死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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「よく来たな、ハーヴェスト侯爵、夫人、リチャード、ミリオネア」


豪華な一室で、陛下が豪快に笑う。
隣には王妃様がいた。


「王国の太陽と月にご挨拶申し上げます」


私達は陛下と王妃様に挨拶をし、促されるまま着席した。


「ミリオネア、大きくなったな。そして、聖女認定をされるとはさすがハーヴェスト家の娘だ」
「…陛下、ありがとうございます」


私は普段より声が硬くなってしまった。
王妃様の目がギラリと光る。
ジュエル殿下の婚約者に…と言っていた時の顔だ。
ジュエル殿下は可愛いけど、弟だとしか思えない。


「で、だ。ミリオネア、君は聖女であり、この国の防衛責任者であるハーヴェスト侯爵の娘だ。とすればやはり、由緒正しき伴侶が必要になるね?」
「…陛下、ミリオネアには好いた人と添い遂げさせたいのですが」


お父様がすかさず陛下の要望を止めようとした。
次の一言を口に出された瞬間に、私達には拒否権はない。


「侯爵はミリオネアを溺愛しているからなぁ…。ずっと私の希望を聞いてはくれないね」
「娘の人生ですから、本人の思うようにさせてやりたいのです」
「そうか。でも、こちらとしても子を思う気持ちは同じだ。ジャスティンが望む相手を選んでやりたい。だから、期間を設けよう。成人する16歳までに、お互いが思い合えば婚約、そうでなければそこで候補からは外れる…と言うのはどうかな?」
「…それまでに別に好いた人ができた場合はどうなりますか?ジャスティン殿下、ミリオネアに他に想い人が出来た場合にはその時点で終了としては?」


ばちり、と陛下とお父様の間で火花が散ったような気がした。
両者一歩も譲らず!な雰囲気を先に壊したのは陛下だった。


「いいだろう。ジャスティンには候補を何人か選抜するから、ミリオネアだけ縛ってしまうのは不公平だしな。では、16歳を期限として、婚約者候補にミリオネアを入れる。また、ジャスティン、ミリオネアに想い人が出来た場合には、その場でミリオネアは候補から外れる…それで構わないかな?侯爵」
「…はい」
「では、本日候補第一号になった事も発表しよう」


だ、第一号ですって…?
他にも沢山いるんじゃないの?
今から探すって事!?
それもう探す気なくない?
暗に婚約者に内定してるよアピールじゃないの。


「ところでミリオネア、聖魔法は使えるのか?」


じっと私を見つめる陛下が真剣な表情をしている。
何かあるのかしら…。


「はい、中級程度ならば使えます」
「そうか…。すまないが、見せてもらえるか?私も見た事がなくてね」
「構いませんが、何をすれば」
「ちょうど、呪われた指輪があるんだが浄化出来るか?」


陛下が手を挙げると、秘書がすっとトレーを差し出した。
そこには古びた宝石箱にそっと鎮座する黒ずんだ金色の指輪がある。


「…ひっ…!!」


短く悲鳴を上げたのは陛下の隣に座る王妃様で。
まるで幽霊を見るかのように目を見開きカタカタと震えだした。


「…?王妃様…大丈夫ですか…?」


思わず声を掛けてしまった。
それくらい尋常じゃない怯え方をしている。
これは誰の物なんだろうか。
どこかで見たような……思い出せないけど。


「これを浄化してもらう事は可能だろうか。私の大切な物でね…」


寂しげに呟いた陛下は、じっと指輪を見ている。
大切な物が呪われたなら、浄化してやりたいと思うだろう。
私はにこりと微笑み、「わかりました」と告げた。


「ありがとう…」


ほっとしたように笑う陛下は優しげな表情をする。
女性物のような指輪だが、誰の物なのだろう。
私はそんな事を思いながらも、この指輪に纏わりつく物が綺麗に解けて消えるイメージを思い浮かべた。


「………」


手に銀色の光が集まりだんだんと輝きだす。
私は指輪に手をかざし、「浄化」と唱える。
光は指輪を包み一層強く光り始めた。
やがて、シュウ…と光が消えると指輪はキラキラと元の輝きを取り戻したように金色に光っている。


「あ…指輪が…元の色に…あぁ…やはり…」


陛下は震えながら指輪を手に取り、愛しげに見つめている。
目尻にはうっすらと涙が溜まっていた。


「浄化は成功しました」


私はお辞儀をして一歩後ろに下がる。
良かった…成功して…。
内心ドキドキしていた分、達成感も大きかった。


「ありがとう…ミリオネア…いや…聖女ミリオネア」


宝石箱も心なしか煌めいて見える。
陛下はゆっくりと指輪を宝石箱に戻して、そっと蓋を閉めた。


「これは…ジャスティンの母の…アネシャの結婚指輪なんだ。彼女が亡くなった後、じわじわと色が変わり始めて…最近になって、もしかして呪いではないかと思い始めていた時に、ミリオネアが聖女だと聞いてね。どうしてもこれを元に戻してやりたかった。やはり…呪いだったんだな…」
「そ、そうだったんですね…」


だとすれば、アネシャ様は誰かに呪い殺されたと言う事…?
そんな話を私達にしてもいいの…?
私は陛下がそんな事を何故言い出したのか、理解できずにいた。
お父様に視線を送ると、無表情を貫き通している。


「聖女よ、これからもよろしく頼む」
「は、はい…」


陛下はその後、今日の段取りを簡単に説明してくれた。
特に無茶振りは無いように思うが、最後までわからない。
王妃様は今は普通に笑っているが、あの怯えようは異常に見えた。
何だったんだろう…。


「では、また後でな」
「失礼致します」


陛下との謁見が終わり、私達は控えの間に通された。
お父様は相変わらず無表情だし、お母様も難しい顔をしている。
やはりあの話は聞くべきでは無かった事か、と思った。
王家の秘密であろう事を。
すると、キィンと私達の周りに防音魔法が展開される。


「父上…秘密裏に他国に土地と屋敷を買おう」
「え…?」


お兄様が突然そんな事を言い出した。
イキナリ何を言い出すのかとぎょっとしたけど、お父様が目を丸くして吹き出す。


「ぷっ…はは!!リチャード、私も同じ事を考えていたんだよ!気が合うね!」
「いや…あの話…何か引っ掛かってさ。万が一の時、逃げれる場所を確保しとかないと…」
「だよね?聞いちゃったら逃れられない罠っぽいよね」
「はぁ…アネシャ様は風邪を拗らせて肺炎で亡くなったのに、何を言っているのかと…」
「は?え!?」


お父様も、お母様もさっきの神妙な顔はどうしたの!?
しかもアネシャ様は肺炎って!!呪いは!?
ぽかんと口を開けている私に気付いたお父様が説明をしてくれる。


「ミリオネア、あの指輪が呪われていたのは確かだ。でもアネシャ様は呪いで亡くなったんじゃない。陛下は聖女が現れた事を利用して、呪った人を探してるってとこかな。でも、陛下は王妃を疑ってたみたいだけど」
「え!?陛下が王妃様を!?」
「あの2人の結婚は色々あったからね」
「え…」


陛下と王妃様が結婚した経緯は、アネシャ様が亡くなって落ち込んだ陛下を王妃様が慰めて恋が生まれたと聞いている。
そうじゃなかったというの…?
王妃様がジャスティンの命を狙っていたのは、単に王位だけが目的だったと認識していたが呪いまで王妃様がかけるだろうか。
あの指輪を見た事があると思ったのは、肖像画で見たからだ。
ジャスティンはアネシャ様によく似ている。
だから私もアネシャ様の肖像画は好きだった。


「陛下のこれからもよろしく、はジャスティン殿下を守ってくれって事だろ」
「そう聞こえたな」
「頼む相手が違うわよね」


私はやっと理解した。
聖女だから、ジャスティンを守れと。
婚約者候補になれば、近くにいても違和感はないだろうと言う事か。
なーんだ!そう言う事!?


「要は婚約者候補の立場を利用して、殿下を守ってほしいって事なのね!あぁ、びっくりした!だったらそう言えば良いのに!!」
「ミリオネア、陛下はミリオネアを本気で婚約者にするつもりだからね。そこは間違わないでね」
「え!?そうなの!?」
「そりゃそうだろ!聖女だし、可愛いし、ハーヴェスト家の娘だし!どこを取っても得しかないじゃん」
「は……」


お兄様、過剰評価過ぎない!?
私にそんな価値はないわよ!?


「殿下がミリオネアに惚れない事を祈るよ」
「ないでしょ」
「わかんないだろ?」
「綺麗で博識なお嬢様が沢山いるから、私なんて目に入らないわよ」


アイラとか、カイラ様とかクリスティ様とかジャスティンが仲良くしていた令嬢なんていっぱいいるもの。
カイラ様は伯爵令嬢で学園内でよく話をしてるのを見たし、クリスティ様は公爵令嬢でパーティーの時によく踊ってたわね。
どちらも私に見せつける為だったのね、今思えば。
確かにイラついたから、ある意味成功よね。
我慢して気にしない風を装ったら、最後にアイラが出てきて完全に冷めたけど。


「だといいけどな」


お兄様が呆れたみたいに言うけど、前とは違うから今後はどうなるかなんてわからないわ。


「クリスティ様が妥当じゃないの?綺麗だし、しっかりしてるし」
「あぁ、あの根性悪そうな女?無理だな、俺は絶対嫌」
「お兄様の好みは聞いてないわよ」
「陰で何してるかわかんねーよ、あぁいう女は」


お兄様の目ってどうなってるのかしら。
真実の目でも持ってるの?
当たりよ、彼女、裏でイジメが酷いのよ。
泣かされた令嬢は数知れずだわ。
私はあからさまに敵意を向けられた事しかないけど。


「でもまぁ、性悪同士お似合いかもな」
「酷い言い方ね」
「騙し合いカップルでバランス取れるだろ」
「うわぁ…」


思わず顔を顰めてしまった。
嫌だわ、そんな婚約関係。
好き嫌い以前の問題じゃないの。


「でもミリオネアは最近大人っぽくなったからな。殿下だけじゃなくて他の奴らも一網打尽じゃないか?」
「は!?大人っぽい!?」
「あぁ、俺と魔法の話してる時とか、びっくりする時あるからな」
「そ、そうかなぁ~?やだ、お兄様ったら!」


そうだよ、私10歳だよ!!
15歳のお兄様と魔法談義してる場合じゃないよ!!
すっかり忘れてた!!
危ない!いや、もう遅い!?
でも特に違和感がないならもうこの感じでいいんじゃない!?
私は冷や汗をかきながら、衣装を変えるためにダリと部屋を移った。
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