海の向こうの永遠の夏

文月みつか

文字の大きさ
上 下
26 / 37
第2章 永遠の夏

18.はじける泡とショッピングモール

しおりを挟む
 私達が話していると、アク姉が手を鳴らす。普段は、あんな感じだけど、しっかりするところはしている。

「時間も限られてるし、始めようか。私が、申請するね」

 アク姉がそう言って、素早くメニューを操作する。結構慣れた手付きだ。

「アク姉もPvPやってるの?」
「時々、パーティー内でやってるよ。はい」

 メニューから視線を逸らさずに返事をしたアク姉から、申請が届いたので、YESを押して受け入れる。また開始までのカウントダウンが始まるけど、誰一人戦闘準備をしない。身内だから、ここら辺はゆるゆるだ。私もスキルの装備を修行用にする。

「それじゃあ、ハクちゃんから始めてね。私達は、一手遅れて動き出すから」
「うん」

 アク姉も加わって、PvPを用いた修行が始まる。サポートが入ると言っても、基本的に狙うのはトモエさんだけだ。あらゆる妨害を抜けて、ターゲットを倒す。まぁ、倒せないけど。
 高速移動を伴って拳を振い、トモエさんにぶつかる。まだ付加されてない状態なので、トモエさんを、少しだけ押す事が出来た。こうしていると、やっぱりタンクの凄さがよく分かる。
 ここで蹴りも打ち込もうとしたら、

「【リリース】」

 アク姉が、石の壁を複数出してきた。私の足元から出て来たので、こっちの体勢を崩される。乱れた姿勢のまま、壁を蹴って、距離を取る。いや、どちらかと言うと、距離を取らされたって感じだ。

「【フリーズバインド】」

 地面が凍り、私の足を巻き込む。

「ふんっ!!」

 私は、拘束を無理矢理引き剥がす。アク姉の拘束が、身体にやられていたら、梃摺ったと思うけど、足からの拘束なら、【神脚】で引き剥がせる。まぁ、ちょっと賭けではあったけど。

「ふ~ん……足は駄目だね。それと固体での拘束も効果は薄そう。【ウォーターエンブレンス】」

 アク姉の水の拘束だ。あれは、ジャイアントトードの時に見た。全身を包まれるから、多分窒息系のダメージも貰う事になる。それに、水というのがなんとなく嫌だ。今の私は泳げないし。
 再び高速移動をして、石壁の横に向かう。拘束される直前に、私が急加速した事によって、アク姉の拘束からの逃れる事が出来た。思いっきり、地面に足を突き刺して、ブレーキを掛ける。

「【アトラスの支え】」

 メイティさんが付加を掛ける声が聞こえる。その直後、壁を迂回しようとした私の前に、大きな盾が迫ってきた。私の動きを読んだトモエさんが、盾を突き出してきたのだ。
 私は、強く踏み込んで、思いっきり盾を殴った。互いの攻撃が衝突し合ったけど、競り負けたのは、私の方だった。ノックバック率軽減のスキルや防御力上昇のスキルに加えて、メイティさんの支援もある。これに打ち勝つ方法は、殴るではなく蹴りしかない。言ってしまえば、私の蹴りは、トモエさん程のタンクにも打ち勝てる可能性を持っているという事になる。

「【ライトボール】」

 メイティさんの魔法が、私の真横から放たれる。絶妙に死角に入る嫌な位置取りだ。【ライトボール】の速度は、何度も撃たれて覚えた。当たる前にしゃがんで避ける。

「【アースロック】」

 私の足元が割れて、私の足が埋まる。無理矢理足を引っこ抜く。物理的な拘束且つ足に限定したものは、私に通用しないってアク姉も分かっているはずだけど。そんな疑問を抱いたと同時に、アク姉の狙いが分かった。拘束を解くという一手。この一手を足された事で、大きな隙が生まれていた。
 その隙は、目の前にトモエさんがいる状況では、致命的だ。上段から剣が振り下ろされる。

「っ!」

 避ける事は叶わない。だから、両手で刃を挟み込み、受け止めた。真剣白刃取りみたいなものだ。何とか上手くいって良かった。
 体勢的に少しキツいけど、無理矢理トモエさんを蹴る。トモエさんは、すぐに剣を引くのと同時に盾で防いだ。トモエさんとの距離が出来た瞬間、私の目の前を半円状の石の壁が塞いだ。アク姉の妨害だ。すぐに蹴り壊して、トモエさんの方に向かう。

「【ライトレイ】」

 即座に前に転がり込む。背後から放たれた光線が、私の頭上を抜けて行った。

「【ウィンドロック】」

 身体に風が纏わり付いてくる。完全に動きが止まるという事はないけど、暴風の時に身体を動かしにくいのと同じように、身動きが取り辛い。

「んぎっ……ん!」

 思いっきり踏み切って、強引に拘束を突破した。ここで【血武器】を使い、ナイフを三本作る。この三本が、大体短剣分くらいの量だ。ただ、これには問題があって、結局のところ【血武器】を三回使っているのと同じなので、結構HPを消費する。
 力一杯ナイフを投げて、トモエさんを攻撃する。このくらいの攻撃は、トモエさんにとって屁でもないので、盾で弾いた。そのまま突っ込んで行き、途中でホワイトラビットを拾って吸血する。ホワイトラビットを咥えて吸血したまま、トモエさんに突っ込んだ。
 盾を抜くために、蹴りを打ち込む。少しだけトモエさんが押される。追撃で、拳を振う。トモエさんは、本当に盾の扱いが上手い。私の拳は、威力を上手く逃がされる。
 そのまま追撃を続けようとしたけど、すぐにその場から飛び退く。同時に、光の輪が私を追ってきた。
 私は、その光の輪を蹴って消す。一応、物理判定もあるみたい。さらに、そこに光線も飛んでくる。私は、近くにいるスライムを掴んで、光線にぶつける。モンスターを利用するのは、特に禁止されていない。スライムは、一瞬で蒸発した。回復役のはずだけど、スライムは一撃で倒せるみたい。さすがに、回復役でも、そこまで弱いという事はないか。
 こうして、アク姉とメイティさんの妨害を抜けて、トモエさんに攻撃をしていった。トモエさんの反撃を食らったり、メイティさんの攻撃を避け損なってダメージを負う事もあったけど、それはホワイトラビットで回復していった。そんな修行は、今日もきっかり三時間続けた。

「はい。今日は、ここまで」

 アク姉がそう言った事で、修行が終わる。前まで家に住んでいた事もあって、アク姉も夕食の時間をおおよそ把握している。だから、私が言わなくても、中断してくれた。

「はぁ……はぁ……」

 実際に体力を消費した訳では無いけど、精神的には疲れた。アク姉が加わった事で、負担が跳ね上がったのが原因だ。でも、おかげで、色々と分かった事もある。基本的な拘束系の魔法は、【神脚】で無理矢理突破出来るという事だ。その分一手遅れるけど、抜けられると分かったのは、大きな事だと思う。

「お疲れ様。ちゃんと対処出来てたね」

 アク姉が、抱きしめながら頭を撫でてくる。だが、私が疲れている原因は、そのアク姉にある。その事を思い出して、アク姉をジト目で見る。

「アク姉のせいで疲れた」

 アク姉にぼやきながら空を見たのと同時に、一つ思い出した事があった。

「あっ、そうだ。アク姉、夜に時間ある?」
「夜? 明日も休みだから、全然大丈夫だよ」
「ちょっと訊きたい事があるんだけど」
「それじゃあ、パーティーハウスの方に来て。お風呂とかも済ませてって考えると、二十時くらいかな」
「うん。分かった」

 アク姉と約束をして、メイティさんとトモエさんにもお礼を言った後、解散となった。そして、ログアウトした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

脅され彼女~可愛い女子の弱みを握ったので脅して彼女にしてみたが、健気すぎて幸せにしたいと思った~

みずがめ
青春
陰キャ男子が後輩の女子の弱みを握ってしまった。彼女いない歴=年齢の彼は後輩少女に彼女になってくれとお願いする。脅迫から生まれた恋人関係ではあったが、彼女はとても健気な女の子だった。 ゲス男子×健気女子のコンプレックスにまみれた、もしかしたら純愛になるかもしれないお話。 ※この作品は別サイトにも掲載しています。 ※表紙イラストは、あっきコタロウさんに描いていただきました。

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...