上 下
32 / 47

32

しおりを挟む
「飲んでない。反撃したから」
「良かった…!!」


 ほっとした様子でぎゅうぎゅうと締められる。
 苦しい、ハルトさん、苦しいから!!


「ハルト、苦しい…」
「あ。悪い」
「ん、大丈夫」


 にこっと笑ってハルトに私から抱き付いた。


「こいつ、やっぱりヴィーに惚れてたのか」
「知ってたの?股間抑えてはぁはぁしてたから気持ち悪くて思い切り蹴っちゃったけど大丈夫かな」
「前から、ちらちらお前を見てたんだよ。その度に牽制してたけど。ヴィーの想像するとかやっぱ殺す。そのまま踏み潰して2度と使えないようにしてやろうか」
「大人の愛で心も身体も包んでくれるらしいわよ」
「気持ち悪りぃな」
「でしょ。鳥肌たっちゃって。ハルト以外は気持ち悪いし」
「じゃあ俺は良いの?」
「むしろハルト以外は無理」
「ふふん…そのうち俺で包んでやるからな!」
「あ、それでね」
「おい、無視か」


 ムッとしたハルトに大量の媚薬を見せると、呆れた表情で「どんだけ溜め込んでんだよ」とぶつぶつ言いながら押収していた。


「そういえば、どうしてここがわかったの?」
「たまたま訓練しようと思ってヴィーの家に行ったら、侯爵とカイルさんと騎士団が武装して怒り狂っててさ。理由聞いたら誘拐だって言うから、ここかなって」
「うわぁ、お父様とお兄様が…騎士団も…。想像したくないわね」
「特にお前の騎士団がヤバくて。アダルとかいつもの紳士じゃ無くなってるし。ラビなんて単騎で行こうとしてたし、1番狂ってたのがラルフだな。一階がヤバい事になってる」
「…見たくないな…」
「いや、行ってくれ。お前の騎士団手が付けられない。何だよあの質の悪ぃ戦闘集団。主人の顔が見たいわ」
「…誰かしらねぇ、困った人ねぇ…」
「お前だよ」


 そんな軽口を叩きながら部屋から出たら、先ほど戦闘集団と言われた6人が心配そうに整列していた。
 それはそれは、雨の中で震える仔犬のような可愛らしいご様子で。


「ヴィオレット様…」
「心配かけてごめんね?みんな」
「うわあぁぁん!お嬢!!無事で良かったああぁ!!」
「ご無事だと信じていました!我が主!」


 それぞれに心配かけたと謝って、共に階下に行くと廃墟のようになっていて、お父様とお兄様が捕えた人達を馬車に詰めている所だった。


「ヴィオレット!心配したよ!」
「ヴィオ、無事で良かった」


 2人とも普段はあまり闘わないが、実はかなり武闘派だ。
 特にお兄様は普段、陽だまりの君と言われるほど温厚だが一度キレると冥界まで追い制裁を加える魔王と密かに恐れられている。


「ヴィオ、アルベルト殿を含む全ての悪党に、きちんと罪を償って貰うからね」


 陽だまりのような和やかな笑顔を向け、穏やかに言うお兄様の後ろに君臨する魔王が見えた。
 絶対に怒らせてはならない、お兄様だけは絶対に。


 私はハルトの手をぎゅっと握りそっと誓った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

処理中です...