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「私は決して、クリスティーヌの嫌がることはしないと約束する。私を愛して欲しいなどという厚かましい願いも……もたないと誓う」

 耳が垂れたままそう言うロジェは小声だった。
 思わず笑いそうになってしまったのを堪えながら、クリスティーヌは口をひらいた。

「ロジェ様は、どうして私がロジェ様をお慕いしているという可能性を考えないのですか?」

「不確定要素は省くことにしている」
「……ロジェ様らしいですね」
「そうかもな。日程表のこともそうだが、こういうところが恋愛に向いていないのだと思う」
「確かに」

 あまりにも情けない顔で言うので、とうとう笑ってしまった。
 不安で揺れるロジェなど、この国で見ることができるのはクリスティーヌだけかもしれない。

「では、私の一周目の人生の話を聞いていただけますか? 私が窮地に追い込まれていたとき、ただ一人、私の話を聞いてくれたロジェ様の話を」

「もちろん。聞かせて欲しい」

 二度も頷きながらクリスティーヌを抱き寄せたロジェは、いつものようにクリスティーヌの話を遮らず、静かに最後まで聞いてくれた。

「あのとき、なぜクリスティーヌがジョルダンを知っていたのか、それがようやく理解できた。取り戻すことができないから、あの修道院の存在は貴族女性には教えないのが暗黙の了解だから」

「それであんなに驚いていらしたのですね」

 ロジェは頷く。
 その仕草で頬に銀髪がかかり、それをとても綺麗だと思った。

「ジョルダンに入らなければ殺されてしまうような境遇の人が入る場所だからな。皆、平民だっただろう?」
「そうですね。ですが、私が今こうしていられるのも、あの記憶が常に私を奮い立たせてくれているからです」
「クリスティーヌは……本当に強いな」

 優しい手つきで髪を撫でられ、思わずうっとりしそうになる。
 そんなことはないと首を振って、深呼吸しながらロジェを見つめた。

「私が強く見えるのであれば、それはロジェ様のお陰です。あなただけが、いつも私の話を聞いてくれたから。だから私はそれを支えに生きてきたんです。前世でロジェ様とダンスをしたこと、最後に抱きしめられたこと、それがどれほど嬉しかったか。私が生きることを諦めずにいられたのは、ロジェ様がいてくれたから」

 ロジェの真剣な眼差しが、その先の言葉を待っていた。

「私は、一周目のときからずっと、ロジェ様をお慕いしています」

 クリスティーヌの髪を撫でていたロジェの手が後ろへ回り、引き寄せられた。
 その意味がわからないほど子どもではない。

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