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番外編〜新婚の悩み〜 4
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「弟子にして下さい!!」
「は?」
ぽかんと彼らを見ていると、不思議ね…うちの騎士団の子達と同じ表情をしているわ。
ヤバいわ、これはヤバい。
「ふざけた事言ってんじゃねーよ。ヴィーに弟子入りなんて俺が許さない。ただでさえ競争率高いんだよ」
ハルトがむっとした表情で私の隣で威嚇している。
あぁ、こないだ騎士団のみんなと手合わせ争奪戦してたな…と思い出す。
「お願いします!ヴィオレット様!」
真剣な面持ちで騎士の皆さんがお願いしてくるので、少し絆されてしまって。
私は彼らに助言をする事にした。
「弟子は無理ですが…皆様に足りない所を教えて差し上げる事はできますわ」
「是非教えて下さい!ヴィオレット様!!」
まぁ、素直ね。強くなろうとする姿勢は好きよ。
私はにっこりと微笑んで、スゥッと息を吸った。
「まず、あなた方の筋肉量が圧倒的に足りません。あんな軽い剣を振り回しても、何の鍛錬にもなりませんわ。あと、全体的に走り込みが足りないのでは?そんな弱々な足で何を踏ん張る事ができるのでしょうか?踏み込む前に躓いてしまうのではなくて?訓練内容も軽すぎますわ。吐いてからが訓練なのです。今している訓練など、もはや散歩ではないかしら?まぁ、総じて言うと…」
ごくりとみんなの喉が鳴る。
「そこいらの子供と変わりありませんわ」
バキリと空気が凍った気がした。
「ヴィー、的確だけど、もうちょっと柔らかい布に包もうな?」
ハルトが腰を抱いてくる。
私は不思議に思って、ハルトに聞いた。
「あら、強くなりたいんじゃありませんの?この程度の評価で落ち込むのなら、いっそ騎士などやめてしまいなさいな。これから戦場に挑む事もあるのに、そんな綿飴みたいなメンタルで生き残れる程甘くないわ。鋼のメンタル、強靭な筋肉、絶対生き残るという意志が騎士には必要不可欠なのですから」
ハルトは、ふっと笑って「そうだな」と呟いた。
騎士の皆さんは、俯いてふるふると震えている。
あら、泣いちゃったかしら?
うちの騎士団なら、ここで歓喜の雄叫びを上げるのに。
「戦場に出たとして、必ず生き残る意思がなければあっと言う間に死にますわ。ギリギリの戦いの際、家族や恋人を思い出せる余裕がないと、間違いなく殺される。その逆もありますわね。相手の命を奪う事が、自分にのし掛かる。それに耐える覚悟がおありかしら?」
淡々と告げると、騎士の1人が立ち上がった。
拳をぐっと握りしめて。
そのまま殴り掛かってくるのかと思ったら、くるりと背を向けた。
「……走って来ます。俺、絶対生き残る方に入りたいんで」
そう言って、走っていってしまった。
「あら、見込みあるわね」
「うちにはもう要らないからな」
「うちはもう十分よ。あの方、鍛えれば王宮入りするかもね」
「あー、アイツは負けず嫌いだからな」
「うふふ…楽しみね」
「他の奴ばっか見んな、馬鹿」
「はいはい、甘えっ子ちゃんね」
私はハルトの手をぎゅっと握った。
大きな手がすかさず握り返してくる。
「ヴィー、ごめんな。寝不足気付いてやれなくて」
「あら、いいのよ。今日から3日はゆっくり寝るから」
「…は?それは…どういう…」
「一週間の所を3日に短縮してあげるわ」
「まさか…別々に寝るって事か…?」
「私が勝ったんだから、私のお願いは絶対でしょ?」
「あ……。あぁ……」
「さ、帰るわよ!!」
「…うん…」
先程の赤い暴れ熊はどこかに餌を探しに行ったようだ。
代わりに魂の抜けた歩く屍がここにいた。
騎士の皆さんに挨拶をすると、また来て下さいと懇願されたので訓練メニューをプレゼントしようと思う。
私達は馬車に乗り、邸宅へと帰った。
食事も入浴も済ませて、さぁ寝るぞといそいそと自室のベッドに入ろうとしたのだが。
「ちょ…、ハルト?」
「ヴィー、お願いだから一緒に寝てくれ」
ハルトが枕を持ってドアの前に居た。
「何もしないから、約束する」
「約束破って約束されても…」
別に寝るという約束を破り、何もしないと約束されてもイマイチ信用度に欠けるのよね。
「俺ヴィーを抱き締めてじゃないと寝れない」
「その時点でもう何かしてるじゃないの」
「うっ…じゃあ隣にいるだけでいいから…」
「はぁ…埒が明かないわね。もう、入って」
「いいのか!?」
「いいって言うまで居座るんでしょ、どうせ」
「…ヴィーが本気で嫌なら頑張って耐える…」
ハルトはぐっと何かを堪えたような表情で、枕を握りしめている。
まったく…この可愛らしい我儘熊さんをどうしようかしらね。
「ハルト、一緒に寝ましょう?」
「…ありがと…」
「でもちゃんと寝かせてね」
「うん、わかってる」
2人でベッドに入り手を繋いで眠る。
久しぶりにぐっすりと眠った気がする。
たまにはこんな日もあってもいいわよね。
朝日が顔を出す頃、ふと目覚めた私はそう思った。
隣にはスヤスヤと眠る愛しいハルト。
「ハルトだけ愛してるからね」
私はそっとハルトにキスをした。
その後、すぐにパチリと目を覚ましたニヤけたハルトに朝っぱらから貪り喰われたのは言うまでもない。
それに、学園で公開夫婦喧嘩をした副産物が最近私を悩ませている。
「ヴィオレット様は妖艶な鬼軍曹」
という、かなり不名誉なあだ名がまた一つ増え、何故か騎士科の生徒から崇められると言う辱めを受けているのだった。
訓練メニューを私が提供した結果、騎士科の生徒はメキメキと頭角を表した。かなり優秀だと噂が広まって彼らを獲得するため王宮をはじめ、高位貴族は奔走しているのだとか。
どちらにしても、私を巻き込むのはやめて欲しいわ。
私は今日も変わらず、甘えっ子ハルトを甘やかすのに忙しいのだから。
終
「は?」
ぽかんと彼らを見ていると、不思議ね…うちの騎士団の子達と同じ表情をしているわ。
ヤバいわ、これはヤバい。
「ふざけた事言ってんじゃねーよ。ヴィーに弟子入りなんて俺が許さない。ただでさえ競争率高いんだよ」
ハルトがむっとした表情で私の隣で威嚇している。
あぁ、こないだ騎士団のみんなと手合わせ争奪戦してたな…と思い出す。
「お願いします!ヴィオレット様!」
真剣な面持ちで騎士の皆さんがお願いしてくるので、少し絆されてしまって。
私は彼らに助言をする事にした。
「弟子は無理ですが…皆様に足りない所を教えて差し上げる事はできますわ」
「是非教えて下さい!ヴィオレット様!!」
まぁ、素直ね。強くなろうとする姿勢は好きよ。
私はにっこりと微笑んで、スゥッと息を吸った。
「まず、あなた方の筋肉量が圧倒的に足りません。あんな軽い剣を振り回しても、何の鍛錬にもなりませんわ。あと、全体的に走り込みが足りないのでは?そんな弱々な足で何を踏ん張る事ができるのでしょうか?踏み込む前に躓いてしまうのではなくて?訓練内容も軽すぎますわ。吐いてからが訓練なのです。今している訓練など、もはや散歩ではないかしら?まぁ、総じて言うと…」
ごくりとみんなの喉が鳴る。
「そこいらの子供と変わりありませんわ」
バキリと空気が凍った気がした。
「ヴィー、的確だけど、もうちょっと柔らかい布に包もうな?」
ハルトが腰を抱いてくる。
私は不思議に思って、ハルトに聞いた。
「あら、強くなりたいんじゃありませんの?この程度の評価で落ち込むのなら、いっそ騎士などやめてしまいなさいな。これから戦場に挑む事もあるのに、そんな綿飴みたいなメンタルで生き残れる程甘くないわ。鋼のメンタル、強靭な筋肉、絶対生き残るという意志が騎士には必要不可欠なのですから」
ハルトは、ふっと笑って「そうだな」と呟いた。
騎士の皆さんは、俯いてふるふると震えている。
あら、泣いちゃったかしら?
うちの騎士団なら、ここで歓喜の雄叫びを上げるのに。
「戦場に出たとして、必ず生き残る意思がなければあっと言う間に死にますわ。ギリギリの戦いの際、家族や恋人を思い出せる余裕がないと、間違いなく殺される。その逆もありますわね。相手の命を奪う事が、自分にのし掛かる。それに耐える覚悟がおありかしら?」
淡々と告げると、騎士の1人が立ち上がった。
拳をぐっと握りしめて。
そのまま殴り掛かってくるのかと思ったら、くるりと背を向けた。
「……走って来ます。俺、絶対生き残る方に入りたいんで」
そう言って、走っていってしまった。
「あら、見込みあるわね」
「うちにはもう要らないからな」
「うちはもう十分よ。あの方、鍛えれば王宮入りするかもね」
「あー、アイツは負けず嫌いだからな」
「うふふ…楽しみね」
「他の奴ばっか見んな、馬鹿」
「はいはい、甘えっ子ちゃんね」
私はハルトの手をぎゅっと握った。
大きな手がすかさず握り返してくる。
「ヴィー、ごめんな。寝不足気付いてやれなくて」
「あら、いいのよ。今日から3日はゆっくり寝るから」
「…は?それは…どういう…」
「一週間の所を3日に短縮してあげるわ」
「まさか…別々に寝るって事か…?」
「私が勝ったんだから、私のお願いは絶対でしょ?」
「あ……。あぁ……」
「さ、帰るわよ!!」
「…うん…」
先程の赤い暴れ熊はどこかに餌を探しに行ったようだ。
代わりに魂の抜けた歩く屍がここにいた。
騎士の皆さんに挨拶をすると、また来て下さいと懇願されたので訓練メニューをプレゼントしようと思う。
私達は馬車に乗り、邸宅へと帰った。
食事も入浴も済ませて、さぁ寝るぞといそいそと自室のベッドに入ろうとしたのだが。
「ちょ…、ハルト?」
「ヴィー、お願いだから一緒に寝てくれ」
ハルトが枕を持ってドアの前に居た。
「何もしないから、約束する」
「約束破って約束されても…」
別に寝るという約束を破り、何もしないと約束されてもイマイチ信用度に欠けるのよね。
「俺ヴィーを抱き締めてじゃないと寝れない」
「その時点でもう何かしてるじゃないの」
「うっ…じゃあ隣にいるだけでいいから…」
「はぁ…埒が明かないわね。もう、入って」
「いいのか!?」
「いいって言うまで居座るんでしょ、どうせ」
「…ヴィーが本気で嫌なら頑張って耐える…」
ハルトはぐっと何かを堪えたような表情で、枕を握りしめている。
まったく…この可愛らしい我儘熊さんをどうしようかしらね。
「ハルト、一緒に寝ましょう?」
「…ありがと…」
「でもちゃんと寝かせてね」
「うん、わかってる」
2人でベッドに入り手を繋いで眠る。
久しぶりにぐっすりと眠った気がする。
たまにはこんな日もあってもいいわよね。
朝日が顔を出す頃、ふと目覚めた私はそう思った。
隣にはスヤスヤと眠る愛しいハルト。
「ハルトだけ愛してるからね」
私はそっとハルトにキスをした。
その後、すぐにパチリと目を覚ましたニヤけたハルトに朝っぱらから貪り喰われたのは言うまでもない。
それに、学園で公開夫婦喧嘩をした副産物が最近私を悩ませている。
「ヴィオレット様は妖艶な鬼軍曹」
という、かなり不名誉なあだ名がまた一つ増え、何故か騎士科の生徒から崇められると言う辱めを受けているのだった。
訓練メニューを私が提供した結果、騎士科の生徒はメキメキと頭角を表した。かなり優秀だと噂が広まって彼らを獲得するため王宮をはじめ、高位貴族は奔走しているのだとか。
どちらにしても、私を巻き込むのはやめて欲しいわ。
私は今日も変わらず、甘えっ子ハルトを甘やかすのに忙しいのだから。
終
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