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3.なんとかしなくちゃ
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ぼくははじかれたように立ち上がり、家を出た。でもどうしたらいいのかわからなくて、玄関の前でおろおろしてしまう。
どこかからカレーの匂いが漂っている。窓を開けているのか、小さい子のキャーッという歓声が聞こえてくる。週末の、ふつうの夕飯時だ。戦争だの、世界の終わりだの、やっぱりうそなんじゃないかと思えてくる。
「何してるんだヨシオくん。隣の姉ちゃんなら引っ越したぞ」
突然声を掛けられ、ぼくは飛び上がった。管理人さんがすぐそこに立っていた。考え事をしていたせいで気づかなかったみたいだ。
「べ、別にお姉さんに用があるわけじゃ……」
「そうか? 気難しい顔で右往左往してるから、てっきり告白でもするつもりなのかと思ったよ」
たしかに、ぼくの家の隣にはちょっときれいなお姉さんが住んでいて、時々おしゃべりすることはあった。引っ越しちゃったのか、残念だな。
「いや、そんな場合じゃなかった。管理人さん、ぼくのうち大変なことになってるんです。パパとママが出て行っちゃって……」
「ああ、知ってるよ。さっき君のパパから連絡が来たからね。君たちを保護してほしいって。もうじきここは戦場になる」
なんだ、何も知らなかったのはぼくだけか!?
「はい、でもぼくはこのまま引き下がるわけにはいかないんです。でないと、リセットされちゃう」
「リセット?」
管理人さんは眉をひそめる。大いなる意志のことは知らないみたいだ。
「とにかく、パパとママを止めなきゃいけないんです」
「気持ちはわかるが、大人の世界の話だ。君ひとりがあがいたところで、どうにもならないだろう」
「そうかもしれないけど、ああ、どうしたらいいんだろう……」
シュークリームだ、という妹の声が蘇る。
「そうだ! 管理人さん、パパとママが出会うきっかけになったケーキ屋さんのこと、知ってる?」
「ああ、たしか商店街の安寧堂って店だ。それがどうかしたかい?」
さすが、ぼくらの後見人だけのことはある。
「そこのシュークリームを買ってパパとママに食べさせれば、思い直してくれるかもしれない。ああでも、ふたりがどこにいるのかわからないや」
「知ってるぞ」
と管理人さんが得意げに言う。
「え、なんで!?」
「このマンションの管理人だからだ。君のママは最上階に、パパは地下1階にいる。届け出もされてるぞ。ヨシオくん、追いかけてみなかったのか?」
「いや、だって」
そんな近くにいるとはふつう思わないよ。
「光の国の拠点と闇の国の拠点が同じ建物の中にあるなんて、おかしな話だよな。どこまで張り合えば気が済むのやら……つまり君たち家族は、その二大勢力のちょうど中間にいて監視されていたわけだが」
ゾッとする話だけど、今は構っていられない。ぼくは管理人さんに妹のことを頼んで、夜の街へ飛び出した。安寧堂を目指して。
どこかからカレーの匂いが漂っている。窓を開けているのか、小さい子のキャーッという歓声が聞こえてくる。週末の、ふつうの夕飯時だ。戦争だの、世界の終わりだの、やっぱりうそなんじゃないかと思えてくる。
「何してるんだヨシオくん。隣の姉ちゃんなら引っ越したぞ」
突然声を掛けられ、ぼくは飛び上がった。管理人さんがすぐそこに立っていた。考え事をしていたせいで気づかなかったみたいだ。
「べ、別にお姉さんに用があるわけじゃ……」
「そうか? 気難しい顔で右往左往してるから、てっきり告白でもするつもりなのかと思ったよ」
たしかに、ぼくの家の隣にはちょっときれいなお姉さんが住んでいて、時々おしゃべりすることはあった。引っ越しちゃったのか、残念だな。
「いや、そんな場合じゃなかった。管理人さん、ぼくのうち大変なことになってるんです。パパとママが出て行っちゃって……」
「ああ、知ってるよ。さっき君のパパから連絡が来たからね。君たちを保護してほしいって。もうじきここは戦場になる」
なんだ、何も知らなかったのはぼくだけか!?
「はい、でもぼくはこのまま引き下がるわけにはいかないんです。でないと、リセットされちゃう」
「リセット?」
管理人さんは眉をひそめる。大いなる意志のことは知らないみたいだ。
「とにかく、パパとママを止めなきゃいけないんです」
「気持ちはわかるが、大人の世界の話だ。君ひとりがあがいたところで、どうにもならないだろう」
「そうかもしれないけど、ああ、どうしたらいいんだろう……」
シュークリームだ、という妹の声が蘇る。
「そうだ! 管理人さん、パパとママが出会うきっかけになったケーキ屋さんのこと、知ってる?」
「ああ、たしか商店街の安寧堂って店だ。それがどうかしたかい?」
さすが、ぼくらの後見人だけのことはある。
「そこのシュークリームを買ってパパとママに食べさせれば、思い直してくれるかもしれない。ああでも、ふたりがどこにいるのかわからないや」
「知ってるぞ」
と管理人さんが得意げに言う。
「え、なんで!?」
「このマンションの管理人だからだ。君のママは最上階に、パパは地下1階にいる。届け出もされてるぞ。ヨシオくん、追いかけてみなかったのか?」
「いや、だって」
そんな近くにいるとはふつう思わないよ。
「光の国の拠点と闇の国の拠点が同じ建物の中にあるなんて、おかしな話だよな。どこまで張り合えば気が済むのやら……つまり君たち家族は、その二大勢力のちょうど中間にいて監視されていたわけだが」
ゾッとする話だけど、今は構っていられない。ぼくは管理人さんに妹のことを頼んで、夜の街へ飛び出した。安寧堂を目指して。
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