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そんなとき、ふと隣の席のカールのことを思い出した。
物語のヒーローのように目立つ彼は、錆色の髪に薄茶色の瞳で、頬に散ったそばかすが可愛いブロック男爵家の五男で、すでに公爵家の護衛として働いているらしく、学園には来たり来なかったりする。
来たときは嬉しくて、様子を窺ったりしてしまう。
すごく無口で謎の多い彼は、その雰囲気がミステリアスで物凄くモテていた。
特にドミニカ・アーレという派手な令嬢に「二番目の男にしてあげてよ」などと言われ、しつこく迫られていたようだ。
当時はなんで二番目なんだろうと思ったが、彼女には婚約者がいるから遊び相手にしてやるという意味だったのだろう。アルヤにはよくわからない思考だった。
(そうだ……モテモテのカール君をヒーローにした物語を書いてみよう……)
ひらめいた瞬間、頭の中に『謎の男に恋をしてしまった』というタイトルが浮かんだ。
平凡な女の子が彼の秘密を知ってしまい、恋に落ちるというストーリーがすぐに思いつく。
(カール君の秘密って何だろう? 実は王家の影だった、とか?)
影なんているかどうかもわからない存在だが、物語りの題材としては楽しい。
秘密のある男性は、なぜこうも魅力的なのか。
アルヤが自分を護るためにはじめた執筆作業は思いのほかアルヤを楽しませ、慰めてくれた。
まるで自分がその世界の登場人物になったような、そんな気分になれる。
(だからって自分をヒロインに置き換えるのはちょっと違うのよね……)
平凡と言いながらも、物語のヒロインというのは『実は可愛い』。
到底、アルヤがなれるようなものではない。
ペンを持ち、妄想に耽る。
その時間だけは、自分の容姿も、婚約者のことも、荒んでいるコレッティ子爵家のことも考えずに済んだ。
何より、騒動の発端になったクリスティーヌを恨まずに済んだ。
そのことに気付いたとき、アルヤは騒動が始まって以来の涙を流した。
容姿の醜さより、自分の心が醜くなっていくことのほうが辛いのだと――このときようやく自分の本当の心を理解したからだった。
* * *
物語のヒーローのように目立つ彼は、錆色の髪に薄茶色の瞳で、頬に散ったそばかすが可愛いブロック男爵家の五男で、すでに公爵家の護衛として働いているらしく、学園には来たり来なかったりする。
来たときは嬉しくて、様子を窺ったりしてしまう。
すごく無口で謎の多い彼は、その雰囲気がミステリアスで物凄くモテていた。
特にドミニカ・アーレという派手な令嬢に「二番目の男にしてあげてよ」などと言われ、しつこく迫られていたようだ。
当時はなんで二番目なんだろうと思ったが、彼女には婚約者がいるから遊び相手にしてやるという意味だったのだろう。アルヤにはよくわからない思考だった。
(そうだ……モテモテのカール君をヒーローにした物語を書いてみよう……)
ひらめいた瞬間、頭の中に『謎の男に恋をしてしまった』というタイトルが浮かんだ。
平凡な女の子が彼の秘密を知ってしまい、恋に落ちるというストーリーがすぐに思いつく。
(カール君の秘密って何だろう? 実は王家の影だった、とか?)
影なんているかどうかもわからない存在だが、物語りの題材としては楽しい。
秘密のある男性は、なぜこうも魅力的なのか。
アルヤが自分を護るためにはじめた執筆作業は思いのほかアルヤを楽しませ、慰めてくれた。
まるで自分がその世界の登場人物になったような、そんな気分になれる。
(だからって自分をヒロインに置き換えるのはちょっと違うのよね……)
平凡と言いながらも、物語のヒロインというのは『実は可愛い』。
到底、アルヤがなれるようなものではない。
ペンを持ち、妄想に耽る。
その時間だけは、自分の容姿も、婚約者のことも、荒んでいるコレッティ子爵家のことも考えずに済んだ。
何より、騒動の発端になったクリスティーヌを恨まずに済んだ。
そのことに気付いたとき、アルヤは騒動が始まって以来の涙を流した。
容姿の醜さより、自分の心が醜くなっていくことのほうが辛いのだと――このときようやく自分の本当の心を理解したからだった。
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