【完結】好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた

佐倉えび

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「なぜいまわたしはこんなすごいかたたちにかこまれているのでしょう……」

「アルヤさん、めっちゃ声に出てる。なんでカタコト? すごい、そんな顔もするの?」

 アルヤはまんまるの可愛い目をしているのだが、その大きい目を開いたままカタカタカタカタ……と、足を震えさせているのだ。

(ボチェク男爵令嬢をやりこめている間も、僕とキスをしたときも、ずっと足が震えてたんだよねぇ……)

 アルヤはあれ以来、気が強いことを言えば言うほど足を震わせるようになっていた。
 その音が聞こえるのはカールだけであり、カールはアルヤ本人にもそれを伝えたことはない。怯えを出すまいというアルヤの無意識の反応だと思う。

 アルヤの目の前にはマイナとエレオノーラ・グートハイル侯爵夫人が座っている。

(お二人とも本当に美人だなぁ……とか思ってそう……)

 エレオノーラ・グートハイル侯爵夫人は学園在学中から絶世の美女として有名人だった人で、男爵令嬢だった彼女はその美貌から、グートハイル侯爵からの熱烈な求婚を経て格差婚をした。当時の社交界はエレオノーラの話題一色だったらしい。

 次の年、第二王子ヴィヴィアン殿下(現在の陛下)の婚約者候補だったマイナがレイと電撃結婚をして社交界を賑わせた。

 有名な高位貴族に挟まれる居心地の悪さは、言葉にできないだろう。

(お二人とも気さくな方だから、本当はそんなに緊張しなくて大丈夫なんだけどねぇ……)

 タルコット公爵家の庭園のテーブルを挟み、アルヤは二人から熱い視線をそそがれている。
 その間もアルヤの足はずっとカタカタ震え、紅茶のカップすら持てていない。

「そんなに緊張なさらないで下さいな。お菓子はお口に合いませんか?」

「いえ、まさかそんな!!」

 マイナの発言に、ぶるぶる首を振って、アルヤはお菓子に視線を泳がせた。

 テーブルにはマカロンという不思議なお菓子が出されている。
 ピンクと黄色と緑という三色で、色だけでなく形も丸くて可愛い。まるでアルヤのようだとカールは思った。

(マイナさまってお菓子のセンス、抜群なんだよねぇ……)

 ヨアンを通してアルヤとマイナが初めて会ったとき、嫌がるマイナを説得して『にくまん』を作ってもらった。

「アルヤさんのほっぺたにそっくりなんです!!」
「お前はなんて馬鹿なの!! 女性を『にくまん』にたとえるなんて!!」
「可愛いんですぅ!! お願いします!!」
「わたくしが散々、好きな子はいないのかと聞いてもいないと言っていたくせに!! 今度は急に可愛いから『にくまん』を作ってだなんて!!」
「最終的には追いまわされた話とかは根掘り葉掘り喋らされたじゃないですかー!! アルヤさんには婚約者がいたから言えなかったんですー!!」
「それこそが、わたくしの聞きたかった話だとなぜわからないの!!」
「ごめんなさいー!! 『にくまん』は作って下さいー!!」
「図々しい!!」

 三度の飯より恋バナが好きなマイナは地団駄を踏んでいた。
 公爵夫人なのにすごく可愛いところのあるマイナをカールはとても好ましく思っている。
 そんなマイナとポンポン気楽に話をしているが、それが許されているのはマイナの性格によるところなので普通ならあり得ない関係だ。
 そして、どんなに悪態をついても面倒見がいいマイナは絶対に『にくまん』を作ってくれる。

 そう信じて、アルヤには小説を持ってくるように伝えた。

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