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4.100日目
しおりを挟む100日目――
そろそろ大詰めだ。
しかし、宰相にも神官長にも会わない日々が続いている。食べ物は運ばれてきているので、かろうじて食事係には忘れられてはいないようだ。
結果から言えば、わりと痩せた。だが半分にはならない。そもそも半分になったら痩せすぎだろう。
以前ならダイエット成功とはしゃいだことだろう。そしてめちゃくちゃ食べたはずだ。
同じぐらいの体形の人もチラホラ見かけるようになってきた。
(罪人じゃないというレベルに達し、けれど王の食指は動かないというのが一番いいのだから、このあたりがベスト体重!?)
苦肉の策で導き出した答えだった。
王もさすがに召喚した聖女が罪人レベルの体重ではなくなったというのに、罪人に押し付けたら評判が悪くなるはずだ。
(評判を気にするかどうかは賭けだなぁ)
念のためもう少し痩せるべきか、それとも維持に留めるべきか、あの川の前で悩んだ。
「今度は何に悩んでるの?」
振り返る。
スン君だ。
「いえ、別に」
この人のことは、なんとなく苦手なままだ。
食べ物はくれるけど。
「はいこれ。今日からこれを一粒ずつね」
「干しブドウ」
「セイメイカだよ」
「生命化?」
「何て言ったの?」
「いえ、なんでもないです」
(干しブドウじゃん)
今日の分ということで、口の中に一粒入れながら思った。
セイメイカってなんだ?
「再審のときには『隣国へ放逐して』って言うんだよ?」
「隣国へ放逐?」
「そう。いいね?」
「よくはないかな?」
この城から出たことはないし、出て生きていける保証はない。
(ん? 待てよ? 別に生きなくてもいいんだから、それでいいのか?)
「放逐されたら死ねるかな。できれば楽に。苦しいのは嫌だな」
「まだそんなこと言ってるんだ。まぁいいや、どうせ死ねないし。とりあえず、言う通りにして。わかった?」
「考えておく」
ここまで川に飛び込まずに来れたのもこのスン君のお陰だ。川を見つめて死を考えると現れるので、川の神様かもしれない。
神様、こんなところで死んだら迷惑ですよね。
そうですよね。
あと、苦しんだのに死ねないっていうのが一番嫌だなって思った。
(気付いたら100日経っちゃったなぁ)
洗濯をして城に戻ると、またあの騎士に会ってしまった。もちろん、こちらから目を合わせることはない。
「待て」
それなのに腕を掴まれた。
ものすごい力で引っ張られ、たたらを踏んでしまった。
「やめて!!」
「お前、あの男とはどういう関係だ?」
「あの男?」
なんとか男の胸に飛び込むことは阻止できたが、男の体臭に眉根が寄る。
みんなよくこんな臭い男と寝られるものだ。なんでこんな臭い男がモテるんだ。
鼻をつまみたいけれど、怒鳴られたくないので我慢する。
「川にいただろ。ジレを着た」
(ジレ? あぁ、ベストか)
つまり、スン君のことである。
彼は貧乏なのか、いつも同じ服を着ている。
「たまたまお会いした知らない方ですよ」
「たまたま?」
「失礼します!!」
腕を振りほどいて先を急いだ。
取り込んだ洗濯物を各部屋に戻さなければならないし、臭くて耐えられない。
(この国の男って、なんでいちいち高圧的なの!? ほんっと嫌い!! あと臭いし!! 男はみんな臭いし!! 男の部屋はみんな臭いし!!)
洗濯物を戻すために入った部屋は、やっぱり臭かった。イライラしながら備え付けられている籠に洗濯物を放り込んだら「雑に扱うな」と叱られた。
踏んだり蹴ったりだった。
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