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「契約……契約とは?」
「私たち契約結婚ですよね?」
「どうしてそうなる?」
「違うんですか? 婚姻届にサインした日に、契約書があったので、てっきり契約結婚だと思っていました」
「契約書?」
ロジェは心底わからないという顔をした。
クリスティーヌは契約書があったからこそ、余命三年でも安心して結婚することができたのだ。
クリスティーヌがいなくなっても、優しいロジェの心の負担が多少は減るのではないかと思ったから。
「ご家族との顔合わせの日時や、結婚後に住む場所や、衣装や装飾品、書籍など、細かな経費などが書いてあった書類のことです」
「推定予算を含めた日程表のことだろうか?」
「日程表!?」
「仕事が分刻みゆえ、その都度説明するより先に決まっている予算や予定は伝えておいたほうが早いと思っただけなんだが。参ったな。何事も書類で確認するのが癖になっていて――これはもう職業病だな」
「職業病……ですが、あの書類の最後に一年後に要確認と書いてありました」
確かに書いてあったのだ。
詳細な日時の横に、顔合わせ、結婚式、戴冠式に続き、結婚式から一年後の日付で要確認――と。
だから一年後に契約を延長するか『要確認』だと思っていた。
「一年後、子どもをどうするか話し合いができればと思っていたので書いたのだが、勘違いさせてしまったか。申し訳ない。さすがに後継要不要確認とは私でも書きづらかった」
「なるほど、そういう……いえ……驚きはありますが、それは私の確認不足です。マノロ殿下の愛妾となった日、契約書にサインしたことを思い出し、この結婚は私の保護を目的とした契約結婚なのだと納得してしまい……ですから、あえて閨や後継についての記載はないのだと勝手に判断していました」
「いや、完全に私の失態だ……そうか契約だと思っていたのか。そんな男に本当の夫婦になってくれなんて言われて、さぞ気持ちが悪かっただろう。申し訳ない」
ショックを受けたロジェは耳が垂れた犬のような表情になった。
完璧なロジェでもそんな顔をするのだという驚きと共に、どことなく可愛らしくも見える。
銀色の髪の毛だから、狼でもいい。
そんな姿を想像すると、とてもくすぐったい気持ちになる。
(身を、ゆだねてもいいのかしら……)
不安はいくらでも湧いてくる。
閨が契約結婚の務めであるなら頷いて終わりだが、ロジェが求めているのは、本当の夫婦になってもいいかどうかの答えだ。
「私たち契約結婚ですよね?」
「どうしてそうなる?」
「違うんですか? 婚姻届にサインした日に、契約書があったので、てっきり契約結婚だと思っていました」
「契約書?」
ロジェは心底わからないという顔をした。
クリスティーヌは契約書があったからこそ、余命三年でも安心して結婚することができたのだ。
クリスティーヌがいなくなっても、優しいロジェの心の負担が多少は減るのではないかと思ったから。
「ご家族との顔合わせの日時や、結婚後に住む場所や、衣装や装飾品、書籍など、細かな経費などが書いてあった書類のことです」
「推定予算を含めた日程表のことだろうか?」
「日程表!?」
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「職業病……ですが、あの書類の最後に一年後に要確認と書いてありました」
確かに書いてあったのだ。
詳細な日時の横に、顔合わせ、結婚式、戴冠式に続き、結婚式から一年後の日付で要確認――と。
だから一年後に契約を延長するか『要確認』だと思っていた。
「一年後、子どもをどうするか話し合いができればと思っていたので書いたのだが、勘違いさせてしまったか。申し訳ない。さすがに後継要不要確認とは私でも書きづらかった」
「なるほど、そういう……いえ……驚きはありますが、それは私の確認不足です。マノロ殿下の愛妾となった日、契約書にサインしたことを思い出し、この結婚は私の保護を目的とした契約結婚なのだと納得してしまい……ですから、あえて閨や後継についての記載はないのだと勝手に判断していました」
「いや、完全に私の失態だ……そうか契約だと思っていたのか。そんな男に本当の夫婦になってくれなんて言われて、さぞ気持ちが悪かっただろう。申し訳ない」
ショックを受けたロジェは耳が垂れた犬のような表情になった。
完璧なロジェでもそんな顔をするのだという驚きと共に、どことなく可愛らしくも見える。
銀色の髪の毛だから、狼でもいい。
そんな姿を想像すると、とてもくすぐったい気持ちになる。
(身を、ゆだねてもいいのかしら……)
不安はいくらでも湧いてくる。
閨が契約結婚の務めであるなら頷いて終わりだが、ロジェが求めているのは、本当の夫婦になってもいいかどうかの答えだ。
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