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第2章 永遠の夏
19.ずっとこのままならいいのに
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食品売り場でそれぞれ好きな食べ物を買ってクーラーバッグに詰めた。もちろんそのクーラーバッグも売り物だ。
「なんかこういうの、わくわくするね!」
ショッピングカートを押しながら言うと、海は「万引きみたいな背徳感が?」とつぶやく。
違うっつーの! いや、少しはそれもあるけど。
「夏休みに友達と買い物して、夕飯買ってさ。すごく高校生っぽいっていうか、いかにも青春って感じじゃない? 小学生のころはそういうの、できなかったじゃん」
「そうだな……あの頃は自転車に乗る練習に付き合わされたり、肝試しに付き合わされたりしてたっけ。飽きっぽいから急にやめたりするんだよな、千夏は」
「ちょっと、なんかあたしが海のことさんざん振り回してるみたいな言い方で気に食わないんだけど」
まあ、実際そうだったかもしれないけど。
「あ、そうだ。せっかくだから学校行こうよ。あたしが毎日通ってるところ、見てみない?」
海はふっと笑う。
「それだよ。思い浮かんだらすぐやろうってキラキラした顔で言う。変わってないな」
「いつまでも子どもっぽいやつみたいに言わないで! これでもクラスではミステリアスなクールキャラで通してるんだから」
「しゃべるとボロが出るからあんまり思ったことを言わないようにしてるだけだろ?」
ぐっ、貴様どこでそれをっ!!
「うわっ」
動揺してショッピングカートを商品棚にぶつけてしまいあたふたしていたら、「前に自分で言ってたぞ」って海がこともなさげに言った。
……あたしのバカ!!
「まあ別にそれが悪いとは思わないけど。窮屈そうだよな」
遠い目をされてしまった。
ショッピングモールを出たところの坂道を、自転車を押して並んで歩いた。せっかくここぞというタイミングで倉庫から出してきたのに、ほとんど乗っていないような気がする。でも、こうしていると本当に海と通学している気分で、ちょっと新鮮。
「小学校のときも、中学校のときも、ぽろっと本音を言ったらやばいやつのレッテル張られちゃったからさ。高校ではちょっと抑えめでいくことにしたの。そしたら、昔より話しかけてくれる子が多くなって。気が合うかって言われると微妙だけど、あたしにしてはそこそこ上手くやってると思う」
「ふうん」
なによ、その疑わしい目つきは。
「よかったな、いい友達が見つかって」
「話聞いてた? 孤立はしてないけど、すごく仲良しってわけでもないんだってば」
「違うよ。天文部の子のこと」
「ああ……」
万里のことは、海にも話したことがある。
教室にいるときは大人しく猫をかぶっているけれど、それでもここまでやってこられたのは万里がいたからだ。放課後に、用もないのに部室に行って、だらだらと気ままに過ごした。万里のほうはたいてい勉強をしたり本を読んだり部活や委員会の雑務をこなしていたけれど、あたしのとりとめもない愚痴や考えに適度に耳を傾け、けなしたり相づちを打ったりしてくれて……なんていうか、とても自然体でいられた。もしも万里がいなかったら、あたしはどうなっていたのだろう?
でも、この前の流星群の観測会を最後に部活も引退した。会えなくなるわけじゃないけど、万里はしっかりしてるから受験勉強に本格的に力を入れ始めている。いつでも気軽に道連れってわけにはいかない。そのくらいの良識はあたしにだってある。
この世界みたいにいつまでも変わらなければいいのに。今のまま、あたしはずーっとお気楽な高校生で、万里と放課後にだらだらして、晴夏はあたしよりも背が低いままで、困ったときには海がしょうがないなあって顔で助けてくれる。そんなときがずっと続けばいいのに。
ここは居心地がいい。勉強しなくても誰にも怒られない。ずっとぶらぶら歩いていても、変な目で見られたりしない。進路に頭を悩ませる必要もないし、受験も就活もしなくていい。結婚も、老後も心配しなくていい。食べ物も服も住むところも、すべてそろっている。
海のためにとは言ったけれど、本当は密かにこの暮らしに憧れていたのかもしれない。憧れというよりも羨望かな。変化は少ないけれど、あらゆるわずらわしいことや不安なことから解放されていることがうらやましかった。だから勢いに任せてこんなことをしているのかも。
「難しい顔で考えこむなよ。雪が降る」
「ちょっとそれ、どういう意味?」
相変わらず蒸し暑い炎天下の中、あたしたちは長い坂道を上っている。街路樹のつくるつかの間のオアシスみたいな木陰を渡り歩きながら。
「なんかこういうの、わくわくするね!」
ショッピングカートを押しながら言うと、海は「万引きみたいな背徳感が?」とつぶやく。
違うっつーの! いや、少しはそれもあるけど。
「夏休みに友達と買い物して、夕飯買ってさ。すごく高校生っぽいっていうか、いかにも青春って感じじゃない? 小学生のころはそういうの、できなかったじゃん」
「そうだな……あの頃は自転車に乗る練習に付き合わされたり、肝試しに付き合わされたりしてたっけ。飽きっぽいから急にやめたりするんだよな、千夏は」
「ちょっと、なんかあたしが海のことさんざん振り回してるみたいな言い方で気に食わないんだけど」
まあ、実際そうだったかもしれないけど。
「あ、そうだ。せっかくだから学校行こうよ。あたしが毎日通ってるところ、見てみない?」
海はふっと笑う。
「それだよ。思い浮かんだらすぐやろうってキラキラした顔で言う。変わってないな」
「いつまでも子どもっぽいやつみたいに言わないで! これでもクラスではミステリアスなクールキャラで通してるんだから」
「しゃべるとボロが出るからあんまり思ったことを言わないようにしてるだけだろ?」
ぐっ、貴様どこでそれをっ!!
「うわっ」
動揺してショッピングカートを商品棚にぶつけてしまいあたふたしていたら、「前に自分で言ってたぞ」って海がこともなさげに言った。
……あたしのバカ!!
「まあ別にそれが悪いとは思わないけど。窮屈そうだよな」
遠い目をされてしまった。
ショッピングモールを出たところの坂道を、自転車を押して並んで歩いた。せっかくここぞというタイミングで倉庫から出してきたのに、ほとんど乗っていないような気がする。でも、こうしていると本当に海と通学している気分で、ちょっと新鮮。
「小学校のときも、中学校のときも、ぽろっと本音を言ったらやばいやつのレッテル張られちゃったからさ。高校ではちょっと抑えめでいくことにしたの。そしたら、昔より話しかけてくれる子が多くなって。気が合うかって言われると微妙だけど、あたしにしてはそこそこ上手くやってると思う」
「ふうん」
なによ、その疑わしい目つきは。
「よかったな、いい友達が見つかって」
「話聞いてた? 孤立はしてないけど、すごく仲良しってわけでもないんだってば」
「違うよ。天文部の子のこと」
「ああ……」
万里のことは、海にも話したことがある。
教室にいるときは大人しく猫をかぶっているけれど、それでもここまでやってこられたのは万里がいたからだ。放課後に、用もないのに部室に行って、だらだらと気ままに過ごした。万里のほうはたいてい勉強をしたり本を読んだり部活や委員会の雑務をこなしていたけれど、あたしのとりとめもない愚痴や考えに適度に耳を傾け、けなしたり相づちを打ったりしてくれて……なんていうか、とても自然体でいられた。もしも万里がいなかったら、あたしはどうなっていたのだろう?
でも、この前の流星群の観測会を最後に部活も引退した。会えなくなるわけじゃないけど、万里はしっかりしてるから受験勉強に本格的に力を入れ始めている。いつでも気軽に道連れってわけにはいかない。そのくらいの良識はあたしにだってある。
この世界みたいにいつまでも変わらなければいいのに。今のまま、あたしはずーっとお気楽な高校生で、万里と放課後にだらだらして、晴夏はあたしよりも背が低いままで、困ったときには海がしょうがないなあって顔で助けてくれる。そんなときがずっと続けばいいのに。
ここは居心地がいい。勉強しなくても誰にも怒られない。ずっとぶらぶら歩いていても、変な目で見られたりしない。進路に頭を悩ませる必要もないし、受験も就活もしなくていい。結婚も、老後も心配しなくていい。食べ物も服も住むところも、すべてそろっている。
海のためにとは言ったけれど、本当は密かにこの暮らしに憧れていたのかもしれない。憧れというよりも羨望かな。変化は少ないけれど、あらゆるわずらわしいことや不安なことから解放されていることがうらやましかった。だから勢いに任せてこんなことをしているのかも。
「難しい顔で考えこむなよ。雪が降る」
「ちょっとそれ、どういう意味?」
相変わらず蒸し暑い炎天下の中、あたしたちは長い坂道を上っている。街路樹のつくるつかの間のオアシスみたいな木陰を渡り歩きながら。
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