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第1章 海の向こう
7.新世界
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心地よい風。葉っぱのざわめき。
あたしは目を開けた。木漏れ日がつくるまだら模様。
木から飛び降りたと思ったのに、まだ木の上にいる。
「大丈夫か?」
「う、うん」
あたしが答えると、海は握っていた手をそっと離した。
何が起きたのか確かめようと、あたしは周囲を見回す。
さっきすぐ下にいたはずの母さんと妹はいなくなっていた。いや、それどころか、公園で遊んでいたほかの子たちの姿もすっかり消えている。
「どういうこと?……」
ベンチと、鉄棒と、すべり台と、ブランコ。植え込みのツツジ。見慣れている公園だけど、何かがおかしい。でも、何がおかしいのか上手く言い表せない。
「……ねえ、みんなどこ行っちゃったの? ママとハルカは?」
「大丈夫。別に消えたわけじゃないから」
海は平然と答える。
「えっ、じゃあなんで……あれっ、あたしの自転車もないよ!?」
いつも入り口のわきに止めているのに。
「大丈夫だって。消えたのは自転車じゃなくて、おれたちのほうだから」
「えー、なに言ってるの? だってあたし、ちゃんとここにいるよ。海もいるじゃん」
「透明人間になったわけじゃないんだ。なんて言ったらいいかな……おれたちは今、別の空間にいる」
「別の空間???」
空想で遊ぶのは好きだけれど、海のほうからそういう突拍子もないことを言い出すのは珍しかった。
「そう。ここにはおれと千夏以外、だれもいない」
「えっ、えっ、それって、別の世界にワープしたってこと!?」
「まあ、そういうふうに言えなくもない」
わくわくと混乱が一緒にやってくる。大冒険の予感と、夢でも見てるのかもしれないという、半信半疑な気持ち。でも、そういう不思議なことを受け入れるくらいには、まだ柔軟な心を持っていた。というかたぶん、待ち望んでいた。
「すごいよ海! こういうの待ってた!」
あたしは樹上で立ちあがり、ぐらぐらと枝葉を揺する。
「……あのさ、もっと疑いなよ。おれがからかってる可能性とか」
「からかってるの?」
「いや、ちがうけど……」
「じゃあ、いいじゃん」
戸惑い気味の海に、あたしは笑みを向ける。そこでわかった、違和感の正体。海の背景の葉っぱの向こうに、本物の海があった。いつもの公園の木の上からじゃ、どうやったってそんな景色は見えっこない。
「海……海がある! 海だよ!!」
見えたままのことをあたしは叫んだ。自分の名前を連呼された海はちょっとふてくされたように「そうだな」と言った。照れているみたい。
「本当だ。ここ、いつもの公園じゃないんだ……」
あたしはいても立ってもいられず、すべるようにして勢いよく木から下りた。
「気をつけろよ」
海が慌てて追いかけてくる。
「夢の中みたいでも、転んだらケガするから」
「へえぇ、そうなの?」
ふざけてほっぺをつねってみると、確かに痛い。あたしは笑いながらくるくると躍った。ついに目が回ってしゃがみこむ。海があきれたように手を差し出し、立ちあがらせてくれた。あたしはその手を離さず、
「よーし、探検しよう!」と引っぱる。
やれやれ、というように海は肩をすくめるが、抵抗はしない。
あたしは目を開けた。木漏れ日がつくるまだら模様。
木から飛び降りたと思ったのに、まだ木の上にいる。
「大丈夫か?」
「う、うん」
あたしが答えると、海は握っていた手をそっと離した。
何が起きたのか確かめようと、あたしは周囲を見回す。
さっきすぐ下にいたはずの母さんと妹はいなくなっていた。いや、それどころか、公園で遊んでいたほかの子たちの姿もすっかり消えている。
「どういうこと?……」
ベンチと、鉄棒と、すべり台と、ブランコ。植え込みのツツジ。見慣れている公園だけど、何かがおかしい。でも、何がおかしいのか上手く言い表せない。
「……ねえ、みんなどこ行っちゃったの? ママとハルカは?」
「大丈夫。別に消えたわけじゃないから」
海は平然と答える。
「えっ、じゃあなんで……あれっ、あたしの自転車もないよ!?」
いつも入り口のわきに止めているのに。
「大丈夫だって。消えたのは自転車じゃなくて、おれたちのほうだから」
「えー、なに言ってるの? だってあたし、ちゃんとここにいるよ。海もいるじゃん」
「透明人間になったわけじゃないんだ。なんて言ったらいいかな……おれたちは今、別の空間にいる」
「別の空間???」
空想で遊ぶのは好きだけれど、海のほうからそういう突拍子もないことを言い出すのは珍しかった。
「そう。ここにはおれと千夏以外、だれもいない」
「えっ、えっ、それって、別の世界にワープしたってこと!?」
「まあ、そういうふうに言えなくもない」
わくわくと混乱が一緒にやってくる。大冒険の予感と、夢でも見てるのかもしれないという、半信半疑な気持ち。でも、そういう不思議なことを受け入れるくらいには、まだ柔軟な心を持っていた。というかたぶん、待ち望んでいた。
「すごいよ海! こういうの待ってた!」
あたしは樹上で立ちあがり、ぐらぐらと枝葉を揺する。
「……あのさ、もっと疑いなよ。おれがからかってる可能性とか」
「からかってるの?」
「いや、ちがうけど……」
「じゃあ、いいじゃん」
戸惑い気味の海に、あたしは笑みを向ける。そこでわかった、違和感の正体。海の背景の葉っぱの向こうに、本物の海があった。いつもの公園の木の上からじゃ、どうやったってそんな景色は見えっこない。
「海……海がある! 海だよ!!」
見えたままのことをあたしは叫んだ。自分の名前を連呼された海はちょっとふてくされたように「そうだな」と言った。照れているみたい。
「本当だ。ここ、いつもの公園じゃないんだ……」
あたしはいても立ってもいられず、すべるようにして勢いよく木から下りた。
「気をつけろよ」
海が慌てて追いかけてくる。
「夢の中みたいでも、転んだらケガするから」
「へえぇ、そうなの?」
ふざけてほっぺをつねってみると、確かに痛い。あたしは笑いながらくるくると躍った。ついに目が回ってしゃがみこむ。海があきれたように手を差し出し、立ちあがらせてくれた。あたしはその手を離さず、
「よーし、探検しよう!」と引っぱる。
やれやれ、というように海は肩をすくめるが、抵抗はしない。
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