燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第二章

ミドリ

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 アオは佐伯とともに家へと帰った。

 迷惑をかけたであろう嘉月と透に深々と頭を下げたが、二人とも「よかった」と笑いながら送り出してくれた。

 いつも佐伯と食事をするリビングは、アオにとってとても安心できる場所となっていた。
アオはテーブルの木目を指先で何度もなぞりながら、佐伯にどうやって話を切り出そうか悩んでいた。

 コトッとアオの前にマグカップが置かれた。それは瑠璃色の釉薬がかけられた少し大きめのカップで、佐伯がずっと昔に偉い人から貰ったものの戸棚の中で眠れせてしまったと言っていたものだった。アオが来て、一週間ほど経ったある日、「アオ専用」と言って佐伯からもらった大切なカップだ。

「青木が、アオが入院して3日目くらいの時に家に来たんだ。栗の香りがする紅茶らしい。快気祝いに淹れてやれって言って帰って行ったよ。」

 佐伯も同じものを入れたカップを持って、アオの向かいに座った。

「数日家を空けることなんて、俺にとっては特に感慨もなにもなかったんだがな。きみと一緒に住んでからか、やっと家だと安心してしまった。」

佐伯が呟くように言った。

「僕も、ここへ帰ってこられて良かったと思います。」

アオは栗の紅茶をひと口飲んで、佐伯を見つめた。

 そして、カップをきゅっと両手で握りしめて決心した。

「佐伯さん、僕のかつての番と、ミドリの話を聞いていただけませんか?聞いた後、佐伯さんの判断で僕とのこれからを決めてください。追い出されても、僕は構いません。むしろ、三ヶ月もこんな僕と一緒に生活してくれて、ありがとうございました。」

アオは声が震えないように必死に言葉を紡いだ。

「アオ、俺はどんな話を聞こうがアオをこの家から追い出したりなんてしないよ。ここはアオと俺の帰る場所なのだから。たとえきみがシリアルキラーで夜な夜な誰かを殺しに行っていたとしても、俺はきみを手放さない。」

 冗談めいた内容であったが、佐伯の目はかつて見たことのないほど、真剣であった。

「僕を捨てない?」

「ああ、誓って捨てない。ずっと傍にいる。」

「ほんとう?」

「ああ。アオ、俺は今もこれからも、きみをずっと愛しているんだ。」


 だからどうか、その薄藍を濡らさないでくれ。


「僕は高槻紫音の番でした。ミドリは紫音との子どもです。」

 アオはゆっくりと記憶を手繰り寄せていった。

◇◇◇

 5年前

 アオと紫音は高校生から恋人であった。大学は別々の場所へと通ったが、アオの19歳の誕生日に二人は番となった。付き合ってちょうど3年目の冬の日だった。

 しかし、この頃の紫音は酷く荒んでいた。

 高槻家と言えば、世界的にも有名な音楽家を数多く輩出することで知られていた。例に漏れず、小学生の時から国際的なピアノコンクールで優勝をして既に名声を得ていた紫音だった。そして、大学も最難関と謳われる国立の音楽大学にストレートで入学した。常にトップ、常に首席が紫音に求められてきたものであり、紫音もその期待に充分に応えられるアルファであった。

 19歳になった夏の日、とあるコンクールの審査員たちにより、紫音が予選落ちする出来事があった。 

 メディアはこぞって審査員たちにその理由を取材した。「彼はこの曲の解釈を怠った」「そもそもピアノの音も良くない」「聞き飽きた音色だ。新たなことにチャレンジしていない。」「練習不足でしかない。当然の結果である。」随分と酷く批評された。そして、それを報道するメディアによって、世間での高槻紫音の評価も低下したのであった。

 その一方で、紫音のプライベートにまで踏み込む報道が後を絶たなかった。

『施設育ちの貧困オメガと禁断の愛!!??』

この報道は、紫音の両親を激怒させ、メディア側の謝罪という流れになった。

 しかし、これは事実であった。アオは義務教育で受けたバース検査でオメガであると判明した際、両親に縁を切られ捨てられていた。施設の職員の好意によって、どうにか大学進学を果たせたが生活は困窮していた。

 これまで二人の仲を「一時の遊び」として見過ごしてきた紫音の両親は、二人を別れさせ、良家のオメガを紫音に当てがおうとした。


 紫音は高槻家や世間の傀儡になることに酷く絶望し、それに反抗するようにアオを軟禁した。


 薄暗い部屋に、ガチャガチャと鎖の音が響く。

「アオ、俺はおまえを手放したくない。父や母も、ましてや顔も知らない世間の奴らなんて知ったことではない。おまえの美貌には、どんなに育ちのいいオメガだって敵わない。アオ、俺は美しいものだけ側に置いておきたいんだ。」

「紫音・・・・それじゃあ、誰も幸せになれないよ・・・・紫音も・・・・ちゃんとお話して理解してもらおう?」

「アオは甘いな。話が通じる相手なんかじゃない。・・・・そうだ、アオ、番になろう。そして俺の子を孕め。そうすれば、誰も仲を引き裂こうなんてしない。」

 この時の紫音は、精神が著しく消耗しており、狂っているようにアオには見えた。


「・・・・ん、ぅあ、あ、ぁあ、い、いやだぁ」

 心が凍えるように冷えて痛むのに、身体は裏切りるように熱くなっていく。ぐちゅぐちゅと卑猥な音も下肢の方から聞こえてくる。

「何が嫌なの?アオ?アオのここ、とってもひくついて、俺を受け入れてくれるのに?」

奥を乱暴に突き上げる紫音のペニスが、その先にある子宮口を弄ぶように入っては出てを繰り返している。

「いやぁ、あ、あ、んぅ・・・・ふ、んぁ、あぁ、あっ」

「おまえはずっと俺のものだよ。淫乱で莫迦なおまえが一人で生きていけるわけないだろう?」

「ん・・・・ふぅ、ぼ、ぼくは、一人でも、い、生きていけるっ!!!!!生きていけないのは紫音の方だろっ!!!!」

 紫音を睨みつけてしまった。その瞬間、右の頬に衝撃が走った。平手打ちされたと気づいた時には左の頬にも同じような痛みが走った。

 紫音はぎゅっとアオの赤く色づき立ち上がった小さな尖りを押し潰した。

「うぅっ・・・・い、いたぁい・・・・」

「ふざけたことぬかすなよ。ダラダラと愛液流しっぱなしの淫乱オメガが、誰に物申してるつもりだ?おまえの夫が誰なのか躾し直す必要があるようだな。」

そうしてアオの両脚を肩に担ぐと、紫音は更に激しく律動を開始した。

「あ、あ、あぁっ、いやっ、ぃやだぁあぁぁ!!」

「今から30分だ。おまえが孕むくらい大量の子種を奥に注ぎ込んでやる。なあ、アオ。俺とアオの子どもだったら、とっても可愛いと思うんだけど。」

 紫音は縁ぎりぎりに雁首を引っ掛けて、ゆるゆると浅いところで抽送を繰り返した。それから一気に奥までペニスを差し込む。亀頭が子宮口にブチュリと嵌る感覚がした。更に紫音のペニスの根元が膨張してできた瘤が、みっちりと後孔を塞いでいく。

「ぅあ、あ、あ、あ、やめて、っねがい、いやだぁ」

 アオの悲願も虚しく、紫音は仕上げと言わんばかりに、更に奥深くにペニスをねじ込み、叩きつけるような射精を始めた。

「あぁっ!!!!い、いたい、ぬいてぇ、んんんっ」

「無理に抜いたら、アオがもっと傷ついちゃうからダメ。ああ、アオに似た可愛い女の子だといいなあ。」


 アオが目を覚めると、ベッドの上には自分しかいなかった。内股にどろどろと白濁が伝っている感触が悲しかった。

「・・・・う、くすり、のまなきゃ・・・・」

 行為中に頸を噛まれ、紫音の白濁を腹が膨れるほど受け止めた。アフターピルを飲まなければ妊娠してしまう。アオはアフターピルを探そうとして、しかしそれが非現実的な行為であることを悟った。
 ここはどこだか分からない部屋、ベッド以外には小さな折りたたみ式の机と、ただ据え置かれた便器のみ。そして自分は四肢を鎖で拘束されている。窓もない酷く冷たい部屋で、苦しいだけの番契約。

「っ・・・・あぁ、うあぁあん、し、おん、なんでぇ、やさ、やさしかったのに・・・・」

 アオは声を抑えて泣いた。高校生の頃、クラスで孤立してしまったアオに優しく声をかけてくれた、あの優しかった紫音は、もういない。


 アオが軟禁されて三ヶ月が経とうとしていた。

 アオは無理矢理番契約をされてから、一度も紫音と会うことはなかった。食事や水はアオが寝ている間に、簡素な机の上に置かれていた。それでも最近は、悪阻に似たような症状もあり、まだ平らな自身の腹に新しい命が芽生えたことに喜びさえ感じていた。

(紫音がいなくても、僕がこの子を育てよう。こんなに孤独でも、この子はずっと僕の傍にいてくれたのだから。それに・・・・)

 かつては愛した男の子どもだ。

「ミドリ、きみの名前はミドリだよ。僕が守るから、どうか無事に生まれてきてね。」


 ただ一人、誰もいない部屋で、まだ見ぬ我が子にアオは話しかけ続けた。

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