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「ミリオネア・ハーヴェスト侯爵令嬢、君との婚約を破棄し俺はこのアイラ・シューネッツ男爵令嬢と婚約する」
しんとした豪華な部屋で、私は婚約者であるこのエナリア王国のジャスティン・エナリア王太子殿下に婚約破棄を告げられた。
彼の隣には、勝ち誇った顔でぴたりと身体を寄せるアイラがいる。
「理由を伺っても?」
私はにっこりと微笑みを返し、彼に問う。
本当は理由なんてわかっているけれど。
ケジメとして聞かせていただこう。
「君が数々の嫌がらせや、暴漢にアイラを襲わせた事はわかっているんだ」
眉間に皺を寄せ、ジャスティンは忌々しそうに言うが。
実はそれ、私がやったのではない。
すべて攻撃返しで本人に戻ったものだからだ。
つまり、元はそこにいるクソ女が私に仕掛けて来た事である。
「きちんと調べられましたか?」
私は溜息交じりに言った。
私が攻撃返しを身に纏っている事は知っているだろうに。
我が家は代々、攻撃、防御魔法に特化している。
だから、国の防衛責任者としてお父様はいる訳なのだし。
私も例に漏れず、攻守の魔法は得意である。
まぁ…ジャスティンの膨大な魔力と技術には勝てないけれども。
「調べた上で言っている」
冷たい表情を向けるジャスティンを見て、笑いが込み上げた。
調べたならば、それを理由にするのはおかしい。
素直に言えばいいのに。
このクソ女に身体で籠絡されたんだって。
政務は抜群に出来るけど、欲には勝てず…二重人格のその女に騙されてるのには気付かないなんて…意外とポンコツなのね。
「まぁ、そうなんですね。その上で、私が彼女に害を成そうとしたと?そんな微妙な嫌がらせで?」
「そうだ。君は彼女に嫉妬し、嫌がらせをした」
嫉妬…ねぇ?
ここ最近、アイラとの関係を見せつけるみたいに散々見せておいて…まだ恋心が残ってるとでも思っているのかしら。
「生憎ですが、今のあなたに奪い合うような価値はありませんわ」
「ミリオネア、それは俺に魅力がないと言いたいのか?」
「ふふ…そうです。婚約破棄、受け入れますわ。彼女にお譲りします」
「………」
ジャスティンは、黙ってしまった。
アイラは嬉しそうにニヤニヤしているけれど、この先が薔薇色だなんてどうして思えるのかしら。
「…1つだけ、言ってもいいですか?」
あ、と頭に思い付いた事を最後に伝えたいと思った。
これでも解らないようなら、ジャスティンは王太子を降りた方がいい。
2歳下のジュエル殿下が国を治めるべきだ。
前王妃アネシャ様が亡くなった後、王妃様となったリリアン様から産まれた彼もまた優秀だ。
ジュエル殿下は王座には興味はなさそうだが、彼の母親は意欲的に王太子の座を狙っていて、幼い頃に母を亡くしているジャスティンは常に命を狙われている。
それでも兄弟仲は良いし、私もジュエル殿下とは良く話をする。
可愛い義弟だ。
「何だ、言ってみろ」
ジャスティンがじっと私を見ながら言った。
魅力がないと言った事、ショックだったのかしら。
「私が本気でアイラさんを狙ったら、彼女はそんな浮かれた顔をして今頃そこにはいませんわよ」
「……え…」
アイラが真っ青になっている。
そう、小さな嫌がらせや、人を使って襲うなんてあり得ない。
攻撃魔法で彼女の心臓を貫けば終わりだもの。
「では、殿下…書類のサインが必要ならば今、しますけれど」
「…君は未来の王太子妃に害をなす可能性がある。衛兵、ミリオネアを捕らえて地下牢に入れておけ」
「はい」
あぁ、理解出来なかったのね。
可哀想に。
捕らえたければ捕らえればいい。
処刑するなら、お好きにどうぞ。
どうせ私の愛したジャスティンはもう居ないのだから。
陛下も王妃様もどうせジャスティンの好きにさせるでしょうし。
「あぁ、衛兵さん。自分で歩くわ、地下まで。だから私に触れないでね」
「は…はい…」
殺されたくはないでしょう…?とにこりと笑う。
殿下は私を悔しげに見ながら、衛兵に命令した。
「抵抗が出来ないように、魔法封じの牢に入れておけよ」
「はい!」
自分が殺されないように、の間違いじゃないの?
ふいをつけば、一撃くらいは入るでしょうから。
私はさっと歩いて部屋を出ようとした。
最後に殿下に完璧なカーテシーでお別れを告げる。
「それでは殿下。永遠にごきげんよう」
「…っ!!」
満面の笑みを浮かべ、ジャスティンに挨拶をすると彼が息を呑んだ。
今更焦っても、もう遅いわ。
その隣にいるクソ女に、全てダメにされたらいい。
「何か…言う事はないのか…?」
ジャスティンは何を私に求めているのかしら。
泣いて縋るとでも思っているの?
残念ながら絶対にしないわ。
「ありませんわ。我が家の家訓に、去るもの追うべからずとありますので。殿下はそちらのお嬢さんとどうぞお幸せに」
「牢獄に入ればハーヴェスト家の名に傷が付くぞ?謝れば少しは…」
「何度も私に攻撃を仕掛けて来ては返り討ちにあった、無様なお嬢さんに謝るくらいなら、死んだ方がマシですわ」
「なっ…私は何も…!!」
「あぁ、殿下がきちんと調べられたのだから、あなたは何もしていないんでしたね?まぁ、もうそれもどうでもいいわ」
「ミリオネア、君は…」
「殿下、命令を下したのはあなたですよ。それを努努お忘れなきよう…」
私は頭を下げてさっさと部屋を出た。
自ら幽閉される為に地下に行く人はいないだろう。
私はゆっくりと地下への階段を降りた。
最後に見たジャスティンの顔は呆然としていて。
私が自分との婚約破棄に応じるなんて思ってもみなかったようだ。
婚約して8年…私はありったけの愛を彼に注いできた。
お父様から紹介された時、大人びた彼に恋をしたのだ。
艶めく金髪に、濃紺の瞳。
女神も裸足で逃げ出しそうなほどの美貌。
まさに絵本から出て来た王子様そのものだった。
仲良くお互いに成長出来るような素晴らしい人だったのに。
「…やはり欲には勝てないのね…」
ぼそりと呟く。
付き添っている衛兵が気まずそうに下を向いた。
あぁ、彼もあの2人が睦み合っているのを知っているのね。
さぞやがっかりしたでしょう。
自国の王太子が欲に負けて婚約者を裏切るなんて。
「…ミリオネア様は…」
ぽつりと衛兵が口を開く。
「なぁに?」
続きを促す私。
その先にはどんな言葉が待っているのかしら。
婚約者を奪われた可哀想な女?
牢獄に入れられて当然な、酷い女?
「…ミリオネア様は…何も悪くありません…。なのに、どうして自ら牢に…?」
震えながらそう告げる彼は、自分のした発言がどれだけ危険を孕んでいるかを分かった上で聞いている。
「そうねぇ…嫌がらせ…かしら?」
「嫌がらせ…?」
「そうよ。あなた優しいのね。私から優しいあなたにプレゼントよ。1週間以内にこの国を出て、他国にお逃げなさい」
「え…それは…どういう…」
「ふふ…それ以上は教えられないわ。するもしないもあなたの自由よ」
「……はい…」
衛兵は真っ青になって黙ってしまった。
私はこの国の未来を予測出来るわ。
きっと、この国は……。
「では、ミリオネア様。食事は毎度運んできますので」
「えぇ、ありがとう」
がしゃんと扉が閉まる。
掛けられた鍵が虚しくカションと揺れて情けない音を出した。
「ふぅん、割と広いのね?貴人用の牢っぽいけど」
簡単なシャワー、個室のトイレ…ベッドは簡素だけれどあるだけいいわ。ふかふかの椅子に、絨毯…本棚まで…。
1週間やそこらなら、退屈せずに済みそうだ。
どうせ1週間後には……。
「ま、私には関係のない事だし。私はここから出られないんだし?」
そんな人生もあるんだな、と割り切った。
足掻いても…もう元には戻らない。
彼も、私も…何もかも。
私の侍女が、そろそろ家に着く頃かしら。
彼の部屋に行く前に、こうなる事は予想がついたから侍女と護衛は家に戻した。
「私が今日、帰って来なければ死んだと思え」と伝えて。
侍女のダリ、護衛のハリーは私の側を離れようとはしなかったが、残れば殺されるかも知れないから、無理矢理に帰した。
「あの子達にあんな命令したのは、初めてね」
涙を溜めて嫌がったダリ、奥歯を噛み締めて震えていたハリー。
あなた達2人に託すわ。
お父様への伝言を。
「みんな、無事でいてね」
私は女神に祈りを捧げた。
私の命を捧げるから、私の大切な人を御守り下さいと。
その時、自分の頭の上にキラキラとした何かが舞い降りた事を知らずに、私はその時を待つ。
しんとした豪華な部屋で、私は婚約者であるこのエナリア王国のジャスティン・エナリア王太子殿下に婚約破棄を告げられた。
彼の隣には、勝ち誇った顔でぴたりと身体を寄せるアイラがいる。
「理由を伺っても?」
私はにっこりと微笑みを返し、彼に問う。
本当は理由なんてわかっているけれど。
ケジメとして聞かせていただこう。
「君が数々の嫌がらせや、暴漢にアイラを襲わせた事はわかっているんだ」
眉間に皺を寄せ、ジャスティンは忌々しそうに言うが。
実はそれ、私がやったのではない。
すべて攻撃返しで本人に戻ったものだからだ。
つまり、元はそこにいるクソ女が私に仕掛けて来た事である。
「きちんと調べられましたか?」
私は溜息交じりに言った。
私が攻撃返しを身に纏っている事は知っているだろうに。
我が家は代々、攻撃、防御魔法に特化している。
だから、国の防衛責任者としてお父様はいる訳なのだし。
私も例に漏れず、攻守の魔法は得意である。
まぁ…ジャスティンの膨大な魔力と技術には勝てないけれども。
「調べた上で言っている」
冷たい表情を向けるジャスティンを見て、笑いが込み上げた。
調べたならば、それを理由にするのはおかしい。
素直に言えばいいのに。
このクソ女に身体で籠絡されたんだって。
政務は抜群に出来るけど、欲には勝てず…二重人格のその女に騙されてるのには気付かないなんて…意外とポンコツなのね。
「まぁ、そうなんですね。その上で、私が彼女に害を成そうとしたと?そんな微妙な嫌がらせで?」
「そうだ。君は彼女に嫉妬し、嫌がらせをした」
嫉妬…ねぇ?
ここ最近、アイラとの関係を見せつけるみたいに散々見せておいて…まだ恋心が残ってるとでも思っているのかしら。
「生憎ですが、今のあなたに奪い合うような価値はありませんわ」
「ミリオネア、それは俺に魅力がないと言いたいのか?」
「ふふ…そうです。婚約破棄、受け入れますわ。彼女にお譲りします」
「………」
ジャスティンは、黙ってしまった。
アイラは嬉しそうにニヤニヤしているけれど、この先が薔薇色だなんてどうして思えるのかしら。
「…1つだけ、言ってもいいですか?」
あ、と頭に思い付いた事を最後に伝えたいと思った。
これでも解らないようなら、ジャスティンは王太子を降りた方がいい。
2歳下のジュエル殿下が国を治めるべきだ。
前王妃アネシャ様が亡くなった後、王妃様となったリリアン様から産まれた彼もまた優秀だ。
ジュエル殿下は王座には興味はなさそうだが、彼の母親は意欲的に王太子の座を狙っていて、幼い頃に母を亡くしているジャスティンは常に命を狙われている。
それでも兄弟仲は良いし、私もジュエル殿下とは良く話をする。
可愛い義弟だ。
「何だ、言ってみろ」
ジャスティンがじっと私を見ながら言った。
魅力がないと言った事、ショックだったのかしら。
「私が本気でアイラさんを狙ったら、彼女はそんな浮かれた顔をして今頃そこにはいませんわよ」
「……え…」
アイラが真っ青になっている。
そう、小さな嫌がらせや、人を使って襲うなんてあり得ない。
攻撃魔法で彼女の心臓を貫けば終わりだもの。
「では、殿下…書類のサインが必要ならば今、しますけれど」
「…君は未来の王太子妃に害をなす可能性がある。衛兵、ミリオネアを捕らえて地下牢に入れておけ」
「はい」
あぁ、理解出来なかったのね。
可哀想に。
捕らえたければ捕らえればいい。
処刑するなら、お好きにどうぞ。
どうせ私の愛したジャスティンはもう居ないのだから。
陛下も王妃様もどうせジャスティンの好きにさせるでしょうし。
「あぁ、衛兵さん。自分で歩くわ、地下まで。だから私に触れないでね」
「は…はい…」
殺されたくはないでしょう…?とにこりと笑う。
殿下は私を悔しげに見ながら、衛兵に命令した。
「抵抗が出来ないように、魔法封じの牢に入れておけよ」
「はい!」
自分が殺されないように、の間違いじゃないの?
ふいをつけば、一撃くらいは入るでしょうから。
私はさっと歩いて部屋を出ようとした。
最後に殿下に完璧なカーテシーでお別れを告げる。
「それでは殿下。永遠にごきげんよう」
「…っ!!」
満面の笑みを浮かべ、ジャスティンに挨拶をすると彼が息を呑んだ。
今更焦っても、もう遅いわ。
その隣にいるクソ女に、全てダメにされたらいい。
「何か…言う事はないのか…?」
ジャスティンは何を私に求めているのかしら。
泣いて縋るとでも思っているの?
残念ながら絶対にしないわ。
「ありませんわ。我が家の家訓に、去るもの追うべからずとありますので。殿下はそちらのお嬢さんとどうぞお幸せに」
「牢獄に入ればハーヴェスト家の名に傷が付くぞ?謝れば少しは…」
「何度も私に攻撃を仕掛けて来ては返り討ちにあった、無様なお嬢さんに謝るくらいなら、死んだ方がマシですわ」
「なっ…私は何も…!!」
「あぁ、殿下がきちんと調べられたのだから、あなたは何もしていないんでしたね?まぁ、もうそれもどうでもいいわ」
「ミリオネア、君は…」
「殿下、命令を下したのはあなたですよ。それを努努お忘れなきよう…」
私は頭を下げてさっさと部屋を出た。
自ら幽閉される為に地下に行く人はいないだろう。
私はゆっくりと地下への階段を降りた。
最後に見たジャスティンの顔は呆然としていて。
私が自分との婚約破棄に応じるなんて思ってもみなかったようだ。
婚約して8年…私はありったけの愛を彼に注いできた。
お父様から紹介された時、大人びた彼に恋をしたのだ。
艶めく金髪に、濃紺の瞳。
女神も裸足で逃げ出しそうなほどの美貌。
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「…やはり欲には勝てないのね…」
ぼそりと呟く。
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あぁ、彼もあの2人が睦み合っているのを知っているのね。
さぞやがっかりしたでしょう。
自国の王太子が欲に負けて婚約者を裏切るなんて。
「…ミリオネア様は…」
ぽつりと衛兵が口を開く。
「なぁに?」
続きを促す私。
その先にはどんな言葉が待っているのかしら。
婚約者を奪われた可哀想な女?
牢獄に入れられて当然な、酷い女?
「…ミリオネア様は…何も悪くありません…。なのに、どうして自ら牢に…?」
震えながらそう告げる彼は、自分のした発言がどれだけ危険を孕んでいるかを分かった上で聞いている。
「そうねぇ…嫌がらせ…かしら?」
「嫌がらせ…?」
「そうよ。あなた優しいのね。私から優しいあなたにプレゼントよ。1週間以内にこの国を出て、他国にお逃げなさい」
「え…それは…どういう…」
「ふふ…それ以上は教えられないわ。するもしないもあなたの自由よ」
「……はい…」
衛兵は真っ青になって黙ってしまった。
私はこの国の未来を予測出来るわ。
きっと、この国は……。
「では、ミリオネア様。食事は毎度運んできますので」
「えぇ、ありがとう」
がしゃんと扉が閉まる。
掛けられた鍵が虚しくカションと揺れて情けない音を出した。
「ふぅん、割と広いのね?貴人用の牢っぽいけど」
簡単なシャワー、個室のトイレ…ベッドは簡素だけれどあるだけいいわ。ふかふかの椅子に、絨毯…本棚まで…。
1週間やそこらなら、退屈せずに済みそうだ。
どうせ1週間後には……。
「ま、私には関係のない事だし。私はここから出られないんだし?」
そんな人生もあるんだな、と割り切った。
足掻いても…もう元には戻らない。
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「私が今日、帰って来なければ死んだと思え」と伝えて。
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「あの子達にあんな命令したのは、初めてね」
涙を溜めて嫌がったダリ、奥歯を噛み締めて震えていたハリー。
あなた達2人に託すわ。
お父様への伝言を。
「みんな、無事でいてね」
私は女神に祈りを捧げた。
私の命を捧げるから、私の大切な人を御守り下さいと。
その時、自分の頭の上にキラキラとした何かが舞い降りた事を知らずに、私はその時を待つ。
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