燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第三章

ふと香る季節がやってきましたね 2

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「俺たちは運命の番だ」

 佐伯は確信しているようだ、とアオは思った。
しかし、アオには二人が運命の番であることは、よく分からなかった。佐伯の言うような「何か」をアオはあの日、感じることができなかったからである。

(でも、佐伯さんと一緒だと安心する・・・・)


「すまない。困らせてしまったかな?」

 暫しの沈黙の後、佐伯は困ったようにアオへと微笑みかけた。

「い、いえ!!その、佐伯さんが僕と運命の番だと感じてくれていることは、とっても嬉しいです!・・・・ただ、僕には分からなくて・・・・ごめんなさい。」

俯いてしまったアオの頭を佐伯はぽんぽんと撫でた。

「いいんだ。謝らないでくれ。柄にもなく運命だなんて、少し浮かれてしまったんだ。それできみを困らせてしまったのならば元も子もないな。」

(ただ、その運命がきみを少しでも救ってくれるのならば本望だがな・・・・)

 佐伯は目の前で、瑠璃色の陶器で暖を取るようにカップを包み込む愛らしいアオの両手を眺めていた。
 
「アオ、愛しているよ。」

「僕も。佐伯さんといると夢だったらどうしようって思ってしまうくらい幸せなんです。佐伯さん、どうしよう。あなたとの生活が全部夢だったら。僕も佐伯さんのことが大好きなのに。」

 つぅと一筋の涙がアオの頬を伝う。

「アオ、愛している。」

 佐伯はアオの元へと立ち上がるとアオの唇を塞いだ。慈しむような優しいキスは柔らかい紅茶の味がした。

 白いシャツの襟ぐりから覗いているアオの雪のような肌を、佐伯は指先でなぞっていく。鎖骨の端から首筋まで、その指が辿り着くとアオの薄藍と目があった。佐伯はもう一度キスをした。

 後ろの方でカチャンとティースプーンの滑り落ちた音がした。


「夢じゃないよ。何も怖いことはない。きみは、もう、一人きりではないのだから。」

「うん。」

◇◇◇

 するりと佐伯の手が服の中へと入ってくる。

「アオ、寝室へ行っても?」

「まだ、昼ですよ?」

「昼だからいいんじゃないか。」

「ふふっ。ほんとは僕からお誘いしたかった。」

「次を楽しみにしておこう。」

 佐伯とアオはクスクスと笑いながら、戯れ合うように、まるで二人だけのステップを踏むように、寝室へと消えた。

 わずかに開かれたリビングの窓からふわりと吹き込む風が金木犀の香りを運んできた。


 床に散乱した服と白いシーツの上で二人裸で寝転んでいる。気怠さと腰の痛みが心地よく感じる日が来たことにアオの心は嬉しさとこそばゆい気持ちでいっぱいになった。
 佐伯の腕の中で微睡みながら、アオは佐伯の首筋の匂いを嗅ぐ。途端に金木犀の香りに包まれる。

「・・・・ん」

「痛むか?」

少し掠れた低音に胸が擽ったくなる。

「ううん」

アオは甘えたような声で応えると、再び首筋に顔を埋めて深く息を吸う。

「きみ、俺の匂い好きだよな。」

「・・・・安心します」

「そうか。ヒートの時もコアラのようにくっ付いて可愛かったな。」

「えっ・・・・なっ、コアラ、ですか?」

「ああ、子どもコアラだ。」

「揶揄わないでください」

アオはぷくっと頬を膨らませて顔だけ逸らした。
その姿に佐伯は気づかれないように微笑んだ。

「怒ったのか?」

 後ろから抱き込むようにアオを閉じ込める。それから、再び硬度を取り戻した自身のそれをゆるゆるとアオの腰に押し付けた。

「んっ、お、怒ってない、です。」

逃げるように身動ぐアオを佐伯は更にきつく抱きしめる。

「そうか、それならばよかった。」


 アオは佐伯の腕から逃げることを諦めると、逞しい腕をさらりと撫でた。

「佐伯さん、僕のここ、噛んでください」

 そして、佐伯に向かって頸を晒す。

「・・・・いいのか?」

「うん。僕は佐伯さんがいいです。」

 アオの頸を隠す髪を持ち上げる指先が僅かに震えていることに佐伯は気がついた。その繊細な指を佐伯は握り込む。

「きみの手は冷たいんだな。そういえば夏でも冷たかったな。」

「小さい頃から冷え性なんです。」

「そうか。きみは心が暖かいからな。きっと誰かに施しのようにそれをあげてしまうんだ。」

「・・・・佐伯さん」

「だから、俺はきみに俺の全てをあげてしまいたい。・・・・俺はちっぽけだし、あまりいい奴とは言えんがな。」

「佐伯さん。もう僕は誰にも僕のことをあげない。佐伯さんだけに僕の全てを受け取って欲しいです。」

「アオ」

「だから、だから僕のここ・・・・」


「噛んで」


 囁くようにアオが言った。

(ああ、いつかきみは同じように俺に「愛して」と伝えてくれたな。)


「きみ、知っているだろう?俺がずっときみを愛していることを。」

 いつかの言葉を、震えてしまわないように大切に佐伯は繰り返した。

「うん」

「アオ、愛してる」


 ツプリと先端をアオの後孔に佐伯は押し込んだ。
頸を噛むために後背位での体勢となったが、本当は顔が見たいと佐伯は思った。

「アオ、アオ、きみの顔が見たい。」

「んっ・・・・へ?」

 それでもアオは健気に顔だけ佐伯へと向けた。
佐伯は一気に奥へと侵入すると、アオの濡れた唇を塞いだ。

「あっ・・・・!!!、ふ、ぅ、ちゅっ、ん、ん」

 佐伯はアオの甘い舌先をちゅっと吸い込むと、ゆるゆると裏筋を舐めた。その度に必死に舌を上げて応えようとするアオの可愛らしさに、佐伯は自身の中心に熱が集まってくる体感を得た。

「アオ、動いてもいいか?」

「ん、きてっ・・・・」

 アオが上手に気持ちよくなれる場所を佐伯はゆっくりと押し上げては引いていく。ヒートのような激しい交わりを、実のところ佐伯はあまり好まない。ゆっくりとお互いの快感を高め合うことに、何気の無い日常に愛が暮らしとして染み込んでいくような時と似たような感覚を覚えている。

「っ、う、んぅ、ふ、さ、さえきさん」

「どうした?」

「あ、あのね、僕も愛しています、んぁっ・・・・」

涙で濡れた薄藍に見つめられて、佐伯は思わず強く奥を突いてしまった。


「アオ、噛むぞ。」

「ん、ん、か、かんで・・・・!」

 佐伯はアオの首筋に手を滑らすと、頸をべろりと舐めた。

「・・・・ひっ」

アオが怯えたような声をあげた。

「大丈夫。何も怖いことはないよ。俺の手がわかるか?」

 佐伯はアオの手を上から握りしめた。もうその指先は冷たくなかった。
 
 アオが佐伯の手を弱々しいがきゅっと握り返した。
ただ、それだけの行為に佐伯は既に自分たちが紛れもなく番となったような心地に包まれた。

 佐伯はアオの頸に歯を立て深く噛み付いた。既にある二つの噛み跡を上書きするかのように、深く深く歯を立てた。

「っ・・・・あぁっ!!!!!」

「くっ・・・・!!!!!!」

 ピリッと身体中に電流が走るような衝撃を佐伯は
感じた。そして、それに反応するようにアオの中が締まり、佐伯のペニスに絡みつく。気づいた時には、佐伯はアオの最奥に熱を吐き出していた。

「っはぁ、はぁっ、ん、す、すごい」

アオの瞳からぽろぽろと涙が落ちた。

「また、泣かせてしまったな。」

「ん・・・・これは、嬉し泣きです。」

「そうか。」

 佐伯は、ゆるりとアオの中から抜け出ると、アオを仰向けにして覆い被さるように抱きしめた。

「こんなに幸せになれると思わなかった。僕にとって番になることは苦しいことでしか無かったから。でも、僕は今、佐伯さんと番になれたのだと実感しています。」

アオは佐伯の背中にしがみつくように腕をまわした。

「佐伯さん、今まで分からなくてごめんなさい。それなのに、僕を救ってくれてありがとう。僕に全てを渡してくれたあなたを、僕は生涯愛し続けます。そして、同じように僕の全てをあなたに捧げます。」

それから、しっとりと濡れた唇を重ねたのだった。


 ふと香る季節、二人は結ばれた。

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