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しおりを挟むそして半年後。
連れて行ってくれないのであれば腹を切ると言い出したレイラと、これを機に帰国するルルドと共にマトゥラ国へ嫁入りした。
王族の嫁入りは婚約期間が一年ぐらいはあるものだが、ひと悶着あったせいで結婚そのものが早まってしまった。
なんと、父が私を国外に出さないと言い出したのである。
あれだけ結婚をせかしておきながら何なんだと父相手に謁見の間で憤慨したが、アレクサンドルさまは私以上に憤慨していた。
父の本性が『視えて』しまったのだという。
父は私の容姿と言動が恥ずかしいから、他国へ嫁がせたくなかったらしい。我が国の恥になるからというのが本音だったのだ。他国へ婚姻の打診など最初からしていなかったのだ。さらに第二王女は国外に出れないほど病弱だと噂を流していたのだという。旨味のない小国の病弱姫など誰も欲しがらないだろう。父は何としても国内で、誰でもいいから私を押しつけたかったようだ。アレクサンドルさまが現れてくれなければ、今ごろあの男爵令息と結婚させられていただろう。
ちなみにマトゥラ王国では、アレクサンドルさまとは年齢が合わないということで候補から外されていたらしい。
父の、父とも思えない本音にキレたアレクサンドルさまは、結婚を認めないのであれば貿易の関税を引き上げると脅してほぼ無理やり私を娶ってしまった。
アレクサンドルさまは、私が軽んじられるのは父や兄の言動のせいだと言って怒ってくれた。私のことを気味が悪いと言って遠ざけ、式典以外で顔を合わせることのなかった母については「哀れな人」という一言で片づけた。アレクサンドルさまは私を強く抱きしめ「これからは私がいるから大丈夫だ」と言って背を撫でてくれた。
「マナティーを国から出さないという判断はある意味正しい。あなたという天使を失ったこの国がどうなるか。特にあなたを粗末に扱った王家は衰退するだろう」
「まさかそんな、大げさです」
「いいや? なぜマナティーに前世の記憶があるのかと言えば、その記憶がこの世界にとって重要だからだ。本来であれば、天使の発言は【予言】だからな。大切に育てていれば、次々に国のためになる【予言】が出てきたはずなのに。あなたを蔑み、気味が悪いなどと遠ざけるから、貴重な【予言】が封印されてしまった。どこか前世の記憶が曖昧なのはそのためだよ」
「封印……ですか」
「あぁ。だがこれからは私がマナティーに愛をたっぷり注ぐから、もしかするとマトゥラのためになる【予言】が出てくるかもね」
私を愛してくれるアレクサンドルさまならではの発言と、この時は軽く流した。
三年後、私はアレクサンドルさまの言葉の意味を深く知ることになるのだが――この時は、あまりの忙しさに言葉の意味を深く考えることなく記憶の海の底に沈めてしまった。
そうして急ぎ嫁いだ私は、マトゥラ王国で驚くほど歓迎された。
アレクサンドルさまは私を抱っこしたまま城中を歩きまわるので、皆から溺愛将軍と呼ばれ――なんと、アレクサンドルさまは将軍だった――親しまれるようになった。
「どうした? マナティーがルルドの料理を食べないとは珍しいな?」
「なんだかちょっと、気持ちが悪いのです」
「……まさか」
反対側の席から駆けつけたアレクサンドルさまが、私のお腹に耳を当てた。
「おそらく男の子だ」
「まぁ!」
結婚してから、わずか三か月。
王族はどこも世継ぎ問題で揺れている。ストレスからなかなか授からない人が多いと聞くが、私には無縁だったようだ。
「相性って、子どものことでしたの?」
「いや……うん。そう、とも言うな」
珍しく歯切れの悪いアレクサンドルさまは、何かをごまかすように私を抱き上げると、医者の元へと駆けたのだった。
*終わり*
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