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番外編 〜ジークハルトの初恋〜 前半

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 俺は昔から、女に言い寄られる事が多かった。

 見た目の良さと、公爵家の跡継ぎという立場が尚更ジークハルト•ゼノシスというただの男の価値を上げていく。

 そんな俺も、そろそろ婚約者をと言う両親に連れられて王家主催のパーティーへとやって来た。
 ここで、どこぞのご令嬢と顔合わせでもするんだろうか。

 本当にどうでも良かった。

 どうせ女なんて、見た目と家柄にしか興味はない。
 結婚した後、いかに裕福に権力を持つかしか気にしていないんだろう。
 さしずめ俺はアクセサリーの1つでしかない。

 今日だって、デビュタントで集まっているご令嬢達を婚約者にと売り込んでくる親達に次々に挨拶をされる。
 自分が1番だと信じて擦り寄るご令嬢達。
 正直、誰が誰かを覚える気もない。


「うちの娘は小さい頃からジークハルト様をお慕いしていて…」
「聡明なジークハルト様には私の娘がぴったりだと…」


 そんな売り文句しか聞こえてこない中、親父が唯一自分から声を掛けた人がいる。


「やぁ、キャンベル侯爵。娘さんは今日、デビュタントかい?」


 キャンベル侯爵と言われた鍛えているであろう肉体を持つその人は、眉を少し上げてさっと誰かの前に立った。


「ゼノシス公爵、なぜうちの娘がデビュタントと知っているのかな?」


 訝しげな表情すら隠しもしない。公爵家当主に向かって、侯爵家当主の取る態度ではなかった。
 みんな、親父には媚び諂っているのに。


「そりゃキャンベル侯爵と、小侯爵の鉄壁の守りの中にいるご令嬢は気になるだろう?」
「ごくごく普通の娘だ。そっとしといてくれ」
「の、割には背中に隠しているじゃないか。うちのジークと同い年だ、挨拶くらいさせてくれ」
「ちっ……ヴィオレット、ゼノシス公爵と、小公爵にご挨拶を」


 盛大に舌打ちをした後、嫌そうに背後にいる娘に声を掛けたキャンベル侯爵は一瞬、ギラリと目を光らせて俺を見た。


 俺が言ったわけでもないのに何だよ!と思ったが、どうせその女も他の奴と変わらない。俺を見たら頬を染めて、媚びてくるんだろう。


「ほら、ヴィオレット」
「はい、お父様。ゼノシス公爵様、小公爵様、お会いできて光栄ですわ。キャンベル家が長女、ヴィオレットに御座います」


 にこりと微笑んだ後、すっと綺麗なカーテシーを披露した彼女はまるで天から舞い降りた女神のようで。

 さらりと流れる黒髪に、キラキラと煌めく深紫の大きな瞳が小さな顔に完璧なバランスで配置されていて。


 綺麗だ、と素直に思った。


 親父と言葉を交わした後、俺に向き合った彼女は深紫の瞳を真っ直ぐに向けて「こんにちは、ヴィオレットと申します」と一言挨拶を交わしにこりと微笑んだ。


「あ、ジ、ジークハルト・ゼノシスです」


 ぺこりと頭を下げて挨拶を返すと、またにこりと微笑まれる。

 そして、その直後、自身の兄から呼ばれた途端に俺から目を離し、にこにこと兄に笑顔を見せている。


 初めてだった。
 興味を抱かれなかった事が。
 頬を染める事なく興味なさげに目を逸らされた事が。


 脳天を雷に打たれたかと思った。


 ぼぅっと彼女を見つめていると、じわじわと顔に熱がこもる。自分を見て、頬を染めた女の気持ちが初めて解った。


「おや、ジーク?顔が面白い事になってるぞ」
「…言わないで下さい…」
「お前の見る目は確かだが、鉄壁の要塞に挑む覚悟はあるか?」
「……ある……多分」
「そうか。覚悟が固まったら申し出ろ」
「はい」


 その後はじっと彼女を目で追ってしまって、彼女の父、兄に気付かれてしまい上手く彼女を隠されてしまった。
 時折、彼女の兄に値踏みされるような鋭い視線を向けられたが、特に話しかけられる事はなかった。




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