5 / 5
5.
しおりを挟むそして半年後。
連れて行ってくれないのであれば腹を切ると言い出したレイラと、これを機に帰国するルルドと共にマトゥラ国へ嫁入りした。
王族の嫁入りは婚約期間が一年ぐらいはあるものだが、ひと悶着あったせいで結婚そのものが早まってしまった。
なんと、父が私を国外に出さないと言い出したのである。
あれだけ結婚をせかしておきながら何なんだと父相手に謁見の間で憤慨したが、アレクサンドルさまは私以上に憤慨していた。
父の本性が『視えて』しまったのだという。
父は私の容姿と言動が恥ずかしいから、他国へ嫁がせたくなかったらしい。我が国の恥になるからというのが本音だったのだ。他国へ婚姻の打診など最初からしていなかったのだ。さらに第二王女は国外に出れないほど病弱だと噂を流していたのだという。旨味のない小国の病弱姫など誰も欲しがらないだろう。父は何としても国内で、誰でもいいから私を押しつけたかったようだ。アレクサンドルさまが現れてくれなければ、今ごろあの男爵令息と結婚させられていただろう。
ちなみにマトゥラ王国では、アレクサンドルさまとは年齢が合わないということで候補から外されていたらしい。
父の、父とも思えない本音にキレたアレクサンドルさまは、結婚を認めないのであれば貿易の関税を引き上げると脅してほぼ無理やり私を娶ってしまった。
アレクサンドルさまは、私が軽んじられるのは父や兄の言動のせいだと言って怒ってくれた。私のことを気味が悪いと言って遠ざけ、式典以外で顔を合わせることのなかった母については「哀れな人」という一言で片づけた。アレクサンドルさまは私を強く抱きしめ「これからは私がいるから大丈夫だ」と言って背を撫でてくれた。
「マナティーを国から出さないという判断はある意味正しい。あなたという天使を失ったこの国がどうなるか。特にあなたを粗末に扱った王家は衰退するだろう」
「まさかそんな、大げさです」
「いいや? なぜマナティーに前世の記憶があるのかと言えば、その記憶がこの世界にとって重要だからだ。本来であれば、天使の発言は【予言】だからな。大切に育てていれば、次々に国のためになる【予言】が出てきたはずなのに。あなたを蔑み、気味が悪いなどと遠ざけるから、貴重な【予言】が封印されてしまった。どこか前世の記憶が曖昧なのはそのためだよ」
「封印……ですか」
「あぁ。だがこれからは私がマナティーに愛をたっぷり注ぐから、もしかするとマトゥラのためになる【予言】が出てくるかもね」
私を愛してくれるアレクサンドルさまならではの発言と、この時は軽く流した。
三年後、私はアレクサンドルさまの言葉の意味を深く知ることになるのだが――この時は、あまりの忙しさに言葉の意味を深く考えることなく記憶の海の底に沈めてしまった。
そうして急ぎ嫁いだ私は、マトゥラ王国で驚くほど歓迎された。
アレクサンドルさまは私を抱っこしたまま城中を歩きまわるので、皆から溺愛将軍と呼ばれ――なんと、アレクサンドルさまは将軍だった――親しまれるようになった。
「どうした? マナティーがルルドの料理を食べないとは珍しいな?」
「なんだかちょっと、気持ちが悪いのです」
「……まさか」
反対側の席から駆けつけたアレクサンドルさまが、私のお腹に耳を当てた。
「おそらく男の子だ」
「まぁ!」
結婚してから、わずか三か月。
王族はどこも世継ぎ問題で揺れている。ストレスからなかなか授からない人が多いと聞くが、私には無縁だったようだ。
「相性って、子どものことでしたの?」
「いや……うん。そう、とも言うな」
珍しく歯切れの悪いアレクサンドルさまは、何かをごまかすように私を抱き上げると、医者の元へと駆けたのだった。
*終わり*
11
お気に入りに追加
116
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は婚約破棄したいのに王子から溺愛されています。
白雪みなと
恋愛
この世界は乙女ゲームであると気づいた悪役令嬢ポジションのクリスタル・フェアリィ。
筋書き通りにやらないとどうなるか分かったもんじゃない。それに、貴族社会で生きていける気もしない。
ということで、悪役令嬢として候補に嫌われ、国外追放されるよう頑張るのだったが……。
王子さま、なぜ私を溺愛してらっしゃるのですか?
拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。
石河 翠
恋愛
婚約者に婚約破棄をつきつけられた公爵令嬢のマーシャ。おバカな王子の相手をせずに済むと喜んだ彼女は、家に帰る途中なんとも不細工な猫を拾う。
助けを求めてくる猫を見捨てられず、家に連れて帰ることに。まるで言葉がわかるかのように賢い猫の相手をしていると、なんと猫の中身はあの王太子だと判明する。猫と王子の入れ替わりにびっくりする主人公。
バカは傀儡にされるくらいでちょうどいいが、可愛い猫が周囲に無理難題を言われるなんてあんまりだという理由で救出作戦を実行することになるが……。
もふもふを愛するヒロインと、かまってもらえないせいでいじけ気味の面倒くさいヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより pp7さまの作品をお借りしております。
悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!
餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。
なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう!
このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
この異世界転生の結末は
冬野月子
恋愛
五歳の時に乙女ゲームの世界に悪役令嬢として転生したと気付いたアンジェリーヌ。
一体、自分に待ち受けているのはどんな結末なのだろう?
※「小説家になろう」にも投稿しています。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる