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 そんな事を私達がしている間に、マリアとヒューバート様、アダルとラビがコソコソと話をしていた。


「マリア様、ヴィオレット様はジークハルト様に何も言っておられないのですね」
「そ、一生懸命隠してるからね。無駄だと思うけど」
「お嬢の訓練ヤバめなんで、実践はめっちゃやりやすいですけどね!」
「…マリア、この話は俺は聞いてもいいやつ?」
「あ、ヒューがいたんだった。でもヒューなら大丈夫。あのね、ヴィオはすんごい強いの、剣も、体術も」
「あー…そんな気がしてた」
「ヤバいっすよ、お嬢は!熊とか一太刀っすからね」
「…熊」
「熊っす!!」


 何かヒソヒソ言ってるけど、たまに熊って聞こえるんだけど!!ラビあんた、後でしばく!!
 ぎっと睨むと忠実系アダルがピクッと反応した。


「…ラビ、やめとけ。ヴィオレット様から殺気が」
「!!!ヤバい俺殺される…」


 チラチラとこちらを見るラビに視線を送っておく。
 何も喋るなよ、と。
 ラビはコクコクと頷き、蒼白な顔をしていた。


「ヴィー、あれは?」
「あれは、囲まれて矢を受けた時に全部叩き落とせるようにする器具よ」
「どう使うんだ?」
「周りの器具に矢を50から100本仕込んで一気に打つ。最初は5本から慣らすの」
「避けれる奴いるのか?」
「今はアダルとライネルだけね。そろそろラビもいけるかも?」
「ヴィーが考えたのか?」
「うん。死なせたくないから。究極のピンチを想定してる」


 真剣に、そう思ってる。誰も死なせたくない。
 特に私を庇ってとかは絶対嫌だ。


「俺も訓練に参加したい」
「は?」
「だって面白そうだし!」
「怪我するからダメ!」
「それは訓練なんだから仕方ないだろ?」
「う…まぁそうだけど…」
「週に1回とかでいいからさ!ダメ?」
「くっ…」


 何だその可愛いおねだり。わざとか、わざとなのか!?
 くっそぅ!!可愛いな!!


「さっき言ってたAって何?」
「基礎訓練のキツいやつ」
「キツいのか?」
「そうね、初めての人は吐くか、気絶かどっちかね」
「やりたい!」
「はぁ?」
「やりたい!!俺、今の騎士科の訓練じゃ物足りない!殿下にも負けかけたし」
「いやまぁ、もともと殿下はかなり強いじゃない…」
「負けたくないんだ。ヴィーを盗られたくない」


 呼吸をするのを、忘れた。
 

 あまりにもハルトが真剣な目をするから。
 この人は、どこまで私を堕とせば気が済むんだろう…。


「じゃあ…週に1回で」
「やった!ありがとな!!」


 ぎゅっと抱きつかれてすりすりされる。
 私はどうしてもハルトに甘いみたいだ。


「でも、出来るだけ怪我はしないで?心配だから」
「…っ!ちょ…ヴィー今のはヤバい…」
「ん?何が?」
「上目遣いとか…クソ可愛い過ぎて………たい」
「ん?たい?」


 最後の一言が聞こえなかったから聞き返したら、ハルトがそっと耳元に唇を寄せた。


「可愛い過ぎて、今すぐヤリたい」
「なっ…!!!馬鹿!!」
「可愛いがって泣かして啼かして、俺がいなきゃダメにしたい…」
「もう!!ハルトの変態!!」
「男はみんな変態なんだよ」


 はぁっと吐かれた溜息が、妙に色っぽい。
 何だこの男!どっから出てくるんだその色気!!ムカつく!!


「訓練全部こなせるようになったら、ご褒美でヴィーが欲しいなー」
「出来るようになってからいいなさいよ、変態」
「じゃあ出来たらくれる?」
「ふん!物凄いメニューにしてやる!!」
「望むところだ」


 ちゅ、と頬にキスを落としてハルトが笑っている。
 真っ赤になった顔を隠すように、私は後ろを向いていた。
 ヤバい。ハルトの声がヤバい。
 腰が抜けるかと思った。しっかりしろ私!!!
 恋愛脳怖い!!


「じゃ、約束な?」


 頭を撫でられ、ハルトは他の器具を見に行った。
 私はしばらくそこから動けなかった。




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