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1.好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた

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「別れよう、アルヤ」

 輝かしい金の髪をかきあげながら、婚約者のゴットロープは酔いしれたように呟いた。

「別れる……」

 アルヤは別れるという言葉の意味について考えた。
 それは対等であった場合の言葉ではないのかと――

(私とゴットロープ様が対等だったことなどない……)

 アルヤの祖父の顔が利くヴィルヘルミイナという高級店で昼食を食べたあとのことだ。
 ゴットロープ周辺についてまわる女の気配や、ここに来るまでの態度に目をつぶり、なんとか穏便に食事を終えたはずだった。

 雨が降ってきたから面倒臭いといって、馬車から降りたがらないゴットロープを説得し、料理の準備がまだ整っていないと困惑する店主に頭を下げて早めに店内へ入れてもらった。

 ゴットロープの『デートは婚約者の義務だから仕方がない』という顔には慣れていたが、店主とのやりとりに苦心するアルヤを無視して、腕を組んで足を踏み鳴らしながら『まだ入れないの?』という顔をしていたのにはさすがに腹が立った。
 店に無理を言ってるのはこちらなのに、使えない店だな、という雰囲気がゴットロープの顔に浮かんでいた。

 そんな態度を取られても、食事が不味くならないよう小言をのみこみ、なんとかデザートまでたどり着いたというところで別れ話が持ち上がり、スフレに添えられていたベリーの酸味だけがアルヤの口の中に残ってしまった。

「申し訳ないが、君の趣味にはほとほと嫌気がさしてたんだ。あんな失態を晒しておいて、よく恥ずかしげもなく学園に通えたもんだよ。俺なら無理だな」

 ゴットロープはトントンと指で机を鳴らし、またしてもイライラと足を踏み鳴らした。
 この一連の動作が、アルヤは嫌いだった。
 貴族であれば感情を表に出すべきでないだろう。品性が疑われる。

 しかもデザートが口に合わなかったのか、ゴットロープは半分以上残していた。
 無理を言って早い時間に通してもらったのに、店に申し訳が立たない。

「悪いけど、自分で帰って。別れた女を送るほど、お人好しにはなれない。さんざん恥をかかされてきたんだから、君も少しは恥をかくべきだと思う。これ見よがしに高い店に連れてこられて、いつもと同じつまらない会話と大して美味しくもない料理。ほんっとうに迷惑だったよ」


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