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第五話『Age.14』
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「ナーシャ様」
「なに?」
「『高貴なる者の義務と責任』ってご存じですよね?」
「……まぁね」
「ではお訊きしますが」
私は昨日、二十七歳の誕生日を迎えた。まぁこれはどうでもいいし、誰にも明かしてないのでおめでとうなんて言ってくれる人はいない。
だが私の誕生日の翌日、つまり今日。お嬢様は一週間前に十四歳の誕生日を迎えた。
私がナーシャだったときの十四歳の誕生日から一週間後に、ダスラと交わした会話を今も覚えている。そしてダスラとしての私も、そろそろお嬢様に『それ』を身につけてほしかったのもあって。
「では、ぶっちゃけなにでしょうか?」
「なにがよ⁉」
「ノブレス・オブリージュとは、です」
「えぇっと……」
うん、私も答えに窮したな。それでわかんなくて確か、
「あ、あれよね? 貧乏人にパンを恵んだりすることよね⁉」
って言いましたね、ええ。今さらながらに、当時の自分のバカさ加減にムカついてきた。
「あの……ダスラ?」
「はい」
なんだろう、私の視線が気になるみたいで必死に目をそらそうとしている。
「どうしました?」
「いや、その……ね?」
二人の間ってか私から見て左方に、お嬢様のドレッサーがある。お嬢様がチラと視線を外すのにつられて、私もついつい左を見て……あぁ、なるほど。
(すっごい目してんな、私)
ミラーに映し出されたのは、まるで道ばたに落ちている酔っぱらいの吐しゃ物を発見してしまったときのような、すっげー忌々しい表情。この視線をお嬢様に投げかけてたのか。
「私が間違えたことを言ったのだったら、怒ってほしい。教えてほしいの」
「……」
「ダスラの反応からして、私が間違えたんだってのはわかる。わかるのよ! だけど、そういう目で見るのは……」
なんかちょっと泣きそうになってるな? っていうか、当時そう言った私にダスラは、優しくその意味を教えてくれたっけ。で、確か?
『うるさいわね! 貧乏人に恵んであげたらそれでいいじゃないの‼』
とか言って、ダスラを呆れさせたもんだった。そして今、私のときとは違うお嬢様のその言葉を受けて、自分自身がとんでもない過ちを犯してしまったのを自覚する。
お嬢様の理不尽ともいえるわがままを、周囲は鬱陶しそうに受け流すだけだった。私以外のメイドにいたっては、盲目的に従うか見て見ぬふりで。
この環境が前世の私とお嬢様を、とんでもない悪役令嬢に育て上げてしまったのだ。だから私は、お嬢様のガス抜き用のサンドバッグになりつつもそういう部分はしっかりとお教えするんだって決めてたのに。
なのに、なんの説明もしないでお嬢様を蔑んでしまった。しかも私のときと違い、ちゃんと教えを請いたいと言っているのに。
「そうですね、私は卑怯者でした」
「え?」
「なにが誤っているのかを諭さねばならないのに、無遠慮で不躾な態度をナーシャ様にとってしまいました。本当にもうしわけありません」
「うん……」
私、本当に最低だ。お嬢様の人格形成の邪魔したやつらと、同じ態度を取ってしまっている。
「あの、ダスラ? そんなに落ち込まなくても!」
やっばい、お嬢様が優しくて涙出そう。言葉を発したら、声が震えてしまいそう。
「では気を改めまして。あ、その前にお茶をお淹れしますね」
「うん」
お嬢様がソファでお待ちになっている間、カチャカチャとお茶を淹れる用意をする。そのさなかで、ずっと考えていることがあって。
(お嬢様が処刑される未来は、やってこないのかもしれない)
だって、あまりにも違い過ぎる。当時の私と今のお嬢様、今の私と前のダスラ。
「いや、でも……どうなんだろ」
お茶を注いでる途中なのに考え事に没頭してたせいか、カップのふちギリギリになみなみと注いでしまった。
「あ」
このままでは運べない……どうしよ。仕方ないので、こぼれないようにカップをおそるおそる手に取って、注ぎ過ぎたぶんは私の喉に流し込んだ。
「ダスラってほんと、私に対して遠慮がないよね」
そう言って、お嬢様が吹き出す。って‼
「すすす、すいません‼ 注ぎ過ぎたものでつい!」
なにやってんだ私。理由が理由とはいえ、最初に淹れたお茶を主人であるお嬢様より先に手に取って飲むという暴挙!
「いいのよ、遠慮のないダスラが好きよ?」
「……ありがとうございます」
得意げにニマニマと笑いながら、お嬢様がのたまう。なんだかな、マウント取られてしまった感がすごい。
なんとか二人分をお淹れして、改めて会話を再開する。
「ナーシャ様、ちょっと危ないのでカップを置いていただけますか?」
「危ないって?」
お嬢様は怪訝そうにそう言いながらも、ティーカップをテーブルに戻す。そしてそれを確認すると、私は身を乗り出してお嬢様の両頬をつまんでムニーッと左右に引っ張った。
「いだだだだっ⁉ だ、だふら?」
強制的に変顔にされちゃったものだから、お嬢様の舌が回らない。私は静かに指を離すと丁寧にさすってあげたのだけど。
「なにするのよっ⁉」
そう言うがはやいが、両頬を包む私の手をガッと払いのけられてしまう。
「いえ、立派なお肉だと思いまして」
「喧嘩売ってるの?」
「まぁある意味そうですね。それともナーシャ様には、優しく説明したほうがいいでしょうか」
「……つまり今の行為は、わけがあってやったと?」
あら、お見通し。理解が早いのは助かる。
「はい。ちなみにですが、私はここまで拡がります」
そう言って私も、自分で自分の頬肉を左右に引っ張った。
「それがなんだと言うの?」
「『衣食足りて礼節を知る』という、東の国のことわざがございます。着るもの食べるもの、どちらも満たされて初めて人はマナーを意識するということですね」
「なるほどね」
だっけ? まぁお嬢様が納得されてるのでいいか。
「幸いにして、ナーシャ様は公爵令嬢です。着るものはもちろん、食べるものにも困ってません」
「うん」
「そして私もまた、公爵家に雇ってもらえてますから十分なお給金をいただいております。ナーシャ様のように貴族の教育は受けておりませんが、私もまた着るものと食べ物には困っていないんです」
ま、前世で貴族教育はイヤってほど受けましたけどね。
「ですから、人並みにはマナーは守れていると自負しています」
「そうね?」
お嬢様が自分の両頬に手をやって、これみよがしに『さっき頬を引っ張ったのはなに?』と視線で訴えかけてきた。そりゃそうだ、意味わかんないよね。
「ラーセン領にて、着るものに困ってる人や食べものに困ってる領民は一定数います。それこそ、家のない者や孤児など」
「それは、聞いたことあるわ」
「見たことは?」
「馬車の窓からちょっとだけなら」
そう言うお嬢様はちょっと後ろめたそうだけど、いやいやお嬢様は悪くありませんて。ただ知っていてくれてるのなら、それでいいんです。
そして私が教えたいのは、この先のこと。
「さきほどのナーシャ様と私、どっちの頬が広くひろがったと思いますか?」
「私かしら? 私のほうが肉付きがいいというか、ダスラがガリガリというか」
いやーこう見えて痩せマッチョですんでね、体重は標準より重いんですよ。
「まぁそれはどっちでもいいんです。ですが、そういう日々の栄養が足りていない人たちの頬を引っ張ったら、どうなると思いますか?」
「怒られるわね?」
いや、ごもっともなんですけどちょっと笑ってしまった。
「先ほど、ナーシャ様は自分のほうが肉付きがいいとおっしゃいました。これは日々、お腹が満ち足りているからです。では問題です、日々お腹が満ち足りていない人の肉付きはどうなりますか?」
「痩せてしまうわね。骨と皮だけみたいになっちゃう」
「ではもう一度、お訊きします。そういう日々の栄養が足りていない人たちの頬を引っ張ったら、どうなると思いますか?」
私が言いたいことの真意をちょっと図りかねて逡巡してたお嬢様だけど、合点がいったという表情を浮かべて顔を上げる。
「私たちみたいに、ミョーンて広がらない……よね?」
「はい、そのとおりです。お金があったら着るものと食べるもの、どちらを優先するかはわかりますよね」
「食べるものよね。服じゃお腹は膨れない」
いつのまにか、お嬢様の目は真剣だ。私が発する言葉の一つ一つに、真剣に向き合ってくれている。
「つまり食べものに恵まれていない人は、着るものにも不自由している……と考えられますよね?」
「ええ」
「当然ながら学校になんて行くお金もないですし、ちゃんとした教育を受けることも難しいでしょう。だからそういう人たちが、人としてのマナーを身に着ける機会もそうないんです」
「そうなるわ……ね」
口をギュッと結ぶお嬢様、その頭の中ではどう思いを巡らせているのだろうか。私は小休止とばかりに、空になったお嬢様のカップにお茶のおかわりを注ぐ。
お嬢様が一口つけて、再びテーブルに戻したのを機に私も再び口を開く。
「そういう領民の姿を見て下品だと罵ること、野蛮だと蔑むことは簡単です。ですがそれは同時に、領民一人ひとりを幸せにできてないことの裏返しじゃないでしょうか」
「ダスラの言うことはもっともよ? でもじゃあ、どうすればいいと? 私になにを望むの?」
あ、お嬢様がちょっと不機嫌モードだ。そりゃそうだよね、お嬢様はあくまで公爵家の令嬢であってラーセン公爵のように為政者の立場ではないから。
だからこの問題をお嬢様にぶつけるのは、ある意味で私のほうが間違っている。
「私の発言を不愉快に感じてもここはグッと堪えてください、あとで鞭打ちタイムを覚悟しますから」
「えぇ、楽しみにしといて」
イヤです。
「では領地運営に携わってないから、自分はなにもしたくないですか? できないですか?」
「……私になにができるというの」
「それこそ、さっきおっしゃったじゃないですか。貧乏人にパンをあげたらどうです」
ちょっと意地悪な言い方かもしれない。だけど、どうしても言わずにはいられない。
「でも実際にナーシャ様はパン一つとて領民に、貧乏人に恵んだことはないですよね」
「それは……」
お嬢様を困らせるつもりじゃないので、ここは本題に進むか。私がお嬢様だったときにダスラに同じことを言われて、反発しただけで終わったあの言葉を思い切って言ってみる。
「ですので、やってみませんか? 取り急ぎ、領内の視察といいますか。ご自分の目で見て、確かめてみたくないですか?」
「……それは、街に遊びに行くというのとは違うのよね?」
やっぱり、私のときとは違うな。教育し甲斐があるかもしれない。
「そうです。領民の笑顔が絶えない場所も、笑顔の絶えた日の当たらない場所も」
「笑顔の絶えた日の当たらない場所……」
「もちろん、それを見たところでナーシャ様にできることなんて限られています。ですが将来、王子の妃としてナーシャ様の役目はなんでしょうか。社交の場で着飾ることだけでしょうか」
当たり前だけど、あのクソ殿下との婚約はなんとしてでも解消してさしあげたい。だがそれが叶ったところで、それに準ずる高位の家門に嫁ぐことは公爵令嬢として避けることはできない。
「でも私に、なにができるかしら?」
「それを考えるために、視察に出てみませんか? 答えが見つかるかもしれませんし、見つからないかもしれません。でもたとえみつからなくても、答えを探そうとすることが一番大事なんです」
「ダスラの言いたいことはわかったわ、行ってみる。もちろん、ダスラもついてくるのよね?」
当たり前ですがな。というか、
「いっそのこと、二人きりで行ってみませんか?」
「え⁉」
公爵令嬢の外出なんて、とてもじゃないが護衛もつれずにとなると非常識きわまりない。ましてや、王子殿下の婚約者なんだ。
だけど正式に外出となると、お嬢様に『日の当たらない場所』をお見せするのはどうしても反対されてしまうだろう。だから、だから――。
「お忍びでってこと? いいわね、面白そう‼ ……あ、面白がっちゃダメだよね」
あらら、意外と真面目な一面もあるんですね。
「さて、そうと決まれば……行きましょうか!」
「えっ、今⁉」
善は急げ、鉄は熱いうちに打てと申します。自分で言うのもなんだけど、ナーサティヤ・ラーセンは熱しやすく冷めやすいところあるから。
勢いは大事です!
「この馬車、揺れるわね。お尻が痛いわ」
いくらお忍びとはいえ、そこは公爵令嬢。市井の人と一緒に乗合馬車を利用するわけにはいかない。
「庶民が乗る馬車なんてこんなものですよ。というか、馬車を貸切にするなんて一部の金持ちしかやりません」
「そうなの?」
これは色々と教えがいがありそうだ。
「でもお屋敷を抜け出すの、楽しかったわね!」
「楽しんでいただけたならなによりですけどね」
いくら公爵令嬢、しかも両親からは放任されメイドたちからは疎んじられているとはいえ、市街地をお付きのメイドだけを連れて行き先も告げずに出歩くなんて許されない。
なのでまずお嬢様には町娘っぽい粗末なワンピースに着替えていただいた。髪型も普段のゴージャスなそれを隠すように、ぶっとい三つ編みにして。
メイクも落として、代わりに偽物のそばかすをチョンチョンと。念には念を入れて眼鏡なども考えたが、眼鏡を買えるなんていいとこのお嬢様だ。
私自身も眼鏡をしているのと、若い女性はあまり眼鏡をしないという世間の風潮もあってそれは見送った。えぇ、若くなくてすいませんね。
かくいう私も、メイド服から普段着に。かつての私いわく、『女としては正直終わってる行き遅れ』のダスラこれでもかと、地味で粗末なワンピースに身を包む。
そして二人、一階の窓からこっそりと脱出。ダスラとしてはお嬢様が単独でこんなことをなさったのなら叱り飛ばすところだけど、今回は共犯なので仕方がない。
(というか唆したの私だし)
そして、裏門へ向かう道すがら。広い園庭を二人両手に隠密これでもかとばかりに、手折った樹木の枝を持ってコソコソと泥棒みたいな真似をやったのは私も楽しかった。
だってね、庭師とか護衛兵とかあちこちにいるんですよ。見つからないように屋敷の外に出るのは、至難の技なんです。
なんとか裏門にたどりついたけど、そこは公爵邸ですから当然自由に出入りはできません。私は泣く泣く、自腹で門兵に賄賂を握らせて無事脱出。
そこからは、足が痛いだの疲れただのと文句を言う怪獣を連れてしばし歩く。馬車と御者を時間貸しするお店でも、これまた自腹で。
「ちなみにこの馬車と御者を借りるお駄賃ですけど、一般庶民の半月ぶんのお給金がかかります」
「……それだと、残り半月はどうやって過ごすの?」
「ですから、おいそれと借りられないんですよ」
「あ、そうか」
気づいてほしいな、その一般庶民の半月ぶんのお金を私が出してるんだってことに。
ちなみにだけど、これでも公爵令嬢お付きのメイドですからね。お給金もいいので、さすがに半月ぶんではないです。
(まぁそれでも一週間ぶんではあるけど)
明日からの晩酌、当分は我慢だなと思うと心も重い。
「で、馬車はどこに向かわせてるの?」
「旦那様が資金援助している孤児院ですね」
私のとき、両親に連れられて孤児院に視察に行ったのは十五歳のときだった。臭いは腹減ったわ眠いわと駄々をこねて両親を困らせ、ダスラに白い目で見られながらさっさと帰った記憶がある。
今お嬢様は十四歳。とりあえず前世とはできるだけ違うことをしてみようと、あの陰惨な結末に抗ってみようと思って、この流れなんである。
「お父様が資金援助しているところなら、視察の必要がないんじゃないの?」
「と言いますと?」
「だって……生活に困ってないだろうし、私が視察する意味あるのかなぁって」
まぁそれももっともなんですけどね。
「旦那様は資金を援助なさってますが、毎回実際に足を運んで手渡ししているわけじゃないんです」
「うん」
「もしお金を受け取ってるところを、ほかの人に見られていなければ……ナーシャ様ならどうしますか?」
もちろん、ちゃんと適切に使うだろう。
「ナーシャ様は性格は悪いけれど、悪人ではないですよね」
「は?」
「あ、すいません」
うーん、心の声が出てしまった。
「そうね、その失言の件は帰ったら鞭打つとして……ダスラが言いたいのは、ちゃんとお金が孤児院のために使われているかどうかって意味よね?」
「ですね」
やっぱ鞭ですかそうですか、本当にありがとうございました。
「つまり、その孤児院はあやしいの?」
「なにがでしょう?」
「その……誰かがお金を着服してるみたいな、そういうのがあるのかなって」
「さぁ? 存じませんね」
「ダスラ、あのねぇっ‼」
いやだって、知らないものは知らないのだ。ただ、そうじゃなくて。
「だからこその視察ですよ」
「?」
「援助資金や物資が、ちゃんと孤児院のために使われているかどうか。ちゃんと『調べていますよ』という監視の目があれば、邪な考えを持っていてもそう簡単には犯罪に足を踏み入れないでしょう?」
「なるほどね……めんどくさいわね?」
おっとー、そう来たか。
「もうほんとぶん殴られる覚悟で言いますけど、私がナーシャ様の生活態度を常に見守って、諫めるべきは諫めています。もし私が旦那様や奥様のように、ナーシャ様に無関心だったらどうなると思います?」
「……そ、」
お嬢様がなにか言いかけたけど、これはちょっとまずい。
あのクソ両親がお嬢様に無関心だなんて事実をつきつけるのは、お嬢様の精神をガラスで抉るような行為だ。
「ナーシャ様を傷つける発言をいたしました、もうしわけありません」
もっと上手い言い回しはないもんかと思ったが、自分で言った言葉で自分で傷ついている私もいる。前のダスラは、こんな意地悪は言わなかっ……いや、言ってたけど。
「うんまぁ、それは事実だからいいわ。ダスラ以外に言われたら、ぶっ飛ばしてたけどね?」
そう言って笑うお嬢様、やっぱ好きだなぁ。
「確かにダスラの目がなかったら、私は素行不良な令嬢になっていたかもしれない」
「今がそうじゃないみたいな言い方ですね?」
思わずツッコミを入れてしまったが、
「言っておくけど、ダスラに言われたらぶっ飛ばしたくなる言葉もあるからね⁉」
さーせん。そんな軽口をやり取りして、思わず二人で吹き出す。
「まぁ何ごともなければ、それはそれでってことかしら」
「そうなんですけどね……」
「なにか含みがありそうね?」
私がお嬢様だったときに気づかなかったこと、ダスラとして二十ウン年生きてきたからこそ見えたこと。それをお嬢様に感じ取ってほしいのだけど、うーん?
「たとえば、お腹を空かせている人にパンを与えたとします」
「うん」
「食べますね?」
「食べるわね」
でもそれは、お腹の中に消えたらそれまでだ。半日もすれば、またお腹がすくだろう。
「その場合、どうしますか?」
「またパンをあげる……違う?」
なんだか上目使いで、おそるおそるといった塩梅のお嬢様。あぁそうか、これは『正解かどうか』を気にしてらっしゃる模様。
「言っておきますが、私の考えが正解というわけではありません。毎食恵むなら、ナーシャ様の意見も正解なんです」
「よかった」
「では毎食といかない場合は?」
腕を組んで、むむむっと考えこむお嬢様。ときおりひらめきそうになっては、また難しい顔で唇の端をキュッと結ぶ。
(さすがに十四歳の貴族令嬢には答えが出ないか)
そう思ったときだった。お嬢様が、まさかの正解というか私と同じ意見を言ったんだ。
「お仕事を見つけてあげる、とか。子どもなら、学校? 自立して食べていけるように、導くみたいな? 違うかな……うーん」
本当にびっくりした。私が怪獣だったときに、こんな考え方にたどり着けただろうか?
(本当に、歴史は変えられるかもしれない)
私は苦手ながら精一杯の笑顔で、お嬢様の頭を少し乱暴なまでになでなで。愛しいこのお嬢様の、幸せのためにもっと頑張ろうって。
「ダ、ダスラ?」
「よいご意見です、ナーシャ様。感服つかまつりました」
「えへへ、そう?」
正解したのが嬉しいのか頭をなでられているのが嬉しいのか、お嬢様が破顔一笑になって照れくさそうにはにかむ。髪型が崩れるのを嫌忌してか、『ちょっとやめてよ』となで続ける私の手を嫌がる仕草をするのだけど。
そして肝心のところで失言しちゃうのが、この私なのだ。
「もっとバカだと思ってました」
馬車の中に乾いた破裂音が響き渡って、私はお嬢様の本気の平手打ちで座席を転がり落ちたのでした。
「さて、ナーシャ様。どうしますか?」
「どう、とは?」
御者に指示して、馬車は孤児院の少し手前で停めてもらった。公爵様が資金援助をしているとはいえど、今のナーシャ様は公爵令嬢ではなく町娘としてお忍びの視察なのだ。
「公爵令嬢として公式に訪問なさりますか? それともそのお姿のままで……まぁそれだと中に入るのは難しいのですが」
「なるほどね」
まぁ高い塀とかがあるわけじゃなし、敷地内に入らないでも見える情報は多い。
「まずは外から。そして必要が生じたら、改めてナーサティヤ・ラーセンとして中を見てみたい」
「かしこまりました」
そして二人馬車を降りて、孤児院へ続く道をテクテクと歩く。
「ねぇ、ダスラ」
「なんでしょうか」
「まずは、そうね……私のことをナーシャって呼んで」
はい? 呼んでますよね?と思ったけど、そういうことじゃないみたいで。
「まずはお忍びなんだから、『様』付けはなし。呼び捨てで呼んで」
「……かしこまりました」
別にイヤじゃないんですけどね。ナーシャって自分の前世のニックネームってのもあって、呼び捨てにするのはなんだか複雑というか面はゆい。
「ではナーシャ、私との関係はどういう設定にしましょう?」
「姉妹にしようよ、お姉ちゃん!」
「!?!?」
いや待て。待て待てちょっと待って?
「あははは、なんて顔してるのよお姉ちゃん!」
狼狽える私を見て大ウケのお嬢様だけど、いやいや萌え死ぬ。尊死しちゃう。
「……まぁいいですけどね。ではナーシャ、孤児院ももうそこです。まずは周囲を歩いてみましょうか」
「うん、お姉ちゃん! あ、言葉づかいも気さくな感じでね?」
もうやめて、私のライフはゼロよ!
顔が真っ赤になっちゃいそうなのを心頭滅却してなんとか堪え、まぁ仲のいい姉妹を演じるんだし?と思って無意識にお嬢様に手を差し伸べてみた。
「え、手をつなぐの⁉」
したら、なぜか大慌てで真っ赤になってしまうお嬢様。おや、おやおやぁ~?
「お姉ちゃんと手をつなごうよ、ナーシャ」
そう言ってニヤリとほくそ笑む私と、なんだか悔しそうにギリギリと歯ぎしりをしながらそれでも赤面したままのお嬢様。なんだか無念とでもいいたげに、華奢で細い腕を差し出してきて私の手を握る。
「憶えてなさいよ!」
って小声で捨てゼリフを浴びちゃったんですけど、解せぬ。マウントを取られたとでも思ったんですかね。
(帰ったら鞭かなぁ……)
そう思って、ちょっと陰鬱になってきた。
まぁそれはともかくとして、結構広い孤児院の周囲を散策。園庭は広いし、元は教会だったらしき建物もそれなりの規模だ。
(でも、なんか変だ)
そしてそれはお嬢様も感じとったらしく、
「ねぇ、ダ……お姉ちゃん。コレって変じゃない?」
「ナーシャも気づかれまし……気づいた? 子どもの声がしない」
「うん」
なんというか、授業中の学校であってももっと子どもたちの気配は感じられる。だがまるで中で葬式でもやってるんじゃないかってぐらい、それがないのだ。
「みんなでお留守なのかな?」
怪訝そうに、建物に目をやるお嬢様。だがその眼は、まるで射貫くような猛禽のそれだ。
そう、『いないわけじゃない』気がするんだ。この強烈な違和感、なんだろう。
「……もうちょっと回ってみよう、ナーシャ」
「わかった」
チラ見しつつ、結局孤児院を一周。ときおり窓の向こう、建物の中に人が動く気配を感じたけれどこんなにいい天気なのに誰一人として外に出てこない。
途中で気のよさそうな老夫婦と出合い頭になったので、ここはちょっと一計を案じてみる。
「こんにちは!」
「こんにちは、お嬢さん」
旦那さんのほうが気さくに挨拶に応じてくれて、隣の婦人は無言ながらにこやかに笑みを浮かべながらお辞儀をしてくれる。いきなり他者との接触を取り出した私にびっくりしたのか、お嬢様はちょっと腰が引けてるや。
「ちょっとお訊きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんじゃろうか?」
私はお嬢様をチラと見て、指でクイと眼鏡を少しだけ上げて生の肉眼を見せる。そしてすぐさま戻し、旦那さんと向き合って。
(お嬢様に伝わってるといいんだけど)
こんなことなら事前に打ち合わせしとくんだったなと悔やむけど、えーいままよ!
「この子、親に見捨てられた可哀そうな子なんです」
そう言って、お嬢様の頭にポンと手をやる。
「⁉」
心当たりのない設定に、一瞬だけお嬢様が硬直するのがわかった。翡翠のような透き通ったグリーンの大きな瞳のお嬢様と違い、くすんだダークグレーで決して美しいとは思えない私の瞳で再度アイコンタクトを送って、
「私も自分一人で食べていくのが精いっぱいで、妹の面倒を見切れないんです。わがまま言うは暴れるわで手がつけられなくて、もうほんとめんどくさくて」
普段の鬱憤を晴らそうと思ったわけじゃないが、ここぞとばかりにまくしたててみる。
「なので、よい引き取り手がないものかと思いまして……ここの孤児院の評判はどんな感じでしょうか?」
私のアイコンタクトの意図がわかったのか、お嬢様は無言だ。ただ、手を繋いでるように見せかけて私の手の親指を片手で器用にへし折ろうとするのやめてもらえませんかね⁉
すごく……痛いです。
「ふむ、そうじゃの?」
「お気の毒に」
旦那さんのほうはあごに手をあてて考え込む仕草だが、婦人のほうはちょっと私のことを責めるような視線を投げかけてくる。まぁ『親に見捨てられた可哀そうな子』が姉からも見捨てられようとしているのだ、そりゃ不快か。
「私としては妹と別れたくはないのですが……私の元にいても、明日のパンも買えるかどうか」
そしてわざとらしく『ヨヨヨ……』と泣き崩れる。嘘涙を出せるのは私の特技だ。
「お姉ちゃん、泣かないで! 私も別れたくないけど、一緒にいるとお姉ちゃんに迷惑をかけちゃうからっ」
そう言ってお嬢様は、私に抱きついてその顔を私の胸に埋める。小刻みに震えているが、必死に笑いを我慢してらっしゃる。
(うーん、茶番!)
というか私もお嬢様の悪ノリに、思わず吹き出しそうになって唇が波打ってる。だけど次に旦那さんが口を開いた瞬間に、私もお嬢様も硬直しちゃったんだ。
「やめときなさい。あそこの孤児院は、孤児にとっちゃ地獄かもしれん」
予想だにしなかった言葉を耳にして、ガバッと顔を上げたお嬢様と目が合う。そしてなんだかすごい剣幕で旦那さんのほうに振り返ったお嬢様の、口から出た怒気を含むその言葉は――。
「それについて、詳しく教えてもらえますか?」
さっきまで笑い死んでたお嬢様はもうそこにはいなくて、『高貴なる者の責任と義務』を背負った公爵令嬢が凛とした表情で立っていたんだ。
「なに?」
「『高貴なる者の義務と責任』ってご存じですよね?」
「……まぁね」
「ではお訊きしますが」
私は昨日、二十七歳の誕生日を迎えた。まぁこれはどうでもいいし、誰にも明かしてないのでおめでとうなんて言ってくれる人はいない。
だが私の誕生日の翌日、つまり今日。お嬢様は一週間前に十四歳の誕生日を迎えた。
私がナーシャだったときの十四歳の誕生日から一週間後に、ダスラと交わした会話を今も覚えている。そしてダスラとしての私も、そろそろお嬢様に『それ』を身につけてほしかったのもあって。
「では、ぶっちゃけなにでしょうか?」
「なにがよ⁉」
「ノブレス・オブリージュとは、です」
「えぇっと……」
うん、私も答えに窮したな。それでわかんなくて確か、
「あ、あれよね? 貧乏人にパンを恵んだりすることよね⁉」
って言いましたね、ええ。今さらながらに、当時の自分のバカさ加減にムカついてきた。
「あの……ダスラ?」
「はい」
なんだろう、私の視線が気になるみたいで必死に目をそらそうとしている。
「どうしました?」
「いや、その……ね?」
二人の間ってか私から見て左方に、お嬢様のドレッサーがある。お嬢様がチラと視線を外すのにつられて、私もついつい左を見て……あぁ、なるほど。
(すっごい目してんな、私)
ミラーに映し出されたのは、まるで道ばたに落ちている酔っぱらいの吐しゃ物を発見してしまったときのような、すっげー忌々しい表情。この視線をお嬢様に投げかけてたのか。
「私が間違えたことを言ったのだったら、怒ってほしい。教えてほしいの」
「……」
「ダスラの反応からして、私が間違えたんだってのはわかる。わかるのよ! だけど、そういう目で見るのは……」
なんかちょっと泣きそうになってるな? っていうか、当時そう言った私にダスラは、優しくその意味を教えてくれたっけ。で、確か?
『うるさいわね! 貧乏人に恵んであげたらそれでいいじゃないの‼』
とか言って、ダスラを呆れさせたもんだった。そして今、私のときとは違うお嬢様のその言葉を受けて、自分自身がとんでもない過ちを犯してしまったのを自覚する。
お嬢様の理不尽ともいえるわがままを、周囲は鬱陶しそうに受け流すだけだった。私以外のメイドにいたっては、盲目的に従うか見て見ぬふりで。
この環境が前世の私とお嬢様を、とんでもない悪役令嬢に育て上げてしまったのだ。だから私は、お嬢様のガス抜き用のサンドバッグになりつつもそういう部分はしっかりとお教えするんだって決めてたのに。
なのに、なんの説明もしないでお嬢様を蔑んでしまった。しかも私のときと違い、ちゃんと教えを請いたいと言っているのに。
「そうですね、私は卑怯者でした」
「え?」
「なにが誤っているのかを諭さねばならないのに、無遠慮で不躾な態度をナーシャ様にとってしまいました。本当にもうしわけありません」
「うん……」
私、本当に最低だ。お嬢様の人格形成の邪魔したやつらと、同じ態度を取ってしまっている。
「あの、ダスラ? そんなに落ち込まなくても!」
やっばい、お嬢様が優しくて涙出そう。言葉を発したら、声が震えてしまいそう。
「では気を改めまして。あ、その前にお茶をお淹れしますね」
「うん」
お嬢様がソファでお待ちになっている間、カチャカチャとお茶を淹れる用意をする。そのさなかで、ずっと考えていることがあって。
(お嬢様が処刑される未来は、やってこないのかもしれない)
だって、あまりにも違い過ぎる。当時の私と今のお嬢様、今の私と前のダスラ。
「いや、でも……どうなんだろ」
お茶を注いでる途中なのに考え事に没頭してたせいか、カップのふちギリギリになみなみと注いでしまった。
「あ」
このままでは運べない……どうしよ。仕方ないので、こぼれないようにカップをおそるおそる手に取って、注ぎ過ぎたぶんは私の喉に流し込んだ。
「ダスラってほんと、私に対して遠慮がないよね」
そう言って、お嬢様が吹き出す。って‼
「すすす、すいません‼ 注ぎ過ぎたものでつい!」
なにやってんだ私。理由が理由とはいえ、最初に淹れたお茶を主人であるお嬢様より先に手に取って飲むという暴挙!
「いいのよ、遠慮のないダスラが好きよ?」
「……ありがとうございます」
得意げにニマニマと笑いながら、お嬢様がのたまう。なんだかな、マウント取られてしまった感がすごい。
なんとか二人分をお淹れして、改めて会話を再開する。
「ナーシャ様、ちょっと危ないのでカップを置いていただけますか?」
「危ないって?」
お嬢様は怪訝そうにそう言いながらも、ティーカップをテーブルに戻す。そしてそれを確認すると、私は身を乗り出してお嬢様の両頬をつまんでムニーッと左右に引っ張った。
「いだだだだっ⁉ だ、だふら?」
強制的に変顔にされちゃったものだから、お嬢様の舌が回らない。私は静かに指を離すと丁寧にさすってあげたのだけど。
「なにするのよっ⁉」
そう言うがはやいが、両頬を包む私の手をガッと払いのけられてしまう。
「いえ、立派なお肉だと思いまして」
「喧嘩売ってるの?」
「まぁある意味そうですね。それともナーシャ様には、優しく説明したほうがいいでしょうか」
「……つまり今の行為は、わけがあってやったと?」
あら、お見通し。理解が早いのは助かる。
「はい。ちなみにですが、私はここまで拡がります」
そう言って私も、自分で自分の頬肉を左右に引っ張った。
「それがなんだと言うの?」
「『衣食足りて礼節を知る』という、東の国のことわざがございます。着るもの食べるもの、どちらも満たされて初めて人はマナーを意識するということですね」
「なるほどね」
だっけ? まぁお嬢様が納得されてるのでいいか。
「幸いにして、ナーシャ様は公爵令嬢です。着るものはもちろん、食べるものにも困ってません」
「うん」
「そして私もまた、公爵家に雇ってもらえてますから十分なお給金をいただいております。ナーシャ様のように貴族の教育は受けておりませんが、私もまた着るものと食べ物には困っていないんです」
ま、前世で貴族教育はイヤってほど受けましたけどね。
「ですから、人並みにはマナーは守れていると自負しています」
「そうね?」
お嬢様が自分の両頬に手をやって、これみよがしに『さっき頬を引っ張ったのはなに?』と視線で訴えかけてきた。そりゃそうだ、意味わかんないよね。
「ラーセン領にて、着るものに困ってる人や食べものに困ってる領民は一定数います。それこそ、家のない者や孤児など」
「それは、聞いたことあるわ」
「見たことは?」
「馬車の窓からちょっとだけなら」
そう言うお嬢様はちょっと後ろめたそうだけど、いやいやお嬢様は悪くありませんて。ただ知っていてくれてるのなら、それでいいんです。
そして私が教えたいのは、この先のこと。
「さきほどのナーシャ様と私、どっちの頬が広くひろがったと思いますか?」
「私かしら? 私のほうが肉付きがいいというか、ダスラがガリガリというか」
いやーこう見えて痩せマッチョですんでね、体重は標準より重いんですよ。
「まぁそれはどっちでもいいんです。ですが、そういう日々の栄養が足りていない人たちの頬を引っ張ったら、どうなると思いますか?」
「怒られるわね?」
いや、ごもっともなんですけどちょっと笑ってしまった。
「先ほど、ナーシャ様は自分のほうが肉付きがいいとおっしゃいました。これは日々、お腹が満ち足りているからです。では問題です、日々お腹が満ち足りていない人の肉付きはどうなりますか?」
「痩せてしまうわね。骨と皮だけみたいになっちゃう」
「ではもう一度、お訊きします。そういう日々の栄養が足りていない人たちの頬を引っ張ったら、どうなると思いますか?」
私が言いたいことの真意をちょっと図りかねて逡巡してたお嬢様だけど、合点がいったという表情を浮かべて顔を上げる。
「私たちみたいに、ミョーンて広がらない……よね?」
「はい、そのとおりです。お金があったら着るものと食べるもの、どちらを優先するかはわかりますよね」
「食べるものよね。服じゃお腹は膨れない」
いつのまにか、お嬢様の目は真剣だ。私が発する言葉の一つ一つに、真剣に向き合ってくれている。
「つまり食べものに恵まれていない人は、着るものにも不自由している……と考えられますよね?」
「ええ」
「当然ながら学校になんて行くお金もないですし、ちゃんとした教育を受けることも難しいでしょう。だからそういう人たちが、人としてのマナーを身に着ける機会もそうないんです」
「そうなるわ……ね」
口をギュッと結ぶお嬢様、その頭の中ではどう思いを巡らせているのだろうか。私は小休止とばかりに、空になったお嬢様のカップにお茶のおかわりを注ぐ。
お嬢様が一口つけて、再びテーブルに戻したのを機に私も再び口を開く。
「そういう領民の姿を見て下品だと罵ること、野蛮だと蔑むことは簡単です。ですがそれは同時に、領民一人ひとりを幸せにできてないことの裏返しじゃないでしょうか」
「ダスラの言うことはもっともよ? でもじゃあ、どうすればいいと? 私になにを望むの?」
あ、お嬢様がちょっと不機嫌モードだ。そりゃそうだよね、お嬢様はあくまで公爵家の令嬢であってラーセン公爵のように為政者の立場ではないから。
だからこの問題をお嬢様にぶつけるのは、ある意味で私のほうが間違っている。
「私の発言を不愉快に感じてもここはグッと堪えてください、あとで鞭打ちタイムを覚悟しますから」
「えぇ、楽しみにしといて」
イヤです。
「では領地運営に携わってないから、自分はなにもしたくないですか? できないですか?」
「……私になにができるというの」
「それこそ、さっきおっしゃったじゃないですか。貧乏人にパンをあげたらどうです」
ちょっと意地悪な言い方かもしれない。だけど、どうしても言わずにはいられない。
「でも実際にナーシャ様はパン一つとて領民に、貧乏人に恵んだことはないですよね」
「それは……」
お嬢様を困らせるつもりじゃないので、ここは本題に進むか。私がお嬢様だったときにダスラに同じことを言われて、反発しただけで終わったあの言葉を思い切って言ってみる。
「ですので、やってみませんか? 取り急ぎ、領内の視察といいますか。ご自分の目で見て、確かめてみたくないですか?」
「……それは、街に遊びに行くというのとは違うのよね?」
やっぱり、私のときとは違うな。教育し甲斐があるかもしれない。
「そうです。領民の笑顔が絶えない場所も、笑顔の絶えた日の当たらない場所も」
「笑顔の絶えた日の当たらない場所……」
「もちろん、それを見たところでナーシャ様にできることなんて限られています。ですが将来、王子の妃としてナーシャ様の役目はなんでしょうか。社交の場で着飾ることだけでしょうか」
当たり前だけど、あのクソ殿下との婚約はなんとしてでも解消してさしあげたい。だがそれが叶ったところで、それに準ずる高位の家門に嫁ぐことは公爵令嬢として避けることはできない。
「でも私に、なにができるかしら?」
「それを考えるために、視察に出てみませんか? 答えが見つかるかもしれませんし、見つからないかもしれません。でもたとえみつからなくても、答えを探そうとすることが一番大事なんです」
「ダスラの言いたいことはわかったわ、行ってみる。もちろん、ダスラもついてくるのよね?」
当たり前ですがな。というか、
「いっそのこと、二人きりで行ってみませんか?」
「え⁉」
公爵令嬢の外出なんて、とてもじゃないが護衛もつれずにとなると非常識きわまりない。ましてや、王子殿下の婚約者なんだ。
だけど正式に外出となると、お嬢様に『日の当たらない場所』をお見せするのはどうしても反対されてしまうだろう。だから、だから――。
「お忍びでってこと? いいわね、面白そう‼ ……あ、面白がっちゃダメだよね」
あらら、意外と真面目な一面もあるんですね。
「さて、そうと決まれば……行きましょうか!」
「えっ、今⁉」
善は急げ、鉄は熱いうちに打てと申します。自分で言うのもなんだけど、ナーサティヤ・ラーセンは熱しやすく冷めやすいところあるから。
勢いは大事です!
「この馬車、揺れるわね。お尻が痛いわ」
いくらお忍びとはいえ、そこは公爵令嬢。市井の人と一緒に乗合馬車を利用するわけにはいかない。
「庶民が乗る馬車なんてこんなものですよ。というか、馬車を貸切にするなんて一部の金持ちしかやりません」
「そうなの?」
これは色々と教えがいがありそうだ。
「でもお屋敷を抜け出すの、楽しかったわね!」
「楽しんでいただけたならなによりですけどね」
いくら公爵令嬢、しかも両親からは放任されメイドたちからは疎んじられているとはいえ、市街地をお付きのメイドだけを連れて行き先も告げずに出歩くなんて許されない。
なのでまずお嬢様には町娘っぽい粗末なワンピースに着替えていただいた。髪型も普段のゴージャスなそれを隠すように、ぶっとい三つ編みにして。
メイクも落として、代わりに偽物のそばかすをチョンチョンと。念には念を入れて眼鏡なども考えたが、眼鏡を買えるなんていいとこのお嬢様だ。
私自身も眼鏡をしているのと、若い女性はあまり眼鏡をしないという世間の風潮もあってそれは見送った。えぇ、若くなくてすいませんね。
かくいう私も、メイド服から普段着に。かつての私いわく、『女としては正直終わってる行き遅れ』のダスラこれでもかと、地味で粗末なワンピースに身を包む。
そして二人、一階の窓からこっそりと脱出。ダスラとしてはお嬢様が単独でこんなことをなさったのなら叱り飛ばすところだけど、今回は共犯なので仕方がない。
(というか唆したの私だし)
そして、裏門へ向かう道すがら。広い園庭を二人両手に隠密これでもかとばかりに、手折った樹木の枝を持ってコソコソと泥棒みたいな真似をやったのは私も楽しかった。
だってね、庭師とか護衛兵とかあちこちにいるんですよ。見つからないように屋敷の外に出るのは、至難の技なんです。
なんとか裏門にたどりついたけど、そこは公爵邸ですから当然自由に出入りはできません。私は泣く泣く、自腹で門兵に賄賂を握らせて無事脱出。
そこからは、足が痛いだの疲れただのと文句を言う怪獣を連れてしばし歩く。馬車と御者を時間貸しするお店でも、これまた自腹で。
「ちなみにこの馬車と御者を借りるお駄賃ですけど、一般庶民の半月ぶんのお給金がかかります」
「……それだと、残り半月はどうやって過ごすの?」
「ですから、おいそれと借りられないんですよ」
「あ、そうか」
気づいてほしいな、その一般庶民の半月ぶんのお金を私が出してるんだってことに。
ちなみにだけど、これでも公爵令嬢お付きのメイドですからね。お給金もいいので、さすがに半月ぶんではないです。
(まぁそれでも一週間ぶんではあるけど)
明日からの晩酌、当分は我慢だなと思うと心も重い。
「で、馬車はどこに向かわせてるの?」
「旦那様が資金援助している孤児院ですね」
私のとき、両親に連れられて孤児院に視察に行ったのは十五歳のときだった。臭いは腹減ったわ眠いわと駄々をこねて両親を困らせ、ダスラに白い目で見られながらさっさと帰った記憶がある。
今お嬢様は十四歳。とりあえず前世とはできるだけ違うことをしてみようと、あの陰惨な結末に抗ってみようと思って、この流れなんである。
「お父様が資金援助しているところなら、視察の必要がないんじゃないの?」
「と言いますと?」
「だって……生活に困ってないだろうし、私が視察する意味あるのかなぁって」
まぁそれももっともなんですけどね。
「旦那様は資金を援助なさってますが、毎回実際に足を運んで手渡ししているわけじゃないんです」
「うん」
「もしお金を受け取ってるところを、ほかの人に見られていなければ……ナーシャ様ならどうしますか?」
もちろん、ちゃんと適切に使うだろう。
「ナーシャ様は性格は悪いけれど、悪人ではないですよね」
「は?」
「あ、すいません」
うーん、心の声が出てしまった。
「そうね、その失言の件は帰ったら鞭打つとして……ダスラが言いたいのは、ちゃんとお金が孤児院のために使われているかどうかって意味よね?」
「ですね」
やっぱ鞭ですかそうですか、本当にありがとうございました。
「つまり、その孤児院はあやしいの?」
「なにがでしょう?」
「その……誰かがお金を着服してるみたいな、そういうのがあるのかなって」
「さぁ? 存じませんね」
「ダスラ、あのねぇっ‼」
いやだって、知らないものは知らないのだ。ただ、そうじゃなくて。
「だからこその視察ですよ」
「?」
「援助資金や物資が、ちゃんと孤児院のために使われているかどうか。ちゃんと『調べていますよ』という監視の目があれば、邪な考えを持っていてもそう簡単には犯罪に足を踏み入れないでしょう?」
「なるほどね……めんどくさいわね?」
おっとー、そう来たか。
「もうほんとぶん殴られる覚悟で言いますけど、私がナーシャ様の生活態度を常に見守って、諫めるべきは諫めています。もし私が旦那様や奥様のように、ナーシャ様に無関心だったらどうなると思います?」
「……そ、」
お嬢様がなにか言いかけたけど、これはちょっとまずい。
あのクソ両親がお嬢様に無関心だなんて事実をつきつけるのは、お嬢様の精神をガラスで抉るような行為だ。
「ナーシャ様を傷つける発言をいたしました、もうしわけありません」
もっと上手い言い回しはないもんかと思ったが、自分で言った言葉で自分で傷ついている私もいる。前のダスラは、こんな意地悪は言わなかっ……いや、言ってたけど。
「うんまぁ、それは事実だからいいわ。ダスラ以外に言われたら、ぶっ飛ばしてたけどね?」
そう言って笑うお嬢様、やっぱ好きだなぁ。
「確かにダスラの目がなかったら、私は素行不良な令嬢になっていたかもしれない」
「今がそうじゃないみたいな言い方ですね?」
思わずツッコミを入れてしまったが、
「言っておくけど、ダスラに言われたらぶっ飛ばしたくなる言葉もあるからね⁉」
さーせん。そんな軽口をやり取りして、思わず二人で吹き出す。
「まぁ何ごともなければ、それはそれでってことかしら」
「そうなんですけどね……」
「なにか含みがありそうね?」
私がお嬢様だったときに気づかなかったこと、ダスラとして二十ウン年生きてきたからこそ見えたこと。それをお嬢様に感じ取ってほしいのだけど、うーん?
「たとえば、お腹を空かせている人にパンを与えたとします」
「うん」
「食べますね?」
「食べるわね」
でもそれは、お腹の中に消えたらそれまでだ。半日もすれば、またお腹がすくだろう。
「その場合、どうしますか?」
「またパンをあげる……違う?」
なんだか上目使いで、おそるおそるといった塩梅のお嬢様。あぁそうか、これは『正解かどうか』を気にしてらっしゃる模様。
「言っておきますが、私の考えが正解というわけではありません。毎食恵むなら、ナーシャ様の意見も正解なんです」
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「では毎食といかない場合は?」
腕を組んで、むむむっと考えこむお嬢様。ときおりひらめきそうになっては、また難しい顔で唇の端をキュッと結ぶ。
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そう思ったときだった。お嬢様が、まさかの正解というか私と同じ意見を言ったんだ。
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本当にびっくりした。私が怪獣だったときに、こんな考え方にたどり着けただろうか?
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私は苦手ながら精一杯の笑顔で、お嬢様の頭を少し乱暴なまでになでなで。愛しいこのお嬢様の、幸せのためにもっと頑張ろうって。
「ダ、ダスラ?」
「よいご意見です、ナーシャ様。感服つかまつりました」
「えへへ、そう?」
正解したのが嬉しいのか頭をなでられているのが嬉しいのか、お嬢様が破顔一笑になって照れくさそうにはにかむ。髪型が崩れるのを嫌忌してか、『ちょっとやめてよ』となで続ける私の手を嫌がる仕草をするのだけど。
そして肝心のところで失言しちゃうのが、この私なのだ。
「もっとバカだと思ってました」
馬車の中に乾いた破裂音が響き渡って、私はお嬢様の本気の平手打ちで座席を転がり落ちたのでした。
「さて、ナーシャ様。どうしますか?」
「どう、とは?」
御者に指示して、馬車は孤児院の少し手前で停めてもらった。公爵様が資金援助をしているとはいえど、今のナーシャ様は公爵令嬢ではなく町娘としてお忍びの視察なのだ。
「公爵令嬢として公式に訪問なさりますか? それともそのお姿のままで……まぁそれだと中に入るのは難しいのですが」
「なるほどね」
まぁ高い塀とかがあるわけじゃなし、敷地内に入らないでも見える情報は多い。
「まずは外から。そして必要が生じたら、改めてナーサティヤ・ラーセンとして中を見てみたい」
「かしこまりました」
そして二人馬車を降りて、孤児院へ続く道をテクテクと歩く。
「ねぇ、ダスラ」
「なんでしょうか」
「まずは、そうね……私のことをナーシャって呼んで」
はい? 呼んでますよね?と思ったけど、そういうことじゃないみたいで。
「まずはお忍びなんだから、『様』付けはなし。呼び捨てで呼んで」
「……かしこまりました」
別にイヤじゃないんですけどね。ナーシャって自分の前世のニックネームってのもあって、呼び捨てにするのはなんだか複雑というか面はゆい。
「ではナーシャ、私との関係はどういう設定にしましょう?」
「姉妹にしようよ、お姉ちゃん!」
「!?!?」
いや待て。待て待てちょっと待って?
「あははは、なんて顔してるのよお姉ちゃん!」
狼狽える私を見て大ウケのお嬢様だけど、いやいや萌え死ぬ。尊死しちゃう。
「……まぁいいですけどね。ではナーシャ、孤児院ももうそこです。まずは周囲を歩いてみましょうか」
「うん、お姉ちゃん! あ、言葉づかいも気さくな感じでね?」
もうやめて、私のライフはゼロよ!
顔が真っ赤になっちゃいそうなのを心頭滅却してなんとか堪え、まぁ仲のいい姉妹を演じるんだし?と思って無意識にお嬢様に手を差し伸べてみた。
「え、手をつなぐの⁉」
したら、なぜか大慌てで真っ赤になってしまうお嬢様。おや、おやおやぁ~?
「お姉ちゃんと手をつなごうよ、ナーシャ」
そう言ってニヤリとほくそ笑む私と、なんだか悔しそうにギリギリと歯ぎしりをしながらそれでも赤面したままのお嬢様。なんだか無念とでもいいたげに、華奢で細い腕を差し出してきて私の手を握る。
「憶えてなさいよ!」
って小声で捨てゼリフを浴びちゃったんですけど、解せぬ。マウントを取られたとでも思ったんですかね。
(帰ったら鞭かなぁ……)
そう思って、ちょっと陰鬱になってきた。
まぁそれはともかくとして、結構広い孤児院の周囲を散策。園庭は広いし、元は教会だったらしき建物もそれなりの規模だ。
(でも、なんか変だ)
そしてそれはお嬢様も感じとったらしく、
「ねぇ、ダ……お姉ちゃん。コレって変じゃない?」
「ナーシャも気づかれまし……気づいた? 子どもの声がしない」
「うん」
なんというか、授業中の学校であってももっと子どもたちの気配は感じられる。だがまるで中で葬式でもやってるんじゃないかってぐらい、それがないのだ。
「みんなでお留守なのかな?」
怪訝そうに、建物に目をやるお嬢様。だがその眼は、まるで射貫くような猛禽のそれだ。
そう、『いないわけじゃない』気がするんだ。この強烈な違和感、なんだろう。
「……もうちょっと回ってみよう、ナーシャ」
「わかった」
チラ見しつつ、結局孤児院を一周。ときおり窓の向こう、建物の中に人が動く気配を感じたけれどこんなにいい天気なのに誰一人として外に出てこない。
途中で気のよさそうな老夫婦と出合い頭になったので、ここはちょっと一計を案じてみる。
「こんにちは!」
「こんにちは、お嬢さん」
旦那さんのほうが気さくに挨拶に応じてくれて、隣の婦人は無言ながらにこやかに笑みを浮かべながらお辞儀をしてくれる。いきなり他者との接触を取り出した私にびっくりしたのか、お嬢様はちょっと腰が引けてるや。
「ちょっとお訊きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「なんじゃろうか?」
私はお嬢様をチラと見て、指でクイと眼鏡を少しだけ上げて生の肉眼を見せる。そしてすぐさま戻し、旦那さんと向き合って。
(お嬢様に伝わってるといいんだけど)
こんなことなら事前に打ち合わせしとくんだったなと悔やむけど、えーいままよ!
「この子、親に見捨てられた可哀そうな子なんです」
そう言って、お嬢様の頭にポンと手をやる。
「⁉」
心当たりのない設定に、一瞬だけお嬢様が硬直するのがわかった。翡翠のような透き通ったグリーンの大きな瞳のお嬢様と違い、くすんだダークグレーで決して美しいとは思えない私の瞳で再度アイコンタクトを送って、
「私も自分一人で食べていくのが精いっぱいで、妹の面倒を見切れないんです。わがまま言うは暴れるわで手がつけられなくて、もうほんとめんどくさくて」
普段の鬱憤を晴らそうと思ったわけじゃないが、ここぞとばかりにまくしたててみる。
「なので、よい引き取り手がないものかと思いまして……ここの孤児院の評判はどんな感じでしょうか?」
私のアイコンタクトの意図がわかったのか、お嬢様は無言だ。ただ、手を繋いでるように見せかけて私の手の親指を片手で器用にへし折ろうとするのやめてもらえませんかね⁉
すごく……痛いです。
「ふむ、そうじゃの?」
「お気の毒に」
旦那さんのほうはあごに手をあてて考え込む仕草だが、婦人のほうはちょっと私のことを責めるような視線を投げかけてくる。まぁ『親に見捨てられた可哀そうな子』が姉からも見捨てられようとしているのだ、そりゃ不快か。
「私としては妹と別れたくはないのですが……私の元にいても、明日のパンも買えるかどうか」
そしてわざとらしく『ヨヨヨ……』と泣き崩れる。嘘涙を出せるのは私の特技だ。
「お姉ちゃん、泣かないで! 私も別れたくないけど、一緒にいるとお姉ちゃんに迷惑をかけちゃうからっ」
そう言ってお嬢様は、私に抱きついてその顔を私の胸に埋める。小刻みに震えているが、必死に笑いを我慢してらっしゃる。
(うーん、茶番!)
というか私もお嬢様の悪ノリに、思わず吹き出しそうになって唇が波打ってる。だけど次に旦那さんが口を開いた瞬間に、私もお嬢様も硬直しちゃったんだ。
「やめときなさい。あそこの孤児院は、孤児にとっちゃ地獄かもしれん」
予想だにしなかった言葉を耳にして、ガバッと顔を上げたお嬢様と目が合う。そしてなんだかすごい剣幕で旦那さんのほうに振り返ったお嬢様の、口から出た怒気を含むその言葉は――。
「それについて、詳しく教えてもらえますか?」
さっきまで笑い死んでたお嬢様はもうそこにはいなくて、『高貴なる者の責任と義務』を背負った公爵令嬢が凛とした表情で立っていたんだ。
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