3 / 6
3 おもちゃ箱の危機
しおりを挟む
コロンコは箱の底のほうに縮こまって、息を殺していた。とてつもなく怖ろしかったが、トモキという少年はさきほどからおもちゃ箱に入っているほかのおもちゃに興味津々で、コロンコには気づいていない。
「マーヤ、これなに?」
「ああ、レジスターだよ。ちゃんと計算もできるの」
『チャリーン、358円デス』
「ほんとだ、すげー!」
「やっぱり遊んでるじゃないの!」
うまくいけば、このまま見つからずにやり過ごせるか隠しもしれない。コロンコは隙あらばここから抜け出そうと思ったが、あいにくいちばん近い隠し通路の前にはマーヤがいた。
もっといろんなところに通路をつくっておくべきだった!
「うわあ、このワンピースかわいい」
「おばあちゃんが作ってくれたの。今度、リンちゃんのも頼んであげる!」
「え、でも悪いよ……」
「そうそう、リンコにはそんな女の子っぽい服、似合わねーよ」
「なんですって!?」
「ほら、そうやってすぐ怒るから」
「やめなよトモくん。そうだ、トモくんにもおそろいでかわいい服作ってもらおうよ。ふたりとも、絶対似合うよ!」
「げっ、やめろよ。こいつとおそろいなんてまっぴらだよ」
「こっちだって! ねえマーヤ、頼むからおそろいは勘弁して」
「えー、いいと思ったんだけどなあ。ふたごコーデ」
「オレたち、そういうのはもう卒業したの」
「そうそう。あ、でもマーヤとおそろいならうれしいかも」
「ってオイ、抜けがけかよ」
「ああ、いいねー。じゃあ3人でおそろいにしちゃおっか。漫才トリオみたいで楽しそう」
「ってなんでだよ!!」
トモキとリンコがそろってツッコミを入れる。
「ほら、すごく息ぴったり!」
マーヤがにこにこしてふたりを見比べた。
一方コロンコは、この長いやりとりのあいだに、そろりそろりとおもちゃ箱から抜け出すことに成功した。あとは、本棚の裏にまわるだけ!
「はー、しかしなかなか見つからないねー、小人さん」
「うーん、やっぱり昼間は寝てるのかなあ?」
「あ、ジェンガあるじゃん。あとでやろーぜ」
「また遊びはじめる……」
「あとでって言ってるじゃん。そっちこそ、ワンピースに気を取られてたくせにさ」
「わかったわよ! あたしもちゃんとやるからあんたもしっかり……」
「うわっ!! なんだろコレ!?」
突然マーヤが素っ頓狂な声を上げた。コロンコもびっくりしておもちゃ箱の後ろに隠れた。
「なになに?」
「見て、本棚と机の隙間のところ。小さなドアがついてるの!」
「……うわっ、ほんとだ! もともとはこんなのなかったの?」
「うん! きっと小人さんが作ったんだよ。いいなあ。入ってみたいなあ」
コロンコは心の中で舌打ちをした。なぜ、あんないかにも「ドアですよ」という見た目の真っ赤な扉にしてしまったのか。ヤカクレの慣例通り、目立たないように壁と同じ色の資材を使うべきだった! 自分は調子に乗りすぎていたのだとコロンコは改めて深く反省した。おかげであのドアからは二度と出入りできなくなった。
仕方ない、別の部屋から天井裏へ向かうとしよう。
そう思って、振り返ったときだった。真正面に、巨大な少年が膝をつき、じっとこちらを見ていた。刹那、張り詰めた空気が漂う。
と、次の瞬間、コロンコは全速力で走りだした!
……しかし逃亡は失敗に終わった。ふだんは3本目の手として役立つ長い尻尾があだとなり、先っちょを床に押さえつけられてしまったのだ。
あわれ、コロンコ! 愉快な居候の日々もこれまでだ。これからはペットか実験動物として、さんざんもてあそばれた挙げ句、解剖されてしまうのだろう。
トモキとかいうわんぱく小僧がコロンコの尻尾をつまみあげ、逆さまの宙づりにした。
住居適性検査シートには、家主の友人にわんぱく小僧がいないかどうかも付け加えておくべきだ、とコロンコは思った。
コロンコは絶望し、両手で抱えていたオレンジ色のゴムボールを取り落とした。ゴムボールは床にぶつかり、力なくこてろんと弾んだ。
トモキ少年の顔に笑みが広がる。
「つーかまえた!」
リンコとマーヤも何事かと振り返る。マーヤはあっと声を上げた。
「この子だよ! わたしが探してた小人さん!」
「ええっ、本物!? 見せて見せて!」
「ここに入っていたのかな?」
マーヤはおもちゃ箱をひっくり返したが、むろん、コロンコ以外のヤカクレはそこにいない。
トモキは空っぽになったおもちゃ箱にコロンコを入れた。
コロンコはすぐさま脱出を試みた。が、乱雑なおもちゃの足掛かりがなければ、つるつるした箱をのぼることは到底不可能だった。バシバシと側面をたたいてみるが、それほどやわなつくりでもない。コロンコは両手を箱の壁につき、ずるずると沈みこんで膝をついた。
「こんにちは小人さん! わたし、マヤっていうの!マーヤって呼んでね」
「や、やばい!! なんかすごくかわいいんだけど……」
「っていうか、こいつすげー落ちこんでない?」
「そっか、いきなりこんなことしたからびっくりさせちゃったよね……」
「あんたが乱暴にするからよ! マーヤと小人に謝れ!」
「見つけてやったのに、なんで謝らなきゃいけないんだよ」
「あっ、そうだ。お菓子あげたら喜んでくれるかな?」
箱の隅っこで小さくなって膝を抱えているコロンコのもとに、マヤの巨大な手が降りてきた。コロンコはすぐに飛びのいて身をひるがえしたが、手はそれ以上追ってこない。代わりに、カラフルな包み紙のキャンディが3つおいてあった。
そんなものと引き換えにこの身を売れとは、ずいぶん安く見られたものだ! コロンコはまたぷいとそっぽを向いて縮こまった。
「あれ? 夕べはすごくうれしそうに運んでたのに」
「もっと珍しいものがいいんじゃない?」
「ちょっとおじゃまするわよー」
リンコがまさに提案したところに、マーヤの母がお盆にジュースとおやつをのせて部屋へやってきた。子どもたちはとっさにおもちゃ箱の前に立ちはだかった。
今度はなんだ? とコロンコは重い頭をもたげた。
「マーヤ、これなに?」
「ああ、レジスターだよ。ちゃんと計算もできるの」
『チャリーン、358円デス』
「ほんとだ、すげー!」
「やっぱり遊んでるじゃないの!」
うまくいけば、このまま見つからずにやり過ごせるか隠しもしれない。コロンコは隙あらばここから抜け出そうと思ったが、あいにくいちばん近い隠し通路の前にはマーヤがいた。
もっといろんなところに通路をつくっておくべきだった!
「うわあ、このワンピースかわいい」
「おばあちゃんが作ってくれたの。今度、リンちゃんのも頼んであげる!」
「え、でも悪いよ……」
「そうそう、リンコにはそんな女の子っぽい服、似合わねーよ」
「なんですって!?」
「ほら、そうやってすぐ怒るから」
「やめなよトモくん。そうだ、トモくんにもおそろいでかわいい服作ってもらおうよ。ふたりとも、絶対似合うよ!」
「げっ、やめろよ。こいつとおそろいなんてまっぴらだよ」
「こっちだって! ねえマーヤ、頼むからおそろいは勘弁して」
「えー、いいと思ったんだけどなあ。ふたごコーデ」
「オレたち、そういうのはもう卒業したの」
「そうそう。あ、でもマーヤとおそろいならうれしいかも」
「ってオイ、抜けがけかよ」
「ああ、いいねー。じゃあ3人でおそろいにしちゃおっか。漫才トリオみたいで楽しそう」
「ってなんでだよ!!」
トモキとリンコがそろってツッコミを入れる。
「ほら、すごく息ぴったり!」
マーヤがにこにこしてふたりを見比べた。
一方コロンコは、この長いやりとりのあいだに、そろりそろりとおもちゃ箱から抜け出すことに成功した。あとは、本棚の裏にまわるだけ!
「はー、しかしなかなか見つからないねー、小人さん」
「うーん、やっぱり昼間は寝てるのかなあ?」
「あ、ジェンガあるじゃん。あとでやろーぜ」
「また遊びはじめる……」
「あとでって言ってるじゃん。そっちこそ、ワンピースに気を取られてたくせにさ」
「わかったわよ! あたしもちゃんとやるからあんたもしっかり……」
「うわっ!! なんだろコレ!?」
突然マーヤが素っ頓狂な声を上げた。コロンコもびっくりしておもちゃ箱の後ろに隠れた。
「なになに?」
「見て、本棚と机の隙間のところ。小さなドアがついてるの!」
「……うわっ、ほんとだ! もともとはこんなのなかったの?」
「うん! きっと小人さんが作ったんだよ。いいなあ。入ってみたいなあ」
コロンコは心の中で舌打ちをした。なぜ、あんないかにも「ドアですよ」という見た目の真っ赤な扉にしてしまったのか。ヤカクレの慣例通り、目立たないように壁と同じ色の資材を使うべきだった! 自分は調子に乗りすぎていたのだとコロンコは改めて深く反省した。おかげであのドアからは二度と出入りできなくなった。
仕方ない、別の部屋から天井裏へ向かうとしよう。
そう思って、振り返ったときだった。真正面に、巨大な少年が膝をつき、じっとこちらを見ていた。刹那、張り詰めた空気が漂う。
と、次の瞬間、コロンコは全速力で走りだした!
……しかし逃亡は失敗に終わった。ふだんは3本目の手として役立つ長い尻尾があだとなり、先っちょを床に押さえつけられてしまったのだ。
あわれ、コロンコ! 愉快な居候の日々もこれまでだ。これからはペットか実験動物として、さんざんもてあそばれた挙げ句、解剖されてしまうのだろう。
トモキとかいうわんぱく小僧がコロンコの尻尾をつまみあげ、逆さまの宙づりにした。
住居適性検査シートには、家主の友人にわんぱく小僧がいないかどうかも付け加えておくべきだ、とコロンコは思った。
コロンコは絶望し、両手で抱えていたオレンジ色のゴムボールを取り落とした。ゴムボールは床にぶつかり、力なくこてろんと弾んだ。
トモキ少年の顔に笑みが広がる。
「つーかまえた!」
リンコとマーヤも何事かと振り返る。マーヤはあっと声を上げた。
「この子だよ! わたしが探してた小人さん!」
「ええっ、本物!? 見せて見せて!」
「ここに入っていたのかな?」
マーヤはおもちゃ箱をひっくり返したが、むろん、コロンコ以外のヤカクレはそこにいない。
トモキは空っぽになったおもちゃ箱にコロンコを入れた。
コロンコはすぐさま脱出を試みた。が、乱雑なおもちゃの足掛かりがなければ、つるつるした箱をのぼることは到底不可能だった。バシバシと側面をたたいてみるが、それほどやわなつくりでもない。コロンコは両手を箱の壁につき、ずるずると沈みこんで膝をついた。
「こんにちは小人さん! わたし、マヤっていうの!マーヤって呼んでね」
「や、やばい!! なんかすごくかわいいんだけど……」
「っていうか、こいつすげー落ちこんでない?」
「そっか、いきなりこんなことしたからびっくりさせちゃったよね……」
「あんたが乱暴にするからよ! マーヤと小人に謝れ!」
「見つけてやったのに、なんで謝らなきゃいけないんだよ」
「あっ、そうだ。お菓子あげたら喜んでくれるかな?」
箱の隅っこで小さくなって膝を抱えているコロンコのもとに、マヤの巨大な手が降りてきた。コロンコはすぐに飛びのいて身をひるがえしたが、手はそれ以上追ってこない。代わりに、カラフルな包み紙のキャンディが3つおいてあった。
そんなものと引き換えにこの身を売れとは、ずいぶん安く見られたものだ! コロンコはまたぷいとそっぽを向いて縮こまった。
「あれ? 夕べはすごくうれしそうに運んでたのに」
「もっと珍しいものがいいんじゃない?」
「ちょっとおじゃまするわよー」
リンコがまさに提案したところに、マーヤの母がお盆にジュースとおやつをのせて部屋へやってきた。子どもたちはとっさにおもちゃ箱の前に立ちはだかった。
今度はなんだ? とコロンコは重い頭をもたげた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
もふもふ公園ねこ物語~愛と平和のにくきゅう戦士にゃんにゃん~
菜乃ひめ可
児童書・童話
たくさんの猫仲間が登場する、癒やしコメディ。
のんびり天真爛漫なキジトラ子猫が、みんなに助けられながら「にゃっほーい♪」と成長していく物語です。
自称『にくきゅう戦士』と名乗るキジトラ子猫のにゃんにゃんは、果たして公園の平和を守れるのか!?
「僕はみんなの味方ニャ!」
読んでいるときっと。
頭もココロもふわふわしてきますよぉ〜(笑)
そう! それはまるで脳内お花(◕ᴗ◕✿)?
真っ白なネコのぬいぐるみププが自分の色を見つけるまでのおはなし
緋島礼桜
児童書・童話
やあみんな、ボクの名前はププ。真っ白色のネコのぬいぐるみさ!
ぬいぐるみはおしゃべりなんかしないって? そう、ボクはご主人であるリトルレディ、ピリカの魔法でおしゃべりしたり動けたりできるようになったんだ。すばらしいだろう?
だけど、たった一つだけ…ボクにはゆずれないもの、頼みたいことがあったんだ。
それはなんだって? それはね、このボクのお話しを読んでくれればわかるさ。
笑いあり涙ありのステキな冒険譚だからね、楽しめることは間違いなしさ!
+++
此方は小説家になろうにて投稿した小説を修正したものになります。
土・日曜日にて投稿していきます。
6話完結の短めな物語なのでさくっと読んでいただけるかと思います。ヒマつぶし程度でご一読いただければ幸いです。
第1回きずな児童書大賞応募作品です。
湖の民
影燈
児童書・童話
沼無国(ぬまぬこ)の統治下にある、儺楼湖(なろこ)の里。
そこに暮らす令は寺子屋に通う12歳の男の子。
優しい先生や友だちに囲まれ、楽しい日々を送っていた。
だがそんなある日。
里に、伝染病が発生、里は封鎖されてしまい、母も病にかかってしまう。
母を助けるため、幻の薬草を探しにいく令だったが――
ターシャと落ちこぼれのお星さま
黒星★チーコ
児童書・童話
流れ星がなぜ落ちるのか知っていますか?
これはどこか遠くの、寒い国の流れ星のお話です。
※全4話。1話につき1~2枚の挿絵付きです。
※小説家になろうにも投稿しています。
賢二と宙
雨宮大智
児童書・童話
中学校3年生の宙(そら)は、小学校6年生の弟の賢二と夜空を見上げた⎯⎯。そこにあるのは、未だ星座として認識されていない星たちだった。ふたりの対話が、物語の星座を作り上げてゆく。流れ星を見た賢二はいう。「願い事を三回言うなんて、出来ないよ」兄の宙が答えた。「いつでもそうなれるように、準備しておけってことさ」。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
ちいさな哲学者
雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。
【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】
めちゃくちゃやさしい鬼もいる
未来の小説家
児童書・童話
みんながおもっている鬼ってどんな鬼?
鬼ってこわいとみんなおもってるかもしれないけれどやさしい鬼もかわいい鬼もいるんだよ。
※第13回絵本児童書大賞エントリー作品です
月からの招待状
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
児童書・童話
小学生の宙(そら)とルナのほっこりとしたお話。
🔴YouTubeや音声アプリなどに投稿する際には、次の点を守ってください。
●ルナの正体が分かるような画像や説明はNG
●オチが分かってしまうような画像や説明はNG
●リスナーにも上記2点がNGだということを載せてください。
声劇用台本も別にございます。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる