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「やべー!これから俺、ヴィーに指導受けようかな!」
「は?」
「や、だってさ。俺が2発で膝つくとかありえねーだろ」
「え?うん…うん?」


 余りのはしゃぎ様に私はぽかんとしてしまう。
 あげくに私が指導…?
 いや、ダメでしょ!!!学園の騎士科No.1を私が指導はないでしょ!!
 そんな淑女いないよね!!?


「お嬢の訓練は鬼畜っすからね!鬼を蓄えてますからね!ヤバいっすよ!ジークハルト様もしたいでしょ!?」
「ラ、ラビ!!」


 鬼畜言うな!!しかも鬼を蓄えるって何だ!!そんなにいっぱい鬼がいるか!!


「ははっ!確かにあの訓練器具とか殺す気で作ったとしか思えねーよな!!どう想定したらあんな事になんだよ!!」
「でしょー?空から小刀降ってくるとか、4方向から矢が飛んでくるとか酷いでしょ!?たまに痺れ薬とか塗ってくるんすよ!当たったら最後、矢の餌食!!」
「うわー!!確かに鬼畜な、それ!!」
「でもお嬢はそれ全部落とせるんすよ!もはや人外!」
「そりゃすげーな!!もっとヴィーの事教えてくれ!」
「いいっすよー!」


 楽しそうに会話の弾むこの2人をそろそろ土に埋めてもいいかしら?
 まぁ、もう…なんて言うか…。
 完全に気が抜けた。
 ハルトは私を嫌うどころか、嬉々として話を聞きたがってるし。

 何だろう。私の今までの悩みって。
 ものっすごい脱力感…。


「ホントかよ!!」
「ホントっすよ。一太刀っす」
「うーわー、見てみたかった!!なぁ、次行く時、俺も誘ってくれ!」
「それはお嬢に聞いてみないと…」


 わっと声が上がったので、そっと聞いていると何やら嫌な話をしている気がする。
 まさか。
 まさかなのか。


「お嬢ー!ジークハルト様が次の熊討伐一緒に行きたいって……いっ……」
「ん?ラビ?何かしら?私、聞こえなかったわ」


 にこぉ…と笑って聞き返してみたら、ラビは勢いよくハルトの後ろに隠れた。
 騎士たる者、隠れるとはけしからん!!


「ラビ?隠れてないで出てきなさい?ほら、怖くないから」
「殺される…殺される…」


 ガタガタと震えながら呟くラビを背中に守っているハルトにだんだん腹が立ってきた。
 そこ!そこは私の席!!指定席なの!!
 機会はないかもだけど!!!


「ヴィー、ラビが怖がってるから…ほら、な?ちょっと落ち着け」
「は?私はいつだって落ち着いていますわ」
「え!?何か俺に怒ってる?」
「背中に守ってるその子を早く渡して下さいな」
「え!?どうした!?ヴィー?」
「怖っ!!お嬢の殺気やばっ!!!ジークハルト様、後は宜しく!!」


 ラビは素早い動きでその場から消えた。
 くそう、訓練の成果が今発揮されたのはいい事だけども。
 私だって1回くらい、ハルトに背中に庇われたいのに!!
 ずるい!!


「ヴィー?どうした?すっげぇ複雑そうな顔してるけど」


 ハルトが心配そうな顔で近付いてくる。
 そんな顔をさせたい訳ではないのに。
 ただの私の願望が空回りしただけ。


「何でもないよ」
「その顔は何でもなくないだろ。言ってみろ」


 優しい声で聞かないで。
 くだらない事で嫉妬して。
 しかもラビに。
 もー、情けなくなってきた。


「ヴィー?ほら、こっそり言ってみろ」


 そっと耳を近付けてくるこの男!!手練れか!!


「………に」
「うん?」
「ハルトの背中は私の席……なのに…」


 ぽつりと呟いた。口からとぅるんって出ちゃった。
 乙女かよ!!
 ああぁあ!恥ずかしい!!


「…勘弁してくれ…」


 じわじわと赤くなっていた私の顔から一気に熱が冷めた。
 勘弁してほしい…わよね、そりゃ。
 自分を負かす女が守ってほしい願望とかね、ないわよね。
 ですよね…。


「ヴィー」
「っ!はい!」


 びくりと肩が震える。
 鬼畜は森に帰れとか言われるのかな。


「こんなとこで可愛い事言うな…襲いたくなる…」
「え?」


 びっくりしてハルトを見ると、真っ赤な顔を両手で隠していた。つられて、私も真っ赤になる。


「俺の全部、お前のだから心配すんな」
「う…なら…いい…」
「後で部屋行っていい?」
「うん?いいよ」


 ちゅ、と額にキスされて私はまた固まったのでした。




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