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挙式の準備でかなり忙しかった私は、只今悪魔から逃げている。
明後日は挙式。
本来ならば美容の為にエマに全身のメンテナンスを受けて、眠る時間なのだが。
悪魔が現れたのだ。
「はぁっはぁっ…!」
王宮の庭園を突っ切り、王族専用のプライベート空間がある温室に逃げ込む。何故かタイミング良く鍵が開いていたので、神の助けとばかりに奥まった空間に身を潜めた。
挙式の為に、身体を磨き上げ完璧な状態でドレスを着れるよう2日前からレオと寝室を別にしている。何故なら睡眠不足になるからだ。花嫁が目の下にクマを数匹飼う状態ではいけない。事前に説明はしていたのに!
もう寝ようとベッドに入り、うとうとしてきた時…。
さわりと身体を弄る手の感触があり、暗闇で浮かび上がる人影が見えた。身の危険を感じ、人影を必死に突き飛ばして部屋から脱出して現在に至る。
「もう…レオのバカ…」
逃げている途中でさっきの人影がレオだと気付いたが、余りにも驚き過ぎたので仕返しの為に捕まりたくはない。ここで時間を潰し、心配したレオを自分の部屋で待ち受けてやると意気込んで現在に至る。
「明後日には初夜なのに…」
たった数日だけ寝室が別で抱けないだけなのに。
まさか部屋に忍び込んでくるなんて。それも、寝室が別なのはレオが我慢が出来ないからなのに。本当は1週間前からトリートメントやボディマッサージなどをしたいとエマが要望していたのにレオが譲らなかったのだ。
「流石にここには来ないわよね」
たまたま開いていたから私は入ったけれど、普段は厳重に施錠されているのだから。
もともと閉まっている所にはわざわざ来ないだろう。
「しばらく休んで部屋に帰ろう」
温室の奥には部屋があって、仮眠も出来るようにベッドもある。ワインもあるので軽く飲んで時間を潰すのもいい。
グラスにワインを少し注いで、口に含む。走った身体にじわりとアルコールが染みていった。
「……レオ、心配してるだろうな」
逃げてしまったのだ。前みたいに姿を消した訳ではないが、必死に探しているかもしれない。
「しばらくしたら帰ろう…」
思ったよりアルコールの廻りが早い。ふわふわとした気分でベッドのある空間に足を踏み入れた瞬間…。
ぐっと後ろから抱き締められた。
「やっ!誰!!離して!!」
必死で身体を捩るがアルコールのせいで力が思う様に入らない。
「追いかけっこは俺の勝ち?」
耳元を低い声が掠める。
「…いつからいたの…?」
声の主がわかって、ふと、身体の力が抜けた。
「ふふ…ティアが来る前からいたよ」
「え!?どうやって!?」
「隠し通路からこっそり、ね」
「じゃあ、鍵は…」
「ティアなら温室行くかなぁって、わざと開けておいた」
「~~~!!」
開いた口が塞がらない。どこから仕組まれていたのか…いや、最初からか。しかも隠し通路まで使って!!あれは緊急時に使うものだ、本来は。レオにとっての緊急時は今か?今なのか!!
「あぁ…久しぶりのティア…」
すんすんと嗅がれている。…もう、変態の域だ。私の旦那様はいつからこんなに変態に…。
「2日前まで一緒に寝てたでしょ…?」
「ダメ。もう限界」
「早くない!?」
「頑張ったでしょ?2日も」
得意げな顔をするこの男をどうしてやろうか。嬉しいような腹立たしいような。
「ね、ティア。今日は一緒に寝よう?俺が寝不足になる…」
「だ、、ダメ!!レオは…が、我慢出来ないでしょ!」
「寝るだけ…。一緒に寝るだけだから」
「嘘!いっつもそう言って…す、するもの…」
思い出してぼっと顔が赤くなるのがわかる。寝るだけ、は通用しないのだ、レオには。
「お願い…、ティアが隣に居ないと俺……」
しゅんと叱られた子犬の様な顔になるレオが可愛くて可哀想で……ダメダメ!!騙されちゃダメよ、レティア!!そうやってなし崩しに崩されて色々されちゃうのは終わりよ!!
ふとレオの顔を見ると、薄らと隈が出来ている。どうやら眠れないのは本当らしい。
「レオ、眠れてないの?」
「…ティアが居ないから…寝付けなくて…。でも…、ティアが嫌だって言うなら諦める。ごめんね、せっかく寝る準備してたのに…」
無理に笑おうとしてへにょりとなる笑顔が儚げで。より一層可哀想に見える。レオは私が居なくなった日から何度も存在を確認するようになった。ともすれば、今のレオの寝不足も私のせいなわけで。ちくりと胸が痛む。
「ティア、部屋に帰ろう。送るよ」
「あ、うん…」
そっと出された手に触れるとぎゅっと繋がれる。離れたくない、と言われている様でだんだん切なくなってきた。
暗い庭園を何気ない会話をしながらゆっくり歩く。月明かりに照らされるレオがあまりにも綺麗で、月に連れ去られそうでぎゅっと腕にしがみつく。
「ティア?どうかした?」
「あ、レオがあまりにも綺麗だから…月に連れ去られそうで…」
「あはは。ティアのが綺麗だよ、何よりも誰よりもティアが綺麗だ」
「……褒め過ぎ……」
かぁっと熱が上がって、歩いているうちに私の部屋に着いてしまった。
「じゃあ、ティア。おやすみ」
「ん、レオもおやすみ」
ちゅっと額にキスを落として、レオは背を向けて歩き出した。けれど、その方向はレオの寝室ではない。
まさか、今から執務をするつもりだろうか。
ふとそんな考えが過った。昨日も、一昨日も執務室にいたかも知れない。だから隈が……。
「レオ、待って」
そう思ったらレオを呼び止めていた。あまりにも、レオに理不尽なのではないか。
私は眠れているのに、レオは眠れずに執務を続ける。挙式は2人で挙げるのに。
それはダメだ。
「どうしたの?ティア?」
「あの…レオも一緒に寝よ?」
「いいの?」
「うん、レオが眠れないのは嫌だから」
「ありがと」
ふにゃっと微笑むレオを見るのは好きだ。あぁ、この人は私に気を許しているんだなぁと嬉しくなる。
「大人しくティアを抱きしめて寝るね」
「ふふ…」
2人でベッドに入り、寄り添って眠る。
ちゅ。
「レオ…?」
「おやすみのキス」
「ん、おやすみ」
ちゅ。
ちゅ。
「…レオ?」
「昨日と一昨日の分…」
「ん、レ…んぅ…」
くちゅりと舌を絡ませて吸われると、お腹の奥がずくりと疼いた。
「ティアおやすみ」
「あ…、おやすみなさい…」
ぎゅっと私を抱き締めて、レオがすうすうと寝息を立て始める。睡魔の波に置いていかれた私は、目の前にあるレオの顔をまじまじと観察していた。
まつ毛長いなぁ…とか、肌綺麗だなぁ…とか。未だにこんな美人が自分の夫になるのが信じられないけど、この形のいい唇で何度も″好きだよ″とか、″愛してる、ティア″とか言うのよね。これ私、一生分の運をここ1年で使ってない?もういい事ないんじゃない?
目を閉じて寝てるだけなのに、何でこんな色気出るんだろ。回された腕の筋肉の浮き方も扇情的に思えるって、私がどうかしてるのかしら。
手のひらも割と硬いのよね、指も剣だこもあって長くて……この指で毎回ドロドロに溶かされて……って違う!!何を考えてるのよ、私!!
寝るのよ!!もう寝るの!!レオはあったかいし、いい匂いだし。このまま夢の世界へステップ・ステップ・ターンよ!
んー…ほんといい匂い…。森の中にいるみたいに落ち着く。
思わず、すり…とレオの胸元に頭を寄せてしまう。
シャツの隙間から見える胸板にドキドキしてしまう。しっかり筋肉ついてるなぁ…と改めて思う。
ペロリ。
滑らかそうな鎖骨を舐めてみた。うん、味はない。いつも私がレオに舐められた時はぞわりと擽ったいような感じだけど、レオは無反応ね。寝てるからかしら。
そうだ、今、レオは眠っているのだ。
いつも私ばかりキスマークを付けられてエマにため息をつかれる。まさに今、仕返しができるんじゃないの!?と閃いてしまった。
ちゅうう。
鎖骨の下に頑張って吸い付いてみたが、何も付いていない。
案外難しいな、と思って、もう一度やってみる。今度はもう少し強く吸ってみよう。
ちゅうぅぅぅ。
あ!薄らと付いたかも?でもまだ足りない。レオのはもっと濃い。赤紫色で、くっきり!はっきり!付いている。全力自己アピールが凄い。もっと強く吸わないとダメなのかな。確かにチクッとするもんね。
よし。
ぢゅうぅぅぅ。
やった!!小さいけどちゃんと解る。自己アピール力は足りないけど。
「ふふ…付いた…」
私は湧き出る達成感を楽しんでいた。自分がされている事をちょっとやり返した感。なかなかいい気分じゃないの!レオをそっと見やるとすうすうと寝息を立てている。
よしよし。
そして、私は次の悪戯を思い付いてしまった。
悪魔が戯れると書いて悪戯だと言う事を忘れて。
明後日は挙式。
本来ならば美容の為にエマに全身のメンテナンスを受けて、眠る時間なのだが。
悪魔が現れたのだ。
「はぁっはぁっ…!」
王宮の庭園を突っ切り、王族専用のプライベート空間がある温室に逃げ込む。何故かタイミング良く鍵が開いていたので、神の助けとばかりに奥まった空間に身を潜めた。
挙式の為に、身体を磨き上げ完璧な状態でドレスを着れるよう2日前からレオと寝室を別にしている。何故なら睡眠不足になるからだ。花嫁が目の下にクマを数匹飼う状態ではいけない。事前に説明はしていたのに!
もう寝ようとベッドに入り、うとうとしてきた時…。
さわりと身体を弄る手の感触があり、暗闇で浮かび上がる人影が見えた。身の危険を感じ、人影を必死に突き飛ばして部屋から脱出して現在に至る。
「もう…レオのバカ…」
逃げている途中でさっきの人影がレオだと気付いたが、余りにも驚き過ぎたので仕返しの為に捕まりたくはない。ここで時間を潰し、心配したレオを自分の部屋で待ち受けてやると意気込んで現在に至る。
「明後日には初夜なのに…」
たった数日だけ寝室が別で抱けないだけなのに。
まさか部屋に忍び込んでくるなんて。それも、寝室が別なのはレオが我慢が出来ないからなのに。本当は1週間前からトリートメントやボディマッサージなどをしたいとエマが要望していたのにレオが譲らなかったのだ。
「流石にここには来ないわよね」
たまたま開いていたから私は入ったけれど、普段は厳重に施錠されているのだから。
もともと閉まっている所にはわざわざ来ないだろう。
「しばらく休んで部屋に帰ろう」
温室の奥には部屋があって、仮眠も出来るようにベッドもある。ワインもあるので軽く飲んで時間を潰すのもいい。
グラスにワインを少し注いで、口に含む。走った身体にじわりとアルコールが染みていった。
「……レオ、心配してるだろうな」
逃げてしまったのだ。前みたいに姿を消した訳ではないが、必死に探しているかもしれない。
「しばらくしたら帰ろう…」
思ったよりアルコールの廻りが早い。ふわふわとした気分でベッドのある空間に足を踏み入れた瞬間…。
ぐっと後ろから抱き締められた。
「やっ!誰!!離して!!」
必死で身体を捩るがアルコールのせいで力が思う様に入らない。
「追いかけっこは俺の勝ち?」
耳元を低い声が掠める。
「…いつからいたの…?」
声の主がわかって、ふと、身体の力が抜けた。
「ふふ…ティアが来る前からいたよ」
「え!?どうやって!?」
「隠し通路からこっそり、ね」
「じゃあ、鍵は…」
「ティアなら温室行くかなぁって、わざと開けておいた」
「~~~!!」
開いた口が塞がらない。どこから仕組まれていたのか…いや、最初からか。しかも隠し通路まで使って!!あれは緊急時に使うものだ、本来は。レオにとっての緊急時は今か?今なのか!!
「あぁ…久しぶりのティア…」
すんすんと嗅がれている。…もう、変態の域だ。私の旦那様はいつからこんなに変態に…。
「2日前まで一緒に寝てたでしょ…?」
「ダメ。もう限界」
「早くない!?」
「頑張ったでしょ?2日も」
得意げな顔をするこの男をどうしてやろうか。嬉しいような腹立たしいような。
「ね、ティア。今日は一緒に寝よう?俺が寝不足になる…」
「だ、、ダメ!!レオは…が、我慢出来ないでしょ!」
「寝るだけ…。一緒に寝るだけだから」
「嘘!いっつもそう言って…す、するもの…」
思い出してぼっと顔が赤くなるのがわかる。寝るだけ、は通用しないのだ、レオには。
「お願い…、ティアが隣に居ないと俺……」
しゅんと叱られた子犬の様な顔になるレオが可愛くて可哀想で……ダメダメ!!騙されちゃダメよ、レティア!!そうやってなし崩しに崩されて色々されちゃうのは終わりよ!!
ふとレオの顔を見ると、薄らと隈が出来ている。どうやら眠れないのは本当らしい。
「レオ、眠れてないの?」
「…ティアが居ないから…寝付けなくて…。でも…、ティアが嫌だって言うなら諦める。ごめんね、せっかく寝る準備してたのに…」
無理に笑おうとしてへにょりとなる笑顔が儚げで。より一層可哀想に見える。レオは私が居なくなった日から何度も存在を確認するようになった。ともすれば、今のレオの寝不足も私のせいなわけで。ちくりと胸が痛む。
「ティア、部屋に帰ろう。送るよ」
「あ、うん…」
そっと出された手に触れるとぎゅっと繋がれる。離れたくない、と言われている様でだんだん切なくなってきた。
暗い庭園を何気ない会話をしながらゆっくり歩く。月明かりに照らされるレオがあまりにも綺麗で、月に連れ去られそうでぎゅっと腕にしがみつく。
「ティア?どうかした?」
「あ、レオがあまりにも綺麗だから…月に連れ去られそうで…」
「あはは。ティアのが綺麗だよ、何よりも誰よりもティアが綺麗だ」
「……褒め過ぎ……」
かぁっと熱が上がって、歩いているうちに私の部屋に着いてしまった。
「じゃあ、ティア。おやすみ」
「ん、レオもおやすみ」
ちゅっと額にキスを落として、レオは背を向けて歩き出した。けれど、その方向はレオの寝室ではない。
まさか、今から執務をするつもりだろうか。
ふとそんな考えが過った。昨日も、一昨日も執務室にいたかも知れない。だから隈が……。
「レオ、待って」
そう思ったらレオを呼び止めていた。あまりにも、レオに理不尽なのではないか。
私は眠れているのに、レオは眠れずに執務を続ける。挙式は2人で挙げるのに。
それはダメだ。
「どうしたの?ティア?」
「あの…レオも一緒に寝よ?」
「いいの?」
「うん、レオが眠れないのは嫌だから」
「ありがと」
ふにゃっと微笑むレオを見るのは好きだ。あぁ、この人は私に気を許しているんだなぁと嬉しくなる。
「大人しくティアを抱きしめて寝るね」
「ふふ…」
2人でベッドに入り、寄り添って眠る。
ちゅ。
「レオ…?」
「おやすみのキス」
「ん、おやすみ」
ちゅ。
ちゅ。
「…レオ?」
「昨日と一昨日の分…」
「ん、レ…んぅ…」
くちゅりと舌を絡ませて吸われると、お腹の奥がずくりと疼いた。
「ティアおやすみ」
「あ…、おやすみなさい…」
ぎゅっと私を抱き締めて、レオがすうすうと寝息を立て始める。睡魔の波に置いていかれた私は、目の前にあるレオの顔をまじまじと観察していた。
まつ毛長いなぁ…とか、肌綺麗だなぁ…とか。未だにこんな美人が自分の夫になるのが信じられないけど、この形のいい唇で何度も″好きだよ″とか、″愛してる、ティア″とか言うのよね。これ私、一生分の運をここ1年で使ってない?もういい事ないんじゃない?
目を閉じて寝てるだけなのに、何でこんな色気出るんだろ。回された腕の筋肉の浮き方も扇情的に思えるって、私がどうかしてるのかしら。
手のひらも割と硬いのよね、指も剣だこもあって長くて……この指で毎回ドロドロに溶かされて……って違う!!何を考えてるのよ、私!!
寝るのよ!!もう寝るの!!レオはあったかいし、いい匂いだし。このまま夢の世界へステップ・ステップ・ターンよ!
んー…ほんといい匂い…。森の中にいるみたいに落ち着く。
思わず、すり…とレオの胸元に頭を寄せてしまう。
シャツの隙間から見える胸板にドキドキしてしまう。しっかり筋肉ついてるなぁ…と改めて思う。
ペロリ。
滑らかそうな鎖骨を舐めてみた。うん、味はない。いつも私がレオに舐められた時はぞわりと擽ったいような感じだけど、レオは無反応ね。寝てるからかしら。
そうだ、今、レオは眠っているのだ。
いつも私ばかりキスマークを付けられてエマにため息をつかれる。まさに今、仕返しができるんじゃないの!?と閃いてしまった。
ちゅうう。
鎖骨の下に頑張って吸い付いてみたが、何も付いていない。
案外難しいな、と思って、もう一度やってみる。今度はもう少し強く吸ってみよう。
ちゅうぅぅぅ。
あ!薄らと付いたかも?でもまだ足りない。レオのはもっと濃い。赤紫色で、くっきり!はっきり!付いている。全力自己アピールが凄い。もっと強く吸わないとダメなのかな。確かにチクッとするもんね。
よし。
ぢゅうぅぅぅ。
やった!!小さいけどちゃんと解る。自己アピール力は足りないけど。
「ふふ…付いた…」
私は湧き出る達成感を楽しんでいた。自分がされている事をちょっとやり返した感。なかなかいい気分じゃないの!レオをそっと見やるとすうすうと寝息を立てている。
よしよし。
そして、私は次の悪戯を思い付いてしまった。
悪魔が戯れると書いて悪戯だと言う事を忘れて。
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