上 下
52 / 57

9-5

しおりを挟む


 唇をついばみながら、宝物のようにベッドへ降ろされた。
 まだ日が高く、天蓋のカーテンを閉めても全て見えてしまうぐらいの明るさだ。

「恥ずかしい?」

 もじもじしていたら、ロジェが聞いてくれた。
 素直に頷くと、ロジェは眼鏡を外してサイドチェストの上に置き、引き出しから液体の入った瓶を三本取り出した。

「眼鏡を外したから、それほど見えない……これで恥ずかしさは薄れただろうか?」

 正直に言えばあまり変わらないが、とりあえず頷いておいた。

「クリスティーヌはこちらを。避妊薬だ。どちらか一方が飲めば問題ないとされているが、念のため二人で飲んでおこう」
「……準備してたんですね」
「もちろん」

 閨は契約に入ってないと思い、油断したまま隣で寝ていた自分に呆れる。
 それと同時に、したいと思われていたことが嬉しくなってしまった。

「怖くなったか?」
「いいえ……うれし、い?」
「ん?」

 ロジェは避妊薬を一気に飲み干して首を傾げた。

「わたし……あの、すごく、独占欲が強かったみたいで……」

 言ってから赤くなる頬を隠すように避妊薬を飲んだ。
 甘いような苦いような味が口に広がる。
 ロジェが持っている、残りの一本の液体は避妊薬とは違う色をしていた。

 ほう、とロジェが大きく息を吐きだしたので見上げると、目に手を当てて俯いていた。

「どうかされましたか? ご気分でも?」

「クリスティーヌに拒否されないことを目標に話を進めていたから、あなたの今の様子から、私に求められて嬉しいと思ってくれたのではないかという結論に達してしまい、湧きあがる興奮を禁じ得ない」

「よかった。避妊薬でご気分が悪くなられたとかではないんですね?」

 ほっとしながらロジェの手を取ると、またロジェがうなり出した。
 この銀の狼はうなるのがお好きらしい。

「ひどくしたくない。あまり冷静にはなれないかもしれないが、興奮しすぎも困る」
「冷静になられたら怖いですよ……私の体を見ても……がっかりしないでくださいね?」
「クリスティーヌのすべてが可愛いだけだが?」
「ありがとうございます……でも、とても貧相なので恥ずかしいんです」
「そんなこと、私が思うと?」
「……それは……その……それより! そちらの瓶は何ですか?」
「あぁこれか。これはクリスティーヌの体の負担を減らそうと考えて、初めての女性が痛くないようにするためのものだな」
「そんな便利なものがあるんですねぇ」
「色々調べていたらいきついてな。しかるべき薬屋が作っているものだから安心していい」
「わかりました」

 ロジェの配慮が嬉しくて、笑いながら頷いたらロジェが苦々しい顔をした。

「本当はこんなものに頼らずとも、あなたをよくしてあげたいのだが、こればかりは思うようにいくかどうか……それに、どうもうちの家系は少々モノが大きいらしくて。小柄なクリスティーヌを傷つけたくないんだ」

「はい。ご配慮いただいたこと、とても嬉しく思います」
「そうか」

 ロジェはようやく安心したらしく、瓶を枕の横に置いてクリスティーヌをコロンと仰向けに転がした。

「不快だったり痛かったりしたらすぐに知らせて欲しい」

 クリスティーヌは何も言わずに頷いた。
 何か言えば、今のロジェは三言ぐらい返してくる。
 いくら待っても続きが始まらなそうなので、そっと目を閉じた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

【完結】婚約破棄の次は白い結婚? ちょっと待って、それって私可哀想すぎると思うんだけど・・

との
恋愛
婚約破棄されるって噂を聞きつけたけど、父親から 【命に関わるから我慢しなさい】 と言われ、言いたい放題の人達に文句も言わず婚約破棄を受け入れたエリン。 ところが次の相手は白い結婚だ!と言い出した。 えっ? しかも敷地内に恋人を囲ってる? 何か不条理すぎる気がするわ。 この状況打開して、私だって幸せになりますね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 大幅改訂しました。 R15は念の為・・

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。

しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。 相手は10歳年上の公爵ユーグンド。 昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。 しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。 それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。 実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。 国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。 無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。  

誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。

しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。 幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。 その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。 実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。 やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。 妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。 絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。 なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。

処理中です...