燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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エピローグ 佐伯雅史とアオの物語

いつもの場所で燦々と

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 玄関のドアを開くと、ふわりと金木犀の香りが漂ってきた。

「アオ・・・・?」

 佐伯はコンビニで買った苺のショートケーキをリビングにあるテーブルの上に置き、アオを探す。飲みかけのコーヒーが入ったままのアオのマグカップが、キッチンの流し台に取り残されていた。

 佐伯はノックをしてアオの部屋へと入る。しかし、その姿は見当たらなかった。風呂場もトイレも覗いたがいない。残るは自室でもある寝室か仕事部屋として使う書斎しかない、と佐伯が思った所で、寝室の方から僅かな物音がした。

 佐伯が寝室へ入ると、途端に金木犀の香りが強くなる。真っ白なリネンのシーツから色素の薄い髪がはみ出している。佐伯は真っ直ぐと白い塊へ足を運ぶ。


 そこに、アオがいた。


(・・・・日なたの様だな。)


 よく見ると、アオは腕いっぱいに佐伯の衣類を抱え込んでいた。クローゼットの扉が開け放たれたままになっていることに佐伯は思わず笑みが深くなる。思い返せば、脱衣所の洗濯カゴだってひっくり返っていた。

「パートナーの巣作りはなかなかいいもんだぜ。どんなに徹夜していようが時間をかけて褒めるね、俺は。」

いつか一色が言っていた言葉を佐伯は思い出した。


「アオ、アオや。寝てしまったのか?」

 佐伯はするりとアオの頬を撫でた。そこに残る涙の跡に佐伯の胸は痛んだ。佐伯はベッドの脇にしゃがみ込み、アオの端正な顔を暫く眺めていた。

(万年筆・・・・書斎の物も集めたんだな。)

 アオが佐伯の書斎に入ったことはこれまでに一度もなかった。佐伯自身は「いつでもおいで」とアオに伝えていたが「僕はこのテーブルであなたを待っていることが好きなんです。」と言って頑としてその姿勢を貫き通していた。それが今では、一番大事な物であるかのように両手でしっかりと万年筆を握り締めている。

「ん・・・・」

 アオが僅かに身動ぎ、その長い睫毛が揺れた。

 凪いだ薄藍と目が合う。

「アオ、きみ、巣作りしたんだな。」

「・・・・あ、ごめんなさい。」

「謝ることなんて一つもない。俺は今とても満たされている。」

 むくりと起き上がったアオは、裸の上半身を隠す様に乱れたシーツを引き上げた。

「だって、勝手に、部屋のもの移動しちゃったし、うっ、ま、まさしさんに、僕っ、ひどいこと、出ていって、なんて、う、うそ」

 ぼろぼろと泣き始めてしまったアオの頭をやわやわと佐伯は撫でる。

「なあ、きみ。ヒート前なんだろう。そりゃあ些細なことでイライラだってするさ。」

「で、でもっ・・・・!!!」

 佐伯はベッドの上にいる可愛い生き物を自分の方へと抱き寄せた。

「アオ。俺はちゃんと帰ってきただろう?」

「・・・・うん」

「喧嘩したって、この家に俺が帰らないなんてことは絶対にない。出会ったばかりの時に言っただろう。ここは、きみと俺の帰る場所だ、と。」

アオは佐伯の肩にぐりぐりと頭を押し付けた。

「でも、ぼく、ヒート前は嫌なやつになっちゃうから。そ、そのうち雅史さんだって・・・・」

 その先を佐伯は深いキスで無理やり塞いだ。歯列をなぞり上顎を擽る。アオの下唇に吸い付くとわざとチュッと音を立てて唇を軽く離す。ちろりと応えるように濡れた舌先を出すアオの色気に煽られるまま、佐伯は更に舌を絡ませていく。つっとアオの口端から飲み込みきれなかった唾液が零れ落ちる。

 ベッドの上でかくっと脱力したアオの腰を佐伯は支えた。

「アオ、きみの作った巣の中へ俺を入れてはくれないだろうか?」

「きてくれるの?勝手に雅史さんの大切なものを持って来ちゃったのに・・・・」

「俺にはそれが、きみの優しさに見えるよ。きみの作った巣は、優しさで溢れている。」

 佐伯は穏やかにアオへと微笑んだ。
 
 アオはまたぽろっと泣いてしまった。

「ふっ・・・・う、雅史さん、来て。」

 アオが佐伯に向かって両腕を広げた。

 佐伯はアオに導かれるまま巣の中へと入った。

◇◇◇

 シーツの中で縺れ合うように身体を密着させていく。アオは佐伯の着ているシャツに顔を埋めてはその端を口に含んでいた。

「自分のシャツに妬ける日が来るとは思わなかったよ。」

佐伯が語りかけても、アオはシャツに夢中のようだった。それが少し寂しくて、佐伯はアオの下腹部へと手を伸ばした。

「ぁ、や、いやぁ・・・・」

アオは小さく反抗するがその声は甘く蕩けている。

「アオ、俺がいるぞ。」

「あ、まさし、さん、それ脱いで。もっと近くにきて」

 舌足らずにアオが言う。佐伯はシャツを脱ぐとアオの背中にかけてやる。そして、アオと同じ下着一枚の姿となる。

「ん、それも、ちょうだい」

 結局その下着もアオに奪われ、枕元の方へと丁寧に並べられた。

「ん、かん、ぺき」

アオは満面の笑みを浮かべた。

「それならばよかった。・・・・おや?きみ、俺の下着を履いてるのか?」

 アオのサイズにしてはやや緩すぎる。佐伯はそっと手を伸ばすとそれはぐっしょりと濡れていた。

(先ばしりにしては多すぎないか?)

佐伯は確認のため下着の中に手を滑らせ、アオの後孔に指を這わせた。そこからはとろりと液が漏れ出していた。

「アオ、もしかしてヒートに入ったのか?」


 大きな周期の乱れはないのであまり不安にはならなかったが、佐伯は本格的にアオがヒートへと突入するのは、まだ数日後だと見込んでいたので些か驚いた。

「わ、かんない」

とろんとした目でアオは佐伯を見つめた。

「アオ、このままじゃつらいだろう。少し楽になろうか。」

 佐伯はアオへ告げると、中指を一本アオの中へと進入させた。

「んっ、ふ、う、ぅ、ん、ん」

やわやわと前立腺を撫でるように行き来を繰り返す。

「あっ、そこ、やぁ、や、あ、あっ」

もう片方の手でアオの小さなペニスを優しく扱く。
そこから先ばしりがだらだらと流れ出てくる。佐伯は気にすることなくそれを搾り出すように擦っていく。

「んぅ、あ、いっしょ、やだぁ」

強すぎる快感にアオは生理的な涙を溢した。

「嫌なのか?アオのここ、俺の指を嬉しそうに咥えているんだがな。」

 佐伯はそう言うと、アオの深くに埋めた中指を折り曲げた。

「あぅっ!、い、いじわるっ、う、あんっ」

ピュルッとアオの先端が白濁を吐き出す。手の平から漏れ出てくるアオの白濁を、佐伯は見せつけるように舐めとる。

「あ!き、きたないからっ!」

アオが止めようと手を伸ばすが、佐伯は気にすることなく最後の一滴まで舐めとった。

「ぁ・・・・」

 アオは羞恥で真っ赤になっていた。その目には新しい涙が膜を張っている。

「甘いな」

 佐伯はアオに覆い被さると耳元で囁いた。それから柔い耳朶に軽く歯を立てべろりと舐めた。クチュクチュと卑猥な音をたてながら耳の中まで舌で舐めとる。

「ひっ、う、あ、あぁ」

それだけの刺激でもアオは充分感じるようで、とけた声が漏れ出ている。

 佐伯は首筋へと徐々に移動してキスマークをつけていく。ぴんと立ち上がった淡いピンクの飾りに吸い付いたり、指で捏ねくりまわしているうちにアオのペニスは緩やかに硬度を取り戻し、その先端にぷつりと透明な液が湧き出ていた。

「ま、まさし、さん。も、もう挿れて。ちょうだい。」

アオが蚊の鳴くような声でその先をねだった。

「まだきついと思うが・・・・」

アオはぶんぶんと首を横に振った。

「いい!大丈夫だからぁ、ねがいっ、ぼく、もう、まさしさんが、ほしい」

佐伯はアオの唇に軽くキスを落とした。

それから、ゆっくりと自身のペニスを挿入していく。

「うっ、あ、あ、あぁ、うあぁあん」

行き止まりまで一気に貫くと、アオは一際大きな声で喘いだ。

「っ、アオ、大丈夫か?」

佐伯の汗がアオの頬に落下して流れ落ちたアオの涙と混ざり合う。

「ふっ、うん、だいじょぶ」

佐伯はゆっくりと腰を回していく。

「はぁっ、アオ、気持ちいいな。」

「うん、きもちい。」

微笑めばアオも満たされたように笑った。

◇◇◇

 沢山の宝物が散りばめられているシーツの中で、アオは佐伯に抱きしめられながら微睡む。

「アオ、きみの不安が無くなるまで俺は言うぞ。きみを手放すことは決してない。」

寝物語を読み聞かせるように佐伯はゆっくりと話し続ける。

「きみとこの家で沢山の日常を重ねていくんだ。時には、穏やかじゃなくてもいいさ。それが、家族だろう?」

「・・・・家族」

「ああ、そうだ。これから知っていけばいい。」

「うん」

佐伯はアオをしっかりと抱きしめ、密やかに囁いた。

「時間はたっぷりあるんだ。」


 サイドチェストの上に置かれた万年筆がテーブルライトのほのかな灯りに照らされている。


 その色は、薄藍。

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