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(あとはお父様たちの説得よね……)
祖父にはゴットロープと縁を結んだことを責めるような言い方をして諦めてもらうほかない。アルヤのことを思って結んでくれた縁だと思うと心苦しいが、他にいい案が思いつかない。
コレッティ子爵家は、祖父の存在が大きく、何を決定するにも祖父の了承が必要だ。
爵位こそ父が継いだが、いまだに実権は祖父にある。
父はゴットロープの印象が悪かったらしく、最初から婚約に反対していた。
嫡男との結婚にこだわらなくても、と祖父に随分と食ってかかっていた。
(考えてみたらお父様って……けっこう私のこと可愛がってくれてたのよねぇ……)
アルヤの希望している修道院は、コレッティ子爵である父が書類にサインしてくれなければ入れない。後から揉めるのを避けるためらしい。入ってから面会もできるし、かなり自由な修道院なのに、なぜそこまでするのだろうという疑問はあるが、過去には色々な揉め事があったのだろう。
目を瞬きながら、厳かな天井を見上げる。
(なんていう意匠かしら? こんなに素晴らしい天蓋、初めて見たわ……ん?)
「えっ!?」
起き抜けのぼんやりとした頭で、なぜ今後の身の振り方は決まったなどと呑気に考えていたのだろう。
「どこっ!?」
きょろきょろするが厚手のカーテンに阻まれて外が見えない。
カーテンを開けようと手を伸ばすと、見たこともないシルク素材のネグリジェを着ていることに気付いた。
「えええええええ」
すごい手触りだ。
こんな上等な代物は着たことがない……。
(お、お祖父様のドレスシャツじゃないんだから……)
戸惑っているとカーテンの向こうから声がかかった。
「お目覚めですか?」
「あ、はい……」
見られてもいないのに、内側でこくこく頷いてしまった。
とんでもなく高貴な場所に居るのは確かだろう。
すっと音もなくカーテンが開き、母ぐらいの年齢に見える女性が顔をのぞかせた。
厳しそうな眼差しにも見えるが、品がよく、貴族夫人だと言われれば頷いてしまうぐらいの女性だ。
そう思わなかったのは、彼女がお仕着せをまとっていたからだ。
「ご気分はいかがですか?」
「大丈夫です……それより私……」
「雨の中倒れかけていたところを我が家の護衛が助けたのです。昨日まで熱が続き、心配しました。途中、何度か同じ会話をしましたが覚えていらっしゃいますか?」
「いえ、何も覚えていません。お世話になったのに申し訳ありません!! 私はコレッティ子爵家が長女、アルヤと申します。祖父……いえ、父に連絡をして、すぐに謝罪とお礼をしたいのですが」
「存じております。コレッティ子爵様にはすでに連絡済みです。謝罪をするようなことは、なにも起きておりません。お礼のお言葉はコレッティ子爵様より頂戴しておりますのでご安心下さい。胃に優しいあたたかいものをお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
「いえ、そこまでしていただくわけには!! すみません、すぐに帰ります。あの、こんな上等なネグリジェまで着せていただいたのに汗で汚してしまって申し訳ありません……すぐに代金をお支払いしますので、金額を教えてください」
このときのアルヤは頭が混乱していたので、この会話が非常識だということに気付いていなかった。
保護してくれた家は『高貴なるお家』だということぐらいしかわからなかったのだ。
それなのに、お仕着せを着た上品な女性はアルヤを安心させるように「アルヤ様は私共のお客様ですから。なにも心配なさらず、今はどうか体を休めて下さいませ」と微笑みながら言ってくれた。
祖父にはゴットロープと縁を結んだことを責めるような言い方をして諦めてもらうほかない。アルヤのことを思って結んでくれた縁だと思うと心苦しいが、他にいい案が思いつかない。
コレッティ子爵家は、祖父の存在が大きく、何を決定するにも祖父の了承が必要だ。
爵位こそ父が継いだが、いまだに実権は祖父にある。
父はゴットロープの印象が悪かったらしく、最初から婚約に反対していた。
嫡男との結婚にこだわらなくても、と祖父に随分と食ってかかっていた。
(考えてみたらお父様って……けっこう私のこと可愛がってくれてたのよねぇ……)
アルヤの希望している修道院は、コレッティ子爵である父が書類にサインしてくれなければ入れない。後から揉めるのを避けるためらしい。入ってから面会もできるし、かなり自由な修道院なのに、なぜそこまでするのだろうという疑問はあるが、過去には色々な揉め事があったのだろう。
目を瞬きながら、厳かな天井を見上げる。
(なんていう意匠かしら? こんなに素晴らしい天蓋、初めて見たわ……ん?)
「えっ!?」
起き抜けのぼんやりとした頭で、なぜ今後の身の振り方は決まったなどと呑気に考えていたのだろう。
「どこっ!?」
きょろきょろするが厚手のカーテンに阻まれて外が見えない。
カーテンを開けようと手を伸ばすと、見たこともないシルク素材のネグリジェを着ていることに気付いた。
「えええええええ」
すごい手触りだ。
こんな上等な代物は着たことがない……。
(お、お祖父様のドレスシャツじゃないんだから……)
戸惑っているとカーテンの向こうから声がかかった。
「お目覚めですか?」
「あ、はい……」
見られてもいないのに、内側でこくこく頷いてしまった。
とんでもなく高貴な場所に居るのは確かだろう。
すっと音もなくカーテンが開き、母ぐらいの年齢に見える女性が顔をのぞかせた。
厳しそうな眼差しにも見えるが、品がよく、貴族夫人だと言われれば頷いてしまうぐらいの女性だ。
そう思わなかったのは、彼女がお仕着せをまとっていたからだ。
「ご気分はいかがですか?」
「大丈夫です……それより私……」
「雨の中倒れかけていたところを我が家の護衛が助けたのです。昨日まで熱が続き、心配しました。途中、何度か同じ会話をしましたが覚えていらっしゃいますか?」
「いえ、何も覚えていません。お世話になったのに申し訳ありません!! 私はコレッティ子爵家が長女、アルヤと申します。祖父……いえ、父に連絡をして、すぐに謝罪とお礼をしたいのですが」
「存じております。コレッティ子爵様にはすでに連絡済みです。謝罪をするようなことは、なにも起きておりません。お礼のお言葉はコレッティ子爵様より頂戴しておりますのでご安心下さい。胃に優しいあたたかいものをお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
「いえ、そこまでしていただくわけには!! すみません、すぐに帰ります。あの、こんな上等なネグリジェまで着せていただいたのに汗で汚してしまって申し訳ありません……すぐに代金をお支払いしますので、金額を教えてください」
このときのアルヤは頭が混乱していたので、この会話が非常識だということに気付いていなかった。
保護してくれた家は『高貴なるお家』だということぐらいしかわからなかったのだ。
それなのに、お仕着せを着た上品な女性はアルヤを安心させるように「アルヤ様は私共のお客様ですから。なにも心配なさらず、今はどうか体を休めて下さいませ」と微笑みながら言ってくれた。
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