海の向こうの永遠の夏

文月みつか

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第2章 永遠の夏

29.張り込み

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 幽霊の正体が彼氏らしいと判明してから、汐里は毎日海岸で彼氏が現れないかと張り込みをしていた。
 たった5分たらずの逢瀬のために毎回めいっぱいのおしゃれをして、あたしから見たら流行遅れのメイクをばっちり決めてくる彼女は、恋する乙女そのものだった。
 あたしはまだあの男の人を信用しきれないので、少し離れた場所から二人を監視することにした。以下はその記録である。

2回目
「セージ! やっぱりそうだ、セージだよね?」
「しおちゃん! この前のは夢じゃなかったのか……」
「ねえ、いつの間にそんなにおじさんになったの?」
「あ、これは……たぶん、仕事で疲れているせいだよ」
「仕事? 大学辞めて就職したの?」
「いや、どうにか卒業した」
「そうなんだ~。よかったね。ねえ、私もそっちに連れていってよ。一緒に暮らしたい」
「それは難しいと思う」
「なんで?」
「なんでって……」

 男は困ったように笑うばかりで答えない。

「私のこと、好きじゃないの?」
「そんなことはないけど……おっと、時間切れみたいだ」
「ああっ、待ってよ!」
 もう、と頬を膨らませる汐里。

3回目
「待ってたよセージ!」
「驚いた。しおちゃん、服装が前と変わってないかい?」
「さすが、気づいてくれて嬉しい」
「その服、どうしたの?」
「これ? ……もちろん、バイトで稼いで買ったの。似合う?」
「そうなんだ……」
「ねえ、ちょっと散歩しようよ」

 汐里、男と腕を組んで歩き出す。砂浜を歩きながら、ほとんど一方的に話しかける。しかしそれもつかの間。

「あ、もう時間だ」
「えーっ、まだ5分くらいしか経ってないのに」
「ごめん。また来る」

 消えていく男。もう、と地団太を踏む汐里。

4回目
「見て見て、ビキニ買ったの!」
「へえ、よく似合ってるよ」
「ちょっと海入ろうよ」
「いや、でも濡れるから……」
「ちょっとでいいから!」

 波打ち際できゃっきゃとはしゃぐ汐里と、それを微笑みながら見ている男。

「爆発しろ」
 これはあたしのひとりごと。

5回目
 夕日が沈む海岸で砂浜に腰を下ろしてぴったりと並ぶ男女。
「どうしていつもほんの少ししか一緒にいてくれないの? もっとずっとそばにいたいのに」
「そうしたいけれど、これが僕の力の限界なんだ」
「いつも幻みたいに消えちゃって、寂しい……」
「ごめんね」
「許さない」

 汐里は甘えるように男の方に寄りかかろうとしたが、「ところで」と男が後ろを振り返ったので肩透かしをくらった。

「いつも自販機のそばからじっとこっちを見ている女の子は誰なのかな?」
「え、千夏? 最近できた友だち。気にしないで。私たちのことうらやんでるだけだから」
「千夏ちゃんっていうのか……」
「ちょっと。デート中にほかの女の子気を取られるのって、よくないよ」
「ごめん。あ、もうそろそろ時間だ……」
「えーっ」

 跡形もなく消えた男がいた空間を悲しげに見つめる汐里……と、汐里が勢いよく立ち上がり、つかつかとこちらへ向かって歩いてきた。

「ちょっと千夏、いい加減にしてよ。セージといられる時間はほんの一瞬なのに、あんたのせいで台無しじゃない」
「そんなつもりはないよ。あたしはただ、あの男が怪しい動きをしないか心配で……」
「怪しい動きって何? 恋人なんだから、手もつなぐしキスだってするわ。あんなふうにじっと見られてたら、それもやりづらいの。迷惑だってこと、わかる?」
「はいはい、すみませんでした。もう次からは監視しないから、好きにしてよ」
「そうしてちょうだい。この退屈な世界での数少ない楽しみなんだから」

 汐里はぷりぷりしながらビーチから引きあげていく。

 まあ、どの道あたしもうんざりしていたところだし。あの男もこっちに危害を加えようとかいう素振りは見られなかった。どうして海の世界に来られるのか、海とはどういう関係なのか、詳しいことはわからないけど、とりあえず今は保留にしておこう。それに、そろそろいったん現実世界に戻らないと、本当に浦島太郎になっちゃう。晴夏の誕生日も迫っている。今年こそはちゃんとお祝いしてあげたい。

 汐里と鉢合わせないように少し間をおいてから、あたしも海岸を立ち去った。
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