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地道な努力が実を結び、アルヤは作家デビューを果たした。
出版社のパーティーに夫婦で出席していると、出版社に勤めている男がアルヤに近寄ってきて「私のことを覚えていますか?」とニタニタ笑った。
「ええ。よく覚えておりますわ。アロルド・ラーベ様」
「これはこれは。フルネームで覚えてくださっていたとは」
アロルドの顔には好奇の色がにじみ、勝ち誇ったような顔でカールを見ていた。
「ラーベ様は教室でいつも誰かの腰巾着……いえ、お仲間と一緒にたんぽぽ令嬢と呼んでくださっておりましたね。お陰で無事にデビューできましたわ。ありがとうございます」
アルヤの顔には嘲りしか浮かんでいない。
出版関係者は、ひそひそとアロルドの噂話をはじめた。新進気鋭の作家に嫌われているのが露わになり、顔色を変えたアロルドはそそくさとその場を立ち去った。
堂々と言い放っているときも、アルヤの足はカタカタと震えていた。
大丈夫だよ、という意味を込めてカールの腕に添えられている手をそっと撫でれば、ふっと息を漏らしたアルヤが微笑む。
次々にやってくる手のひら返しは男に限ったものではない。
むしろ女性のほうが図々しいともいえる。
アルヤに久しぶりと声をかけながら、カールに色目を使う馬鹿までいるのだ。
「僕の奥さん、最高でしょう? 才能も美貌も兼ね備えてて、僕は誰かに取られやしないか、心配でたまらないんだ」
そんなときは必ずアルヤの頬に堂々と口づけて、お前の出る幕なんてないんだよ、と視線で黙らせる。どこからかキャッという歓喜の声が聞こえれば完璧だ。カールとアルヤはおしどり夫婦としてさらに有名になるだろう。
カタカタ……カタカタ……
今日もアルヤの足は震えている。
(早くアルヤさんの緊張を解いてあげたいな……)
こんなときは決まってタルコット公爵家邸には帰らず、会場近くで一番高いホテルに泊まることにしている。
このホテルには、最近めっきりモテなくなったゴットロープが働いているという噂があったが、入るときには見かけなかった。ゴットロープは仕事が続かず転々としているらしい。
次男のベルツ子爵が結婚して、いよいよ邪魔になったゴットロープをタウンハウスから追い出したとも聞く。
今後もベルツ子爵家に泥を塗るような行動が続けば、最終的には領地に送られ、二度と王都には出てこないような措置をされるだろう。時間の問題かもしれない。
『臭いっていう噂しか流してないよ?』
ヨアンにゴットロープの嫌な噂を流してもらった次の日に聞いた内容は、ほんの些細ないたずら程度のものだった。
やれ足が臭いだとか、脇が臭うだとか――
それなのに、今では『ゴットロープのアレが臭くて相手の女性が嫌がる』と噂になっている。
数々の女性と遊んだせいで、噂の元など辿れるはずもないだろう。
しかも最初の噂を流したのは、もう三年も前のことだ。
出版社のパーティーに夫婦で出席していると、出版社に勤めている男がアルヤに近寄ってきて「私のことを覚えていますか?」とニタニタ笑った。
「ええ。よく覚えておりますわ。アロルド・ラーベ様」
「これはこれは。フルネームで覚えてくださっていたとは」
アロルドの顔には好奇の色がにじみ、勝ち誇ったような顔でカールを見ていた。
「ラーベ様は教室でいつも誰かの腰巾着……いえ、お仲間と一緒にたんぽぽ令嬢と呼んでくださっておりましたね。お陰で無事にデビューできましたわ。ありがとうございます」
アルヤの顔には嘲りしか浮かんでいない。
出版関係者は、ひそひそとアロルドの噂話をはじめた。新進気鋭の作家に嫌われているのが露わになり、顔色を変えたアロルドはそそくさとその場を立ち去った。
堂々と言い放っているときも、アルヤの足はカタカタと震えていた。
大丈夫だよ、という意味を込めてカールの腕に添えられている手をそっと撫でれば、ふっと息を漏らしたアルヤが微笑む。
次々にやってくる手のひら返しは男に限ったものではない。
むしろ女性のほうが図々しいともいえる。
アルヤに久しぶりと声をかけながら、カールに色目を使う馬鹿までいるのだ。
「僕の奥さん、最高でしょう? 才能も美貌も兼ね備えてて、僕は誰かに取られやしないか、心配でたまらないんだ」
そんなときは必ずアルヤの頬に堂々と口づけて、お前の出る幕なんてないんだよ、と視線で黙らせる。どこからかキャッという歓喜の声が聞こえれば完璧だ。カールとアルヤはおしどり夫婦としてさらに有名になるだろう。
カタカタ……カタカタ……
今日もアルヤの足は震えている。
(早くアルヤさんの緊張を解いてあげたいな……)
こんなときは決まってタルコット公爵家邸には帰らず、会場近くで一番高いホテルに泊まることにしている。
このホテルには、最近めっきりモテなくなったゴットロープが働いているという噂があったが、入るときには見かけなかった。ゴットロープは仕事が続かず転々としているらしい。
次男のベルツ子爵が結婚して、いよいよ邪魔になったゴットロープをタウンハウスから追い出したとも聞く。
今後もベルツ子爵家に泥を塗るような行動が続けば、最終的には領地に送られ、二度と王都には出てこないような措置をされるだろう。時間の問題かもしれない。
『臭いっていう噂しか流してないよ?』
ヨアンにゴットロープの嫌な噂を流してもらった次の日に聞いた内容は、ほんの些細ないたずら程度のものだった。
やれ足が臭いだとか、脇が臭うだとか――
それなのに、今では『ゴットロープのアレが臭くて相手の女性が嫌がる』と噂になっている。
数々の女性と遊んだせいで、噂の元など辿れるはずもないだろう。
しかも最初の噂を流したのは、もう三年も前のことだ。
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