洗脳 幸子

アサリバター

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プロローグ

愚痴 愚痴 愚痴

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愚痴。

これは 誰でもこぼしてしまうもの。

だけど 程度と言うものがある。

私の母は 父が出張の間 食事をしてても愚痴。

テレビを見てても愚痴。

お風呂に入っても愚痴。

寝るまで愚痴を言う マシーンのような人だ。

この時だけは 母の機嫌もそこそこ良い。

愚痴を聞きたくない お姉ちゃんとお兄ちゃんは さっさと食事をすませ

自分達の部屋へと逃げていく。

いつも取り残される私。

「あんたの父親わね」

ここから 長い愚痴話が始まる。

私は 愚痴を聞くといつも体調か悪くなっていた。

何が原因なのか その時はわからなかったが

感受性が豊かなのだと 先生から教わった。

今でも 人の悪口 ニュースで嫌なことを見たり聞いたりすると まるで自分の事のように感情が揺さぶられ 体調を崩すときもある。

今覚えば よくあんな毎日 愚痴を聞かされ生き延びてこれたのか不思議だ。

母の愚痴は 無理やり父と結婚をさせられ 好きでもない相手と 誰もいない場所に引っ越してきた。

親戚も役立たずで 父は長男なのに まったく何も出来ないから 絶縁になってしまったと。

「こんな男と結婚したせいで」

最後の締めくくりの言葉は いつもこれだ。

策略結婚だったと 母は話すが本当かどうかわからない。

母は好きじゃないかもしれないが 父はきっと好意をもって結婚したと思っている。

なぜなら 出張のために ネックレスやら お土産を買ってくるからだ。

その中でも とても綺麗なパールのネックレスがあったのを覚えている。

渡された母は 無表情でネックレスを見つめていたが 私とお姉ちゃんは その輝きに目を奪われていた。

「いいなぁー。お母さんばっかり」

羨ましがるお姉ちゃんに 母は優しく笑いかけると

「大きくなったら フミにあげようね」

と言って タンスの奥におしやった。

「やった」

とガッツポーズするお姉ちゃん。

タンスの奥には 一度も使わていない 父からの贈り物がしまわれている。

「私も何かほしい」

つい出た言葉。

お母さんは バンッと音をたてタンスを閉めると

「そうね。幸子にも あげてもいいかもしれないね」

怒られると思っていたが 予想外の言葉に

「本当に!」

と声が裏返る。

「よかったね」

隣のお姉ちゃんが 嬉しそうにする私に微笑んだ。

「うん」

力強く頷き なんて今日は良い日なんだろうと思った。

「欲しいなら 全部あげてもいいんだよ。大嫌いな父親のプレゼントを 好きでもない子にあげるなんて 笑える話だね」

ハハハッと笑う母に対し

二人は笑う事が出来なかった。

さっきまで嬉しそうにしていたお姉ちゃんの顔が曇り

「やっぱり 私いらない」

そう言って 自分の部屋へと戻ってしまった。

ニターと笑う母は 私の顔を見て

「幸子はいるわよね?」

「はい」

断れなかった。

「あがったぞー」

お風呂場から 父の声がした。

この言葉は バスタオルを持って来てくれと言う合図だ。

「はいはい」

苛立ちながら 下のタンスからバスタオルを出し 風呂場へと向かって行く母。

私は 閉じられたタンスをジッと見つめていた。

ふと 後ろから影が現れ慌てて振り返るとパンツをはいた父が立っていた。

「どうした?」

聞かれ 小さく首を横に振った。

だけど どうしても聞きたい事があり モジモジと指遊びを始める。

何かを悟った父は 私の横に座り爪切りを始めた。

「何か 言いたい事があるんじゃないのか?」

この言葉に背中を押され 出かかっていた言葉を吐き出した。

「お父さんは お母さんの事が好き?」

爪を切っていた手が止まる。

が すぐにまた爪を切り出し 「どうかなー」と言葉を濁した。

「じゃぁー、私の事は?」

次の質問には 私と目を合わせてくれた父。

今にでも 涙がこぼれそうだった。

ここで 好きだよ 決まってるじゃないかと言ってほしい。

言葉じゃなくてもいい。

頭を優しくなでるだけでも。

しかし 両方が叶う事はなかった。

「お母さんに、何か言われたのか」

はぁと深くため息をつき

「お母さんは 昔から」

ああ また愚痴が始まった。

頭がおかしくなる。

お父さんもやっぱり お母さんと同じ気持ちなんだね。

小さな体は もう限界を迎えていた。

もう 疲れてしまった。

そんな時 友達が現れた。

この子のおかげで 私はまだ生きる事ができる。

だけど この子もまた 私を洗脳させ

良い方向ではなく 悪い方向へと導いていくのだった。
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