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第四話・暗夜航路は存外楽しい
しおりを挟む「はにゃ~ん!」
「何それ」
いやいや、変な声もでますがな。
列車はブルーウッズの港に到着。連絡船に列車を押し込む作業中は、揺れもあるし音も大きいからってんで車外で待機するように言われたんだけど、確認したら任意とのことなので車中に残った。
連絡船は後ろ向きに桟橋に止まってて、のわーんと! 前展望の車窓から船内のレールへの連結を特等席でご観覧! そして、車体が船内に飲み込まれていく様は実に壮観です。
船内に駅があるとターニーが言ってたけど、実際はホームがあるだけ。でもおおむね満足です、眼福眼福。
「いやもうこれって、スーパースペシャルウルトラナイスルッキングメモリーズファッキューだよね!」
興奮のあまり、ボキャブラリー崩壊。
「ん? 何て?」
「いやだから、ミラクルハイパースペクタルマジカルマザーファッキン……」
「さっきと変わっとるがな!」
まぁいつまでも列車内にいてもしゃーないので、荷物は置いてホームに降りる。列車詰め込みの間に外で待機してた人たちの一部が、逆に乗り込んできた。車窓から見えるのは船内側の壁なんだけど、まぁ旅の楽しみ方は人それぞれよね。
船のみの乗船客のようにコンパートメントや寝台は用意されていないけど、船内施設の利用や自由席ゾーンで船旅を楽しめるらしい。つか泊まるのは寝台車の中なので無問題。
時刻は間もなく二十一時。夜間航行をそんなにたくさん楽しめるわけじゃないけど、せっかくの船旅を船内の施設だけで過ごすのは無粋というもの。
「ねぇ、デッキ行こう! デッキ!」
「はいはい…」
ハイテンションの私に辟易しているターニーの腕を強引に引いて、一路デッキへ。
「うーん、いい風!」
潮風が肌に心地いい。ひと際大きな汽笛が三回、連絡船の出航を告げる。
いよいよ出港だ! 船がゆっくりと動き出し、加速していく。それに伴い、顔に当たる潮風が強くなる。
「ゲホッ、ゴホッ、ヴエェッホッ! ゲホッゴホッ!」
ん? ちょっと離れた場所で、人間族のおじさんが咳き込んでいた。
このときはね、特に気にもしなかったんだ。気道に唾液でも入ったんかなと。
もしこのときに異常にきづいていたら、そして治療してあげていたら『あんなこと』にはならなかったかもしれない。防げたかもしれない。『たら・れば』を言ってたらキリがないんだけどね。
「このままずっといたら風邪ひいちゃうよ、ティア」
「そだね」
そして私とターニーは、デッキを後にした。途中、あの聖女さんとすれ違ったけどお互いに会釈してそれだけ。そして、再び湧き上がる謎の感覚。
「うーん……」
「……」
私もターニーも、この感覚にどういう名前があるか知らない。それに初めての感覚なので、たとえようがないのだ。
「ボクら、本当にアンさんと逢ったことないっけ?」
「……アンさん? 誰?」
「え?」
聞き覚えがあるような、ないような。
「アンさんて誰?」
私の台詞じゃない。ターニーだ。
「ターニーが言ったんだよ?」
「あれ?」
そういやさっき、立場は真逆で似たような会話しなかったっけ?
「……何かね、記憶の一部を強引に削ぎ落されたみたいな不快感あるよね」
自分で言っておいてなんだけど、気づく。そう、これだ。これなのだ――って、そんなことされた経験はないんだけど。
ただ、なんとなくそう思った。
「それ! ティアうまいこと言う‼」
そしてターニーも、同じ感覚を有していたみたい。
必死に記憶の奥へ奥へと深層意識を向けるのだけど、潜る度にどんどん忘れていく。
「さっきターニー、あの聖女さんのことを何さんて言ってたんだっけ?」
「それは、ほら、アレだよ。えーと、アレ?」
ターニーも忘れかけてる、というか忘れてしまった。ついさっき交わした会話なのに。
「気になるね」
「うん、気になる」
「この今の会話も、ボクらはまた忘れてしまうのかな? そうだ、いいこと思いついた!」
「何々?」
「ペン持ってる?」
あ、なるほど。私は、普段は髪飾りにしている羽ペンを髪から外してターニーに渡す。
「聖女、名前知ってたけど何故か忘れた、記憶がどんどん削られていく感じ……えーと、ほかにメモることある?」
「……」
「んー、じゃあこんなもんかな。ペンありがと、ティア」
「……」
「ティア?」
私の怒りのコークスクリューブローが唸り、ターニーの鼻っ柱にめり込む。そのまま、ターニーが吹っ飛んでいった。
「私のっ、私の妖精の羽はメモ帳ではなーいっ!」
まったくもう! こんな扱い、前世の父に幼いころの私のおでこを使ってゆで卵の殻を割られて以来だ。私を何だと思ってるのか。
私の妖精の羽は霊体みたいなものだけど、このペンは霊体にも書けるスグレモノだったのが災いした。ちなみに、ソラ作の魔導具なのね。
とりあえずひっくり返っているターニーを残し、コンシェルジュに。
受付の優しそうな海豹人のお姉さんに、背中の羽に落書きされたメモを本当のメモ用紙に書き写してもらう。ついでに、ウェットティッシュのような魔導布で羽のメモ書きを落としてくれた。お姉さん、優しい!
メモを預かりお礼を言って、とりあえず船客用の自由座席に。百人分くらいの席があって、普段は前席の背側に折りたたまれてるけど簡易テーブルがある。新幹線をちょっと思い出すな。
周囲は、ショッピングモールによくあるフードコート? そんな感じでいろんな飲食店の出店が軒を連ねていた。
そしてメモを見ながら、先ほどの記憶と照らし合わせてみたんだけど。
「『名前知ってたけど何故か忘れた』……何コレ」
こんなことあったっけ? いやいやあったから書いたんだよ、あのアホが。
(確実に記憶を削ぎ落されてる。気のせいとか、もうそういうレベルじゃないね)
何か、大事なキーワードをあの聖女さんが言ってた気がする。何だったか、こう時間に関わるような何か。でも思い出せない。
「うがーっ! イラつく!」
「何荒れてんの」
って言いながら横に座ったのは、
「あ、バーニー」
「ターニー! 誰が兎か」
まだ頬腫れてんなー、どうでもいいけど。
「ハイ。酔い覚ましにはなると思う。どっちがいい?」
そういや飲み物らしき紙コップ、二つ持ってる。冷たいグリーンティーと柑橘のジュースだ。
「柑橘ので」
「ほい」
ターニーから片手で受け取りながら、残る一方でターニーの頬を優しく触る。
「『神恵』!」
出力はセーブしたけど、ターニーの頬は私に殴られる前の綺麗な状態に戻った。
「お、サンクス」
いえいえこちらこそ、ありがとうビームいただきました。
「へぇ、ちゃんと魔力が減った。この程度の治癒でも『消費』扱いにはなるんだ」
「そうなの?」
「ん。そうだ、ひらめいた!」
「……通報するよ?」
ちぇっ。ターニーをタコ殴りにして治癒、というのを無限に繰り返せばと思ったんだけど。
「どこの通り魔よっ!」
勘のいい奴。ま、軽口はそこまでにしておいて。
「でね、コレなんだけど」
とりあえず、ターニーにメモを手渡す。
「あー、さっき私が羽に書い……悪かったってば、睨まないでよ」
ふん。さすがにビックリしたんだからね⁉
「ふむ……どれどれ?」
読み進めるうちに、ターニーの表情が曇る。
「本当にボク、こんなこと書いたの?」
「書いた本人ですらコレかぁ」
もう嘆息しか出ない。
「何だろう、もうあの聖女さん呪われてんじゃないの?」
「あはは! あるかも!」
ターニーはお気楽に笑ってるけど、もう本当に何がどうなってんだか。ただただ、倦怠感だけが押し寄せてくる。
とりあえず、時間も遅いので列車に戻った。そして個室に帰還、ターニーは何だか眠そうだ。私も、思わずあくびが出そうになる。
「とりあえずボクは先に休む、おやすみ」
「おやすみ、ターニー」
私も布団をかぶる。
だけど、私は結果的に朝まで眠ることができなかった。長い長い悲劇の夜が、これから始ろうとしていたんだ。
ドンドンドン! 乱暴にノックされる扉。寝入ってすぐのことだ。ターニーと二人、ボーッと寝ぼけ眼で顔を突き合わせて、視線は扉へ。
「お客様、お客様‼ ご無事でしょうか⁉」
無事? 何が? 誰が?
「あの、何ごとですか?」
扉を開けると、人間族の男性の車掌さん。
「今船内で、急病患者が凄い勢いで発生しているんです!」
「⁉」
「お客様がたはご無事ですか? 咳が出たり、息苦しくなったりはありませんか?」
いや、そんなことはないけど。ターニーも、ちょっと眠たそうにしてるぐらいで異変はなさそうだし? いったい、何ごとだろうか。
「伝染病の可能性があります。しばらく指示があるまで列車外には出ずに待機してください」
「わかりました!」
そして思い出した。デッキで、凄い咳き込んでる人がいたよね。関係あるかな?
「うーん、何か大変なことになってきたね」
「ま、私がいるからね。最終的にはなんとかするよ」
「さっすがティア、頼りになるぅ~!」
それはともかくとして、だ。伝染病ならまだいいんだけど、呪いとかその類だったら私にもどうにもできない。願わくば、『神恵』でなんとかできる事案であってほしいのだけど。
「ちょっと出てくる」
「はーい。ボクは少し寝るね」
「……うん」
ちょっと複雑。
「いやっ、申し訳ないとは思うんだよ‼ でもボクじゃ何の役にも立たないし⁉」
「わかったわかった。そんじゃお休み」
私は、一時的に自分の身体を霊体化させてスルリと列車の壁を透過して外へ。そして、
「『矮小化』!」
いちいちカウントするようなスキルでも魔法でもないので言わなかったけど、私はいわゆる『物語に出てくる妖精』サイズにもなれるのだ。身長で十二センチくらい。ただ、このサイズになるのはちょっと抵抗あって……。
『デコルテ』バーン! 『肩』バーン! 『生脚』バーン! 『生腰』バーン! おへそが『こんにちは!』。しかも裸足だ。
そして黄色のチュチュ(バレリーナさんが着てるやつ)のような衣装は透過が入ってて、貧しいながらもお胸の形がうっすらと見えてる。赤外線カメラなら、胸のポッチもバッチリだろう。派手なミニスカも、ローライズな感じでケツの割れ目が『いようっ!』しそう。
どこから誰が見ても痴女です、立派なものです。
(知り合いに見られたら余裕で死ねるな……)
いや、ほんとに。何度もティア転生を続けてるときは抵抗は薄いんだけど(それでも恥ずかしいが)、今の私は前世ニホン人アラサー喪女の記憶を引き継いでる。倫理観がそちらに引っ張られてしまうのだ。
まぁ言ってもね? 賢者六人衆は皆知ってますよ、コレ。でも知ってるからって、じゃあもう見られていいかというとそうでもないのだ。
「気にしない気にしない……」
とりあえず、天井高くギリギリを見つからないようにパタパタと飛ぶ。飛んでいると、頭上から呻き声?のようなものが聴こえた。それも一人や二人じゃない。
「……この上?」
この上はデッキだ。なので、そのまま上昇。天井を透過してデッキを目指す。
「な、何これ……⁉」
デッキに大勢の人が倒れて呻いている。主に咳き込んだり、息苦しそうだったり。
よくよく見ると、鉄道会社の人も船舶会社の人も。老若男女問わず、人間亜人問わず。介抱する人手はあってないようなもので、まさに地獄絵図だ。
「ん?」
立ってる人は数少なくて、ほとんどが船舶会社の職員さん。どうやら病人の介抱に奔走しているみたいだけど、その中に一人。
(あ、聖女さんだ)
一人一人に聖魔法、治癒魔法をかけて回ってる。その魔法で、苦しそうに呻いていた人が穏やかな表情になっていく。だが見た感じ、全快とはいかないようで……それでも寛解はしているのだけれども。
夜の風が吹きすさぶデッキで、倒れている患者さんたちは少し肌寒そうだ。いくら場所がないからといって、デッキはないだろうデッキは。
聖女さんの治癒で寛解した人に、職員さんが毛布をかけて回ってるのが救いではあるんだけど。
とりあえず、聖女さんの治癒魔法で寛解するということは少なくとも呪いの類ではない。私はさっさと元の大きさに戻ると、聖女さんの元へ駆けよった。
「私も手伝います!」
「あ、ティア師……お願いします!」
何で正体ばれてんのか不思議だったけど、今はそれどころじゃない。
「病気の詳細、わかりますか?」
「私も初めてみる症状なんです。ただ皆さん、おおむね肺が患部のようです」
「肺か……」
人間や亜人の魔導士が使う治癒魔法だと、塵肺のような細菌や異物が肺細胞にこびりついて癒着しているような症状では完全に治すことが難しい。
彼らが使う治癒魔法は、患部に聖属性・光属性の『攻撃魔法』を照射する仕組みだ。ピンポイントで照射できればいいが、どうしても健康な細胞も壊してしまう諸刃の剣なのである。
では私の『神恵』はどうか。これは私にも実はよくわかっていません、ごめんなさい。
ただ、ビリビリに破れた乗車券が元に戻ったり洗濯で濡れた服が洗濯前の状態に戻ったりしてたのから察するに『時を戻す』効果があるのじゃないかとは思ってる。
「今から広域に治癒魔法をかけます! とりあえず症状が治まった方から、中に入れてくださいますか?」
職員さんに打診してみる。こんなとこに寝かされていたんじゃ、健康な体も不健康になっちゃうよ。
「そうはいきません!」
「へ?」
何故。どうして。
「症状からして、これは『フレア肺炎』の可能性が高いんです!」
「フレア肺炎?」
「はい。大変感染性が高い伝染病で、決定的な治療法も薬もないんです。このまま中に戻したら、感染していない人まで感染してしまう危険があります」
「治癒したなら感染しないでしょう!」
「衣服や手足に付着している菌で、他人だけじゃなく自分自身も再感染する可能性があるんです!」
ぶっちゃけそんな伝染病、聞いたことない。
「フレア肺炎て初めて聞くけど、比較的新しい病気なのですか?」
「今春にアルコルの小さな村で罹患患者が出まして。そのときは小規模なただの流行り病とされてたんですが、つい先月にミザールとアルコルの一部の街でパンデミックが発生したんです。これまでにない病原体であることから、フレア肺炎と医局省から発表されました」
今はそれだけ済んでるかもしれないけど、爆発的に両国内に広がっていく可能性が無視できない。しかも、根本的な治療法も薬もない……それを考えると、患者の『隔離』は効果的な方法なのかもしれない。しれないけどさぁ。
「わかりました! では苦しみが引いた人から毛布をかけてあげてください。それと、」
「それと?」
「毛布の使いまわしは絶対にしないで。するとしても、必ず洗濯してからでお願いします!」
「⁉ そうですね! 盲点でした、気を付けます!」
そのとき、隣で黙々と治癒魔法をかけていた聖女さんが両膝をついた。顔面が蒼白で、脂汗だらけだ。
「アンさんっ! 大丈夫ですか⁉」
魔力切れだろうか。私が手を出しだすより早く、アンさんはデッキにバタリと倒れてしまった。
「しっかりしてください!」
「ティ、ティアさん……。どうして私のこと……覚えて……?」
アンさんは呻くようにそう言うと、気を失ってしまった。
「クッ……。『神恵』」
アンさんをとりあえずデッキに横にして、私は一世一代の光を放つ。船がまるで闇夜の蛍のように、大きな光の環に何重にも包まれていく。
――どれくらい魔力を放出し続けただろうか、いつのまにか呻き声は聴こえなくなった。穏やかな寝息と波の音だけが、物静かな空間を形成する。
「ふぅ……がっつり魔力使ったなぁ」
さすがに疲れた。周囲の患者たちで、苦しんでいる人はもういない。
「あ、あのティアさん。ありがとうございました!」
気づくと、隣で聖女さんが両膝をついて私に祈ってる。いやはや、やめてくださいな。
「いえいえ、お気になさらず。病気は治しましたが、体力までは元に戻せません。聖女さんも、とりあえずは姿勢を楽にされてください」
「聖女……」
その聖女さん、何故か暗い表情になって私の顔を覗き込むように見上げてくる。
「あ、あの何か?」
「私のこと、その……覚えてらっしゃいますか?」
この人は何を言ってるんだろう? シマノゥ教のシスターに知り合いはいないはずなんだけど。
「えっと、どこかで?」
いや違う。知ってる気がする。なのに知らない……何だろう、このモヤる感覚。
(あ、そうか。ターニーに羽を落書きされるハメになったあの聖女さんだ)
何で今まで忘れてたんだろう?
聖女さんもそれ以上は追及して来ず、職員からもらった毛布にくるまった。
「患者の体力が心配です。胃に優しい食べ物をできるだけ用意してもらえますか? それとこのまま終点まで行くのをやめて、できるだけ近い場所で患者さんたちを降ろして治癒院か教会に搬送してください。安静にさせる必要があります」
「かしこまりました!」
職員さんにそれだけを告げて、なんとなく星空を見上げてみる。満天の星々が、何ごともなかったかのように船を見下ろしていた。
そのまま、デッキの手すりに背中を預けて私もしばしの眠りに入ったんだけど。何時間経過したんだろう、再び人々の呻き声で目が覚めた。
「なっ、何コレ⁉」
しかも、寝入る前より患者が多い気がする。
「ティアさ、ティア師! 大変です、また病状がぶり返した患者と新たに罹患した患者が発生しました!」
あの聖女さんが、青い顔でそう言いながら駆けてきた。
(くっ……!)
もう一度、もう一度!
「『神恵』」
再び強大な光が以下略。二たびデッキは静寂を取り戻したものの、これはいったいどうしたことだろう。そういえば職員さんが言ってたっけ、『再感染』。
(私ができるのは、感染した人の治癒だけ……無機物に付着した病原菌を滅することはできない)
ん? それなら。
「聖女さん!」
「は、はい!」
聖女さんの治癒魔法は、病原菌に聖光を照射する攻撃魔法だ。私の治癒魔法とは違い、病原体単体に対しても有効なんじゃないだろうか?
「どういうことでしょうか?」
「船体のあらゆる場所、特に人が触れる可能性の高い場所を清潔にするような聖魔法はありませんか?」
「‼ あります!」
よし、ビンゴ!
「魔力は私が聖女さんに補充します! 船内を滅菌して回りましょう!」
「はい!」
聖女さんが聖魔法を使う傍らで、私は聖女さんに魔力を供給する。って後ろから抱きついて、
両腕を首から前に回してるだけなんだけど。そういう姿勢だと、どうしてもほっぺたがくっついてしまう。傍から見ると、仲良し女の子二人がじゃれ付いてるようにしか見えないだろうな。
うーん、聖女さんの前側に渡した私の腕の当たる感触からして、この聖女さん結構大きいほうだな(何が)。何で私の周囲には『仲間』がいないんだろう。
かくして私と聖女さん、長い長い終わらない夜が始まった。
「アンさん、次行くよ!」
「はい!」
その聖女さん、名前をアンドロメダ。アンと呼んでほしいとのことなので、アンさんと呼ぶようにした。あれ? 自己紹介される前にアンさんて私、自分で言ってたような気がするんだけど。
まぁそれはともかくとして、だ。
「ティ、ティアさん……」
アンさんが、たじろぐ。私もちょっとウッてなったけど、しゃーない。
あ、ちなみに私のことはティアって呼ぶようにしてもらった。ティア師なんてガラじゃない……いやだからこれもさ、前に許したような感覚あるのよ。何コレ。
今、私たちは禁断の扉の前に立っている。
「と、とりあえずドアノブを……」
「は、はい。『浄化』!」
で。いよいよです。
「いよいよ、ですね」
私とアンさん、二人でゴクリと生唾を飲み込む。
「しっ、失礼します!」
奇しくも、二人の声がハモった。そして、扉は開かれたんだけど。私たちにきづいて、目を白黒させて驚愕の表情を浮かべる……全裸の男性たち。
「いやああああああっ、変態‼」
思わず両手で顔を埋めてしゃがみこんでしまう。
「ティ、ティアさん! この場では私たちのほうが変態なんです!」
うんそうだね、アンさんよくできました。ってそういうアンさんは斜め上の壁を見つめながら、必死で前方を見ないようにしている。ズルいな?
「うわっ、痴女だ!」
「変態に変態って言われた‼」
「理不尽すぎるだろ!」
俄にざわつく……『男湯』の皆さんたち。感染していない人たちは、通常どおり船内で過ごせる(まぁデッキには来るなと念は押してる)。なので、入浴したい人はしていいのだ。
意を決して、顔を覆っていた両手を外して前方に向き直……。
「いやああああっ、オーティムさんがいっぱいいるぅぅぅっ!」
くっそ失礼かつ不謹慎である。
「ティ、ティアさん……」
アンさんは私の狼狽ぶりを見てむしろ落ち着いたのか、しゃーねーなこのガキはみたいな表情で苦笑いだ。
まだ動揺が解除されない私、瞳孔がぐーるぐる。
「おっ、汚物は消毒します! 『神恵』!」
とたんに立ち込める蒸気、沸騰する風呂水。
「のわーっ‼」
「熱い熱い熱い!」
「アーチーチーアーチー‼」
たちまちのうちに、男湯は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
うーん、『神恵』は治癒魔法であって水魔法でも火魔法でもないはずなんだけど。今後の研究余地がありそうですね?なんて現実逃避を試みたりなんかして。
結局、無数のフランクフルトとミートボールの火傷の治療もするハメになり、男湯での滅菌は苛烈を極めた(大変だったのは男衆である)。
「私、あんなにたくさんの男性の……その……見たのは初めてです」
アンさんは、顔が真っ赤だ。
「ふ、ふふ……私もそうだから気にしないで」
私は顔がげっそりですよ、えぇ。
そういや前世では処女だったなー。これまで合計で一万年以上生きてるけど、寄り道転生で既婚者だった前世を除けば、男性のアレを見たのって数回ぐらいしかないんじゃなかろうか。
その後も操舵室に倉庫、ボイラー室っぽいところとかとか滅菌して回る。
「ラスト、列車車両です。アンさん、最後まで気を引き締めていこう!」
「はい!」
食堂車から順番に、ルーデンスカー、個室客車。就寝中の方を起こさないように外側から扉の取っ手やらを滅菌。そして最後、先頭一階の運転室と二階の二人用個室。
「頼もうっ!」
勝手知ったる私の座席、カードキーで解錠してガラッとオープン。中では、ロリ巨乳痴女ドワーフのチビがいびきをかいて寝こけている。
「むにゃ?」
何か夢でも見ているのか眠りは浅そう。寝ながらにして右手でへそを、左手で股間をボリボリ掻いてらっしゃる。
「死ね!」
シーツを思いっきり引っ張ると、ターニーが垂直方向にグルングルンと高速回転をしながら床に勢いよく落ちた。
「さ、アンさん。どぞ!」
「何をです⁉」
まぁそんな感じでターニーを叩き起こしたんですが。ターニーの反応が、その、なんというか。私とアンさんを愕然とさせたんだ。
「ほぇ? あれ、ティア……おはよう、もう朝?」
「んなわけないでしょ! ターニーが寝てる間、もの凄い大変だったんだから!」
もう草木も眠る丑三つ時、午前二時を過ぎてまもなく午前三時だ。ちょっと声が大きかったかもしれない。
「何があっ……あ、そちらさんは、」
アンさんにきづいたターニー。この後の言葉がね、衝撃だったの。
「どちら様でしょうか?」
「ターニー⁉ どうしちゃったの?」
まるで、初めてアンさんを見たような反応のターニーだ。
「いえ、いいんです。ターニーさ、あ、いえ。ターニー師の反応が普通なんです」
アンさんは、何か諦めの境地というかそんな表情。
「ターニー! 嘘でしょ? さんざん二人で話をしたじゃん! あの聖女キモいって!」
「え? キ、キモ?」
「あ、ごめんなさい。アンさんのことじゃないんです」
いや、アンさんのことである。つか言い方ぁ! 気をつけよう、うん。
「えーっと、ボク? その聖女様とお知り合い、なのかな?」
私がヘンにキレてるもんだから、ターニーがビクビクと私の顔色を窺いながらアンさんと交互に見つめてくるんだけど。からかってるにしては表情が真面目だし。
「ターニー、私の目を見て?」
「あ、うん。アレだね」
うん、ごめん。嘘ついてるって疑ってるわけじゃないけど、スッキリしたい。私のユニークスキル、『真実の瞳』――この緋色の瞳に魅了されると、私に嘘がつけなくなる。
「では改めてターニー、この人。アンさん。覚えてる?」
「???」
「昨日の昼に、列車内でルーデンスカーの隣の席にいた聖女さん、シマノゥ教の。で、昨夜船内でもすれ違って、なんかすげー不愉快なオーラまとってた聖女さんだよ?」
「え? ふ、不愉っ……」
アンさんは一人静かに落涙中である、ごめんなさい!
「何かこうさ、覚えようとしても忘れるみたいな不思議な感覚の……ほら、覚えてない?」
「うーん?」
どうしたことだろう。ターニーの頭の中から、アンさんの記憶がすっぽりと抜け落ちている。
「ティア、何かこうさ? ヒントとかない?」
「クイズしてるんじゃないんだけど」
さすがにイラっとしたが、ターニーのそのセリフでピンときた。
「これこれっ、これっ! 見て!」
こいつが私の羽に落書きしたのを転記したメモ。原文を書いたのはターニーだから、それが記憶のトリガーにならないだろうか。
「どれどれ?」
ターニーはメモを静かに黙読。たまにチラと私を見たりアンさんを見たりしつつの。そしてだんだんとその表情は驚愕に変わる。
「え……え、何で⁉ 何でボク忘れてたの???」
「良かった! 思い出したんだね!」
「いやほんとにちょっと待って? 何コレ、キモ!」
「こらこら、アンさんに失礼だよ」
最初に言ったのは私である。不愉快とも言ったなぁ(遠い目)。
「いえ。さっきも言いましたが、私のことは忘れてしまうのが普通なんです」
寂しそうに、アンさんがつぶやく。でも額にアオスジ浮かんでるのは私たちのせいですね、本当にごめんなさい。
「このことは……誰にも言いたくなかったんですが。言ったところで、どうせ忘れられるでしょうしね。でも不思議です」
「何がですか?」
「ティアさんの顔を見ていると、もう全部話したくなってしまう気持ちになっちゃうんです」
あ、しまった。アンさんのほうにも『真実の瞳』が発動しちゃったっぽい。コレ、私の意思で出したり引っ込めたりできないのが不便だ。
「まぁ……私たちも知りたいですし、話して楽になるのであれば」
「ありがとうございます。では聞いていただけますか?」
アンさんは、静かに言葉を紡ぎ始めた。
名前はアンドロメダ。平民なのでファミリーネームはない。なんでも遠い国の神話で、神の怒りを買ったとある国が滅亡の道を歩み始めたときに、生贄として自らの身を海神に捧げた王女の名前なんだとか。
はっきり言って荷が重い、私はただの平民の少女なのだ。だから……だから、私がまさかそのアンドロメダ王女と同じ道を歩むなんて、想像すらしたことなかった。
「アン?」
「あ、ペル」
「どうしたんだ、怖い顔して」
「ううん、何でもない」
恋人のペルセウス、十六歳の私より四つ年上の二十歳。今日は二人で草原にピクニックに来ていて、二人で一緒にランチを食べてたんだった。
「名前がね、重いなぁって」
「また言ってるよ」
そう言って笑うペル、マジイケメン。私みたいなどこにでもいるような女の子には、すごくもったいないっていつも思ってしまう。しかも名前が名前ですからね。件の王女とて、自分の意思じゃなくて王の命令だったんじゃないの?
「で、逆らえなくてみたいな」
「何の話?」
「あ、ううんごめん。私もう本当に精神ひん曲がってるなぁって」
「何言ってるんだか」
そのとき、来た方角から父が一目散にこちらに走ってくるのが見えた。
「アンーッ! アーンッ! ア、アンッ!」
ちょ、や、やめ‼ いい年こいたおっさんが天下の往来でよがってるように聴こえてしまうではないか! ペルも何か赤面してるしさ。
「お父さんっ! 呼び方気を付けてよ! このド変態!」
「ち、違っ……いや、それどころじゃないんだアン! 大変なことになった!」
ぜぇぜぇ息を切らせながら、それでも父の顔は真っ青だ。さすがに何か大変なことが起こったのだとは察したので、父への説教は一時中断する。
「ど、どうしたの?」
「しっ、城から、城から! き、来た!」
「城から? へ? てか何が、誰が来たのよ?」
「ア、アンお前を、いやお前が……せっ、聖女だって」
「はぁ?」
何言ってるんだろうこの変態。
「そしてペルセウス君、君もだ‼ アンとペルセウス君を迎えにきたんだとか」
「え? 僕ですか?」
私とペル、わけがわからなくて思わず顔を見合わせる。
「ゆ……勇者、なんだとか」
誰が。
「ペ、ペルセウス君がだ。そしてアン、お前は聖女なんだそうだ」
……ほぇ? 完全に私の思考は停止した。
「本当に、何がなんだかわかりませんでした。ペルが勇者で私が聖女、まるでおとぎ話の世界ですよね。しかもペルも私も平民ですよ? ……って聞いてます? ティアさん、ターニーさん」
えとですね? 田舎道をアンアンよがりながら走ってくるおっさんを想像すると可笑しくて、なかなか話が身に入ってこないんだ。ターニーなんか腹筋が攣りすぎて、声なき声で笑い死んでるし。
「ご、ごめんなさい。つっ、続けて?」
そう促す私、唇ぷるぷる涙ぽろぽろなもんだからアンさんちょっと不機嫌。
「まぁいいですけど! それで慌てて父とペルと家に帰ったんです」
「お初にお目にかかる。私はミザール王国の宰相補佐でハマル・ティンと申す者。此度は勇者殿と聖女殿を、来るべく魔王との戦いを控え迎えに参った次第」
「はぁ……」
この初老の神経質そうなガリガリのおっさん、確かにそういう名前の宰相補佐は存在する。王家とも密接なティン公爵家の嫡男だ。
「それでティン様? あ、なんとお呼びすれば。宰相補佐様? ティン公爵……は違うか」
うぅ、平民なんですよぅ。お貴族様とはお付き合いないから、何をどうすればいいのかわからない。
「ハマルで構わぬ」
え、名前ですよねソレ。いいのかな?
「ではハマル様、私とペルが勇者と聖女とはいったい?」
「神託があったのだ」
「神託、ですか」
もう気が遠くなるほどの昔に『無』だった世界にとてつもなく強大な光が誕生して、それが創造の女神・ロードの誕生とされている。そして光あるところに影あり、その影から誕生したのが冥界の王・クロスだ。そしてこの二つの世界の間に過去あったとされているのが――魔界。
あるとき、魔界が神界と冥界に突如として侵略戦争をしかけた。いわゆる『三界大戦争』として今や神話として語られている話だ。
この神話は、フィクションとして捉える人と実話として捉える人とで割れる。まぁそれはともかく。
自らの神力の大部分を犠牲にして、ロード神は魔王を封印することに成功。かくして三界大戦争は一時の終戦を迎えたのだが、ロード神の疲弊は凄まじくそれから数千年の眠りにつかざるを得なかった。
自らをも犠牲にして守ってくれたロード神に感謝しよう、恥じない行いをしようという教えをベースに誕生したのが、今のシマノゥ教である。『聖女』とは、そのシマノゥ教の大司教を務める女性の別称だ。
閑話休題。先ほど、魔王とおっしゃいました?
「うむ。だが、かの三界大戦争の魔王ではない。あれは神位に属する存在であって、ロード神やクロス神と同等だ。その魔王ではなく、なんと言おうか……かの魔王を皇帝としたら、私がいう魔王というのは帝国を統治する王たちということになるだろうか」
「なるほど、理解しました」
ポラリス大陸にあるカリスト帝国は、カリスト女皇帝が七つの国を統べている。そのうちの一つ、ミザール王国はフィネウス陛下の自治下にある。多分そんな感じの、フィネウス陛下のようなポジション。要は中ボスってとこかな?(不敬ですけどね、この言い方)
「このミザール王国の北、人類未踏の未開の地とされる『ブルーツリー森林地帯』をご存じか?」
「名前だけは」
ペルも、無言で頷く。父は険しい表情だ。
「ハマル様、ブルーツリー森林地帯というとマッド・トレントが隠遁していると聞きます」
その父が口を開く。マッド・トレントかぁ……樹木のモンスターだっけ。一説には人を喰らうというけど。
「そうだ。すでにハンターギルドに登録されているAランクハンターのパーティ数組を視察に行かせたが、たった一人を除いて皆そのマッド・トレントに喰われてしまった」
「……」
思わず無言になってしまう私たち三人だけど。でも、だから何でしょう? おっそろしい話ですねぇー(棒)。それに私とペルが、それにどう関係するの?
「一人生き残った魔導士・リゲルの話によると、ほぼ森林の一部を埋め尽くすほどにマッド・トレントが増殖したゾーンがあると。そこを統べるのがそれらのボス、つまりマッド・トレントの魔王による統治が行われているというのだ」
もう嫌な予感しかしない。
「そのマッド・トレントの生息域は急速に拡大の一途をたどっており、このままでは森林に接する村々をも呑み込んでしまうことが予想される」
もう本当に嫌な予感しかしないんですが⁉
「そこで陛下は、この際どうすればよいか神託を受けることにしたのだ。そしてその神託の内容というのが、この村に住むペルセウスを勇者として、同じく聖女アンドロメダ。そしてこちらは宰相閣下が直々に出向いているが別の村にいる狂戦士・アトラス。一人生き残った魔導士のリゲルの四人で討伐に向かえば、マッド・トレントの横暴を制することができるとの天啓を得たのである」
そうであるか。って、えぇっ⁉ というかですね? 聖女って高位の司祭みたいなもんでしょ、いきなりなれるもんなの?
「心配には及ばん。ハンコ一個押すだけだ」
そりゃあんたはそうでしょうよ。
かくして私とペル、まだ見ぬ仲間と合流すべく準備もそこそこに城に馳せ参じることになったのだった。
「勝手すぎない?」
ターニーが、一人でプンプンしている。
「ハマル・ティンて、今の宰相でしょ? 宰相補佐だったころにそんなことあったんだ、知らなかったよ」
不可侵条約あるからなー。同国内にいるからといって、ターニーが知らなかったのも無理はない。
「で、アンさんはそのティン公の言うことを信じたの?」
「はい。私は一介の平民ですから、ハマル様のことを疑う余地もありませんでしたし」
油断してた。くっそ、こんなので! ここは笑っていいタイミングじゃないぞ、私! 前世ニホンでの知識が、私の笑い袋を刺激する。
「待って待って! 『ティン公』はやめて!」
「ティア?」
「どうかしましたか、ティアさん?」
えっと、えっとね、その。
「ここには女子三人ですし、わざわざかしこまる必要もないし、そいつムカつくからハマルって呼び捨てでいいんじゃないか……と……」
ティン公がハマルさま……もうダメだ。自分で自分に燃料を注いで自壊寸前です!
必死に自分の太ももをギュッとつねって、痛みで気を紛らわせてみる。いやはや、アホすぎるでしょ私。
「? 続けますよ? それでお城に登城したんですけど――」
そこからは、怒涛の日々だった。城に押し込まれ、一日中討伐訓練漬けの毎日。おはようからおやすみまで、暮らしを見つめるハマル宰相補佐様に監視されながらの日々は苦痛でしかなかった。
「はぁ~、もう身体がガッタガタだよ」
とは狂戦士のアトラス、種族はダークエルフである。しかしながらダークエルフらしくない二メートル近い長身で、筋肉の塊。
そのアトラスは毎日、とんでもない大きさの象のような人工魔獣と戦わされてる。ハマル様曰く、幻獣なので幻視・幻聴を伴う幻覚らしいのだが、実際に痛覚を伴う鬼仕様のためアトラスのメンタルはズタボロだ。
「うぅ、魔力切れ……魔力……ポーション、どこに置いたっけ……」
青白い顔でげっそりとやつれているのは、魔導士のリゲル。細身のシルエットでガリマッチョな好青年。アトラスのおかげで目立たないが、彼も結構高身長だ。
リゲルも人工魔獣相手に、攻撃魔法を使いまくりの日々。魔導士が使う魔力はメンタルの強さに紐づくから、魔力を使いまくると生きる気力すら削る。最悪、魔力枯渇によって死に至ることもあれば、精神を病んで自死したケースもあるのだとか。
「もう何でもいい、早く討伐に行かせてくれ。このままじゃ身体がもたねぇよ!」
こちらは少し元気が残ってるペル、近衛の兵士数百人と毎日毎日組手漬けの日々。最初は剣の素人だった彼も、今やAクラスに登録されている立派な聖剣士だ。
「ちょっとちょっと、動かないで! ズレる!」
毎日毎日あちこちの病院をはしごして、修行を兼ねた治癒活動の私。三人の鍛錬が終わるころには城へ戻り、これまた全力での治癒魔法。下手するとこの人たち死にかけてることもあるから、おいそれと手が抜けない。
そして私もまた、魔力の枯渇による死の恐怖と日々向き合っていたのだ。
時はドゥーベ歴二〇一八年、初めて城に登城してから二年。私は十八歳になった。
(最後に村に帰ったの、いつだろ)
魔力をギリギリまで使い果たし、ボーッと壁を見つめながらそんなことを思う。
「いやいや、まだ一度も帰らせてもらってないわーっ!」
ついつい叫んで立ち上がる情緒不安定な私と、ビクッとして振り向く三人。
「何の話……あぁ。ってそうなのか? アンは結構あちこちの村に助っ人として駆り出されてるから、一回ぐらい立ち寄ってるかと思ってたよ」
「さすがに私の村は遠いよ、アトラス。日帰りは無理な距離だもん」
「僕なんか、もう十年ぐらいは親に顔見せてないよ……」
「いやいやリゲル。ケツの二年はしょうがないとしても八年のほうはなんとかなったんじゃないの?」
「そうだけどさ」
リゲルは、Aランクハンターとして多忙な日々を送っていたと聞く。ただ、マッド・トレントとの討伐に失敗してパーティ全員を失ってしまった。そこへ、王命によって有無をいわせず新しいパーティを組まされたのだ。
「もうマッド・トレントの生息域は、近接のいくつかの村を呑み込んでるらしいな」
「みたいね。まぁかなり前に村人は全員避難しているから、もう廃村になってるけど。ねぇ、ペルは寂しくないの?」
「帰れなくてか? そりゃ寂しいけど、俺らが頑張らないと故郷の村がいつ同じ目に遭うかわからないんだぜ?」
そうなんだけどね。この帝国に点在する六賢者とやらは何してんだか? こんなときぐらい役に立ちなさいよ、もうっ!
「……」
「……」
「いやいやその、って思ってた時期が私にもありましたという話で! 本当に申し訳ないです、不可侵条約とか知らなかったので!」
回想の中のアンさんに不意に罵倒されて、思わず黙りこくってしまった私とターニーですよ、ええ。
そりゃ帝国や王室からの依頼という形ならNOだけど、ギルド経由ならグレーというか引き受けるのもやぶさかでないよ? でもターニーは本職は鍛冶職人だし、私は当時死んでたつーか前世ライフをブラック企業の社畜として満喫中(?)だったしで。
イチマルは姫巫女だから、帝国七王国がステージである宗教団体のトップクラスが前線に出るわけにはいかないでしょ。ソラは商会長で多忙な日々をおくってるし。
デュラとアルテなら引き受けてくれたかもね。でも彼女らだって、自分らが住んでる国で民間からの依頼を恒常的に受けてるから、わざわざ国境を越えてやってくるのは難しいかもしれない。
余談だけど、アルテも私ほどヒステリックではないながら人間嫌いだったりするね。デュラは、人間を斜に見ている感じ。もしくは血液ジュースの缶。
「そもそも私ら六賢者、便利屋でも正義の味方でもないですよ?」
「すすすす、すいません! わっ、私も若かったというかその!」
そういや今アンさん、何歳なんだろう。
「二十四歳です。今お話ししたのは、今から六年前ぐらいのことですね」
「しかし修行始めて二年ね、結構悠長だね?」
「あ、違うんですターニーさん。ハマル様が最初に来訪したときって、私もペルも素人もいいところで……それこそ、スライム相手にも勝てなかったぐらいですし」
「ふーん」
にしたって不条理だ。不可侵条約が締結される要因になった数百年前の騒動、アルテはこんな気持ちだったんだろうか。
「そうこうするうちに、いよいよ討伐に出発する日がやってきたのです」
討伐に関しては、バトルを売りにした物語でもなんでもないから特に綿密に語ることはない。ただ、魔王を目前として私たちは絶望していた。
「くっ、多い! ペル、リゲル、動けるか⁉」
「なんとか……だけど、魔法はあと数発で弾切れだ」
「みんな! ここは俺が喰いとめるから先に行け!」
「冗談でしょ⁉ ペルに喰いとめる力なんて残ってないじゃない!」
もう少しで、魔王と最終決戦の場に立てるというのに。森林の濃い霧の向こうに、魔王の居城のシルエットが見えるところまで来たというのに。
もう、皆限界が近づいていた。いや、違う。限界を超えて戦っていたのだ。
「こいつらは、本当にマッド・トレントなの? 色が……」
そう、樹木の姿を模したモンスターであるにも関わらずその幹はドス黒い紫色だ。
「へへっ、毒か呪いか。上等じゃねーか、なぁ?」
さすがは狂戦士・アトラス。こんな状況でも目は爛々と輝いていて、ただひたすら前だけを向いている。
「変異種か? 残る魔力、解毒か解呪に備えて一部を残すか……それともそれはアンに任せて攻撃に専念すべきか?」
そしてリゲルは冷静だ。彼のことだ、突破するだけじゃなく撤退も視野に入れているだろう。急がば回れっていうしね。
まぁそれは、アトラスが賛同するとは思えないけど。
「聖魔力が心許ないな……物理の剣技だけでどれだけ凌げるか。倒す必要はない、突破すればいいんじゃないか?」
ペルの言うとおりだ。ただその突破すら難しいのだけどね。
そのときだった。私たちが戦っている上空を、一匹の小鳥が横切る。一瞬だけ、マッド・トレントがその動きを気にしたのを……私以外の三人は見逃した。バカかな?
(……感覚で認知してるのだと思ったけど、視覚がある?)
目っぽい幹の窪みが、わずかに動いていたからだ。だとすれば……。
「みんな聞いて!」
「アン?」
「どうした?」
「マッド・トレントは、視覚でも私たちを認識している! だったら、強烈な光で目つぶしをすれば活路は開けるかもしれない!」
この作戦は、一つだけ穴がある。あくまで『かもしれない』だけなので、賭けなのだ。
そしてもう一つの穴(ごめん、二つあった)は……術者である私は逃げられないこと。これだけの数のマッド・トレンドを足止めするには、光源は不動の一ヶ所である必要があるのだ。
走りながら出すなんて中途半端なことでは、残った魔力を効率的に使うことができない。また、光源が移動したらすなわちそれは私たちの移動経路をも教えてるようなもんだ。
「私が『閃光』を照射します。マッド・トレントたちは数秒くらいは視力が麻痺すると思うの! その間に駆け抜けよう! あ、くれぐれも光は見ないようにね?」
「ふむ。確かにここで疲弊しては魔王の元にたどり着けても意味ないな。僕は賛成だ。アトラス、ペルは?」
「なんでもいいぜ、さっさとやってくれアン!」
「……アンも来るんだよな?」
ペル、勘のいいヤツ。もちろんだよ、別に自分を犠牲にしてまでって考えで残るんじゃない。なんとしてでも生き抜いてみせる。
「私は、少し遅れて追いかける」
「え⁉」
「おい、ちょっと待て!」
「やっぱりか……」
「何悲壮な顔してんのよ? こんなとこで死ぬなんて私もまっぴらごめん。それに私がいなかったら、どうやって回復するつもりよ? 魔王倒して歩いて帰れる可能性、どのくらいあると思う?」
私はニコッと微笑んで、
「だーいじょうぶ! おまかせあれ!」
「……わかった。絶対に来いよ? 絶対だぞ!」
アトラス、目に涙浮かべてんじゃないわよ。
「面倒をかけるな」
リゲル、気にしないで。
「帰るときは四人だぞ。わかってるんだよな?」
わかってるよ、ペル。
「ペル、魔王を無事倒すことができたらさ。私の左手の薬指に似合う指輪、一緒に選んでくれる?」
左手薬指、婚約指輪をはめる指だ。
「やべーフラグ立ててんじゃねーよ!」
そう言って涙目で笑うペル、大好きだよ。あなたと二人、幸せな家庭を築いて暮らす未来のためにも、ここは踏ん張りどころなんだ。
――このときは、本当にそう思ってたの。
「でまぁ、ペカーッとですね。やったわけですよ、ええ」
うーん、アンさんのその口調で思わずズッコケる私とターニー。
「『閃光』を放出してたのは三十秒くらいでしょうか。光が治まったころには三人の姿はもうなくて。そこにはマッド・トレント数十体に囲まれた哀れな私がですね」
「待って待ってアンさん、シリアスな話してるんだよね?」
ターニーが困ったように、アンさんを制する。でも私はきづいていた。これはカラ元気だ。
多分だけど、アンさんが一番話したくないであろう核心に近づいてる。かつてオーティムさんが内なる自分と戦っていたように、アンさんもまた彼女なりの方法で抗っている。
だけど『真実の瞳』の魔力から逃れる術はどこにもないんだ、ごめんね。
「もうすっかり魔力を使い果たした私は、元来た方向へ逃げ出すことにしました。命あっての物種ですからね。幸いなことに、移動速度はそんなに早くないんですマッド・トレントって」
アンさんの唇が、プルプル震えている。これから彼女の口から出る言葉には、私たちも同様に覚悟を決めないといけない。
「ところがマッド・トレントって樹木なんですよ。あちらこちらの地中から無数の根っこが飛び出してきて……私の四肢を捕縛して拘束しました」
そう言って、アンさんは黙りこくってしまった。だけど、その抵抗を嘲笑うかのように『真実の瞳』の副作用がアンさんの精神を蹂躙する。
「四肢を拘束され、紫色の樹液を振りかけられました。幸いにして強酸性じゃなかったのと、防御魔法はもう魔力が足りなかったので防膜魔法でなんとか。
全身は中度の火傷で済んだんですが、衣服は防具ごと溶かされてしまいました。そして上の口とその、下のほうの口といいますかニュルニュルと根っこが入ってきて……もう悪夢でした」
「……」
私もターニーもその陰惨な結末に、二の句が告げないでいた。中度の火傷って、相当だ。皮膚の色や顔かたちが変わってもおかしくない。
だけど本当に陰惨だったのは、そのあとだったんだ。
「『それら全部』に何かドロッとした液体が入ってくるのを感じました。ですが痛みはなく、先ほどの酸じゃなかったのが幸いだったんですが……今思うと、身体を内部から溶かされて死んじゃうのって、それもありだったかなって思ってるんです」
熱い。熱い熱い熱い!
最初は、さっき衣服を溶かした酸を注入されたのかと思った。胃に、子宮に直腸に。だけどお腹が溶けてる様子はなかったから、ただ熱を帯びているだけの樹液なのだとはすぐにわかった。
わかったからってキモいもんはキモい。しかも私、ロストバージンしちゃったよ……。
「オゴッ……ウグッ!」
口に根っこを突っ込まれてるせいで、うまくしゃべれない。粘液のせいで呼吸もままならない。
でも何が災い、じゃなくて幸いするかわからないね。なんと体内に注入されたその謎の粘液は、膨大な魔力を帯びていることに気づいた。
(いけるかもしれない……)
私はその魔力の流れを必死で拾いあげるように索敵する。そして残った魔力を総動員、全身全霊を注いで。
「『吸収』!」
ズゴゴゴとものすごい吸収音が、私の体内に響き渡る。なんだか空腹でお腹が鳴ってるような、あるいはすごい屁をこいてるような変な感覚。そして、私の賭けは大当たりだったことを自覚した。
「あごくすうえん、あんごー!」
口の中に根っこ入ってるから、上手くしゃべれない。でも別に詠唱て、言葉でやる必要ないんだよね。ただの様式美。
(いっけーっ、『共鳴振』!)
私の拘束された裸体が、眩しい白い光を放つ。先ほど使った『閃光』とは比較にならないほどの光量だ。おそらくこの光を直視したら、どんな生き物であっても眼球はたちまちのうちに使い物にならなくなってしまうだろう。
ふと気づいたら、私全裸で倒れてた。そして周囲には死んだ、というか枯れたマッド・トレントの死屍累々。
「やったっ……!」
魔力が、漲る。私は、はしたなくも全裸のまま三人の後を追ったのだった。
私が追いついたとき、三人はもうボロボロのひん死状態だった。アトラスは倒れてるし、リゲルは壁にもたれかかったまま荒い息だ。ペルは片膝をついて、剣を杖のようにしてなんとか姿勢を保ってる状態。
対して、私たちの前に立ちはだかる魔王。クレイジー・トレント。
その巨躯は、三階建ての家屋よりも大きい。あちこちにペルたちが斬り結んだであろう傷があるが、いずれも致命傷を負わせるまでにはいたっていない。
「みんな、来たよ!」
三人とも、ギョッとしてこちらを振り返る。全裸の女性が笑顔で走ってくるのだ、そりゃ怖いよね。でも私、恥ずかしいとか言ってられないんだ。
「『聖者の光』!」
私の渾身の治癒魔法が、アトラスをリゲルを、ペルを完全に癒やす(ついでに私の全身の火傷も)。くわえてリゲルには魔力を、ペルには聖魔力を満タンまで補充する。それでも、まだ余りある魔力。
何コレすごい! あの紫色のマッド・トレントどもは、敵である私になんてもの渡しちゃったんだろう! 今の私なら、攻撃魔法もいけるかもしれない。三人に肩を並べて、魔王を倒せるかもしれない。
まぁ特に語るような内容でもないので省略するけど、私たち四人は無事魔王を倒したんだ。さすがに楽勝とはいかなかったけどね。腐っても魔王は魔王だった。
ペルたちも結構ズタボロだったので、改めて治癒魔法を施す。
(次は私か。ひどい恰好だな)
あちこち切り傷で出血してて、血と泥だらけで全裸の私。
彼らに背を向けた状態で座り込んで、自分の魔法でセルフ治癒。彼らに向いたままだと、私の貝をね。その、見られちゃってしまうからね。
治癒していると、後ろからファサッとマントがかけられた。ペルだ。激しい戦いでマントはボロボロ。
完全に裸体は隠せないけど、でもその気持ちが嬉しかった。
(だからお尻の割れ目ぐらいは、サービスしちゃうよ!)
うーん、ハイになってるな私。コレ、何ハイッていうんだろ?
「ありがとう、ペル。アトラス、リゲル、やったね!」
「はい、あなたのおかげです。本当に助かりました」
ん? 何その口調。
「初めまして、私はペルセウスと申します。聖女殿の名前を伺っても?」
「何……を?」
何を言っているのだろう? ねぇ、ペル。あなたの恋人のアンドロメダだよ? 頭でも打ったの?
「あの、どうかしましたか? 大丈夫ですか?」
ペルが、心配そうに覗き込む。何で敬語?
「おいおい、淑女がそんな恰好してんだ。あまり見てやるな!」
アトラス? いつも男みたいとか言ってからかってるじゃない、淑女扱いは戸惑うよ。
「これほどの聖女がこの国に埋もれていたとは、な」
リゲル? どうしちゃったの? 私だよ?
「あの、すいません。覚えて無くて申し訳ないのですが、王城かどこかでお会いしたことある方なのでしょうか?」
ペルのその言葉がトドメになって、私は静かに気を失った。
「気が付いたら、王城の客間に寝かされていました。三人とも誰一人として私を憶えていなかったのです」
「……」
「……そんな」
「あの紫色のマッド・トレントに囲まれた危機も、三人で突破したそうです。彼らの記憶の中では、ですけど。おそらく、私が取り込んだトレントの魔力、あれが関係していると思うのですが……私を送り出した陛下もハマル宰相補佐様も、同様で。私は魔王との決戦にいきなり助太刀に現れた全裸の痴女…じゃなかった、謎の聖女という」
なんという凄まじい話だろうか(痴女のくだりであやうく吹きそうになったが)。アンさんにかける言葉が見つからない。
「時間が経てば元に戻るだろう、そう信じてその場は流されるようにその場しのぎで振舞ってみたのですが……勇者たちの凱旋パレードをするから、私にも参加してほしいとの打診を受けました。そこでひとまずその日は、王城の客間に泊まったんですけど。でも――」
ここから先は、聴きたくない気がする。でも聴かないといけない。
「翌朝、客間のベッドで目が覚めて。そして城の誰も、私を憶えていませんでした。ペルもアトラスもリゲルも。陛下もハマル様も」
「何それ何それ何それ! 納得いかないよ!」
「ターニー、黙って! 一番納得いかなかったのはアンさんでしょ」
「それは……うん」
ターニーが静かになったのを見計らって、アンさんが続ける。
「それどころか、私は王城の客間にいつの間にか忍び込んで寝ていた不審者という扱いになってしまいました。笑っちゃいますよね」
アンさん、笑えないよ……。
「当然、魔王を倒したのもあの三人『だけ』。勇者の凱旋パレードは三人で行われ、私は沿道の歓声を牢獄の中で聴いていました」
「は?」
「投獄されたの⁉」
今度は私が叫びたい。何それ何それ何それ!
「ガードの硬い王城に忍び込んだ不審者ですからね。しかもふてぶてしいことに客間で寝てたんです。投獄されるのは当然というか」
「全然当然じゃないっ!」
そう言って叫ぶターニーは、もう涙目だ。
「すぐに、出られたんですよね?」
さすがにそうであってほしい。私はおそるおそる切り出す。
アンさんからは、返事がなかった。だけど、かの副作用はいかな沈黙をも破壊するのだ。
「三年……です」
は? 何が? 何が三年? え、ちょっと待って。
弱々しく微笑みながら、小さく呟くアンさん。ねぇ、なんで笑えるの?
「当然そこでも……翌日になると、見知らぬ女が牢の中にいるのです。どうやって入った、何故入ったと毎日のように取り調べを受けました。おかしな話ですよね? 私を牢に入れたのはあなた方なのに」
こんな理不尽な話ってない、こんな……。
「でも前日の調書とか残ってるでしょ? ボクらがメモを残したようにさ?」
「ターニーさんはそのメモを見てすぐにすべてを、私を思い出しましたか?」
アンさんが、ムッとした表情になる。私とターニーは、アンさんの顔……見れない。
「結局王家に害を成す存在ではないとわかっていただけて、三年間の入牢で済んだのは幸運でした」
「アンさんの幸運の基準、わかんないよ」
もうターニーは、頬を伝う涙を隠そうともしない。
「三年ぶりに再会した私の両親も、私を産み育てた記憶がなく……実家にあった私の荷物諸々は泥棒が勝手に置いてった物なんですって。そんな泥棒、いないですよね」
「アンさん、無理に笑わなくてもいいです」
無理に明るい雰囲気に戻そうとしてるアンさん、見ていられないです。
「……はい。それで私の、私の荷物は気持ち悪いから捨てたそうです」
アンさんの唇が震え、声が揺れる。
「そしてペルには……可愛い奥さんとお子さんがいました」
ペルさんを殴りたい、殴ってやりたい。けど私たちもまた、ペルさんと同類なんだ。殴る資格なんてありゃしない。
「それに私がトレントから吸収した分の魔力も、入牢中に消失してしまってました。あのときの助っ人に現れた聖女であることを、証明する手立てを完全に失ったのです。そして『忘れられてしまう私』だけが、残りました」
一万年生きたからって、中身が伴わないと無用の長物だと思い知った。こんなとき、なんて言って慰めてあげればいいのかが全然わからない、言葉がみつからない。
「それから私は、一人で他人に干渉することなく生きてきました。それでもどうしても人恋しくなるときがあって……近所の人たちとは友好な関係を築きたいと頑張ったのです」
そうだよね、人恋しいよね。だけど、アンさんはこれから楽しい話をする雰囲気じゃない。
「だけど誰一人、『陽が沈んだ後』になると私のことを憶えていないんです」
「あ!」
そういえば言ってた! あれは確か……どこで、何をだっけ。思い出せない、でも確かにアンさんがそんなことを言ってた気がする。
「そしてまた陽が沈んだ後のことについては、私のことをさらに強く覚えにくくなるようなのです。それは、夜が明けるまで続きます。
そして夜が明けると、やはりまた私と出会った人すべての人から……私に関する記憶が初期化されるようです。そのことに気づいてからは、完全に他人とのおつきあいを遮断して生きてきました」
ターニーだけじゃなく、いつのまにか私も泣いてた。忘却は罪だ。その悲しい罪に、私も加担してしまっている。
「あと数時間で夜が明けるでしょう。そしてターニーさんもティアさんも、また私を忘れてしまうのです」
そんなことない、って言えない。無責任なことを約束したところで、また忘れてしまったら……アンさんはまた傷つくだろうから。
「久々に、こんなにおしゃべりしちゃいました。とっても楽しかったですよ! 特にティアさんと船中を駆けずり回って、男湯で大騒ぎして」
アンさんは、そう言って笑った。心から楽しそうに。でもアンさんの頬をつたうソレは、何?
「でもいったい全体、どうしてそんなことが起こるんだろう? 認識阻害……は違うか。過去の記憶までは消えないものね。だとすれば呪い? 匂い? ティアはどう思う?」
「魔物の魔力と融合した状態だから、そのどっちも可能性あるよね。だけど私は、呪いの類だと思う」
「私もそう思って、ミザールの国一番の呪術師さんに相談したんです」
「それで?」
「やはり呪いなのだそうです。朝一で訪ねたのですが、古文書に残されている古い記録からやっとそれが判明したのは夕刻になってからです。結局、解呪の方法はわからないのだと」
トレントの一部種が呪いの攻撃を仕かけてくるというのは、私の中の数千年前に得た知識に残ってる。でもトレントの魔力を人間が吸収したケースは初耳だ。その場合の解呪方法は?
「幸いにして、解呪ができるかもしれない呪術師仲間に心当たりがあると。明日まで待ってほしいと言われ、私は藁にもすがる思いで待ちました」
本当に、藁をもすがる思いだったんだろう。だからこんな簡単なことに気づけなかった、『そうなる』ことがわからなかったんだね。
「翌日、その呪術師は私に言いました。『初めまして、どなたですか?』と」
夜明け前のデッキに私、ターニー、アンさん。
急遽船は、一番近いアルコル領・シュラ島へ臨時寄港するべく動いてる。別名を『火の島』といい、活火山が中央にある温暖な気候の島だ。夜が空けるころに到着できるように、船員さんたちがバタバタと走り回ってて。
「月見草、という植物をご存知ですか?」
三人で何気なく無言のまま、夜空や波を見つめてるとき。不意にアンさんが口を開いた。
「ツキミソウ?」
ターニーは知らないようだ。
「確か、黄昏時に白い花を咲かせる夏の花ですよね。ちょうど今ごろの」
そう。まるで月を見ようとしてその顔を見せることから、そう呼ばれるようになったとか。でも月見草は確か……。
「そうです。暁のころ、ちょうど今の時間帯ですね。花はしぼんでしまうのですが」
「アンさん?」
「しぼむときの花びらの色は、白ではなく薄い緋色なのだそうです。ティアさんの瞳の色ですね」
「へぇ、そうなんだ。ボクは花に詳しくないからなぁ。でも不思議な花ですね」
アンさんが、何を言いたいのかわかってしまった。でもとりあえず、涙は我慢だ。
それとターニー、お前は死ね。
「そのしぼむ緋色の花びらを見て、誰もそれが白い月見草だったとは覚えていないんでしょうね」
「あっ……」
ターニーさん、何やら地雷を踏んだとばかりに気まずそう。だけど下手にフォローを入れたところで、アンさんが傷つくだけかもしれない。ここはスルーを決め込むとして。
夜明け前の朝は、冷気が押し寄せてくるから結構冷える。このままではデッキに隔離されている人が風邪ひいちゃう。だから私の魔力を媒介にして、アンさんの聖魔法でデッキを温かい風で包んでいる。
「私は無力だ」
「え?」
「どうしたん、ティア?」
だってそうでしょ。私の治癒魔法は、怪我人や病気は治せる。だけど。
「無機物を滅菌したり、強い光で目眩まししたり、温かい風で身体を冷えないようにしたり……アンさんみたいなことが全然できない」
「私から言わせれば、聖女ですら直せない病気を『ふんっ!』で治せるティアさんのほうが凄いのですが……」
いつになく弱気な私に、困惑を隠せないアンさん。ついでに言うと、『ふんっ!』で人を治した心当たりもないです。
「夜明けが来て、また私たちはアンさんを忘れてしまうのでしょうか」
意地悪な問いかけだったかもしれない。アンさんは俯いて無言だ。
「それじゃあさ、日の出の間ずっと一緒にいたらどうかな? いくらなんでも、さっきまでおしゃべりしてた人を忘れるわけないでしょ?」
閃いたとばかりに、ターニーが喜色満面で提案する。
「それは、やめてほしいです」
やんわりと否定するアンさん。どうして?
「列車がまだ帝国領土を、ミザール王国内を港に向かって走っているときです。私とターニーさん、ティアさんはルーデンスカーで一緒にお酒を呑んで盛り上がってたんですよ」
何の話だろう? あのときは確か……。
「私もお酒が入ってたので、らしくなくあなた方と絡んでしまいました」
アンさんが、自虐的に嗤う。
「え? 確かにアンさんは隣のテーブルにいましたけど、ボクらとは離れてて一人で呑んでた……よう……な」
そこまで言って、ターニーが自分できづいたみたい。私も、思わず顔面が蒼白になる。
「はい、お察しのとおりです。呑んでる間は時間が経つのも忘れて女三人、くだらない話で笑い合い、盛り上がって……途中で、陽が沈みました」
あぁ! あぁ……っ‼ なんということをしたのだろう、私たちはずっとおしゃべりしてた新しい友人を、目の前で忘れてしまっていたのだ! アンさんのパーティメンバーが、そうしたように。
「また……見知らぬ人を見るような目で見られるのは。慣れたつもりですが、やっぱダメですね。だからお願いです。夜が明ける前に私が姿を消すことを見逃し……ちょっ、ちょーっ! 何してるんです‼」
私もターニーも、アンさんに土下座してた。
「ゴメンナサイ! 本当にゴメンナサイ‼」
血を吐くような悲痛な泣き声で、ターニーが泣き叫ぶ。
「私、本当に能天気で……何度アンさんを傷つければ学習するんだろう、本当に……」
私にいたっては、ごめんなさいすら言えてない。バカなのかな、私バカなんだろうな。
「お二人とも、立ってください! 責めているわけじゃないんです、私の言動に問題があったのなら謝ります‼ お願いです、お願いですから……」
そう言って、何故かアンさんも泣き崩れる。
女三人、抱き合ってワァワァ泣いてたら何やら操舵室から怒鳴り声が聴こえてきた。
「? どうしたんだろう?」
まだまだ、長い夜は明けるつもりはないようだ。
「俺たちはバイキンじゃねぇ、いい加減にしろ!」
船員が、魔導無線機を片手に怒鳴っていた。
「落ち着け。ここは指示どおりにするんだ」
「ですがキャプテン!」
「エンジンを停めろ!」
「……っ‼」
操舵室のすぐそばまで来たときに聴こえた、そんな会話。私はノックもせずに扉を開ける。
「どうしたんですか?」
病人を治すため、そして船内の滅菌のために奔走した私とアンさんだ。船員さんも操舵室に入ってきた私たちを咎めることはなく。
「寄港を拒否されました」
「は?」
え、なんで? 何故?
そこで、さっき船員さんが叫んでた言葉を思い出す。
『俺たちはバイキンじゃねぇ!』
まさか?
「お察しのとおりです。私たちは、『隔離』されました」
「……⁉」
酷い。なんて酷い。でもそんな憤りを、アンさんが否定した。
「納得せざるを得ないですね」
「アンさん⁉」
「私たちも同じことをしました。感染者をデッキに締め出し、船内への入室を禁じて」
「それは……」
でもそれなら、水は食料は? 薬は? 治療は? アンさんと二人で奔走した結果、今船内に発病した患者はいない。でも発病していないだけで、無症状の感染者もいるかもしれない。
私が治せるのは、発病した人だけ。アンさんの治癒魔法は、健康な細胞も害してしまうから発症していない人に使うにはリスクがある。何より、無症状の感染者を見分ける手段はない。
寛解した患者の中には、体力や水分が大幅に奪われて一刻を争う人もいる。せめてそういう人たちだけでも上陸を許可してもらわないと、船内で死者が出たら……その遺体から別の流行り病が発生してしまう可能性があるのだ。
「食料と水は、補給船が定期的に来るそうです。ですが、あちらがこちらの船に積み込むのは遠慮したいと。ボートを放すので、自力で回収してほしいとのことです」
結局、連絡船側はその条件を飲まざるを得なかった。そして遠くの夜空が夜明けの予感を告げるころ、最初の補給船が来る。連絡船のかなり手前で停船して、ボートを放ち……港に引き返していった。
「ティアが人間嫌いっていうの、ちょっとわかった気がする」
ターニーが、憮然としてそう吐き捨てる。
「今はそれどころじゃないよ、ターニー。あのボートの積み荷をどうやって回収するか……」
「それならボクに任せて。取り急ぎ、ロープをできるだけ集めてくれないかな?」
「ターニー?」
言われるがままに、船員さん総動員でロープをかき集める。そしてそれを長い一本に結び直し、自分の腰に巻きつけるターニー。
「じゃ、行ってくる!」
言うが早いが、くっそ高いデッキから海面へ飛び込むターニーさん。イケメンだね!
波は穏やかなので、ターニーの心配はいらないだろう。つーかターニーなら、嵐の中でも涼しい顔で泳いでそうだけど。
そして私は、白み始めた暁の空を見上げる。
(時間との戦いだ)
急いで列車の個室寝台に飛び戻り、羽根ペンを握る。そしてまたデッキへ文字どおり飛んで帰ってきたとき、船員たちがロープに結ばれた補給ボートを引き上げていた。
そのボートには、びしょ濡れのターニー。オーライオーライとデッキに合図を送っている。
「さっすがターニー!」
「良かったですね!」
いつからそこにいたのか、シマノゥ教の聖女服を着た見知らぬお姉さんが笑顔で同調してくれた。
「私が乾かします!」
その聖女さん、ターニーに向けて何やら詠唱。暖かな風が吹いて、ターニーの栗色の髪が舞い上がる。たちまちのうちに、ターニーの髪と服は乾いてしまった。
「聖女様、ありがとう!」
「聖女さん、お手数おかけしました」
「いえいえ、どういたしまして!」
その聖女さんは、朗らかな慈愛に満ちた笑顔で微笑む。素敵な女性だな、なんちゃって聖女の私とはえらい違いだ。
夜はすっかり明けて、太陽の日差しがデッキを黄色に染め始めていた。
結局、沖に停泊したまま隔離されること三日間。四日目に桟橋に着港の許可は出たけど下船は禁止。でも一刻を争う患者だけは下船、上陸を許された。病院へ、早くね? 急いでね?
結局、下船の許可が出たのは二週間後。陸の人たちの私たちを見る目ったらないね、完全に招かれざる客だ。
怖いのは病なのか人間なのか。ことコレに関しては、人間族も亜人も同じ反応なので短絡的に人間嫌いとはいかないけどさ。
ちなみにヤーマ本島は島外への出入りが全面禁止になっちゃって、行くことはできない。いや、ターニーぶら下げて飛んで入ることはできるんだけど、私たちの衣類やら何やらが菌の媒介になったら目も当てられないから、とりあえず我慢。
ターニーいわく、シュラ島のほうがむしろ温泉パラダイスなんだとか。イブースキ、ユーヴィン、ヴェイプ。初めて聞く(というかどっかで聞いたような)名前だけど、不幸中の幸いだってターニーはしゃいでる。
まぁよく思い出してみれば、オンセンもとい温泉を経験するためにアルコルに来たんだったね。怒涛の展開が続いて、それどころじゃなかった。
結局、列車の客も船客と一緒に下船だ。アルコルの地を列車で走るのはお預けです。くぅ~っ、残念‼
下船前、寝台個室の中であの日夜が明ける寸前に――ターニーが補給ボートをゲットしに行ってる間に急いで書き記したらしきそれを、改めて読み直してみる。
✔シマノゥ教の聖女、アンドロメダさん(アンさん)。
✔日の出と日の入りに、自らを忘れられてしまう呪いにかけられてる。
✔私たちと仲良くなった! でもまた、私たちは忘れてしまうのだろう。
✔三号車・九-R2の切符持ってた。
ソラに紹介する。
そんなことが書いてある。『ソラに紹介する』という文章には強調するかのように丸で囲ってあるんだけど、はっきり言って身に覚えがない。身に覚えがないけど、でもどう見ても私の筆跡なんだ。
必死に記憶をたどると、何か浮かんできそうな気がするのだけど。でもどうしても思い出せない。白いモヤがかかったような、スッキリしない感覚。
だけど、最後に書いてあったんだ。二重アンダーライン付きで。
絶対助ける!
私がここまで誰かを助けようとしたことなんて、なかったかもしれない。
そして封がされていない薄い緋色の封筒が一通、私が自宅の塔から持ってきたものだ。旅先でいい歌でも出来たら、賢者六人衆にお手紙でも出そうかなとか考えてたんだよね。
その封筒、差出人は私になっているんだけど受取人が誰かは記されていなくて。
でもこれは、絶対にアンさんという人に届けないといけないものだ。何故か、そう思った。
意を決して、アンさんという人が乗っている一人用個室の車両に急ぐ。
コンコン!
「どちら様? あ、ティ……」
うーん、やっぱり知らない人だ。でも心の中の私が、そんな私に往復ビンタをかましてくる。
「これ……受け取ってください。それでは」
何だかいたたまれなくて気まずくて。その緋色の封筒を強引に手渡して、さっさと扉を閉める小心者の私。情けない……。
手紙の中に書かれていたのは、こんな歌だった。
『忘れじの 花の涙と 月見草』
併せて、フェクダ王国は天璣の塔・ソラへの紹介状。この大陸一番の名うての呪術師、私の大好きな妹分。普通の人なら、会う予約だけで数ヶ月待ちなんて当たり前の。
扉に寄りかかったのか、中からドンッと大きな音がして。
「ありがとうございますっ! ありがとうございます……」
絞り出すような嗚咽と一緒に聴こえてきたのは、そんな言の葉。これでいいのかな、いいんだよね?
そしてこんな後日談。アンさんが頼った呪術師さんが紹介しようとしていた仲間というのが、偶然にもソラのことだったんだって。だから話は早かった。
でもまさか――ソラがデコピン一発でアンさんの呪いをふっ飛ばしたなんて、本当に想像すらしなかったんだけどね!
【おまけ】『聖女アンドロメダの逆襲』
『卵一パック百円! ※お一人様一点限り』
今日は卵の特売日だ。卵売り場の前に、たくさんの人が群がる。
「あの、お客様?」
店員が、レジの列に並んだ老齢の女性に訝し気に話しかけていた。
「申し訳ありません、特売の卵は一人一パックのみとさせていただいております。先ほども並ばれましたよね?」
「なんてこと言うんだいこの店員は! さっきも一人‼ 今も一人じゃないかえ!」
「いえ、ですからお一人様一パックと決まっておりまして」
店員は大弱りである。クレーマーの対応で、レジの列は俄かに停滞し始めて。
結局スーパーのマネージャーさんらしき人が呼ばれ、そのお婆さんは連れていかれてしまった。
「お客様、お待たせして申し訳ありません!」
店員が、すぐ後ろに並んでいた女性に頭を下げる。
「いえいえ、お気になさらず。会計をよろしくお願いします」
「は、はい!」
その女性――聖女アンドロメダ(愛称・アン)、並ぶのはこれで十回目だったり。これまでに買った卵は、すべて(ちゃっかりと)不透明なバッグにしまい込んであるので、決してバレることはない。
「ふふ、誰も覚えていない……」
会計を終えたアンは不適に笑うと、再び卵を取りに戻った。
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