で最も歴史と権威のあるピアノコンクールに出る予定だからだ。だからこそ、紫音の本選への想いは強かった。
それでも、どうしても家のピアノの前にいると気分が滅入ってしまう時がある。そういう時は、学校の音楽室のピアノで練習をしていた。今日もそんな気分だった。
一度止めて、昼食を食べようとラウンジへ向かうが、廊下の温度が高くだらだらと汗が流れ落ちる。
(こんなに設備投資しておいて廊下が暑くなることって予想できなかったのかね。)
紫音は心の中だけで悪態をついた。
◇◇◇
ラウンジの扉を開けようとした時だった。
何処からか小さな悲鳴が聞こえたような気がした。
(面倒だな・・・・)
そう思ったものの、どうにも胸騒ぎが収まらない。声が何処から聞こえてくるのか耳を澄ます。
「・・・・め・・・・い・・だっ・・・・たす・・・・・・」
くらりと酩酊したように紫音の頭がまわる。この声、この香りを彼は充分すぎるほど知っていた。
「ラウンジの中だな。」
紫音はそう確信して扉を勢いよく開けた。
そこにはアオがいた。しかし、明らかに様子がおかしい。上履きは遠くの方に見えた。制服のブレザーと靴下はぼろ雑巾のように無造作に転がっていて、ワイシャツはボタンが引きちぎられていた。
そして、そんなアオの目の前に立つ用務員らしき男。紫音はその男を睨みつけた。
「てめえ、アオに何をした?」
「天才ピアニストの高槻くんじゃないか!ダメだよ、そんな言葉遣い。きみのキャリアに相応しくない。」
男は紫音の質問には答えなかった。
紫音はアオを見遣った。
アオは前が開いたワイシャツを必死に引き寄せたまま、ラウンジの壁に背を預けて座り込んでいた。指先はかたかたと震え定まっていない。そして、荒い息を吐いては膝を僅かに擦り寄せていた。
その足元に落ちている一本の注射器。
「っ・・・・!まさか!」
紫音はアオの元へと駆け寄り、注射器を手に取る。
「発情促進剤・・・・?何だよこれ!」
「あはははは。いつも図書室にいるアオくんが、夏休みは開室してないからってラウンジで勉強していることを知ってね。いつも番犬みたいにアオくんの傍にいるきみも居なかったし、お盆で先生も少ないからね。ヤるなら今しかないって思ったわけさ。」
男が嗤う。アオは可哀想なくらい震えていた。
「てめえ・・・・」
「でも、失敗。きみ今すごい威嚇のフェロモン出てるよ。流石に俺も勝てそうにない。」
その割に男は飄々としている。
「もう、ここには二度と来ないよ。アオくんにも手は出さない。というか、きみがいる限りは手を出せないかな。」
紫音は熱くなったアオの身体を抱きしめて、男を睨みあげる。
「こんなの、レイプじゃないか!」
「怖い怖い。まだ、未遂だよ。」
男はケラケラと笑ってラウンジから出ていった。
「くそっ、殺してやるっ・・・・!」
紫音が叫ぶと腕の中にいるアオがぎゅっと背中に手をまわしてきた。
「し、しおん、しおん、し、おん」
「アオ!しっかりしろ!」
アオは力無く紫音の名前を呼び続けるだけだった。
◇◇◇
紫音は意識を失くしてぐったりとしたアオを病院へと連れて行くことにした。こういう時に限って学校の保健医が会議で不在だったからだ。初めて学校からタクシーを呼ぶ。それも発情を起こしたオメガ専用のタクシーだ。
紫音は始めこそアオのフェロモンにくらりとしたが、促進剤によって擬似的に作り出されたフェロモンの香りを嗅ぎ分けた途端、身体は驚くほど反応しなくなった。そのことに、心底ほっとしている自分がいた。
結局、病院ではヒートは病気ではないと一蹴された。促進剤で強制的に陥った状態だと説明しても、ベータの医者は取り合うことなく二人を追い出したのだった。
途方に暮れたまま病院を出ると、学校から病院まで送ってくれたタクシーの運転手が待ってくれていた。オメガ専用タクシーの運転手はベータが殆どであるが、彼は数少ないオメガの運転手だった。彼は二人の様子から全てを察していたようだった。
「タクシーもだけど、オメガ科の医者が患者と同じオメガじゃないっていうのは問題だよな。」
彼はそう言うと、閉じられたアオの瞳から流れ落ちる涙をタオルでそっと拭ってくれた。それから、「気休め程度だけど」と言って紫音にオメガ用の抑制剤を渡してくれた。
家へと向かうタクシーの中で、紫音はその抑制剤をアオの口へと押し込んだ。
オメガへの差別をこんな風に目の当たりにする日が来るとは想像もしなかった。そして、これがアオの生きている日常だと思った途端、紫音は呼吸が止まりそうになった。
◇◇◇
紫音は自室のベッドへとアオを寝かせた。幸い、息子に対して過干渉気味で口煩い両親は海外でのコンサートの為、昨日から一ヶ月間は帰ってこない。
紫音は冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し自室へと戻る。そして、アオをゆっくりと抱き起こした。
「アオ、水飲めそうか?」
抑制剤を飲ませてもアオの容態は変わらず、荒い呼吸を繰り返していた。
「・・・・ん、しおん、ぼく、しせつに、は、かえりたく、ない・・・・」
アオは紫音にしがみつくと嫌だ嫌だと首を振って酷く泣き始めた。
「アオ。大丈夫だ。施設には帰さない。おまえが落ち着くまでここにいろ。」
紫音はアオが落ち着くまで、繰り返しそう言い聞かせた。
アオがゆっくりと水を嚥下していく。紫音はその姿に少しだけ安心した。それから、アオのスラックスに手を伸ばす。そこはアオの先走りと愛液でぐっしょり濡れていた。
「んっ・・・・あっ・・・・」
アオは小さく喘ぎ、ペットボトルから口を離した。
「これ、気持ち悪いよな。俺の貸すから脱ぐぞ。」
紫音はそう言うと、ベルトを外し下着ごとスラックスを脱がせた。
下半身が露わになり、先走りをだらだらと溢す小さなペニスをアオは紫音に見せないように慌てて手で隠した。
「あ、んぁっ・・・・」
しかし、それだけの刺激でアオは射精してしまった。真っ赤になって縮こまるアオの額にキスを落とす。
「いいよ、気にしなくて。おまえは悪くない。生理現象だ。」
「うぅ・・・・で、でも」
「そんなことより、その状態じゃまともに抜けないだろ。手伝ってやる。」
紫音は素早くアオの後孔に中指を入れた。
「ひっ・・・・き、きたないから、だめぇ」
アオはバタバタと暴れたが、その力は弱く、容易く押さえ込むことができた。
「汚くない。おまえのは汚くないよ。」
アオの耳元で囁く。そのままグチュグチュと指を抜き差しする。紫音の指先がアオのザラザラとした所を撫でた。
「あっ・・・・あ、ん、あっ」
アオの鳴き声が変わった。
「ここ、気持ちいのか?」
紫音はその場所をぐりぐりと押した。
恐らく前立腺だ。
「あぁっ、いやぁ、あ、あ、やだぁ、そこ、やだ」
アオの目から涙がぼろぼろと溢れる。
「いいから。全部出してしまえ。」
後ろは指で前立腺を強く押したまま、もう片方の手はアオのペニスを扱く。
「ひぃあぁぁああっ、ん、んぅ、あっ、ん」
アオはびくびくと痙攣して白濁を吐き出した。
そして、死んだように深い眠りに落ちていった。
次の日、アオはヒートになった。
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