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「テラス席にちゃんと座るのは初めてです」
「寒くない?」
「大丈夫です。風が気持ちいいですね」

 以前こんな場所でお前と飯なんか食えるかと、ゴットロープに言われたことがあった。
 春のあたたかい日で、外で食べるのが気持ちいいからと、店が気を回してテラス席を用意してくれていたというのに。

「今日は新しいデザートが出る日なんだよねぇ」
「知ってます……新種の皮まで食べられるぶどうを使ったデザートですよね」
「そう! 僕は甘いものが好きだから楽しみなんだ」
「甘いものお好きだったんですね?」
「うん。アルヤさんの書くヒーローの僕は、苦いコーヒーしか頼まないんだっけ?」
「あの一瞬でよく読めましたね……」

 ゴットロープから取り上げた小説の束の一番上は設定資料になっていて、そこにはヒーローの食べ物の好みなども書き込んでいた。
 設定資料のせいでヒーローのモデルがカールだと知れてしまったのだと思うと、苦い気持ちになる。

「僕は人よりちょっとばかり耳がいいんだけど、目も割といいんだよね」
「カールさんは頭もいいじゃないですか」

 学園を休みがちでも、カールは学年一位の成績をキープしている。
 アルヤも大抵五位以内ではあったが、カールを抜くことはできなかった。

「本当は剣で一番になりたかったんだけど、さすがに兄貴には勝てないし……あ、僕の言う兄貴は血の繋がりのある兄上たちのことじゃなくて、公爵家のね……」

 カールはアルヤが質問しなくても色々なことを教えてくれた。

 小さい頃からマイナの実家であるべイエレン公爵家に行儀見習いで通わせてもらい、そこで剣の師匠となるヨアンという人に出会い、鍛えてもらったこと。
 そのヨアンを兄貴と呼んで慕っていること。
 ヨアンに耳のよさを買われ、マイナが結婚したあとタルコット公爵家の護衛になったこと。
 今はタルコット公爵家の使用人部屋に住んでいること。

「僕は本を読んで自分で勉強できるし、剣の腕も立つから別に学園に通う必要なんてなかったんだけどさ。マイナ様が『子どもは学校に通うもんだ』って言うんだよ。そういうマイナ様だって学園には通ってなかったのに。言われて渋々通いはじめたら、しつこい令嬢に追いかけまわされるし、ろくなことないって思ってたんだけど、アルヤさんが隣の席になってからはすごく楽しかったよ。アルヤさんて無口なのに表情に出るから面白かったし。もうちょっと話したかったけど、急に話しかけたら怖がらせちゃうかなって思って……今こうしてアルヤさんとデートできるようになってよかった。学園も、今は通ってよかったって思ってる。マイナ様に感謝しなくちゃ」

 運ばれてきた大きなお肉を頬張りながら、カールは頷いていた。

 
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